「声かけ」が基本! 自然体での障害者雇用の維持・向上を目指す
- 事業所名
- 株式会社玉林園
- 所在地
- 和歌山県和歌山市
- 事業内容
- 緑茶製造・卸・販売事業、全国卸事業、飲食店事業、食品製造事業、茶道具販売
- 従業員数
- 123名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 食品梱包 内部障害 1 店舗接客 知的障害 2 食品製造 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯、背景
(1)事業所概要
- ア.事業所経歴
安政元(1854)年 煙草・茶の製造販売、塩干類の販売を専業として創業。 大正2(1913)年 本店を東鍛冶町に移転。駿河町に支店を開店。
茶の販売を専業とする。昭和31(1956)年 株式会社玉林園 設立。 昭和33(1958)年 抹茶入りソフトクリーム「グリーンソフト」開発。 昭和35(1960)年 グリーンコーナー1号店を近鉄ビルに開店。
以後フード・サービス・インダストリーを目指し各地にチェーンストアを出店。昭和45(1970)年 日本万国博覧会に2店舗出店。
万国博協会コンピューターでAクラスにランクされ業績を残す。平成 2(1990)年 和歌山市野崎に「本部事務所」「本社工場」完成。 平成 5(1993)年 和歌山市北島に「本部事務所」移転。 平成17(2005)年 玉林園のアイス(豆乳ミルク・黒ごま・紫芋・ほうじ茶・豆乳煎茶)発売。 平成20(2008)年 和歌山県より「和歌山県百年企業」の表彰を受ける。 平成24(2012)年12月 和歌山市出島に本社・本店社屋完成。 平成26(2014)年 現在に至る。 - イ.主な業務内容
- (ア)全国卸事業部
石臼で作られた上質の抹茶をふんだんに使用したソフトクリーム「グリーンソフト」を皮切りに、液状抹茶・各種業務用茶・こだわりフレーバーのプッシュアイス等、数々の商品アイテムを全国に向けて発送している。グリーンソフトを扱う「グリーンソフトFC」は全国100店舗で現在拡大中である。 - (イ)緑茶専門店部門
「お茶の玉林園 本店」・「お茶の玉林園 イズミヤ店」・「お茶道具の玉林園」においても安政元年の創業より続けてきた茶販売の商いをしている。お茶の玉林園本店1階では、お茶と茶道具を取り揃えて販売もしている。 - (ウ)飲食店事業部
「グリーンコーナー」という名称で、百貨店やスーパーにて、グリーンソフトをはじめ、中華そば、てんかけラーメン、スタミナラーメン、明石焼きなどの定番メニューからオリジナル商品まで幅広く提供している。和歌山市内を中心に直営店8店舗・FC2店舗を運営している。 - (エ)食品製造事業部
本社工場では、グリーンソフト液の製造室、グリーンソフトハード製造室、デザート・ソース製造室、製麺室、店舗用食品製造室、茶加工室の6室にて構成される。
- (ア)全国卸事業部
- ウ.事業所経営の特長
飲食店事業(外食)部門では、ロープライス・ハイバリューにて、お子様からお年寄りまで、全ての年齢層を網羅できる商品を展開し、今後の商品開発もこの方針に沿って行っている。
商品コンセプトはお茶屋の歴史を生かして、特に抹茶の扱いには大変実績があり、グリーンソフト・グリーンティー・液状抹茶等々、抹茶を使った商品を数多く手がけ、抹茶の扱い難さを克服して、より使いやすい商品の開発を行っている。
また、店頭で挽いている抹茶も、表千家先代御家元即中斎宗匠・当代而妙斎宗匠・先代裏千家御家元鵬雲斎宗匠よりそれぞれお好みの銘をいただき、その栄誉に応えるべく挽き立ての美味しさ、香りをより多くのお客様に知っていただくよう精進している。
(2)障害者雇用の経緯、背景
- ア.障害者雇用までの経緯
当事業所では、前代表取締役であった林己三彦氏自ら主導のもと、平成8(1996)年頃に知的障害者のAさんを初めて雇い入れたところから、当事業所の障害者雇用が始まった。
