何げない細やかな配慮が安定就労を支えている職場
- 事業所名
- 医療法人山口平成会
- 所在地
- 山口県岩国市
- 事業内容
- 慢性期病院(回復期リハ病棟、医療療養病棟、地域包括ケア病棟)、老人保健施設、デイケア、グループホーム、小規模多機能センターなどの運営(病院に併設)
- 従業員数
- 323名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 作業療法士 肢体不自由 2 准看護師、医療事務 内部障害 知的障害 1 清掃 精神障害 2 看護師、清掃 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要
(1)事業所の概要
高齢化が進行する山口県では、県内で生活する高齢者への支援は焦眉の急となっている。医療法人山口平成会は、山口県岩国市玖珂町の自然に囲まれた環境の中、慢性期病院(回復期リハ病棟、医療療養病棟、地域包括ケア病棟)として「山口平成病院」を運営する。病院には老人保健施設、デイケア、グループホーム、小規模多機能センターなどの施設を併設しており、医療・看護はもちろんのこと、介護・リハビリテーションにも重点を置き、高齢者の長期療養生活にも対応できる優れた環境を整えている。
当法人の障害者実雇用率は2.59%である(平成26(2014)年12月現在)。高齢者への医療・看護、福祉サービスとともに、障害者雇用に関しても地域のモデル的な医療法人となっている。
(2)思いやりのある接遇を心がける
病院棟内の広い廊下を歩くと、業務にあたっている看護師さんや介護士さんなどから、「おはようございます」という朗らかな声と笑顔が筆者に向けられてくる。思いやりのある接遇を心がけることを目標の一つに掲げている当法人の経営方針の一端が、ほのぼのと伝わってくる。
2. 障害者雇用の経緯(障害者支援機関との密接な連携のもとでの障害者雇用)
副院長(兼 看護部長)の山本さゆり氏と、事務担当の深本美恵子氏に、障害者雇用についての話を伺った。
![]() 副院長(兼 看護部長)の山本さゆり氏(左)と事務担当の深本美恵子氏(右) |
冒頭、山本副院長は次のように語る。
「当法人では、法定雇用率は以前から達成しております。ただ、勤務している障害のある方が、事情によって転職されるような場合には、すぐに採用人事を起こしています。ハローワークに求人を出すこともあるのですが、センター蓮華に声をかけるようにしています。今、当法人で働いている6名の障害者のうち、精神障害のある職員と知的障害のある職員の2名は、このセンター蓮華からの紹介を受けて就労しました。」
当法人は、岩国市内にある障害者就業・生活支援センター「蓮華(れんげ)」と日常的に連携しており、障害のある職員の採用人事については、このセンター蓮華を通している。障害者就業・生活支援センターのように、地域で活動を展開している障害者支援機関との密接な連携が、当法人の障害者雇用を円滑に展開させ、同時に、「社会参加をしたい」という障害者の願いを叶えさせていることが伺われる。
法定雇用率を既に達成している当法人であるが、今後も障害のある職員を雇用する方針である。
3. 取組の内容
障害のある職員への支援について伺うと「特にこれといった支援をしているわけではないのですが・・・」と、山本副院長と深本氏は語る。この言葉から、何げない細やかな配慮のもとで、障害のある職員が自然に受け入れられている様子が伝わってくる。
当法人では、身体障害者3名(聴覚障害1名、肢体不自由2名)、知的障害者1名、精神障害者2名の計6名の障害のある職員が働いている。6名への支援の様子をそれぞれ紹介しよう。
(1)Aさん(聴覚障害・身体障害者手帳「3級」判定)
Aさんは感音性難聴のある女性であり、両耳に補聴器を着用している。現在、岩国市内の自宅から自家用車で通勤している。Aさんは他県の医療保健専門学校(作業療法学科)を卒業の後、他の事業所での勤務を経て、当法人に就職した。現在、作業療法士として高齢者へのリハビリテーション(マッサージ、ストレッチ等)に従事している常勤職員である。
山本副院長は、Aさんへの支援について、次のように語る。
「会話をする時、Aさんは私たちの口を見ます。唇の動きからその内容を理解する読唇によって、意思疎通を図っています。そのため、Aさんと話す時には、私たちはマスクを外し、Aさんが口を見ることができるようにしています。」
感染症等の拡大を防ぐため、当法人の職員はマスクを着用することが多いが、職員はAさんに読唇への配慮を行っている。マスクを外し、正面からAさんにゆっくり話しかければ、意思疎通に支障はない。
![]() ![]() 高齢者の下半身マッサージ(左)と
