従来の職務の経験を活かし「仕事をしたい」という思いが戦力に活かされた雇用事例
- 事業所名
- 株式会社タナベ
- 所在地
- 京都府京都市
- 事業内容
- タクシーメーター販売・取付、タクシー関連システム開発・販売、自発光式交通安全製品製造販売、ビル管理事業
- 従業員数
- 34名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 1 ビル管理業務 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯、背景
(1)事業所の概要
株式会社タナベは大正13(1924)年創業で、タクシーメーターの取付販売を開始し、平成2(1990)年にはタクシーメーターの情報を取り込んで行う「営業データー処理システム」の開発、平成13(2001)年には、視覚障害者、高齢者が安全に道路を歩行できるようデザインされた自発光式点字ブロック「フラッシュドット」の開発に着手、新しい分野への挑戦として、交通弱者に安全を提供するための製品の開発も進めている。
現在では、京都本社、札幌支店、東京支店の3拠点にて「タクシーのことならなんでもタナベ」、「自発光式電池製品のパイオニア」をありたい姿とし、「すべての人々が分け隔てなく安全に移動できる環境づくり」ユニバーサルデザインを目指し自分達の技術と経験を最大限に活用した製品を作り続けていく所存である。そして生み出した製品によって社会に貢献していくことが私達の夢であり、また使命であるとも考えている。
(2)障害者雇用の経緯、背景
当時東京支店支店長で常務取締役だったS氏は平成22(2010)年10月、脳梗塞発症のため入院し、身体の障害と共に、高次脳機能障害の症状が現れた。高次脳機能障害は「見えない障害」と言われるように、一見して障害と分かりづらい特性である記憶障害、注意障害、遂行機能障害など症状が多岐にわたり、さらに個人によってその症状が様々であるとのことであり、S氏も半身に麻痺が残り、杖をつかないと歩けないような状況にあるとともに、車の運転、営業活動といった従来の業務が遂行できない状態であった。
職場復帰については、本人自身の懸命なリハビリと、職場に復帰し、仕事を続けたいという強い意思が確認され、会社としてS氏を復帰させるにあたっての課題は、職場復帰後、従事できる仕事はどのようなものがあるか、経験を活かした能力を発揮できる仕事は何かを検討することであった。
ついては、復帰後の就労上の影響及び雇用管理上の配慮、また、支援機関との連携の必要性等、当社役員会議にて処遇等について議論がなされ、社長の「彼はこれまで共に闘ってきた戦友であり、これまでの実績、貢献度から彼のこれからの人生にできるだけのことはしたい」という思いを全社員が理解し、S氏に従事できる業務は何か、と考えた時に、職務内容を決定する際の判断ポイントとして、(ア)障害の状況、(イ)支店長職務経験・管理能力スキル、(ウ)本人の希望、(エ)会社が提供できる職務、(オ)社内の理解促進への取組等で検討、判断した結果、京都本社で管理している賃貸マンションの管理業務の仕事が提案された。
2. 障害者の従事業務、職場配置
当社が管理している「田辺ビル」は、テナント物件と賃貸物件からなる8階建のマンションで、管理業務とは空き室を埋める対策、修繕費のコントロール、契約事項の確認、未収金の対応等の業務がある。これらがほぼ無管理状態であったため、空き室過多、修繕費の増大等、問題山積みのままであり、早急に対策を打つ必要があったことと、S氏は支店長経験のあることから、これらの管理業務に適合するのではないかと考えた。
しかし、当時S氏は東京在住であったため、復職するには京都への引越しが条件となる。そのため、奥様を東京に残し、障害のある体で単身京都に赴くことは、本人にとって大きな決断であったと思う。
当社の取組として、まずは、本人の障害特性をよく理解した上で、本人に自信を持って仕事をしてもらうことを最優先課題として考え、ハード面において働きやすい環境を整える為に、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者雇用納付金制度に基づく助成金を活用し、事務所2階に上がる階段に手すりを設置、さらに和式トイレを手すり付きの洋式トイレに改修する等、S氏が安全・安心して業務に就けるよう、配慮を検討、まず就労場所の環境整備を行った。
