ひとりでも多くの人が自分の力で自分らしく生きるために
- 事業所名
- 特定非営利活動法人Msねっと
- 所在地
- 奈良県奈良市
- 事業内容
- 障害福祉サービス事業(就労継続支援A型事業、居宅介護事業)
障害児通所支援事業(児童発達支援、放課後等デイサービス)
子育て支援事業 - 従業員数
- 97名
- うち障害者数
- 24名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 14 調理、パン製造、接客、清掃 精神障害 8 調理、ショップ、カフェ、事務作業 発達障害 2 カフェ 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所本部 |
1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯
平成12(2000)年、奈良県が主催する企画講座を受講した主婦達が「赤ちゃん連れで立ち寄れる空間」を作ったのが、前身の任意団体「Msねっと」の始まりである。
その後、地域の母親たちの「あったらいいな」という声を反映した子育て支援活動を続けてきた。子育て中の母親だけではなく、男・女、大人・子ども・高齢者、障害のあるなしに関わらず、誰もが共に育っていける「地域のつながり」を目指し、幅広く活動を続けてきた。その中で、「子育て中の女性」・「障害者」・「高齢者」などは、社会的に「支援を受ける側」という固定概念でみられることもあり、そのことで「自分らしく生きたい」、「社会に役立ちたい」という力が削がれていることもあるのではないかと感じるようになった。
また、子育て広場に子どもと遊びに来ていた母親、地域でボランティアをしている方、障害のある方などと関わる中で、「自分の得意なことを活かしたい」、「自分の空いている時間を人のために使いたい」、「経済的に自立したい」と願っている人たちがいることを知った。
その中でも、障害者雇用を「やりたい」と強く心を動かした出来事は、子育て事業で高等養護学校2年生のTさんを実習で受け入れたことだった。実習の受入れでは障害のある方と共に仕事をするのは初めての経験だったので、お互い戸惑いながらの3日間だった。
時間にこだわりを持つTさんに気持ちよく仕事をしてもらうため、仕事内容と時間をボードに詳しく書くところから1日の仕事が始まった。しかし、なかなかその通りにはいかず、Tさんが大泣きする、ゆっくり説明をする、の繰り返しが1日に何度も起きた。お互いにどうしたらよいか分からず、養護学校の先生に電話で相談しながらの3日間だったが、実習の最終日、仕事を終えたTさんが「私もここで入社式をしたい」、「ここの人達と社員旅行に行きたい」と涙ながらに言ってくれた。
この出会いと一言が、私たちの障害者雇用事業のはじまりだった。
団体は平成22(2010)年7月、特定非営利活動法人の認証を受け、子育て支援事業・コーディネート事業・地域振興事業・託児サービス事業・カフェ・飲食事業・障害児者福祉サービス事業とともに、障害者の就労支援の分野においてもより専門的で充実したサービスができるよう就労継続支援事業A型の指定をうけ事業を開始した。現在、法人が運営する就労継続支援A型事業所は奈良市内に3事業所(富雄事業所、高の原事業所、新大宮事業所)となっている。
2. 仕事の内容
(1)募集・採用
養護学校、ハローワークと連携し、就労継続支援A型の利用が可能な方を雇用している。養護学校の生徒は、在学中の実習で職場体験をし、本人や家族が希望して当事業所に通勤している。ハローワークからは、一般就労が続かなかった人や仕事にブランクがある人などの紹介を受け、本人のやる気と仕事とのマッチングを考慮して採用している。
採用後は、利用者の心身の状況、希望及びその置かれている環境を踏まえて、本人が直面する就労の課題を明らかにし、自立した日常生活を営むことができるよう支援している。
(2)障害者の業務・職場配置
ア.富雄事業所 セントラルキッチン「トコルガ」
法人は近鉄富雄駅より 徒歩2分にある「るあんseed」において、奈良市から受託運営している児童発達支援事業つどいの広場「お陽さま」、隣接してカフェ「トコルガ」、児童発達支援事業「うたたん」を運営している。セントラルキッチン「トコルガ」はカフェ「トコルガ」の開設の後、平成26(2014)年に開設した事業所で、カフェ「トコルガ」を含め、各地域に展開する事業所の食材の製造を行っている。
