無限の可能性への挑戦(知的障害者を中心とした雇用拡大)
- 事業所名
- 株式会社あしすと阪急阪神
- 所在地
- 大阪府大阪市
- 事業内容
- 清掃業務、印刷業務、メール集配業務、特定信書便業務、ヘルスキーパー業務 他
- 従業員数
- 105名(平成27年1月現在)
- うち障害者数
- 77名
障害 人数 従事業務 視覚障害 4 ヘルスキーパー(企業内理療師) 聴覚・言語障害 肢体不自由 4 印刷・メール集配等 内部障害 4 印刷・メール集配・特定信書便・清掃 知的障害 57 清掃 精神障害 3 印刷・メール集配・特定信書便・清掃 発達障害 5 印刷・メール集配・特定信書便 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要・障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社あしすと阪急阪神(以下「当社」という。)は阪急ホールディングス株式会社の特例子会社として平成17(2005)年4月に設立され、平成18(2006)年親会社が阪急阪神ホールディング株式会社になった後、平成25(2013)年に現社名に名称変更した。
- ア.事業内容当社は、阪急阪神ホールディングスグループ各社(以下「グループ各社」という。)の関連施設の日常清掃業務と次の(イ)にあるような「ジョブあしすと業務」などを行っている。
- (ア)清掃業務グループ各社のオフィスビル、厚生施設等のフロア、トイレ、階段などの日常清掃(全10箇所)
- (イ)ジョブあしすと業務オンデマンド印刷機を用いた印刷業務、ビル内メール集配業務、名刺作成業務、特定信書便業務(※)、スルッとKANSAIカード等のプリペイドカードへの情報入力業務等※特定信書便業務:平成21(2009)年3月3日に総務省近畿総合通信局より認可を受け、平成23(2011)年12月26日より事業を開始した。この事業は特例子会社としては全国で初めてであり、グループ各社間の定期連絡便業務を担っている。
- (ウ)ヘルスキーパー業務グループ各社の社員を対象に、阪急電鉄本社ビル内で、あんまマッサージ指圧師の国家資格を持つ視覚障害者による従業員の疲労回復や健康維持のためのマッサージ業務を行っている。
- イ.経営方針
- (ア)障害のある人の雇用機会の創出を通じて、阪急阪神ホールディングスグループとしての社会貢献に寄与します。
- (イ)阪急阪神ホールディングスグループ各社の業務を支援することを通じて、グループの発展に貢献します。
(2)障害者雇用の経緯
阪急阪神ホールディングスグループでは、グループ全体で障害者雇用の促進に取り組んでいく体制を構築し、障害者が働きやすい環境を整備するとともに、将来にわたり積極的に障害者の雇用機会の創出を図っていくことを目的として特例子会社を設立した。
「私たちは、仕事の楽しさ・やりがいを感じ、お互いが高め合うことを通じてお客様が望まれることを実現します」を理念に、設立当初は身体障害者2名、知的障害者13名の合計15名の障害者で事業を開始し、その後、知的障害者を中心として雇用拡大を図ってきた。
2. 取組内容
(1)コミュニケーションを中心とした取組
- ア.社内勉強会の開催(年3~4回)定期的に社内外の講師による勉強会を開催し、安全、健康管理、健康増進、社会人としてのマナー等の意識の向上を目指している。
- イ.阪急レールウェイフェスティバルへの参加(年2回)阪急電鉄が主催する鉄道イベント「阪急レールウェイフェスティバル」に出店し、クッキーなどのお菓子や観葉植物を販売している。
- ウ.保護者連絡会の開催(年1回)障害のある社員の保護者や支援機関の担当者を対象に開催し、職場での社員の様子をビデオ等で紹介。
また、会社や家庭等での様子について、情報交換を行っている。 - エ.優良従業員表彰(年2回)業務において特に優秀な取組を行なった社員、他社員のお手本となるような行為のあった社員や、会社または社員の名誉となる行為のあった社員を表彰している。
- オ.その他アビリンピック(障害者技能競技大会)への参加、障害者雇用月間ポスターへの原画募集への応募の奨励
(2)職場実習生の受入れ
