さりげない支援の背後に温かな心配りのある事業所
- 事業所名
- 成和産業株式会社 山口営業所
- 所在地
- 山口県山口市
- 事業内容
- 医療用医薬品、検査試薬、医療機器等の卸売販売
- 従業員数
- 64名(山口営業所)
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 2 仕分け、ピッキング、パック詰め等 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 成和産業株式会社 山口営業所 |
1. 事業所の概要、障害者雇用について
(1)事業所の概要
成和産業株式会社は、医療総合商社であるアルフレッサホールディングス株式会社のグループ企業として、広島県広島市内に本社を置き、中国地方一円で地域に密着した事業を日々展開している。事業内容は、医療用医薬品、検査試薬、医療機器をはじめ、ガーゼや注射器といった材料、医師や看護師の白衣など、医療行為に必要な全ての商品の卸売販売である。取引先は、病院、診療所、保険薬局といった医療機関が中心である。
この事業を支えるのは、中国地方5県に広く設置されている全23の営業所であり、635名(平成26(2014)年3月31日現在)の従業員である。中でも山口営業所は、山口県央部を視野に、事業を鋭意展開している。
(2)障害者雇用について
山口営業所では、精神障害者保健福祉手帳を有する従業員2名が勤務している。
当営業所長の澤井伸治氏と、カスタマーサポートセンターリーダーの和田記明氏に障害者雇用について話を伺った。カスタマーサポートセンターとは、物品の在庫、供給、配送等を統合的に管理するセンターである。
澤井所長は、2名の従業員の雇用に至った経緯を次のように語る。
「最初、人事部から障害者雇用についての提案がありました。その後、どのような部門で雇用が可能かを検討しました。当事業所は営業活動が中心となっております関係で、障害者とマッチング可能な部署は無いようにも思われました。しかし、当事業所には物流等の部門もあり、その中の部署であれば障害者雇用が可能ではないか、という話になったのです。雇用支援機関から最初に紹介されたのが、Aさんです。まず、当事業所で実習をしていただきましたが、その時にジョブコーチがしっかり支えて下さいました。最初の2~3週間はほぼ毎日このジョブコーチからの支えがありました。約2ヶ月間の実習で、Aさんは私どもが期待したレベルにまで到達しましたので、めでたく採用となりました。」
このように当営業所で働く2名の従業員はともに、採用前の実習でジョブコーチからの支援を受けた。障害のある方々の就労にとって、ジョブコーチの果たす役割には、とても大きなものがあることが伺われる。
![]() 山口営業所長の澤井伸治氏 (左)と、カスタマーサポート センターリーダーの和田記明氏 |
2. 2名の従業員への支援の様子
当営業所で働く2名の精神障害者への個別支援の様子をそれぞれ紹介しよう。
(1)Aさん(精神障害・精神障害者保健福祉手帳「3級」判定)
Aさんは現在、山口市内にある自宅から自家用車で通勤している。県内の私立大学を卒業の後、他の事業所での勤務を経て当営業所に就職したAさんは、午前8時から12時までのパート雇用の社員として、当営業所の物流課で働いている。
Aさんの業務内容としては、(ア)物流センター(広島県)から届けられた数多くの医療用医薬品、検査試薬、医療機器等を、物流課内に設置された保管棚の上に種類毎に整理して並べる、(イ)注文票をもとに、箱に表示されたロット(使用期限)を注視しながら、医薬品等をその商品名、規格等を間違えぬよう正しくピッキング(選び出し)し、担当者に手渡す、(ウ)入荷してきた荷物を運搬する、オリコン(折り畳みコンテナ)を畳む、物流課内を清掃する、等である。
同一名称の医薬品であっても、規格・容量によって複数の種類があるため、保管棚に並べる際にも、あるいはピッキングする際にも正確さが求められる。物流課の広いスペースには、長い保管棚が10数本並列に並んでおり、膨大な種類の医薬品等が整然と並べられている。医薬品のピッキングは、患者の生命にかかわる業務でもあるため、不注意による誤りは許されない。細心の注意力が必要とされる部署と言えるが、Aさんはこの業務を正しくこなす従業員として活躍している。
![]() Aさんが勤務する 物流課内の保管棚 |
![]() 届いた医薬品を保管棚に 整理するAさん | ![]() 物流課内を清掃する Aさん |
澤井所長は、Aさんの働きぶりを次のように語る。
