精神障害者・発達障害者を多数雇用し、
障害のある人もない人も「共生」できる会社を目指す
- 事業所名
- フジアルテスタッフサポートセンター株式会社
- 所在地
- 大阪府堺市
- 事業内容
- データ入力サービス、スキャニングサービス事業など
- 従業員数
- 29名
- うち障害者数
- 23名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 3 データ入力、スキャニング業務及びそれに付帯する業務 肢体不自由 2 データ入力、スキャニング業務及びそれに付帯する業務 内部障害 2 データ入力、スキャニング業務及びそれに付帯する業務 知的障害 精神障害 6 データ入力、スキャニング業務及びそれに付帯する業務 発達障害 10 データ入力、スキャニング業務及びそれに付帯する業務 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と沿革、会社の特徴
(1)事業所の概要
当社の親会社はフジアルテ株式会社である。フジアルテ株式会社(以下「親会社」という。)は大阪市に本社を置き、東京を始め全国に拠点を持つ製造アウトソーシング会社である。当初、親会社の本社では知的障害者を中心に雇用していたが、徐々に雇用を拡大し、身体障害者、精神障害者及び発達障害者も雇用するようになった。そこで、もともと障害者雇用を行っていた親会社に加え、さらに雇用を拡大すべく、平成23(2011)年4月1日に当社を設立し、同年5月に特例子会社の認定を受け、本格的に障害者雇用をスタートさせた。なお現在、大阪府堺市に本社を置く特例子会社では当社が第1号の会社になっている。
(2)特例子会社設立の経緯と沿革
親会社ではすでに知的障害者を中心に雇用しており、自社ビルや不動産物件などの清掃業務を行っていた。当時、本社では1,800人~2,000人の従業員を雇用しており、法定雇用率1.8%(当時)をクリアしようとカウントばかり気にしていた。
しかし、親会社社長平尾氏には「1.8%をクリアするための障害者雇用ではなく、障害のある人とない人とが共生できる会社を作りたい」という熱い想いがあった。その想いから、「義務」を果たしているだけの障害者雇用ではなく、そこで働く人たちの「成長」を望むことを重視しようという考え方へと変化していった。本格的にやるならば、一つのビジネスとして展開していこうという気持ちが特例子会社設立の経緯である。
<沿革>
平成23(2011)年4月1日 | フジアルテスタッフサポートセンター株式会社 設立 |
平成23(2011)年5月25日 | 第一期生の入社 |
平成23(2011)年5月31日 | 特例子会社 認定 |
平成24(2012)年12月 | 大阪府障がい者サポートカンパニー 登録 |
平成25(2013)年2月 | 発達障害のある従業員向けに、ビジネス基礎研修を企画・実施 |
平成25(2013)年8月 | 2013年度大阪府ハートフル企業教育貢献賞 受賞 |
平成25(2013)年12月 | 第21回障害者職業リハビリテーション研究発表会にて事例発表 |
平成26(2014)年2月 | 障害のある従業員(契約社員)の正社員登用開始 |
(3)会社の特徴
<企業理念>
「障害者雇用と自立支援」を企業理念としている。具体的には、「能力・適性に応じた作業の提供による就労意欲の向上」と「個々の永続的な人間的成長を続けること」である。会社が主に担うのは、経済的な自立である。障害のある社員と障害のない社員との「共生」ができる会社を目指している。
<障害区分>
障害のある社員のうち、精神障害・発達障害者の占める割合が高いことが特徴の一つである。障害の種類・程度は人によって異なるが、自分のことばかりではなく、互いに職場の仲間の障害や病気、個性を理解・配慮している。
2. 会社の取組
当社は「福祉施設ではなく“会社”」だとの認識の下、仕事に従事する体制が整えられている。そのためには、会社の規律を守ることや会社を存続させるためのマネジメントを障害のある社員もない社員も考えることが重要である。売上を考えていくことも会社のマネジメントであり、節目では数字の話もする。目標に届いていない場合は、危機感を持って仕事に取り組んでもらい、時には厳しいことも全員に向けて指示している。
(1)労働条件(契約社員)
- 出勤日:月~金曜日
- 時間:9時~16時(実働6時間)
- 休憩時間:小休憩10時30分から10分間、14時30分から10分間昼休憩12時~13時の60分間
→ 自分で判断し休憩をとることを苦手とする人もいるので、小休憩の時間を設けている。 - 休日:土日祝、年末年始、お盆6か月経過後の年次有給休暇日数は10日。