カフェ「トコルガ」をオープンしたのは平成22(2010)年7月。つどいの広場「お陽さま」に来た赤ちゃん連れのお母さんに、ちょっと立ち寄って500円でランチが食べられて、ほっとした気持ちになってもらえたら、という思いでオープンした。
カフェの中では、お弁当や離乳食を持ってきている人、ランチを注文する人、焼きたてのパンを買って食べる人と様々で、一人ひとりに合った過ごし方をしてもらえる。パンは、ほうれん草・にんじん・かぼちゃ・ごぼうなどの野菜をピューレにして生地に練り込み焼き上げたミニ丸パンを3つで100円という買いやすい価格に設定し、小さな子供たちの大人気商品になった。
この子供たちに大人気の3色野菜パンを作り続けているのが、6年前、私(執筆者)に障害者雇用を決心させてくれたTさんである。時間と数字にこだわるTさんにとって、パン作りはびっくりするほどぴったりの仕事だった。粉を計量するところから始まり、パン生地を同じ大きさに切り分け、発酵する温度・時間など、Tさんのこだわりが仕事に役立つことばかりだった。
現在、セントラルキッチン「トコルガ」ではTさんを含め5名の障害者が働いている。そのうち、セントラルキッチン配属の4名はAM10時~PM2時30分の勤務で「CoCoカフェ」、高の原事業所の「デリカフェびぃぼ」で提供するパンやスープ、キッシュ、ライスコロッケ、わらびもち、蒸し鶏、ミートローフなどの惣菜製造、新大宮事業所の「まちのカフェVIBO」のサンドイッチの具材やケーキ作りを担当している。
「CoCoカフェ」配属の1名はAM11時~PM4時の勤務でランチタイムの接客とキッシュ作りを担当し、ゆっくりでも正確な作業ができることを目指して4名のスタッフと共に働いている。この「CoCoカフェ」はつどいの広場「お陽さま」に来ている親子と、障害のある方との関わりも自然に見られる事業所である。この「CoCoカフェ」からはじまり、平成25(2013)年1月の高の原事業所の「デリカフェびぃぼ」のオープンにつながった。
![]() 富雄事業所「るあん」 | ![]() 富雄セントラルキッチン「トコルガ」 |
イ.高の原事業所 お惣菜カフェ「デリカフェびぃぼ」
平成25(2013)年1月から、近鉄高の原駅のそばにある高の原ショッピングセンター内でお惣菜カフェ「デリカフェびぃぼ」の運営を始める。現在は「デリカフェびぃぼ」と同じショッピングセンターの2階でも、雑貨ショップ「はなきりん」を運営しており、それぞれに障害者が働いている。
「デリカフェびぃぼ」では、セントラルキッチンで作った惣菜に加え、ひじき煮、五目豆煮、ポテトサラダなど定番のお惣菜を現場で作っている。ここでは2名の障害者のうち、1名はAM8時30分~PM3時30分、もう1名はPM 1時30分~PM6時及びPM 1時30分~PM8時の変動シフトで勤務し、開店準備・清掃・接客などの朝の時間帯と、調理補助や翌日の仕込み、小口現金の管理などの午後の時間帯とで、明確に役割を分けて3名のスタッフと共に働いている。
オープンから2年近くになり、「お客様へのサービス」を重視していきたいという考えと、障害者雇用を育てていくという二つの側面があり、頭ではどちらの重要性も理解していても、実際にカフェが混雑してお客様にお並びいただくようになってくると、現実では色々な問題が起きてくる。問題解決のために、スタッフとサービス管理責任者とで仕事の進め方・工夫の仕方を何度も話し合い、障害のある方もスタッフの声と信頼に応え、大きな戦力となっている。
雑貨ショップ「はなきりん」では2名の障害者がAM9時30分~PM 1時とPM0時30分~PM4時15分のシフトで開店準備・接客・ディスプレイ・売上入力・民間図書館の貸出業務・受付などを行っている。
雑貨を作るのが好きな人には、店番をしながら自分の作品を作り、それをお店で販売してもらっている。自分の作ったものが目の前で売れる喜びが次の作品作りに活かされている。また、ここでも当法人が、つどいの広場「ぷらんぷらん」を受託運営しているが、隣接しているつどいの広場「ぷらんぷらん」の親子や、図書館に本を借りに来る親子、地域の高齢者の方などとの関わりも多く見られる。
![]() 高の原事業所「デリカフェびぃぼ」 |
ウ.新大宮事業所 「まちのカフェVIVO」「パン工房のんびりベーカリー」
富雄事業所のTさんに続いてもう一人の障害者のNさんがだんだん育ってきたこともあり、平成26(2014)年4月には、Tさんのこだわりが詰まったパンを主役にサンドイッチカフェをオープンすることになった。
