障害者雇用推進に「戦力化」という目線で取り組む
- 事業所名
- カドヤ株式会社
- 所在地
- 和歌山県和歌山市
- 事業内容
- 建築資材、家具木工資材製造業
- 従業員数
- 60名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 製造 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯、背景
(1)事業所概要
- ア.社訓
経営の調和をはかり、常に創意工夫を心がけ、社会の発展に寄与する。 - イ.事業所経歴
明治44(1911)年8月 現社長の祖父に当たる故角谷亀太郎が海南市九品寺にて棕櫚(しゅろ)を原料としたマット等の製造を始める。 昭和21(1946)年 戦時一時中断するが、角谷徹之、角谷泰三兄弟で「角谷兄弟商会」として再開。その後、住宅・家具関連資材の取扱いにより業容を拡大する。 昭和49(1974)年7月 カドヤ株式会社を設立。 平成10(1998)年 平尾工場を開設、稼働開始。 平成21(2009)年10月 中国 上海に角谷(上海)貿易有限公司を設置。 平成23(2011)年6月 平尾工場敷地内へ、本社を移転。 - ウ.業務内容
家具・建材資材、家具、インテリア用品卸売及び建築内装材製造業である。
インテリアのトータルパートナーとして、多彩な商品・サービスを提供しており、バリアフリーに対応する製品や新商品の取り入れにも積極的な姿勢をとっている。
また、当社は明治44(1911)年8月創業の長寿企業として「常に時代の流れに敏感であること、日々新しいことへのチャレンジ」をモットーに事業活動を続けている。事業所は、平尾工場、九州、関東、静岡、大阪に営業所を持ち、中国にも「角谷(上海)貿易有限公司」を持つ。
(2)障害者雇用の経緯、背景
- ア.障害者雇用までの経緯
当事業所の障害者雇用は、平成10(1998)年に稼働した現在の平尾工場の開設時からその準備作業に取りかかった。障害者雇用を導入・実施するにあたり、工場内の環境整備に万全を期したいとの考えもあった。
まず、製造現場の中で障害者が取り組む作業については、二人一組体制で行う工程における製造補助が良いとの基本認識を持って、工程の洗い出しには十分な時間をかけて行った。
そのような中で、障害者の就労支援機関の方たちと知り合うことができ、障害者雇用の概要や考え方・取組み方等について助言を受けた。特にジョブコーチ支援制度の仕組みには強い関心をもった。当初は、障害者雇用の不安感から、マイナスイメージが先行して、なかなか具体的な障害者雇用の受け入れについて、その体制や構想を思い浮かべることができなかったが、「ジョブコーチ支援」の存在を知って、特に、製造現場における作業工程での「安全対策」等をイメ-ジすることができた。
製造現場では、まず、「安全第一」が最優先である。その製造現場で、果たして知的障害者の就労と安全が両立するだろうかという、大きくかつ大事な「課題」を克服できたのではないかということを今もって感じている。
ジョブコーチとの入念な打合せや助言・指導もあって、ようやくその体制が整ったと判断して、平成15(2003)年9月にAさん、同年11月にBさんの採用を決定した。また、Aさん・Bさんとほぼ同時期にCさんも採用したが、Cさんは半年で退職された。
当事業所としては、作業の選定や社内の指導体制、支援機関との連携など、万全を期してはいたが、Cさんの退職により、障害者雇用の難しさを改めて感じることとなった。
CさんもAさん・Bさんと同様に知的障害者であったが、当事業所における障害者雇用が初めてであったことに加え、Cさん自身も同期のAさん・Bさんと、なかなか打ち解けられないところがあった。当事業所としてもできるだけの打開策を講じたところであるが、本人自身が「自分にはこの仕事は合っていない」との思いがあったようで、Cさんの退職意思は固く、残念ながら、半年で退職される結果となった。
このように当事業所では、障害者雇用の枠組みについて十分に検討を重ねてきた経緯もあり、1名退職というこの結果は、大変不本意であったが、やむを得ないと判断した。 - イ.事業所としての姿勢
当事業所では、当初、障害者雇用について若干の不安感があった。しかし、障害者雇用をただ単に福祉的な観点から捉えるということではなく、障害者も企業の「戦力」として活用し、取り組むという観点で進めることは十分に可能であるとの認識を持ってスタートした。
取組のスタートに当たり、まず製造工程のなかで、二人一組での作業工程を洗い出し、その作業工程には、基本的には、障害者が「製造補助」の役割を担っていただくことで、二人一組体制での就労形態をとるように配置した。
なお、当初、ジョブコーチが就業場所である製造現場に3~6ヵ月間にわたり定期的に入り込み、マンツーマンにて、障害者の具体的な仕事内容や指導方法を改善するための助言・提案を行っていただいた。このことで、現場の製造部門の指導役(「リーダー」と呼称する。)の不安感はかなり払拭され、この二人一組体制はスムーズに動き出した。