「当事業所でAさんがこなせる仕事を、私たちは模索しながら探してきました。“Aさんにこれができた”“これもできた”等の発見を通して、Aさんのレパートリーが少しずつ広がりをみせていきました。Aさんに、前述した(ア)、(イ)、(ウ)の業務を担ってもらうと、他の従業員はそれまでとは別の業務に専念できるという面もありますので、事業所内の仕事が効率的になりました。Aさんは、情緒不安定の状態になることはありません。ただ、時に集中力がとぎれることがあります。また体調が崩れた時には休養が必要です。でも人柄が良く、退社時には社内の従業員に明るい挨拶をしてくれます。本人はお酒は飲めないのですが、当事業所の“飲み会”にはよく出席してくれています。Aさんのような良い人に来てもらったことを感謝しています。」と澤井所長は目を細める。
Aさんの管理相談役で物流課リーダーである益冨雅道氏にも話を伺った。
「Aさんは一人の大人ですから、Aさんだけに集中して目を配るといったことはしていません。ただ、Aさんが体調を崩し、体力的に難しい状況にあると判断されるような時には、休みを取るよう語りかけることがあります。また、Aさんが張り切りすぎと思える時には、そのペースをもっとゆっくりさせるよう、声をかけています。」
周囲からの気負わぬ自然体での対応が、Aさんの就労を支えていることが伺える。
![]() 物流課リーダーの 益冨雅道氏 |
(2)Bさん(精神障害・精神障害者保健福祉手帳「3級」判定)
Bさんは現在、山口市内にある自宅から自家用車で通勤している。他県の私立短期大学を卒業の後、他の事業所での勤務を経て当営業所に就職したBさんは、午前9時から16時までのパート雇用の社員として働いている。
Bさんの業務内容としては、パック詰め(品を指定数だけ袋に詰めて封をする)等である。前述したように、BさんもAさんと同じく、実習期間中にジョブコーチからの支援を受け、採用となった。
Bさんの直属の上司であるカスタマーサポートセンターリーダーの和田記明氏は、ジョブコーチからの支援について次のように語る。
「当事業所の従業員だけではフォローできない部分を、ジョブコーチに助けてもらいました。本当に助かりました。」
また和田氏は、Bさんへの支援について次のように語る。
「Bさんは、指示された内容については、きちんとこなせる方です。ただ、急に新たな仕事を任されたりすると情緒不安定になることがあります。また、季節の変わり目などにも不安な気持ちに陥ることがあります。そこで、このBさんに相談役の人を一人つけています。例えば、仕事の手順が分からなくなったような時、または手順を再確認したくなったような時などには、Bさんはこの相談役によく相談しています。」
事実、Bさんは仕事の手順の再確認について、次のように語る。
「私は、仕事の手順などをメモするようにしています。でも、後でそれを見返した時、本当にこの通りの手順でよかったのかな?、とふと不安になることがあります。」
Bさんの相談役を担う井上知美氏は、多くの時間をBさんの隣の席で勤務するが、このBさんの言葉を受けて次のように語る。
「私は、まず、Bさんの話(不安)を聞きます。仕事の手順などについての同じ内容を再び問われることもありますが、Bさんが納得してくれるまで、わかりやすく語るようにしています。」
この井上氏の言葉からは、Bさんを支援することへの気負いなどは感じられない。極めて自然体である。井上氏は、Bさんが当事業所に就労した時から、その相談役を担ってきた。Bさんにとって、自分が不安になった時にいつでも相談できる同僚がそばにいてくれるなら、とても心強く、安心である。自然体で根気強く対応する井上氏は、Bさんの安定就労を支えるキーマンとしての役割を担っているといえよう。
昼食については、Bさんは他の従業員と同じ部屋でとっている。食後の休憩時間については、従業員それぞれが思い思いに過ごしているが、Bさんは「私はゆっくり寝ていますね」と笑う。
Bさんは、病院(精神科)に月1~2回通院する必要があり、この日は有給休暇を利用している。現在も服薬を続けているが、その管理についてはBさん本人が全て対応している。
![]() 品を入れた袋に封をするBさん | ![]() 相談役の井上知美氏 |
![]() 隣同士で働いている井上氏(左)とBさん |
3. さりげない支援の背後にある温かな心配り
AさんとBさんが今日も生き生き働くことができるのは、上司や同僚からの心身両面の支えがあるがゆえである。こうした支えが、障害のある従業員の就労を継続的に支えている。最後に澤井所長が次のように話してくれた。
「障害のある従業員の作業量は、健常者のそれと同じではないかもしれません。でも、その持てる力を発揮し、業績をあげていってほしいと願っています。障害者雇用は、これからも継続する方針です。」
成和産業株式会社山口営業所では、さりげない支援の背後にある温かな心配りのもとで、従業員が今日も朗らかに働き続けている。そして、事業所としての社会的責任を果たす経営を今日も続けている。
執筆者: | 山口大学教育学部 松田 信夫 |
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