(2)社内規則等
- 正社員登用あり契約社員からのスタートだが、正社員登用制度もある。現在、2名が正社員登用となっている。
- 昇給と寸志支給昇給は年に1回、10月に行う。寸志は売上や個々の評価に応じての支給である。
- 評価制度平成26(2014)年度から契約社員についても評価制度のテスト運用を開始した。在籍年数だけではなく、職業準備性、仕事の正確性などを合わせて評価し、結果は昇給と寸志に反映させている。
(3)毎日朝礼を実施
障害のある社員もない社員も、朝礼当番が回ってくる。当番は朝礼の司会進行と自分の体験談などを話す。今までの社会経験上、人前で話をする機会が少ない人もいるので、緊張せず話をするための練習の場となっている。また、「おはようございます」という挨拶も大切にしている。明るく元気な挨拶はコミュニケーションの基本であると認識し、教育している。
(4)相談
出勤時や就業中の様子を観察し、様子がいつもと違いおかしい場合は個別に声をかけ、面談を設けている。また、仕事に集中できないような悩みがあれば、必要に応じて話し合いの場を設けている。
(5)社員全員で仕事をカバー
一人が休むと、その仕事をチーム全員でカバーする体制が整っている。それでも納期が間に合わない場合は、納期に余裕がある社員の業務を一旦止めて、優先順位の高い仕事を社員全員が一丸となって取り組んでいる。
(6)体調が悪い人への配慮(リワーク制度)
体調が悪い人に関しては、無理に出勤することを勧めていない。心身ともに体調、職業準備性を整えることを優先させている。休職に至った場合は、休職期間はある程度決めているが、本人の体調や医師の診断を考慮しながら期間を調整している。休職期間中も支援機関や家族などと連絡をとり、本人の復職に向けて長い目で見守る姿勢をとっている。また、体調が回復し、復職した場合においても、最初は身体を慣らすために時間を短縮して働くことを了承している。
(7)積極的な実習生の受入れ
- ア.実習生受入れ実績
平成23(2011)年度 14名 平成24(2012)年度 42名 平成25(2013)年度 49名 平成26(2014)年度 約50名 ※平成26(2014)年度の実習生受入れ人数は、平成27(2015)年1月28日現在の見込み。
障害のある人が、実際の職場における体験実習を通して、就労に対する意欲と自信を深めてもらい、社会に出る足掛かりとなるように、実習生の受入れを積極的に行っている。 - イ.配慮点
- (ア)実習の日数や勤務時間は個別に相談して決定している。
- (イ)見学会を実習前に実施し、職場の雰囲気を肌で感じてもらい、その際に質問時間も設けている。
- (ウ)実習初日にはオリエンテーションがあり、社会一般的なマナーや社内のルールなどを冊子にして具体的に説明する。
【例】トイレットペーパーはなくなったら次の人のために必ず補充しましょう。
→ 言葉にしなくても分かるような一般的な常識やマナーについても説明する。 - (エ)実習のメインはスキャニング(電子化)業務で、比較的単調な業務を決まった時間内でどれだけ集中して行うことができるかという点に重きを置いた内容となっている。
- (オ)配慮事項については事前に聞き取りを行い、対応している。
- (カ)障害のある従業員がOJTトレーナーとして実習生に仕事を教えている。OJT制度を実践する利点は、質問する相手が明確になることで質問しやすくなるという点だけではなく、OJTトレーナー自身が、自ら仕事を教えることにより、自分の仕事も復習でき、やりがいを感じることができるなど相乗効果ももたらしている。
- ウ.採用実習を通じて採用した人は、同社の雰囲気や仕事内容を理解しているので、ミスマッチを防ぐ有効な方法の一つとして考えている。
![]() 仕事風景①
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![]() 仕事風景②
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3. 外部機関との連携
(1)研修
平成24(2012)年2月に、発達障害のある社員の意見を反映させた研修を企画・実施した。実施に向けて、大阪障害者職業センター南大阪支所のカウンセラーからアドバイスを受けながら協働で企画し、研修を「ビジネス基礎研修」と名前を付けた。企画時のカウンセラーからのアドバイスは、次の2点に集約される。
- (ア)会社の期待する行動とは何かを明らかにすること。
