特別支援学校の現場実習が雇用につながった事例
- 事業所名
- 深澤電工株式会社
- 所在地
- 静岡県駿東郡長泉町
- 事業内容
- 電子部品組立
- 従業員数
- 60名
- うち障害者数
- 10名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 電子部品組立 肢体不自由 4 電子部品組立 内部障害 1 電子部品組立 知的障害 4 電子部品組立 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
深澤電工株式会社は、昭和39(1964)年に静岡県駿東郡長泉町で設立、電子制御装置の製造からスタートし、プリント基板の組立、ケーブルの加工・圧接・圧着、分析装置の組立など、時代の流れとともに、大量生産から多品種少量生産及び多種変量生産に対応し、今では50社以上の企業と取引を行っている。
平成18(2006)年に環境ISO14001、平成22(2010)年に品質ISO9001を認証取得し、より良い環境づくり、品質の高い製品の提供と地域社会の発展及び貢献に取り組んでいる。社内では、職場環境改善を促進する5S活動として、整理・整頓・清掃・清潔・しつけを実践している。
また、平成16(2004)年に労働者派遣事業の認可を受け、平成23(2011)年には、新たにトイレ清掃サービス事業「天使のお掃除」を開始するなど、異業種分野にも事業を展開している。
(2)障害者雇用の経緯
経営者の身内に障害のある者がいる。その人と一緒に働いているうちに自然な流れの中で障害者雇用は始まった。
障害者雇用の開始当時は従業員数20名ほどの小規模企業のため、求人を出しても大卒や高卒の方からの応募が集まらず、なかなか人員を確保することができなかった。そのような状況の中、障害があっても能力の高い方を雇用することができた。このことがきっかけとなり障害者の新規雇用が始まった。
長く勤務している障害者がいる一方、雇用しても本人や家族のもろもろの事情から会社では補えないケース等もあり、長続きすることなく退職する者も多かった。それでも諦めることなく、特別支援学校から現場実習生の受入れ等を行い、障害のある人の雇用をし続けてきた。
平成26(2014)年度は、特別支援学校の卒業生である知的障害のあるAさんとBさん(Aさんは空間認知障害、Bさんは自閉症もある。)を雇用した。Aさん、Bさんとも現場実習を通して人柄や作業に対する集中力の高さ等から判断した。
また短時間労働者として求人を募っていたところ、ハローワークから紹介された身体障害(肢体不自由)のあるCさんを雇用した。
2. 取組の内容
障害者の雇用継続は、「障害の特性の理解と、家庭環境を知ること」と考えている。
このため、当人と会社にとどまらず、家庭(家族)との関係も重視し、会社での様子や家庭での様子等、些細なことでも連絡しやすい環境を整えるため、家族との交換日記(連絡帳)に5年ほど前から取り組み始めた。
平成26(2014)年度に雇用した特別支援学校卒業生2名についても、家庭(家族)との情報を共有することは障害のある従業員の状況を理解する上ではとても重要であるため、入社時からしばらくの間、この交換日記に取り組んだ。
Aさんは、特別支援学校の現場実習生だった頃と同様に、入社してからも障害のない者と遜色ない勤務態度だったため、職場には何事もなく溶け込んでくれるのではないかと期待を寄せていた。
1ヶ月ほど指導していく中で、仕事の内容を理解することが難しく、製品が完成するまでの全工程の説明をし、その過程にAさんの仕事である部品の組立があること等を根気強く説明し理解を深めてもらった。
その後、半月ほど経った頃から様子の変化が出始めた。
製品の隅にシールを張るという指示を出したところ、「隅の場所」の理解ができない。なぜ注意されるのかと思う気持ちが強く、他部署に駆け込み泣くという行動が頻繁に見られるようになった。さらに、職場に来たくないと口に出すことが続いた。