「パン工房のんびりベーカリー」ではNさんを含め2名の障害者がAM9時30分~PM2時30分の勤務で職業指導のスタッフと一緒に丸かった野菜パンを食パンにして、奈良の野菜を中心にしたサンドイッチを作り、「まちのカフェVIVO」で提供している。
10名の障害者と3名のスタッフで、オープンの1ヶ月前から全員で会議をしてサンドイッチの具材からパッケージ、レイアウトなどを決めたり、コーヒーや紅茶の入れ方、お客様への接客などを毎日練習した。
現在はAM9時15分~PM3時45分、AM9時30分~PM2時30分、AM9時30分~PM3時30分、AM10時~PM2時、PM3時~PM5時、PM3時30分~PM6時のシフト制での勤務体制を組み、朝の掃除からパン作り、サンドイッチ作り、ショーケースへの陳列に加え、きんぴらや青菜のごま和え、オムレツなどの具材作りまで、ほとんどの仕事を障害のある方々が担当している。
今では障害者を含むスタッフ全員が売上げを意識して事業所を運営する空気が創り上げられている。
![]() 新大宮事業所 「まちのカフェVIVO」 | ![]() 新大宮 「パン工房のんびりベーカリー」 |
エ.その他の事業(まかない作り・事務作業・ショップ受付)
新大宮事業所では、スタッフの数が多いこともあり、2名の障害のある方がAM9時30分~PM0時、AM9時30分~PM1時30分の勤務で10〜12名分のまかないを調理し、出来上がった昼食を笑顔で配膳してくれることで、午前中の仕事で疲れているスタッフたちを和ませている。また、自分たちが作った昼食を、「美味しかった、ありがとう!」といってもらうことで、喜びを感じたり、仲間同士のつながりができている。
法人事務局では3名の障害者がAM9時30分~PM3時、AM9時30分~PM5時、AM10時30分~PM4時のシフトを組んで事務作業を行っている。仕事の内容は、パソコンでの書類作成・領収書などの整理・各種書類のファイリング・経理データ入力・電話の受付などがある。法人の顔として、お客様や利用者の方、スタッフに気持ちのいい挨拶をしてくれている。
その中の一人、発達障害のAさんはイラストスクールで絵を学び、卒業後ヘルパー2級資格を取得し、他の法人が運営する作業所の就労支援員の業務等に就いたが、長く続けることは難しかった。縁あって働き始めたMsねっとでは、自分に合ったペースで仕事に取り組み、週5日の勤務で事務処理の他、デザインの能力を活かし評判のサンドイッチ作りも担当している。また、プライベートでは放課後等デイサービスの教室で子供たちに切り絵を教えたり、作品集の出版、イベントや個展を開催する等、繊細でキュートな愛ある世界を作り出す切り絵作家として注目されている。
![]() Aさんの作業風景 | ![]() Aさんの切り絵作品 |
3. 今後の展望と課題
私たちは、障害者、高齢者、女性など様々な人達が、地域の中で、多様な働き方や生き方ができる仕組みを提案し、地域コミュニティの中で必要とされる事業を展開し、その活動を通して性別、年齢、障害の有無や立場の違いに関わらず、自分らしさを大事にしながら、地域社会の中で自信を持って生活をして欲しいと考えている。そして、最後に私たちは「障害があるかどうかというよりも、地域の中だから働ける場、地域にとって働ける場」を提案し、バックアップできる事業所になりたいと考えている。
(1)一人ひとりの個性にあった就労支援
障害の有無に関わらず、一人の人間として全てのスタッフと接し、それぞれの個性にあった仕事ができるよう、サービス管理責任者・職業指導員・生活支援員が密接にコミュニケーションを取り、成功体験を積み重ねてもらい、働くことに喜びと達成感を味わってもらえるような環境を整えていく。
(2)地域の方々に「自分の場所」「あってよかった」と感じてもらえる場の創出
カフェの運営を通して、障害者の方が働く場所としてだけでなく、地域の方々にも「自分の場所」と感じてもらえるように、商品の開発や店内のレイアウト、スタッフの接客などを、常に進化させていく。
特に商品の開発については、子育てで忙しいお母さんたちの家事の手助けになるような、持ち帰り可能な商品の開発に力を入れていきたいと考えている。
(3)安定した経営と、継続した雇用の創出
安定した経営は、安定して仕事を創るために一番重要な核である。
経営状態を安定させ、新たな雇用を継続して創出することで、新しい出会いをつなぎ続け、全てのスタッフに安心して働いてもらえる環境を整えていく。
執筆者: | 特定非営利活動法人Msねっと 理事長 北島 真理 |
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