毎年数多くの職場実習生の受け入れており、平成25(2013)年度は延べ77人、平成26(2014)年度は12月現在、延べ50名の受入れをしている。
実習生の男女比は約3:1で、出身は大阪府、兵庫県下の特別支援学校や就労支援機関が主である。清掃事業が中心ということもあり、障害の種類としては、その大半が知的障害者であるが、精神障害者や発達障害者も受け入れている。
平成24(2012)年6月からは「大阪府障がい者サポートカンパニー」に登録したことによる職場見学の受入れや、平成26(2014)年には「大阪府ハートフルオフィス推進事業」において、大阪府庁内の「ハートフルオフィス」で、大阪府の非常勤嘱託職員としてチャレンジ雇用されている障害者の次の就職に向けた実習の受入れも行なった。
なお、平成26(2014)年度大阪府ハートフル企業教育貢献賞を受賞している。
(3)障害者への指導方法(清掃業務)
障害者への指導方法として清掃業務から紹介する。清掃業務は知的障害者が中心となっているため、清掃業務のスキルや知識を理解・習得しやすいように、以下にあげるような様々な工夫がなされている。障害特性を考慮して繰り返し作業をすることにより、経験を重ね社員の成長や仕事の精度向上につながっている。
- ア.作業マニュアル作業マニュアルは一部文書化するものの、清掃業務の動作や手順は簡単な言葉に置き換え、模範を示しながら教えている。マニュアルを文書化すると繰り返し確認できるが、文書に頼ってしまい中々覚えられない。言葉を繰り返すことで動作と一致し、確実に習得できる。全ての作業工程において、簡潔明瞭な動作表現を用いている。例えば、モップ作業では、壁際をモップ掛けするのに、「突いて、突いて」等簡単な表現を用いて説明する。
- イ.手順・動線の固定トイレ清掃の場合、「清掃中」の看板を置いてから、床のゴミを掃く作業から始まり、便器・洗面所・鏡・ゴミ回収・床モップの作業工程がきっちり固定化している。誰が作業を行っても同じ順序で進めていくように決めていることで、同じ出来栄えとなり、作業にムラがなくなる。一つひとつの動作が固定化すると、次のメリットがある。
- (ア)どの社員にも共通指導ができる
- (イ)社員同士で手順を確認する際、作業手順に個人差がでない
- (ウ)手順や動線が固定化されていることで、作業ムラが出た場合、チェックしやすい
- (エ)支援者が実習観察する時、課題が明確になる
- ウ.可視化の工夫洗面台・便器・給湯室のシンク等を清掃する際に使用するタオルをそれぞれ色分けして、使用場所を分かりやすくしている。それにより、タオルなどの道具を揃える際にも、一目で必要な個数・種類が準備でき、確認しやすくなる。また、片付ける時も、道具の置き忘れがないかチェックしやすい。表や書類に沿って確認するより、早くて分かりやすく確実である。
- エ.先輩から後輩へ作業を教えるのに、まず指導を担当する社員から手順や動線をはじめ作業マニュアルを実施確認しながら指導していく。道具の使用や手順等基本的なことが習得できた段階で、知的障害者同士がペアを組んで、先輩から後輩へ指導するように取り組む。人に指導することで、自分自身の確認となり、責任感を持って業務に取り組むようになる。
- オ.コミュニケーション作業する建物は一か所ではないが、朝礼や休憩時間には事務所に戻るようにする。社員同士のコミュニケーションや交流を大切にするとともに、日々顔を合わせることで、社員の健康面や生活面、社員同士の人間関係等の把握につながっている。全員が集合して話すことで、リラックスできる雰囲気にもつながり、仕事と休憩のオン・オフ、仕事のメリハリにつながっている。
- カ.携帯用品社員は絶えずウエストポーチを身につけている。その中身は、水分・筆記用具で、仕事上の必需品を身につけて行動する。また、時計も必需品で、限られた時間内に所定の場所を作業し、決められた時間内で行動できるように、日々時刻を確認しながら作業に取り組んでいる。
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(4)清掃業務担当Iさんの事例
平成26(2014)年5月に入社したIさんは、入社前は職業訓練校で1年間訓練を受け、在籍期間中に当社で実習を行った。実習に行くまでのIさんは、清掃の訓練は重ねるも周りの動きも気にしないで動作はマイペースであり、普段の挨拶も声が小さく積極的にコミュニケ—ションを図れなかった。
