障害者雇用の転換点
- 事業所名
- 白鶴酒造株式会社
- 所在地
- 兵庫県神戸市
- 事業内容
- 清酒・リキュール類等の製造・販売、ワインの輸入販売、化粧品の販売等
- 従業員数
- 504名(平成27(2015)年2月現在 季節従業員を除く)
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 醸造工場作業 肢体不自由 3 営繕(緑化推進等)1名・事務2名 内部障害 1 事務 知的障害 3 営繕(緑化推進等)1名・瓶詰工場作業2名 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - この事例の対象となる障害
- 知的障害
聴覚障害
難病 - 目次
![]() 白鶴酒造株式会社 本社 |
1. 会社概要と障害者雇用の経緯
(1)会社概要
白鶴酒造株式会社は、寛保3(1743)年に創業、灘五郷のひとつ神戸・御影郷に本社を置く日本有数の酒造メーカーであり、清酒の製造・販売を通じて食文化・生活文化の発展に貢献している。コーポレートスローガンの「時をこえ 親しみの心をおくる」は、「酒造りひとすじに歩む白鶴酒造の社員一人ひとりが、酒造文化の継承者としての心を持ち、食文化の将来を絶えず見据え、研鑽・努力する姿勢」を表している。
(2)障害者雇用の経緯
- ア.第一期:障害者雇用率は極めて低く消極的1990年代(平成2~平成11年)前半までは、在職中の事故や病気などで障害を持った在職従業員の雇用だけであり、一緒に働いているという仲間意識と明日はわが身かもしれないという連帯感から一定の理解はあるものの、障害者の新規雇用については「何故、自分の職場に」といった総論賛成各論反対の考えが主流であって、事業所として雇用率を達成していなくても障害者雇用納付金を納めていれば社会的責任を果たしているという考えがあった。
- イ.第二期:在職障害者の雇用継続に取り組む転換点その後、事業所の障害者雇用に係る方針転換は、先述した障害を持った在職従業員のうち、進行性神経難病に罹る従業員(Aさん)の存在が大きい。病状の進行に伴う歩行障害などの運動障害や発汗・排尿障害などの自律神経障害、また、言語障害も進行している状況に対し、安全面などを心配する声が職場から人事部(現・総務人事部)に届くようになった。そこで、「障害者に対する安全配慮と雇用継続」について顧問弁護士にアドバイスを求め、職場の全従業員からも意見を聞き、必要な配慮を明確にした。まずAさんに対して行ったのは階段やトイレの整備、必要な箇所に手摺を設置するなどの職場環境の改善であった。また、公共交通機関による通勤が困難となっていたため、関連会社のマイカー通勤者の協力を得るなどの配慮を行った。結果、障害者本人からも「白鶴酒造で長く働きたい」という申出があったことから、今までの障害者雇用に関する会社としての認識や職場環境を改め、障害者の継続雇用が図れる職場へと方針転換を推し進めることとなった。平成6(1994)年、人事部と職場上司(工場長)及び職場従業員などで構成する「障害者雇用促進委員会」を立ち上げ、活動を通じて社内に障害者雇用に関する理解が浸透し始めた。職場では「障害者とともに働くことが、自分自身の人間的な成長をもたらし、思いやることの大切さを肌で感じた」との意見や「自部署でも在職障害者ではない新規雇用の障害者を受け入れる自信が生まれた」など従業員全員の障害者雇用に対する考え方が変化した。同時に、雇用率未達成状態でも障害者雇用納付金を納めればよいという考えでは、企業としての社会的責任は果たせないということが当たり前の認識に変わった。また、この期間に、障害者採用担当部署である人事部もハローワークの専門援助部門や兵庫障害者職業センターのカウンセラーなどから支援を受けたり、「重度中途障害者職場適応助成金」や「第1種障害者作業施設設置等助成金」などの助成金活用などと合わせ障害者雇用のノウハウを蓄積することができた。
- ウ.第三期:障害者の新規採用平成12(2000)年にはハローワーク主催の「障害者合同就職面接会」への参加、聴覚特別支援学校・高等養護学校からの「職場体験実習」の受入れ実施などを行い、初めて障害者の新規採用が実現した。「職場体験実習」は予め職場での人間関係を構築し、お互いが理解しあったうえで採用ができることから有効な手段といえる。また、兵庫障害者職業センターの「職業評価」「ジョブコーチ支援」やハローワークの「職場適応訓練」などの支援を受け障害者の採用を進めた結果、障害者雇用率も大きく改善された。 【障害者雇用率の推移】