足関節ストレッチ(右)に取り組むAさん |
(2)Bさん(肢体不自由・身体障害者手帳「4級」判定)
Bさんは、人工関節置換術による左股関節機能全廃の女性である。現在、近隣の町にある自宅から当法人の送迎バスで通勤している。Bさんは県内の看護学院を卒業の後、准看護師として他の病院等の勤務を経た後に、当法人に就職した。そして、平成12(2000)年にケア・マネージャーの資格を取得し、現在は地域に居住する在宅高齢者へのケア・マネージャーとして東奔西走する常勤職員である。当法人の方針が、入院早期からの積極的な治療とリハビリによって、できるだけ早く自宅等での地域生活を実現することを目標に掲げていることもあり、ケア・マネージャーとしてのBさんの役割は極めて大きい。Bさんからは、次のようなお話を頂いた。
「私は、平成13(2001)年度からケア・マネージャーの仕事を開始しました。ご高齢の方であっても、サービスによって在宅生活が可能です。ご高齢の方の中には、これまで12年間お付き合いさせて頂いている方もおられます。この在宅生活の実現が、私のやりがいにつながっています。」
![]() 病院棟の事務室で、
利用者のデータを 入力するBさん |
この仕事を続けるなかでは、高齢者との永遠の別れもある。
「在宅のご高齢の方や、独居のご高齢の方の生活を、私たちは関係者全員で支え続けています。そして、これまで幾人もの最期も看取ってまいりました。」
Bさんは下半身の障害ゆえ、長い距離を歩くことは控えている。そのため、ケア・マネージャーとして地域の仕事に出向く時には、当法人の自動車を使っている。また、当法人の駐車場は約150メートル離れた坂下に確保してあるが、徒歩での上り下りがBさんの下半身に負担をかけるため、Bさん用の駐車場は坂上の病院棟入口のそばに特別に確保してある。
Bさんへの支援について、さらに山本副院長と深本氏に伺った。
「そうですね。仕事上のグチを聞いてあげて、そして励ますことくらいですかね」と二人は微笑んで、「“生涯現役”をモットーにしておられるBさんには、これからも元気に働いていただきたいです」と締めくくられた。そして、Bさんからは、「この部署で働けることに、私は感謝しています」という言葉が返ってきた。
(3)Cさん(肢体不自由・身体障害者手帳「5級」判定)
Cさんは、体幹に障害のある女性である。現在、岩国市内の自宅から自家用車で通勤している。Cさんは県内の高等学校を卒業の後、他の事業所での勤務を経た後に当法人に就職した。就職して1ヶ月が経過したCさんは(平成27(2015)年2月現在)、椅子に座って医療事務(外来患者のデータの入力)に従事している。現在はフルタイムパートの職員だが、今後常勤職員になる予定である。
当法人の事務職のユニホームはワンピースと定められているが、Cさんは体幹障害のため、下半身を冷やさぬようにする必要がある。そこでCさんには長ズボン等の着用が認められている。
![]() 外来患者のデータを入力するCさん
|
また、CさんもBさんと同じように、長い坂道を上り下りすることが体に負担をかけるため、Cさんの通勤自家用車の駐車場も坂上の病院棟入口のそばに特別に確保してある。
Cさんからは、「条件面でも、とてもよくしてもらっています。職員の皆さんは、とてもやさしくしてくださいます」という感謝の言葉が返ってきた。
(4)Dさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Dさんは、知的障害のある女性である。現在、近隣の町にある自宅から路線バスで通勤している。Dさんは他県の専門学校を卒業の後、職業能力開発校で学び、他の事業所での勤務を経た後に当法人に就職した。現在は、病院に隣接する高齢者グループホームで清掃(廊下、居室、トイレ、窓、手すりなど)に従事している短時間就労の職員である。
Dさんは現在勤務するグループホームの管理者である職員から指導を受け、清掃技術を習得した。そして、障害者就業・生活支援センター「蓮華(れんげ)」(以下「センター蓮華」)の支援スタッフからも必要に応じてアドバイスを受けることができた。清掃は、基本的に手順の決まった活動であり、毎日正しく繰り返す業務である。この清掃業務はDさんにうまくマッチし、Dさんはその力をグループホーム内で発揮している。
現在、センター蓮華からは、Dさんに対して定期的な職場訪問と家庭訪問が実施されている。
当グループホームの介護職員である飯尾明子氏は、センター蓮華との連携について、次のように語る。
「Dさんが当ホームに就職した最初のうちは、私たちはDさんのことがわかりませんでした。そのため、センター蓮華さんからDさんへの接し方などの情報を頂けたのはありがたかったですね。」
