それぞれの特性を受け入れて、皆が長く働き続けられる職場をめざして
- 事業所名
- 島津プレシジョンテクノロジー株式会社
- 所在地
- 本社:滋賀県大津市
京都事業所:京都府京都市 - 事業内容
- 油圧機器及び真空機器の製造
- 従業員数
- 299名(平成27(2015)年1月現在)
- うち障害者数
- 5名(うち、重度障害者1名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 機械加工業務(フルタイム) 内部障害 1 機械加工業務(フルタイム) 知的障害 2 機械加工補助業務(フルタイム) 精神障害 1 3S推進業務(フルタイム) 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 本社 | ![]() 京都事業所 |
1. 事業所概要、障害者雇用への取組
(1)事業所概要
ア.概要
当社は、昭和48(1973)年に「洛陽油圧機器株式会社」として京都市南区で創業し、島津製作所グループの一員として島津製作所の油圧機器製品(油圧歯車ポンプ、油圧コントロールバルブ、油圧モーター等)を製造し発展してきた。
その後、平成3(1991)年には「島津ハイドロリクス株式会社」に社名変更、平成12(2000)年の滋賀県大津市への移転等も経験しながら、「設計から加工・組立・検査までの一貫した生産体制」の構築に邁進した。その体制を高く評価され、島津製作所内での業容を拡大し発展させていくことを目的に、平成19(2007)年には現行の「島津プレシジョンテクノロジー株式会社」へと社名変更した。
そして平成21(2009)年には最新技術の製造現場には不可欠な、真空状態を生み出すターボ分子ポンプの製造を開始した。2013年度末には、島津製作所グループの産業機械製品全般の製造子会社として、新たなステージに立ち始めている。
イ.事業内容及び事業拠点
(ア)油圧ポンプ・モータ・コントロールバルブの製造・・・滋賀県大津市
(イ)ターボ分子ポンプの製造・・・・・・・・・・・・・・京都市(島津製作所三条工場内)
(2)障害者雇用への取組
ア.経緯
障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)が平成20(2008)年に改正され、障害者雇用納付金制度の適用となる範囲が拡大され、当社においても平成22(2010)年7月より障害者雇用納付金の申告納付が義務付けられた。当社は、法の求める社会的責任を理解しており、雇用納付金の申告納付が義務付けられる前より、障害者の雇用義務の履行を目的に一定数の障害者雇用を実施していたが、更に新たな雇用を求められるとなるとどのように取り組めば良いのか、その緒が全くつかめない状態が1年以上続いた。
そのような中、大津公共職業安定所からのアドバイスを受け、その流れで県内の障害者就労支援機関の紹介を受けた。
イ.取組の状況(求人採用までの流れ)
大津公共職業安定所、就労支援機関、滋賀障害者職業センターと数回にわたる打合せにより、下記の流れで障害者雇用に取り組んだ。
(ア)障害者でも就労可能な業務の洗い出し
(イ)職業安定所からの対象者紹介
(ウ)就労支援機関の事業を活用した※「トライWORK」の実施(2週間)
(エ)関係者による振り返り・雇用判断
(オ)社内でのサポート担当者の選定
(カ)採用
(キ)就労支援機関による職場訪問、面談
(ク)ジョブコーチによるサポートを開始(約2カ月)、状況に応じ、面談を実施
(ケ)不定期であるが、継続的に就労支援機関等の職場訪問を依頼・面談の実施・スタッフ間の意見交換
※「トライWORK」とは、企業との連携による滋賀県労働雇用政策課の委託事業であり、経験の積み重ねが夢や希望を創出し、自分の人生の様々な選択をする際の根拠となることから、今までの企業での就労経験のない方の企業での実習を、就労支援機関と協働で実施する。また、企業にとっても障害者雇用へのファーストステップとなるように実施する。
ウ.実績
法改正後の雇用実績は、下記のとおりである
(ア)平成25(2013)年3月・・・1名採用
(イ)平成25(2013)年7月・・・1名採用(重度障害者)
(ウ)平成26(2014)年1月・・・1名採用
(エ)平成26(2014)年4月・・・1名(中途障害者)
上記の取組の結果、平成26(2014)年4月には当社における障害者の雇用率が2.0%を上回り、法定雇用率を達成することができた。その後、おおよそ一年が経とうとしているが、退職者を出すことなく、平成27(2015)年2月現在においても法定雇用率達成を維持している。当該社員は健康状態も良好で、勤務態度は非常に真摯かつ熱心な点が他の社員の模範となっている。