入社当時から取り組んできた交換日記から、親からの期待がとても高いことが分かった。親からの期待と、職場では指示通りにできないことに対するイライラする気持ちの板ばさみになっていることや仕事内容に対する不満等があるのではないかと思われた。
ジョブコーチ、学校関係者にその様子等を話し相談を重ね、原因と対策を検討した。
その結果、職場での空間認知障害に対する理解不足から、指示の出し方に工夫が必要なことや、Aさん自身の社会人として自立に対する気持ちの整理が不足していたことが分かった。
そこで、会社としては、仕事のプレッシャーから一時離すため休みを与えることを決め、家庭では仕事の話をしないようお願いをし、しばらくの間会社からも電話をかけないよう心がけることにした。
また、会社としては、障害を乗り越え、社会人としての自覚をもち、仕事に取り組んでもらいたいと考えていることから、職場では障害特性の理解や指導の仕方等の工夫に取り組んだ。
自閉症もあるBさんは、言葉によるコミュニケーションが不得手であり、入社当時は人見知りがあった。仕事を教えていく中で、複雑な作業が苦手であることが分かり、簡単な作業から任せることから始めた。
また、作業中にBさんが不安にならないように同僚が積極的に声をかけるよう取り組んだ。
![]() 作業中のBさん |
Cさんは、フルタイムで就業した経験があり、無理をして体調を崩し退職していた過去がある。短時間労働での雇用ではあるが、体調管理は職場でも注意していかなければならない。
製造工程の理解と実践も兼ねて、ゆっくりでもいいからと現場での就労をスタートした。
肢体不自由ではあるが、パソコンが得意であること、作業指示をメモに取りながら聞くなど、本人の勤勉な態度が見られた。
雇用を継続するに当たっては、体に負担が少なく、得意とする分野で能力が発揮できるよう仕事の内容を精査している。
3. 取組の効果、今後の展望と課題
(1)取組の効果
Aさんは、その後、自ら職場復帰の意思を会社に伝えてきた。
一時会社から離すことで効果が出たのか、職場関係者、家族、ジョブコーチと相談し、フルタイム勤務から5.5時間勤務に時間を短縮することでプレッシャーが軽減されるであろうと判断し、短時間勤務での職場復帰とした。
現在は、職場関係者の障害の特性等を踏まえた指示の出し方等の工夫から、仕事を理解し勤務態度も落ち着いている。
交換日記は続けているものの、これといって問題があるわけではないが、何かあったときに連絡しやすい環境の確保だけは今後も続けていきたいと思っている。
Bさんは、非常にまじめに仕事に打ち込んでくれている。少しずつであるが、より複雑な作業工程を徐々に覚えてきている。
また、職場の同僚からの声かけは現在も続けているが、大人しい性格ながらも、上司、先輩との接し方にも多少余裕が出始め、職場の雰囲気に溶け込んでいる。
Cさんは、体に負担が少なく得意とするパソコン業務を検討していたこともあり、現在は品質保証グループでパソコンを使っての業務を担当している。障害を抱えながらも働くことに感謝しつつ、仕事を進めているようだ。
(2)今後の展望と課題
現在勤続35年になる障害者を筆頭に20年以上勤続している障害者が4名在職している。過去には定年まで勤め上げて退職した障害者も2名いる。一時は、障害者が16名在職した時もあった。障害があっても能力のある人はたくさんいる。働きたいと思っている人には働ける環境をつくりたいと思っている。
しかし、一昔前なら繰り返し同じ作業をしていれば仕事がたくさんあったが、現在は社会情勢が大きく変わり、障害者といえども、色々な工程に対応ができる多能工でないと仕事がない。
そのため、障害を克服できるような作業環境の構築や仕事の切り分けを行い、障害者の雇用の継続及び拡大ができるよう、日々努力していきたい。
多様化した社会環境の変化に対応しながらも障害者雇用を進める深澤電工株式会社の将来に期待したい。
執筆者: | 静岡高齢・障害者雇用支援センター 原川 幸男 |
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