現場での職業指導で、本人に適した仕事の実現を
- 事業所名
- 株式会社クリエ・ロジプラス 志度ロジスティクスセンター
- 所在地
- 香川県さぬき市
- 事業内容
- 通信販売商品の物流(注文商品の発送)関連業務の請負
- 従業員数
- 570名(志度ロジスティクスセンター)
- うち障害者数
- 13名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 3 商品の受取、ケースの廃棄など 肢体不自由 3 袋詰め、ケース準備など 内部障害 1 袋詰め 知的障害 6 ケース廃棄、ケース封緘など 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観ディノス・セシール志度ロジスティクスセンター全景 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社クリエ・ロジプラス(以下、「当社」と記す。)は、アウトソーシング事業、物流ソリューション事業を行っている。平成24(2012)年1月に、当社の親会社である株式会社クリエアナブキが、株式会社セシールビジネス&スタッフィングより物流アウトソーシング事業を譲り受け、従業員が株式会社セシールおよび株式会社セシールビジネス&スタッフィングから転籍する形で新しく設立された物流請負会社である。
当社の事業所は、創業時の志度ロジスティクスセンター(香川県さぬき市)、鴨部物流センター(同)、春日物流センター(香川県高松市)に加えて、朝日新町事業所(同)、庵治事業所(同)、観音寺事業所(香川県観音寺市)の計6ヶ所がある。
観音寺事業所では化粧品製造の請負を行っているが、その他の事業所では概ね次の物流の庫内業務を行っている。
- ア.出荷業務: お客様の出荷明細書の出力~注文伝票のセッティング、商品ピッキング~仕分け・箱詰め~梱包~運送会社への引渡しまでの一連の業務
- イ.入荷業務: 入荷商品の検収、倉庫への保管
- ウ.返品業務: お客様から返送される商品の受け取りから返品処理までの一連の業務
当社には、長年にわたり培った物流部門における運用・管理、人材マネジメント等により円滑な業務が行われている。具体的には、人材マネジメント部門では、従業員の採用から、教育による人材開発、従業員の適性能力を考えた配置、物流部門においては、品質管理、作業効率の改善など、物流ノウハウを駆使した業務管理が行われている。障害者の雇用に関しても、適性能力を考慮した指導を行い、本人に合った業務の割り当てを行うことにより、事業所としての利益の向上と雇用の継続がバランスよく行われている。
今回取材を行ったのは、さぬき市にある「志度ロジスティクスセンター」で、株式会社ディノス・セシールの物流業務を請負っている。従業員数は約570名、うち障害者は13名である。積極的に障害のある人の採用を継続し、「本人のできる仕事を」という方針のもと、各業務の担当者が指導を行うことで、社内全体で障害のある人の働きやすい環境が整えられている。
(2)障害者雇用の経緯
当社は、株式会社セシールの時代から積極的に障害者雇用を行っていた。その背景には、当社の「本人のできる仕事を」という考えがある。当初は、出荷の現場や注文入力に携わる聴覚障害者の雇用から始めたが、現在は知的障害者、肢体不自由者など、様々な障害のある人を雇用している。当社では、障害の種類や程度で障害者の仕事を限定するのではなく、大量にある業務の中で、本人にあった仕事をアセスメントし、一人一人に適した業務が割り当てられている。障害者の受け入れは、主に特別支援学校高等部の生徒を職場実習で受け入れ、そこでマッチすればそのまま雇用という形で受け入れる形をとっている。
当社には、「障害があるから」という考えはなく、障害のある人もない人も、自分に適した環境の中で仕事を行うという考えのもと、従業員の働きたいという気持ちを尊重した障害者の受け入れ環境が整えられている。
2. 取組の内容と効果
障害者が配置されている職場は、荷受業務、発送準備業務、検品業務、発送業務、返品処理業務、伝票セット業務、請求カタログ業務、卸販売業務などの各部署となっている。
配置に当たっては、それぞれの部署で障害者の適性を見て配置を決定している。また、障害者の障害の内容も聴覚障害、肢体不自由、内部障害、知的障害といろんな障害をもった人を雇用している。
(1)各配置業務部門別の障害者の従事作業
- 荷受業務・・・・・・入荷商品等の受け取り
- 発送準備業務・・・・発送ダンボールケースの準備