2. 職場配置(職場状況)
(1)軽易な業務への従事の場合(現在の従事者3名)
今回、公共職業安定所を通じて就労支援機関から紹介を受けた社員の採用までのステップは概ね下記のとおりであった。
- ア.業務の洗い出し
油圧ポンプおよび油圧コントロールバルブの製造過程において、洗い出した軽易な業務は下記のとおりであった。- (ア)ボディ部品の外観検査(部品全体に傷などが入っていないかなどを確認する作業)
- (イ)カエリ取り作業(歯切り後の剃り残しをきれいにとる作業)
- (ウ)バリ取り作業(歯切り後の剃り残しをきれいにとる作業)
- (エ)ブローチ作業
- (オ)洗浄作業(機械加工後の部品の油分を除去する作業)
- (カ)入出庫作業
- (キ)3S作業(整理・整頓・清掃)を社内で推進するチームに所属)
- イ.業務選出のポイント
業務選出時の着眼点は、下記のとおりであった。- (ア)単一労働の繰り返し作業であること。
- (イ)工程における合否基準が明解で、本人自身で判断できること。
- (ウ)自分のペースで作業ができること。
- (エ)成果が目に見えるもので、達成感を感じられるものであること。
- ウ.トライWORKの実施
就労支援機関が保有する制度の「トライWORK」事業を利用することとした。トライWORK期間中は作業指導者を選定し、業務習得状況を見守った。日々の作業の中で、「うまくいったこと」「うまくいかなかったこと」を報告書に記録した。指導者間で共有することで翌日以降のトライWORKで活用し、無理のない業務試行を実施した。 - エ.雇用の決定・業務の決定
トライWORK終了後には関係者が集まり、雇用の可否について意見交換できる機会を設けた。「トライWORK」時の業務の習熟状況、指導者評価、および本人の適性だけでなく、本人の就労意欲も考慮して雇用を決定し、上記の業務のうち下記3業務への従事として就業を開始した。- (ア)外観検査
- (イ)バリ取り作業
- (ウ)3S作業
併せて人事スタッフを行政部門との窓口担当として選任し、日常的に細やかで迅速に連携できるよう準備した。 - オ.定着支援
就労開始直後は当該者が所属した就労支援施設スタッフの職場訪問を依頼し、必要に応じ面談を実施した。従来の作業所での業務従事時との環境の変化を共有してもらうことで、本人の不安解消に努めた。就労後概ね1か月程度経過後に、ジョブコーチの支援に徐々に切り替えていった。
就労当初に、就労支援機関スタッフによるサポート期間を設けることは、次のような利点が生かせ、効果が大きかった。- (ア)就労開始直後の、過度な緊張や不安を和らげることができる。
- (イ)一定期間が定まる「ジョブコーチ派遣期間」を、少しでも繰り延べることができる
- カ.職務評価
一般社員の職務評価基準を、当該者の習熟速度に応じたものに一部改編して、職務等級を定めた。年に一度の昇級・昇給考課を実施し結果を本人に通知し、就労意欲の維持・向上に繋げている。 - キ.当該者のコメント
当該者に、日々の勤務・取組業務について尋ねてみたところ「仕事にようやく慣れてきたが、今も漏れがないよう一つ一つ確認しながらやっている。わからない時には尋ねるように心がけている。一日が終わればほっとする。まだまだ無我夢中の状態であるが、毎日事故なく通勤し、無事に帰宅する。その生活に今は安らいでいる」と、適度な緊張感を持って業務にあたっている様子がうかがえる。 - ク.指導者のコメント
一方、指導者からは「当社で就業から1年以上が過ぎ、現在は、『障害がある』という事実を、周囲が常に配慮しなければならない必要はなくなった。というのも担当業務を確実にこなしていけるまでに習熟されているからで、今では安心して一工程を任せている。当たり前に日常業務をこなし、当たり前に社員と交流し、組織に溶け込んでくれた」と、就労を安心して支援している、温かい声が聞けた。
![]() バリ取り作業
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(2)専門的業務に従事の場合(従事者2名)
- ア.個人の障害を理解し配慮する
当社には専門的業務に従事する障害者が2名おり、その障害に応じて職場環境の配慮を図っている。- (ア)内部障害(糖尿病性腎症による腎臓機能障害)
- 一人作業にはしない。
- 熱暑職場を避ける。