センター蓮華のように、地域で活動する障害者支援機関との緊密な連携は、Dさんにとっても当法人の職員にとっても大変心強いと言えよう。
![]() ![]() グループホーム内の洗濯室(左)と
廊下(右)のゴミを丁寧に掃くDさん |
なお、Dさんは、いつもの生活行動の順序や時刻などが急に変更されたような場合、情緒不安定に陥ることがある。例えば、路線バスの時刻の急な変更が、当グループホームの勤務時刻の変更につながるような場合である。こうした変更があらかじめ予測される時には、この情報をDさんの母親に事前に電話連絡し、母親からもDさんに説明してもらっている。Dさんは、職員や利用者に自分から元気の良い挨拶をすることができる。また、昼食時などでは、自分の体験や思いを周囲に繰り返し語りかけることが好きであり、当グループホームのムードメーカーとなっている。
(5)Eさん(精神障害・精神障害者保健福祉手帳「3級」判定)
Eさんは、精神障害のある男性である。現在、近隣の町にある自宅から自家用車で通勤している。Eさんは他県の大学の医学部保健学科を卒業の後、他の病院での勤務を経た後に当法人に就職した。現在、看護師として、病院に隣接する老人保健施設の認知専門棟(認知症の高齢者が生活)で、看護と介護に従事している常勤職員である。
午前9時、ホールに集まった十数名の高齢者の一人一人にEさんは「体の調子はいかがですか?」とその耳元にやさしく語りかけ、検温と血圧測定を繰り返し、その結果を記録していく。この後、経管栄養を必要とする高齢者への食事介助を担う。Eさんに任されている業務は、これら以外にトイレ介助、入浴介助、おむつ交換、爪切り等と、その内容は高齢者の生活全般に渡っている。
服薬を続けているEさんは、精神面での不調の時には通院が必要になる。その時には休みをとることが認められている。認知専門棟の主任の川口清美氏は、Eさんへの支援について、次のように語る。
「Eさんに対して、他の職員と同じような声かけをしていますし、夜勤もお願いしています。特別な対応はしていません。ただ、精神面で調子が悪くなった時には、夜勤を外したり、勤務の回数を減らすなどの配慮をしています。」
![]() 高齢者の血圧を計る
Eさん |
(6)Fさん(精神障害・精神障害者保健福祉手帳「2級」判定)
Fさんは、精神障害のある男性である。現在、近隣の町にある自宅から自転車で通勤している。Fさんは県内の養護学校(現:特別支援学校)を卒業の後、他の事業所での勤務を経験した。その後、岩国市内にある就労継続支援B型事業所「よこやま工房」を経由して当法人に就職した。その後、センター蓮華からの定期的な職場訪問を受け始めた。Fさんは現在、病棟の清掃(廊下、ホール、病室など)に従事している短時間就労の職員である。
山本副院長は、Fさんについて次のように語る。
「Fさんは穏やかな人柄です。3階病棟の全ての部屋について、その清掃をFさんにお願いしています。このことがFさんのやる気を高めたようです。『Fさんのお陰で助かっていますよ』と伝えると、とても喜んでくれます。」
現在も、センター蓮華とのつながりがあり、同センターでミーティング等が開かれる時には自ら参加している。「センター蓮華の支援スタッフさんと相談しながら、同時に、Fさんと相談しながら、その仕事内容をこれまで少しずつ変えてきました。Fさんはこうした仕事の変化によく適応してくれていますね」と山本副院長は語る。前述のDさんと同様、地域の障害者支援機関との緊密な連携は、Fさんと当法人の職員を支えていると言えよう。
またFさんは話し好きであり、Dさんと同じく、当院のムードメーカーとなっている。
![]() ![]() てきぱきと病棟の居室を清掃するFさん
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4. 終わりに(何げない細やかな配慮と安定就労)
何げない細やかな配慮のもとで、当法人の障害のある職員は、今日もその持てる力を発揮している。そして、自分自身の働きが、周囲の職員から認められ、感謝されるという体験を通すことで、成就感や自己有用感の体得につながり、これからも自分自身の責任と役割をこの職場で前向きに果たそうとする姿勢につながっていると思われる。
障害の有無にかかわらず、人は皆、その持てる力をこの社会で発揮し、社会参加したいと願っている。医療法人山口平成会は、障害者の「働きたい」「社会参加をしたい」という熱い願いを叶えることを通し、地域に密着した医療法人としての社会的責任を果たしていく経営を今日も続けている。
執筆者: | 山口大学教育学部 松田 信夫 |
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