- 検品業務・・・・・・商品のダンボールケース・袋詰め
- 発送業務・・・・・・発送ダンボールケースのテープ貼り
- 返品処理業務・・・・返品商品の開封・ダンボールケースの廃棄
- 伝票セット業務・・・お客様にお送りする帳票等の作成
- 請求カタログ業務・・チラシ類の丁合い・セット業務、カタログのセット
- 卸販売業務・・・・・他社の物流商品の発送準備
(2)障害の内容別の従事作業
- 聴覚障害・・・・3名(荷受1名、発送準備1名、返品処理1名)
- 肢体不自由・・・3名(発送準備1名、検品1名、伝票セット1名)
- 内部障害・・・・1名(検品1名)
- 知的障害・・・・6名(返品処理3名、発送1名、卸販売1名、請求カタログ1名)
(3)配置のポイント(大量にある仕事の中から本人に適した仕事を)
当社が、株式会社ディノス・セシールから商品の出荷依頼を受け、出荷するまでには、「商品の入荷」→「保管」→「補充」→「ピッキング」→「検品」→「封函」→「出荷」という流れがある。また、返品されてきた商品の点検や伝票の整理など、多岐にわたる業務がある。この一連の流れは、屋内のライン作業で行われ、それぞれ適切な人数を割り当て、業務が行われている。雇用している障害者の業務の割り当ても、本人の障害特性からできる仕事を考慮した配置となっている。
具体的に雇用に至るまでの流れは、主に特別支援学校高等部の職場研修プログラムから始まる。春と秋に行われる約2ヶ月の研修では、研修する生徒の特性を把握し、数種類の業務(4~5業務)を設定し1週間単位でそれぞれの業務を行ってもらっている。
職場研修プログラムは、それぞれの部署の長に受け入れをお願いし、障害者の仕事の状況・習熟レベルなどについて日々チェックリストを作成し人事部門の障害者雇用担当スタッフ(以下「人事担当スタッフ」という。)に報告をするようになっている。もちろん、本人との連絡ノートもやり取りをし、希望業務についても話し合いをしている。最終的に、どの業務が本人に一番合っているかを人事スタッフ部門、物流部門責任者、現場の責任者と協議して配属を決定している。長年の障害者雇用の経験から、各部署では社員や契約社員も障害者の受け入れについて理解しており、研修において問題となることはない。特別支援学校との連携も図られ、研修中に担当教諭も数回来社され、チェックリストや連絡ノートにより、研修中の状況について意見交換等を行い、また研修時のビデオ撮影も行い、次回の研修に役立てている。
ここで当社の雇用の特徴が見られた事例を紹介する。
- ア.請求カタログ業務 Aさん
Aさんは香川県内の特別支援学校高等部を卒業後入社、事業主と請求カタログ業務部門の各ラインの担当者との相談の結果、出荷する商品に同封するパンフレットなどの封入作業を行う現場での業務に就くことに決定した。この作業は、大量にある封筒やパンフレットをそれぞれセットにして綴じていくものである。この作業の中で、Aさんは封筒やパンフレットが不足している部分に補充を行うという作業を行っていた。Aさんが補充を行うことで、他の従業員は封入作業に集中することができ、Aさんの仕事は非常に重要なものである。この作業を行う様子を見ている際に、Aさんに数などへのこだわりという特性があることに気づいた。封筒やパンフレットが、ある一定の量まで減ると補充を行うという行動が見られた。これは数や量へのこだわりに対する行動であり、この特性で封筒やパンフレットが不足することなく作業が行われていた。事業主にAさんのことを尋ねてみたところ、これらの行動には特に気に止めることはなかったそうであるが、事業主と各ラインの担当者が相談の上で、Aさんのこれまで就いた作業遂行の様子から現在の作業に就かせているというのだ。つまり「障害がある」ということで仕事を限定するのではなく、しっかりとしたアセスメントの結果、「本人のできる仕事を」という考えのもと業務の割り当てが行われ、それが結果として本人にマッチした業務内容となっているのだ。同じラインで働く従業員も、「Aさんが補充作業を行ってくれるおかげで自分の作業に集中でき、助かっている」と言っていた。このように本人のできる仕事を見つけ、適切な業務内容が割り当てられていることが、当社が好事例を挙げている要因の一つなのではないだろうか。
カタログを結束機で綴じるAさん - イ.返品処理業務 Bさん