Aさんは、基本通りの二人一組体制での「製造補助」との役割に変化はないが、その製造工程での「熟練度」は徐々にではあるものの、年々増してきており、さらなる「熟練度」アップに当事業所としても期待しているところである。
そしてBさんも勤続年数が10年を越えてベテランの域に達しており、Bさん単独にて作業する機会も増えてきている。仕事の中では、一定のルールを決めて、そのルール(作業指示)に沿って作業をする体制をとったところ、積極的に業務に精励しており、結果として、製造補助ではなく、独り立ちした状況にもなっている。
このような状況に接すると、障害者雇用を通じて企業の「戦力化」を図ることができるとの想いは決して間違っていなかったと感じている。
Aさん、Bさんともそれぞれ担当する工程は違っており、それぞれの持ち場には、それぞれの担当の指導役となるリーダーがいる。このリーダーの役割も非常に重要なものであり、障害者雇用成功の成否の鍵を握っていると言っても過言ではない。平成15(2003)年、Aさん・Bさんの入社当時のリーダーから、現在は別のリーダーに変わっているとのことであるが、そのリーダーの指導方法の要諦は変化なく続いている。この指導方法の要諦の中に、当事業所での知的障害者雇用の成功の秘訣があるように考える。
2. 取組の内容
(1)障害者の配置状況
入社日 勤続年数 |
障害 性別 |
職種 | 勤務時間 | 休憩時間 | |
Aさん | 平成15(2003)年9月 11年4か月 |
知的 男性 |
製造 | 8:30~17:30 | 12:00~13:00(1時間) 午前10分 午後10分 |
Bさん | 平成15(2003)年11月 11年2か月 |
知的 男性 |
製造 | 同上 | 同上 |
(2)業務内容
- ア.Aさん
本社1階の平尾工場において二人一組体制の中で、「製造補助」の役割を担っている。AさんとBさんはほぼ同時期の入社であるが、それぞれの勤務状況を勘案しながら、各人の特性を活かして配置している。障害者の特性を周りの人がよく理解する中で、あまり過度なプレッシャーとならないような形で、なおかつ「戦力」としての期待を持って、程よい達成感を共有するような指導を行っている。
勤務時間は、他の従業員たちと同じくフルタイム勤務であり、仕事の納期があるときは残業もしている。
Aさんの職場風景 - イ.Bさん
Bさんは、Aさんに遅れること2カ月で入社された。Aさんと同じく、本社1階にある平尾工場での製造工程に配属されている。現在では、二人一組体制ではなく、単独での作業を行っている。ただ、製造現場であるため、「安全」について現場のリーダーは特に気を使っている。障害者の作業体制は、二人一組を基本としているが、Bさんのようにその習熟度が高くなってきている場合は、簡単な加工作業には安全面にも十分に配慮した上で、「自立」を促す点からも、できるだけ単独作業を任せるようにしている。Bさんもその期待に十分応えている。Bさんもフルタイム勤務であり、仕事量の多い時には、残業も行っており、当事業所の重要な「戦力」となっている。
Bさんの職場風景
3. 就業以外のフォロー、今後の課題と展望
(1)就業以外のフォロー
当事業所では、Aさん、Bさんのご両親には、当初の2~3年間は、ご家庭を訪問してお話をする機会を多く作った。当事業所は、製造現場であるため、ちょっとした不注意や気のゆるみが、「ケガ」に至ることが考えられる。そうしたご心配をお持ちのご両親には時間を取って頻繁に連絡(コミュニケーション)を取ることにより、ご両親の心配解消に努めた。実際に、小さなケガをされた時もあったが、常日頃のコミュニケーションにより、ご両親も特に不安になることもなく、また、小さなケガをされた本人自身も落ち込むこともなく、その翌日には元気に出勤されたとのことである。
また、当事業所では、従業員間の親睦を深めるため、例年、新年会、忘年会、社内旅行を行っているが、Aさん、Bさんもこのイベントに参加し、仕事仲間との楽しい時間を満喫している。
(2)今後の課題と展望
当事業所は経験を通して、障害者雇用は当初のスタート(取っ掛かり)が非常に大切であるとの認識を持っている。障害者雇用を始めるに当たって、積極的に障害者雇用に関する情報を集めたことが結果的に大きな成果を得ることができたと考える。また、障害者を「戦力」として捉え、製造工程について十分に洗い出しを行うとともに、製造現場での良きリーダーにその「要点」を十分に理解してもらった。指導役となったリーダーにはやや戸惑いもあったであろうが、その実践に誠心誠意頑張っていただいた。
今後の当事業所の障害者雇用の継続についても、従来の方針を堅持していきたいと考えている。と同時に、当事業所の長寿企業として根本である、日々新しいことへのチャレンジ精神を持って、これから先の展望にも視野を広げていきたいと考えている。
執筆者: | 赤津社会保険労務士事務所 所長 赤津 秀夫 |
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