- (イ)伝え方は、発達障害のある人に対しては、実際にある場面や状況に置き換えて具体的に示すこと。
以上を踏まえ、「会社の期待」として次の3点を掲げた。
- (ア)時間はかかっても成長してほしい
- (イ)周りへの配慮ができる人材に育ってほしい
- (ウ)学校や福祉と会社の違いを再確認し、仕事に責任をもってほしい
- ア.研修内容:第一部職場の管理者が講師になり「会社で働く」「プロ意識・責任感」「暗黙のルール」について座学で解説した。例えば、休暇の取り方にも暗黙のルールがあることについて、同じ仕事をしているチームの仲間が困らないかということを考え、チームの管理者やメンバーの状況・都合を聞いてから申請すると良い等、実際に起こり得る場面を想定して具体的に伝える工夫をした。
- イ.研修内容:第二部「職場でのコミュニケーション」については座学とロールプレイを交えて全員で考える場を設けた。マナー・コミュニケーションのロールプレイでは、良い見本・良くない見本を全員で見て、「あなたは今の見本を見て、どんな点が気になりましたか?」と問いかけながら、適切な答えを考えた。
- ウ.研修前と研修後の比較研修前と研修後を比較すると、片手間のような対応でお客様の方を見ず、気づかないふりをしていた人でも「いらっしゃいませ」と挨拶をし、笑顔で対応する姿勢が見られた。挨拶の声が大きくなり率先して来客対応を行うなど目に見えて良くなった。具体的にポイントを伝えることで、良い行動につながる可能性がある。また、内部研修だけではなく、支援機関での外部研修にも参加し、新たな気づきや発見を大切にしている。
(2)各支援機関や家族との連携
問題や課題が出た場合において、会社だけではカバーできないことは、支援機関や家族との連携を図っている。会社単体で解決策を考えるより、様々な支援機関と連携することにより、より良い方法を多様な視点から考えることができ、他機関と協力体制を整えることはとても重要である。また、定着支援という面においても、支援機関と親密な関係を築くことにより継続した就労につながっている。
(3)社会貢献
大阪府の事業で「発達障害者・精神障害者職場サポーター養成研修」というものがある。これは大阪府から委託した企業が研修を実施する事業であるが、その委託先の企業から依頼を受け、当社の現場で「企業研修」を行っている。精神障害者の雇用を実施または検討している企業の社員が対象で、月に1回程度開催し、当社が「障害者と共に働く体験型研修」の場を提供する。このことは社会貢献の一つと考えている。
4. 今後の展望
今回、執筆にあたり代表取締役社長の林氏、管理担当者である幸相談役、伊藤社員に話を伺った。今後の展望として、林社長は「障害者を雇用する企業の管理者には個人的な使命感から多少無理をして仕事をしている人も少なくない。その管理者がくじけそうになった時に叱咤激励をもらえる仲間の存在が必要であり、語り合う中で使命感をさらに高めていけるような回路をもつべきである。そのためには交流が必要であり、接点をどのような形でもてば良いのかを考えなければならない。このようなことが必要という意識がまだまだ薄い現状だが、何とか打破していきたいと考えている」と語る。林社長は課題として、サポート側の支援の必要性を強調された。管理者側のケアも重要だということである。
そして、「当社は現状としては、精神障害・発達障害の人を多数雇用しているが、様々な課題や問題が尽きることはない。今後、多くの会社が彼らを雇用する時代に入ってくるだろう。自分たちがそのパイオニアになっていこうという気持ちを常日頃から持たなければならない」とも林社長は語られた。
会社で働くということは、上司や、同僚との付き合い方など、彼らが苦手とするコミュニケーションスキルの課題が必ず出てくる。その一つひとつの問題をどのようにして対処したかということを記録に残し、採用・雇用管理に関する事項をマニュアル化し、精神障害・発達障害を雇用したいと考えている企業に向けて発信していきたいという情熱がある。その情熱の源は、障害のある社員から、誰からも得られない勇気や感動をもらった経験があるからこそ生まれてくるのかもしれない。「共生」を合言葉に今後も障害のある社員も障害のない社員も「共に働き、共に成長し続ける会社」を目指し続けている。
![]() 代表取締役社長 林 秀隆 氏
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執筆者: | 社会福祉法人 大阪市障害者福祉・スポーツ協会 サテライト・オフィス平野 指導員 安藤 泉 |
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