Bさんは特別支援学校を卒業後入社、当初は請求カタログ業務部門でチラシの丁合いの仕事をしていた。職場は、女性の多い職場で、女性従業員が仕事のことも仕事以外のことも面倒をよく見ていく風土があり、徐々に仕事に慣れ、丁合機という機械を使って何種類かのチラシを一まとめにしていく作業では、機械の操作も一人でできるようになり、止まってしまった時もどこを操作すればいいかといったことも覚え、その仕事では他の従業員よりできるようになっていた。現在、Bさんは、返品処理業務部門に配置され、ダンボールケースから商品を取り出す作業に就いている。このように業務も固定的ではなく、できる作業があれば配置も変更し、他の部門へ応援に行くまでになっている。見学に来た後輩の学生との懇談会にも参加し、気軽に声をかけ、仕事をする上で大事なことなど自分の経験を楽しそうに話している。
商品や伝票をダンボールケース
から出しているBさん - ウ.発送業務 Cさん
Cさんは特別支援学校を卒業後入社、発送準備業務部門でお客様に送る商品が入ったダンボールケースのふたをして、テープで止める(封緘する)機械に通す作業をしている。いろいろなサイズのダンボールケースがある、また、中に入っている商品の数が少なく隙間があいている場合には、緩衝材を入れる作業がある。緩衝材を入れる量はそのスペースに合わせて考えて入れていかなければならない作業であるが、日々の作業の中で身につけていったようである。現在は、流れてくるダンボールケースに合わせて封緘ができるようになっている。当初は本人の好き嫌いや癖などわからないことが多く、入社して毎日の仕事や休憩などで一緒に過ごしていくまでは分からなかったこともある。倉庫内の排煙窓が全て開いてしまったというエピソードがあった。機械物が好きなCさんが、つい排煙窓のスイッチを触ってしまったことが分かった。作業場は発送業務をする場所でベルトコンベアや箱を組み立てる機械など自動で動く機械が多く置いてあり、間違って触れると危険であることを本人にも十分注意を与えるいい機会となった。上述のように、障害者は各部門の各部署に配置されているが、それぞれの所属の長が担当となっており、人事担当スタッフとの連携を図っている。入社前の研修の状況や事前に分かっている性格などはその所属の長が認識しており、配置後も目配りや配慮を行っている。職場は女性が多く、特別支援学校を卒業した人にとっては、お母さん的な存在となっており、仕事面も仕事以外のことについてもいろいろと指導・相談を受け、本人も安心して毎日の仕事に取り組めている。丁合いやダンボールケースの箱閉じといった作業では、障害のない従業員とスピードや丁寧さにおいてもなんら差を感じない、むしろその点においては上回る内容である。それは、当初からできていたことではなく、他の従業員に教えられながら日々の繰り返しで自らその作業のコツを掴みできるようになったものである。人事担当スタッフが常に言っていることがあるという。それは次の2つだという。- (ア)毎日、会社に出勤してください。
- (イ)出勤と退勤時には、挨拶をきちんとしてください。
3. 今後の課題と展望
今後の課題として挙げられるのは、採用時における事業所と特別支援学校との連携であると考える。当社は特別支援学校からの雇用の受け入れを主としている。したがって、職場実習時や採用時における生徒の障害特性などの情報の共有は必要不可欠である。現在は個人情報保護の関係もあり、実習や採用時の段階では、生徒の詳しい情報までは共有することができないため、採用後に本人のアセスメントをするケースが多いと思われる。しかし、研修の場を通じ、本人の仕事の得手不得手や性格を把握しておくことで、採用後スムーズに職場に入ることができる。このように、生徒の障害特性、できる仕事、余暇の過ごし方などの情報を共有することができるアセスメントがあれば、よりスムーズな雇用への移行ができるのではないかと考える。
展望として事業主が話していたことは、従業員の働く意欲の向上についてである。当社で働く従業員の中には、今後やってみたい仕事があるという従業員や、仕事の後に定時制の学校に通っている従業員がいる。現在の仕事だけではなく、違う仕事への意欲や、仕事で貯めたお金を自分の余暇に活用するなど、自分の生活も充実している従業員が多くいる。これは、当社の雇用形態が、本人の働く意思を尊重し、本人に合った仕事に割り当てることができているからであると考える。今後も自分の仕事にやりがいを感じながら、お客様に安心した商品を届け続けられることを期待したい。
執筆者: | 香川大学教育学部特別支援教育講座 教授 坂井 聡 |
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。