- 本人が異常を自覚した際に応急対応できる職場環境を設ける。
(血糖値測定器(本人持参)やブドウ糖等の緊急対応品を用意する。) - 通院への便宜を図る。
- (イ)肢体不自由
- 屈曲作業はさせない。
- 重量物の運搬はさせない。
- 長時間の立ち作業はさせない。
- リハビリ・通院への便宜を図る。
- (ア)内部障害(糖尿病性腎症による腎臓機能障害)
- イ.本人の就労意欲を重視し業務を決める
はからずも障害を持つ身となってしまった状況の中で、当該者が当社での就労を通して得たいものは何か、本人のモチベーションを探った。結果、下記の声が上がった。- (ア)従来とほぼ同じ業務に戻り、自分の技能を向上させたい。
- (イ)会社に貢献したい。
- (ウ)家族に元気で働けている姿を見せたい。
- (エ)子供の将来のため、精一杯働きたい。
- (オ)自分の体調を、“現在のベスト”を保てるよう、できることなら、会社・周囲の協力も得たい。会社としては、その思いに応えるべく本人の就業意欲を高めることができる業務を提供し、障害のない社員と同等の職務評価および処遇を取っている。
- ウ.当該者のコメント
「家が近いこともあり、通勤が便利なことがありがたい。今までも機械加工業務に従事してきたので、今後も機械加工業務を続けたい」と、就労に意欲的であった。また「事故後に自分が持った障害に対する会社の配慮に対し、その分、力を尽くして業務をこなしていきたい」と、会社との信頼関係の強化もあったようだ。 - エ.指導者のコメント
「今後も体調管理を最優先事項としながらも、体力的なゆとりが出てくればスキルアップへの挑戦や、組織力強化のためのリーダーシップ発揮に取り組んでもらいたい。本人の意欲があれば、会社としても、その機会を設けていきたい」と、障害があることでの職務配置の配慮は必要だが、処遇面においては過剰にも過小にもぶれることなく公正に取り扱うことで、本人たちの意欲と真摯に向き合っている。
3. 今後の展望と課題(まとめ)
2年あまりにわたる上述の取組により、当社での障害者雇用への取組の第一段階は無事に終了したと考えているが、第二段階として今後は以下の取組を検討している。
(1)スキルアップへの取組
ア.徐々に仕事の幅を広げて複数業務に従事できるよう、習熟度を高めていく。
他人との比較はせず、あくまでも本人の習熟速度を尊重する。
イ.専門的技能向上のため、技能検定に挑戦する。
(2)支援機関との継続的な連携
支援機関でのサポートは、就労後一定期間でひとまず終了することになるが、本人にとっての「就労支援」はそれで不要になるものではない。今後のスキルアップに応じて、新たな不安や緊張が生まれる可能性も高い。“困ったときにはすぐに手厚く”サポートいただける体制を継続いただけると雇用側としても非常にありがたく、定期的な情報交換は続けていきたいと考えている。
また就労支援機関による定期的な企業訪問は、就労者の励みにもなると考えている。特に、後輩の動向等、施設の近況を聞く機会があると、喜びや慈愛、責任感という感情を育てることができ、当該者の社会性の醸成に大いに役立つものと考えている。
(3)新規雇用
今後の従業員の増加や法令の改正に伴い、当社も障害者雇用を更に増加させていく必要がある。社会が企業に求める責務は、年々大きくなってきており、今後も継続した障害者雇用に取り組む必要がある。本社だけでなく、他事業所(京都事業所)での就労の場の模索も含め、新たな従事可能な業務の洗い出しと、柔軟な雇用形態の導入の検討を今後、強化していく必要がある。
(4)地域との連携
障害者雇用とは別に、一部の補助作業を委託している就労支援施設の作業者が、納品で当社を訪問した際に目にした生産現場に感化を受け、その後本人の就労意欲の向上が見られ、また人生の目標が定まり、他企業ではあるが一般就労に繋がったという報告を受けたことがあった。非常に嬉しく誇らしく感じている。当社が滋賀県大津市に移住して15年が過ぎようとしているが、ようやく地域との連携が地についてきたように考えている。
相互に助け助けられ、社会の自然な状態が企業の中にも存在し、社会と企業の連携がそれぞれのWINに繋がり、最終的に[WIN-WIN]の関係を培っていく。そんな日も遠くないと信じ、今後も可能な限りの地域との連携(障害者雇用)を醸成・継続していきたく考えている。
執筆者: | 島津プレシジョンテクノロジー株式会社 企画管理部 人事グループ 佐薙 史子 |
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