ジョブコーチ支援を活用した本人に合った仕事の継続を図る
- 事業所名
- 社会福祉法人瑞祥会
- 所在地
- 香川県東かがわ市
- 事業内容
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設などの運営
- 従業員数
- 500名
- うち障害者数
- 12名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 理学療法士 聴覚・言語障害 肢体不自由 4 介護ヘルパー、宿直業務 内部障害 知的障害 5 清掃業務 精神障害 2 清掃業務、介護 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人瑞祥会(以下、当法人と記す)は昭和58(1983)年に設立、香川県東かがわ市・高松市に複数の福祉施設を展開し、地域に根ざした福祉サービスを提供しており、現在、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や介護老人保健施設など、10か所の事業拠点で34の事業(他関連施設1か所・4事業)を展開している。
当法人が目指すものは、そこで働く職員とその家族が利用したくなるようなサービスを提供することであり、「安全とやさしさ」を基本としており、それでこそ地域に選ばれる施設になると考えている。
平成27(2015)年現在、当法人が運営する施設や事業は以下のとおりである。
特別養護老人ホーム 湊荘
介護老人保健施設 リリックケアセンター
特別養護老人ホーム 引田荘
認知症高齢者グループホーム あじさい
ケアハウス サンパール白鳥
小規模多機能型居宅介護事業所 駅前やすらぎ処
ケアハウス サンリッチ屋島
障害者支援施設 サン未来
グループホーム・デイサービスセンター 真珠の湯
高齢者複合施設 すずかけの径
ショートステイ 小夏
【関連法人】
介護老人保健施設 サンライズ屋島
今回取材を行ったのは、当法人が運営する施設の一つである「特別養護老人ホーム湊荘」(以下、「湊荘」と記す。)である。湊荘は介護老人福祉施設で、本施設を拠点に短期入所生活介護、居宅介護支援、訪問介護、通所介護の事業を行っており、多くの人が利用している。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用の経緯としては、障害者雇用率制度にともなう社会的責任を果たすという考えや地域の依頼などがあり、地元の特別支援学校や施設から順次障害者を雇用していった。現在では、法人内9か所の施設につき約1名の割合で障害者を雇用しており、法人全体で12名が雇用されている。
障害者を雇用するにあたっては、社会福祉法人という高齢者や障害者のくらしを支援する事業所であるため、障害のある人と共に働くことに関して従業員全員の理解があり、各事業所において働きやすい環境設定が整えられている。雇用されている障害者の障害種別は、現在、身体障害者5名、知的障害者5名、精神障害者2名であり、それぞれ障害の程度、特性を考慮した業務内容が割り当てられている。
2. 取組の内容と効果
当法人で最初に障害者雇用をスタートさせたのは、今回取材を行った湊荘であった。ここでは、湊荘での障害者を雇用し始めてから現在に至るまでの取組について紹介する。湊荘の雇用に対するテーマは「仕事の継続ができるように」というものである。このテーマの実現に向けて、湊荘ではどのような取組がされているのか、以下に述べる。
(1)ジョブコーチの活用
湊荘では、平成14(2002)年に1人目の障害者雇用をスタートさせた。当初は雇用側としても経験がなかったため、業務内容の割り当てや本人とのコミュニケーションの仕方など、様子見のような状況であり、まさに手探り状態であった。業務の指示や管理についての体制が整備されていなかったため、次のような課題を抱えていた。
- (ア)本人がどこで何をしているか把握できていない
- (イ)仕事の指示方法に対する戸惑いがある
- (ウ)本人も丁寧に作業をしなければいけないという意識に欠けていたり、持ち場を離れて勝手に休憩を取ったりする等の自己管理面でのルーズさが出てきてしまう
これらの課題を解決するために、障害者職業センターのジョブコーチ支援を活用し、専門家からの視点も取り入れ改善を図った。
法人としては本来の業務において利益を挙げなければならない。またその一方で障害者の雇用に関しても本人に適した雇用を継続しなければならない。湊荘はジョブコーチ支援をうまく活用することにより、利益と雇用の継続の両立を図ることができている。
次にジョブコーチ支援を活用した取組を紹介する。
- ア.仕事のスケジュール表の作成
障害のある人への支援において「構造化」という言葉をよく聞くが、スケジュール表の作成も構造化の一つである。いつ、どこで、どのような活動(作業)をすればよいのかということをスケジュール表に示しておくことで、誰かに言われてではなく、自分でわかって行動できるという利点がある。
湊荘では、本人の仕事への指示方法や、作業の仕方の指示、また仕事の流れや出来栄えを考える上で、ジョブコーチと協議し、スケジュール表を作成することにした。これにより求められている作業内容やレベルが目で見えるようになる。また職員側からも進捗をチェックし、何時にどこで何をしているかを常に把握することができる。