林己三彦氏はかねてから障害者雇用に関心があり、同氏自ら採用までの手続きを行い、当事業所の障害者雇用の職場環境づくりに邁進された。その当時の具体的な採用までの手順やいきさつ等については、同氏が急逝されたので、不明な点が多いとのことだが、同氏の障害者雇用についての「想い」は、現代表取締役である林和宏氏に引き継がれ、その後、平成11(1999)年には、知的障害者のBさんを新規に雇い入れ、さらに、その後も、身体障害者のCさんとDさんを雇い入れた。現在ではこれら4名の障害のある方々が元気に明るく、それぞれの職場にて、その職責を果たされている。
前代表取締役であった林己三彦氏が、初めて雇い入れたAさんは、その後も元気に勤務に励まれ、現在では、株式会社玉林園の看板商品である「グリーンソフト」の製造に携わり、リーダー的存在である。また、Aさんは数量管理も行い、他の従業員からの信頼も厚く、新人に対して業務の指導も行っている。
当初の障害者雇用の「導入」とその後の「運用」・「継続」が障害者雇用の本質に沿って的確に、かつ適切に進められたことにより、4名の障害のある方々が活躍している現状が生み出されている。 - イ.事業所としての姿勢
当事業所では、障害者雇用を特に意識して行っているといったところが見られない。ただ、自然体の中で人事労務担当者のみならず、社長をはじめ各職場の従業員・パートの個々人全員が、障害者雇用の本質を感じ取っていることがポイントではないかと思われる。その本質はなにかとあらためてお伺いしたとき、何事も「声かけ」は欠かさないとお答えいただいた。
平成8(1996)年に、当事業所の障害者雇用のスタートである原点を前代表取締役であった林己三彦氏が形づくり、さらに、現代表取締役である林和宏氏が力強く継承してきた結果が今日に至っている。よくコミュニケーションのことは話題になるが、まさにこの「声かけ」がその本質の核心であることを再認識するところである。
2. 取組の内容
(1)障害者の配置状況
勤続年数 | 障害(性別) | 職種 | 勤務時間 | 休憩時間 | |
Aさん | 18年 | 知的障害者 (男性) |
食品製造 | 8:00~ 16:30 |
12:00~ 13:00 |
Bさん | 15年 | 知的障害者 (女性) |
食品製造 | 8:00~ 16:30 |
12:00~ 13:00 |
Cさん | 2年 | 身体障害者[肢体不自由] (男性) |
食品梱包 | 8:00~ 16:30 |
12:00~ 13:00 |
Dさん | 8年6ヵ月 | 身体障害者[内部障害] (女性) |
店舗接客 | 16:00~ 22:30 |
随時45分 |
<業務内容>
- ア.Aさん・Bさん・Cさん
徹底した衛生・安全管理を基盤に、オリジナリティー溢れる商品の開発・生産を行う本社工場は、平成24(2012)年12月に現在の場所に移転され、その本社工場にて、Aさんは食品製造工程全般に関わり、勤続年数18年のベテランにて、リーダー的存在である。
BさんもAさんと同じく食品製造工程全般に関わり、Aさんに次ぐ勤続年数15年であり、多忙な時は他の部門に率先して応援に行っている。
Cさんは、主に食品商品梱包作業に従事して、現在勤続2年。少しずつ作業内容をステップアップしている。 - イ.Dさん
玉林園の和歌山市内の直営店舗の一つで、主に接客・調理作業に従事している。
![]() ![]() Aさんの職場風景
グリーンソフト等商品の製造・梱包作業 |
![]() Bさんの職場風景
グリーン商品の シーラー作業※ |
※ シーラー作業とは、シールバーに熱を通して、ポリ袋のフィルムの表面を溶かしてくっつける作業
(2)障害者のキャリアアップについて