年度 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 雇用率 1.13% 1.47% 1.54% 1.90% 2.21% 2.39% 2.29% 2.42% 2.41% 3.00% 3.10% 3.28% 2.68% 2.50% - □平成17(2005)年 兵庫県障害者雇用促進協会会長表彰
- □平成21(2009)年 兵庫県知事表彰
- □平成26(2014)年 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰
2. 雇用障害者の紹介
(1)平成17(2005)年雇用のBさん(知的障害)
職業能力開発校から職場体験実習を経て工務部への配属となり、本社及び隣接する白鶴酒造資料館の正面にある芝生・樹木の緑化管理や、廃棄物処理などの業務に就く。当初は職場の上司が障害の特性に合わせた適切な業務の手順や指導方法について分からない状況であったため課題も生じていたが、兵庫障害者職業センターのジョブコーチ支援を受け、業務の手順や指導方法の変更を行った。現在では先輩従業員と2名でチームを組み担当業務を手際よく遂行している。
〔当初の課題〕
- 急に頼まれた仕事に上手く対応できない
- 一度覚えた方法の変更が難しい
- 判断のいる作業は苦手
- 業務指示に対し不明点があっても説明を求めない、話を聞かない
- 指示の仕方が感覚的な表現になると理解ができにくい
例)「たっぷり水をあげる」と表現すると、大量にあげてしまい、「だいたいの量」と表現すると、判断に迷ってしまう
〔手順や指導の変更〕
- 緑化管理や廃棄物処理の業務をルーチンワーク(決められた作業)に変更
- 指導面も曖昧な言い方ではなく、理解しやすい具体的な指導に変更
- 業務面や対人面などの不安や悩みに対し、いつでも対応できる環境にする
(2)平成20(2008)年雇用Cさん(聴覚障害)
聴覚特別支援学校から職場体験実習を経て、本社近郊の旭蔵工場に配属される。
工場作業に耐えうる体力があり、問題点はさほど無い。作業指示などを伝える際には、大きな声で伝えるが伝わっているかどうかが分からないこともあったが、現在では手振り動作などとあわせて伝えることで、順調に業務を遂行し、貴重な戦力となっている。
![]() 白鶴酒造資料館の緑化施設
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![]() 本社旭蔵工場内
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3. 障害者雇用の今後の取組
(1)障害者の職場定着(定年まで勤務し、更に再雇用へ)の実施
平成21(2009)年2月に設置した「障害者職場定着チーム」の活動を継続的に行う。またハローワークや兵庫障害者職業センターからの指導や支援を受けるとともに必要に応じて各種助成金を活用する。
(2)雇入れが可能な職務の創出
現在は、平成6(1994)年に立ち上げた「障害者雇用促進委員会」で協議を行っているが、兵庫障害者職業センターのカウンセラーによる職場検分による職務の創出なども検討している。
(3)支社や支店における障害者雇用に関する啓発活動
CSR経営の一環として、本来、本社はもとより支社や支店など全社的に進めることに意義があるが、営業拠点である支社や支店においては早期の障害者雇用は困難であることから、必要情報を適宜伝達することで「障害者雇用」の重要性について啓発を図る。
【最後に総務人事部談】
- □CSR経営の一環として障害者雇用の推進は経営計画にも組み込まれており、現在、当社の障害者雇用率2.50%を早期に3.00%まで引き上げる。
- □ハローワークや兵庫障害者職業センターなどの支援はもとより、市内にある障害者就業・生活支援センターや就労移行支援事業所などとも連携を図り、障害者雇用に係る情報の収集に努める。
- □現在は、障害者雇用の推進とあわせて、「メンタル不調者」に対するフォローの重要性が生じており、適切な対応が必要と判断している。
執筆者: | 兵庫高齢・障害者雇用支援センター 重森公孝 |
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