合わせて、ソフト面においては、京都市内の有力不動産屋に業務委託をし、ビルメンテナンスや顧客との細かな折衝は不動産屋が行うことで、本人が本来の管理業務に集中できる環境を整えた。
体調管理への配慮としては、通常出勤日である土曜日をリハビリ訓練に充ててもらい、生活リズムを整え、疲労感や体調などを自己チェックし、安定出勤を目指している。これらのことを踏まえ、必要に応じて医療機関や支援機関、家族などと情報を共有するとともに、体調管理において改善が必要な場合に相談・連絡ができるように連携を深めておくことも心がけている。
3. 取組の内容、効果とまとめ
(1)取組の内容、効果
ア.職場復帰支援計画の樹立
復職当初は、体力・記憶力の低下、これまでの業務との大きな違いに対する葛藤、社員から必要以上に気を遣われることに対するストレス、新居での生活の不便さ等、本人も大変苦しんだ時期があったかと思う。
会社としてS氏の早期の職場復帰を目指し、復帰に当たってどこまで取り組めば良いのか、何をどのように配慮すれば良いのかを考える中、本人の障害状況である(ア)右手は握力が弱く、物を持つ作業や細かい作業が難しい、(イ)右足は足首に力がなく、装具を装着して固定し杖を使用しなければならない、(ウ)注意力・記憶力に問題がある、(エ)視野狭窄があり、右側が見えない、(オ)就労場所において1階の事務所ではお客様の受付等対応業務も必要となるため難しく、2階事務所を本人の就労場所にしなければならない等、いろいろ課題・問題点があり、これらすべての状況を踏まえ、課題を解消するための方策、復帰に向けての適応指導等の方策を障害者職業センターへ相談することとした。
障害者職業センターへの相談の結果、事務部門への復帰後の作業を想定して、確実な作業遂行に必要な補完手段の検討、メンタルサポートの実施、作業遂行に係る支援等の計画が樹立された。その支援計画では、具体的な目標として下記3点を掲げる。その支援計画に基づき、ジョブコーチ支援を受けながら職場適応に向けての取組を実施した。
(ア) 様々な作業体験を通じて、体力・持久力、作業耐性の向上を図る。
(イ) 定期的な通所を通して、体力面や身体的な負荷などの確認を行う。
(ウ) 高次機能障害の現れ方に対する補完手段を確立する。
イ.職場適応に向けての取組の効果
復帰に向けての訓練途中において、本人にとっては作業を一旦中断して戻ってくると前の作業が思い出せない、「あれ、これ、それ」の指すところがわからない、発症後、パソコンスキルを失った、何事をするにも時間がかかる、周囲のペースが早いので気持ちが慌てる、できたことができないと気分が沈んでくる等、不安な時期もあったが、職場適応訓練を続けていくうちに、障害者職業センターのサポートや、周囲の理解も得ることができ、何よりも、本人自身の負けん気、仕事への前向きな姿勢で、様々な課題も改善され、現在では、これらの障壁が徐々に取り払われているように思う。
新しい業務のビル管理業務に従事するようになった今では、賃貸・テナント共に従来は不動産業者に任せることが常であったが、S氏の考え、意見も注力され、入居率も改善され、修繕費についても予算立てすることで、当初よりコントロールされ、管理業務全般の改善が見られる大きな効果を得ることができた。
(2)まとめ
当社の場合の事例は元々社員であった者が中途で障害を有し、リハビリ訓練後職場復帰を果たしたもので、当社としても初めての経験で、新規雇用とはいろいろな条件で異なるとは思うが、ひとつは「タナベの社員が安心して働ける職場環境をつくる」という理念を実際に表現できたことで、社員の理解を得ることができたのではないかと考えている。
また、S氏と仕事をしていて気付いたことは、「仕事をしたい」という思いと、仕事をするために何が不都合なのかを理解し、職場の環境改善・整備をすることにより、障害があってもできる業務がたくさんあり、「仕事ができる喜び」は、その人の生きる力になると言うことである。
今回の初めての障害者雇用について、会社のトップの理解、そして担当者が障害者とその雇用について理解を深めること、社外に相談や支援のネットワークを持つことの大切さ等を実感した。
![]() S氏の業務の様子
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執筆者: | 株式会社タナベ 取締役部長 田辺 紀之 |
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