スケジュール表に記される業務は定着するまで約3か月ほどかかるが、試行錯誤を繰り返しながら、作業手順や作業方法、作業にかかる時間配分を繰り返し本人と確認することで、徐々に作業遂行力を高めていった。また、その段階でもジョブコーチの支援があったお蔭で、課題を明確にすることができ、対応がしやすかった。
<スケジュール表の例>
10:20~10:45- 場所:
- 1階フロア
- 作業内容:
- モップ掃除
- 準備物:
- 化学モップ(大)、ほうき、ちりとり、消毒用スプレー、ぞうきん2枚(濡れ、乾き)
- 作業手順:
- (ア)廊下を四往復・・・一往復ごとにごみを落とす
(イ)落としたごみをほうきで集める
(ウ)最後に、ほうきのごみをちりとりの上で取る
- 場所:
- デイサービス棟
- 作業内容:
- モップ掃除
- 準備物:
- 化学モップ(大)、化学モップ(小)、ほうき、ちりとり、ハンディーモップ
- 作業手順:
- (ア)手すりのほこりをハンディーモップで落とす
(イ)床の黒い部分よりモップをかける
(ウ)玄関口でごみを集める
(エ)歩行訓練台の窓ぎわをモップかけする
(オ)燭台の下をモップかけする
- イ.スケジュール表の作成効果
スケジュール表の作成後は、本人の仕事に取組む姿勢や成果が劇的に向上した。これはスケジュール表で本人のすることを明確に示すことで自分でわかって行動することができるようになったためであると考える。
当初は、スケジュール表がなかったことと、仕上がり具合をチェックする担当者がいなかったため、本人任せの業務になっていたが、スケジュール表を作成することにより、次のような効果が見られた。- (ア)スケジュール表を確認することで、自分がやらなければならないことが一目で把握できるようになり、時間配分を考えて作業に取組めるようになった。
- (イ)作業箇所に応じて、そこでの作業内容や作業手順、使用する道具などが、きちんとルール化されたことで、日常業務としてスムーズに定着した。
- (ウ)担当者もスケジュール表での仕上がり具合のチェックが容易になったことで、仕上がり具合だけでなく、その日の本人の状態も併せて把握ができ、本人へのフィードバックがしやすくなった。
このように、本人の障害の特性を理解し、スケジュール表のような簡単なツールを利用することにより、本人がわかって行動することができるようになった。
(2)その他の支援(指示系統を一本化する)
その他の支援として、「指示系統を一本化する」というものもある。以前は複数の職員がばらばらに指示をすることで、本人が作業の優先順位をつけにくくなり混乱することがあったために、指示する職員を一人に決めた。そうすることにより、口頭による指示も理解することができるようになったという。
指示系統を一本化することにより、本人も精神的に落ち着いて業務に取り組めるようになった。今では、ちょっとした頼みごとであれば、他の職員も声をかけることでできるようになっている。職員や利用者など他者から声をかけてもらえることで、良い気分転換になり、本人もより意欲が増している様子である。
3. 今後の課題と展望
今後の課題として挙げられたのは、雇用の拡大である。現在当法人では1施設に約1名の障害者を雇用している。雇用している障害者の障害種別は、今は身体障害者、知的障害者が主となっているが、今後は精神障害者の雇用のニーズは必ず増えてくると思われる。そのような人に対し、雇用の窓口を広げること、また、今回のジョブコーチを活用した支援のように、受け入れてからの適切な支援ができるような体制作りが必要になってくるのではないかと考える。社会福祉法人という、高齢者や障害者と関わる仕事であるため、やはり一事業所で受け入れられる障害者の数が限られている。今回のケースのように、スケジュール表や指示の統一化といった、一貫された支援体制が構築されれば、より雇用の拡大にもつながっていくのではないかと考える。
今後の展望を述べる。当法人は、元々、障害者雇用についてのノウハウは無かったものの、法人として受け入れを拒むという考え方は全く持っていなかった。そのため、障害者を雇用することについては割と順調に行っている。むしろ、介護老人福祉施設や障害者支援施設を運営している関係上、高齢者や障害者との関わりといった場面が必ず出てくるので、特に障害者の雇用について、現在法定雇用率は満たしているが、法定雇用率を満たすこととは別に積極的に進めていきたいと考えている。
利用者に迷惑をかけないという一定のラインを守ることは必要であるが、障害の有無に拘わらず「持っている能力に応じて、きちんと成果を出せる」という観点を重視するという社風であるため、今後も障害者ができること、できる範囲を見極め、地域貢献という観点からも要望があれば引き続き雇用していきたいという。今後も、「働きやすい環境」+「内外のサポート」をうまく活用し、雇用される障害者が増えていくことを期待したい。
執筆者: | 香川大学教育学部特別支援教育講座 教授 坂井 聡 |
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