障害者のキャリアアップのためには、障害の特性をしっかりと捉えて、対応を練ることが肝要である。そのためには、まず、障害者が初めて仕事に就いて作業工程に十分に慣れることを「第一」に考え、その作業をいつも注意深く見守ることが必要である。その後の段階(ステップアップ)が、障害者雇用を充実したものにできるかのポイントになるが、当事業所において、工場長、または直属の上司等は、障害者がいま行っている作業工程から少しずつその幅を広げていくことによりレベルを徐々に上げていけるよう創意工夫を行い、実践している。
(3)就業以外のフォロー
当事業所では、従業員間での親睦を深めるために、恒例の「忘年会」を行っている。1年間のお互いの労をねぎらい、さらに来年の健闘に想いを新たにするため、ずっと続いている重要な行事として定着している。その効果は、職場で誰もが励行している「声かけ」に現れており、一つの「職場風土」を形作っている。そして、障害のある方が安心して働く喜びを実感できる職場環境になっている。それは、当事業所での障害者雇用の安定した定着につながっている。
また、当事業所では、年に2回(夏=お中元シーズン・冬=お歳暮シーズン)、従業員の家族が、当事業所の製品(グリーンソフト等)を購入するキャンペーンを行っている。そのキャンペーン中に家族が店舗に買いに来て、元気に活躍されている様子を間近に見られる。家族も障害者自身もその時を楽しみにしている。
3. 自然体での障害者雇用の維持・向上が、職場の風土を特色づける
当事業所では、平成8(1996)年に初めて知的障害者を雇い入れた時から、ごく自然体での対応でもって、障害者雇用の維持・向上を目指してきた。前代表取締役である林己三彦氏が率先して障害者雇用を試みたときに醸成された「職場風土」として、現代表取締役である林和宏氏に継承されてきたことが、当事業所での障害者雇用の「特色」となっている。
その結果として、平成16(2004)年に和歌山県雇用開発協会賞を受賞された後、Aさん・Bさんが、平成26(2014)年優秀勤労障害者として知事表彰を受賞されている。
Aさんは、本社工場でのリーダー的存在として、新人の業務指導においてもその手腕を発揮されている。また、Bさんは、職場仲間に「声かけ」を自ら率先して行っており、職場仲間の誕生日には、必ず、「お誕生日おめでとう!」と、元気に明るく「声かけ」を行い、職場内の日頃のムードメーカーとして重要な役割を果たしている。
近年、事業所内の「コミュニケーション不足」が大きな「課題」となることが多い時代であるが、当事業所では、この「コミュニケーション」がごく自然体の中で醸成されていることに気づかされる。
4. 今後の課題と展望
当事業所は食品製造業であるため、その品質管理には特段の「厳しさ」が求められている。そこで、当事業所では、現在、HACCP(ハサップ)※を導入中である。そのため、雇用障害者にもこのシステムへ対応が課せられている。幾分かの負担をかけることにはなるが、これまでの雇用障害者の勤務ぶりや様々なステップアップを成し遂げてきた過去の状況からみて、十分にその「難題」をクリアできるものと考えている。
障害者には、無限の可能性があり、そのステップアップを常に意識して、その可能性を具現化することを心掛けてきた。いろいろな「課題」が生じたときは、当事業所での障害者雇用の原点に立ち戻り、立ち止まらず継続して障害者雇用の維持・向上に努めてきた。
障害者の無限の可能性を信じ、常に働きやすい職場の提供を心掛け、周りの方たちのあたたかい見守りの中で、障害者が十分にその力を発揮できることを共に喜ぶことができる限り、当事業所の障害者雇用はさらに前進していくものと思う。
※ HACCP(ハサップ):食品衛生管理システムの一つであり、食品の原材料生産から加工、流通、販売、消費に至るまでのすべての過程について、工程ごとにHA(危害分析)を行い、危害を防止するCCP(重要管理点)を定め、CCPのCL(管理基準)を設定し、一定頻度で継続監視することにより、危害の発生を未然に防ぐことを目的とする。
執筆者: | 赤津社会保険労務士事務所 所長 赤津 秀夫 |
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