当社での実習は、計4回行われた。
1回目に2週間の実習が始まると、実習の中で社会人としての意識付けから始まり、挨拶や言葉遣い・清掃の基本を学んでいったが、1回目の実習でIさんは精神的に弱く、自分には他の仕事のほうが合っているのではという気持ちが生まれ、次の実習を断ってしまった。その後、他の仕事へのチャレンジとして他社の面接会や実習にも参加したが、自分には清掃が合っていると実感し、再度当社での実習を希望する。
2回目の実習では、働きたいという気持ちが強く、また精神的にも強くなり、何度も反復動作を繰り返すことで、清掃の手順も身についてきた。Iさんは判断力や応用力、コミュニケーション能力に不安があったが、覚えたことは時間が掛かっても丁寧にできる。日々同じ作業の繰り返しで、真面目に丁寧にできる清掃は、Iさんの障害特性に合う仕事であった。実習が終わり訓練校に戻ってきてからは、自信をつけた様子で何事にも積極性が出てきて、大きな声であいさつし、コミュニケーションも少しずつ積極的に図れるようになってきた。
その後2回の実習を重ね、レベルアップしてから5月に入社することになった。
Iさんは「今思えば、自分に合っている仕事は掃除の仕事であって、最初に実習に行った時は、毎朝出勤時間が早いことや、仕事が覚えられるか心配で断ってしまったことを後悔しています。しかし、実習を繰り返し経験できたからこそ、今の自分があり、とてもやりがいを感じて仕事をしています。毎日、時間に追われながら仕事をしていますが、仕事にもなれて充実した生活を送っています」と笑顔で話してくれた。
3. 今後の課題
- ア.障害者の採用・定着・育成および加齢問題への対応これまでも採用・定着・育成に取り組んできたが、今後も継続的な取組が必要である。また、まだまだ若い社員が多いため、加齢による作業能力の低下といったような問題は生じていないが、今後いかにスムーズに取り組んでいくかが課題である。
- イ.障害者職域の拡大現行職域の(清掃、印刷、特定信書事業等)の積極的な拡大および新たな職域の開拓として、今年度より阪急電鉄株式会社が行う「ヘルスキーパー(企業内理療師)事業」の業務受託のため、大阪府立視覚支援学校から視覚障害者4名を採用した。しかし視覚障害者の雇用は初めてで、この事業の発展に向け、工夫・改善・努力が必要である。
- ウ.指導者の採用・育成現在、基本的に障害のある社員への教育・指導は障害のない社員が行っている。今後は障害のある社員をリーダーとして指導・育成していくことを目指している。
- エ.グループ各社の障害者雇用促進のためのサポート等グループ各社の障害者雇用は同社が主体となり取り組んでいるが、障害者雇用に関する様々なアドバイスを行い各社の雇用の促進をサポートすることも同社の役割である。引き続き、ノウハウを蓄積し、グループ内で活かせるような体制を構築中である。
4. おわりに
当社の行動規範には「自らの成長を楽しもう」と定められている。仕事を通して、できることを増やし、それを自信にして更に頑張っていく、その繰り返しが大切であり、全社員が日々成長できるよう、また、それを楽しめるような会社風土をつくり、「社員の成長」が「会社の成長」に繋がっていけるよう取り組んでいる。
取材に対応していただいた冨田取締役事業部長は次のように話されている。今後の活動に期待していきたい。
「グループ各社の発展に貢献するとともに、社員全員が仕事を通じて成長していくことを目指し、日々心を込めた業務を遂行し、お客様に喜んでいただき、また、お客様からの要望に『早く・正確に』応えて行けるよう取り組みたいですね。これからも、職場見学や職場体験の受入れ、安全衛生教育などの社内勉強会、アビリンピックへの参加、阪急レールウェイフェスティバルへの参加など様々な活動を行い、また、保護者連絡会や親睦旅行も開催し、社員相互間の親交も深めるなど、多岐にわたる活動を通して社員の成長をサポートしていきたいです。」
執筆者: | 社会福祉法人 摂津市宥和会 摂津市障害者職業能力開発センター 主任 浜口 雄一 |
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