ひたむきな障害者と真摯な企業の相乗効果
- 事業所名
- ニッポン高度紙工業株式会社
- 所在地
- 本社・本社工場(高知県高知市)
安芸工場(高知県安芸市)
南国工場(高知県南国市)
米子工場(鳥取県米子市) - 事業内容
- コンデンサ用セパレータ等製造
- 従業員数
- 437名
本社工場243名 安芸工場74名 南国工場74名 米子工場46名 - うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 オペレーター 肢体不自由 内部障害 1 工場内清掃・緑地管理 知的障害 3 工場内清掃・緑地管理 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要・障害者雇用の取組
(1)事業所の概要
ア.ニッポン高度紙工業株式会社について
高知生まれのグローバルブランドで、エレクトロニクス産業とともに成長を続けるコンデンサ用セパレータの世界トップメーカーである。
現在、ニッポン高度紙工業株式会社(以下「同社」という。)は、電解コンデンサ用セパレータにおいて、国内95%、世界60%の圧倒的なシェアを獲得し、より付加価値の高い先端領域(電気二重層キャパシタ、導電性高分子固体アルミ電解コンデンサなど)においては90%を超える世界シェアとなっている。
イ.製造しているコンデンサ用セパレータについて
セパレータの役割は、コンデンサの中にある陽極と陰極を仕切って、電気の流れを制御することである。その仕切りの厚さはわずか15~130マイクロメートル(髪の毛一本の厚みが約80マイクロメートル)と極めて薄い。同社が手掛けているセパレータの種類は約350種類。エレクトロニクス製品の特性に応じて、電圧に対する耐久性、蓄電できる電気容量、透過性、瞬発性など、様々な性能が求められている。
ウ.企業方針
「世界で最も優れた商品を造り創る」
「世界に安心を売る会社である」
「世界の未来の技術のニーズに挑戦する」
「世界のために役立つ仕事をしている集団である」
エ.沿革
同社の創業は昭和16(1941)年で、高知の伝統産業である手漉きの土佐和紙を加工して、耐水性と耐熱性を高めた紙を「高度紙」と名付け、漢方薬などの煎じ袋として販売したのがはじまりである。エレクトロニクス分野進出のきっかけは、第二次大戦中のレーダー開発だった。当時のセパレータの素材は木綿。ところが戦況悪化による物資不足のため、代用品が求められていた。そこで注目されたのが「高度紙」で、「高度紙」は代用品のレベルを超える高い性能をみせ、以後研究が進められた。こうして「高度紙」の新しい道が拓かれ、戦後、当時黎明期であったエレクトロニクス分野への進出を果たすことになった。
同社は、次々に誕生するエレクトロニクス製品の普及・拡大、グローバル化、社会のデジタル化とともに歩んできた。今後は、世界中が低炭素社会実現へ大きくシフトするなか、エレクトロニクス製品に加えて、環境・エネルギー分野への製品供給が期待されており、同社の活躍の場はますます広がりつつある。
(2)障害者雇用の取組
ア.これまでの経緯
同社はトライアル雇用やジョブコーチ支援制度等の雇用制度が整っていない時代から、当時の会長が積極的に障害者雇用を進められていた。今回インタビューを行った勤続26年のAさんは、その時代に雇用された一人である。
現在は、企業全体で雇用している障害者は5名である。そのうちの4名は主に工場内清掃・緑地管理を行っている。Aさんは、南国工場でスリッター工程のオペレーターとして働く重度身体障害者(聴覚障害)である。
イ.障害者雇用の取組
求人についてはハローワークに業務内容を明示して募集している。現在は、障害者職業センターや就労支援事業所等の支援者と連携して、本人の障害特性の理解を進めつつ、職場定着が図れるように業務の流れや支援体制を整えている。
本雇用の前には、雇用前実習やトライアル雇用制度を活用し、就労支援事業所の施設外支援や障害者職業センターのジョブコーチ支援などの支援者による支援を活用している。雇用前実習では、会社が業務のスケジュールや流れを一定提示し、それをもとに本人が実際にやってみる。支援者が気付いたことがあれば相談をしながら調整していく。トライアル雇用の開始後は1日の業務スケジュールや手順、休憩の取り方・休憩場所の選定、困ったことが発生した時の対処法など、本人・企業・支援者で不具合があれば話し合って調整をしながら進めている。
社員は雇用されている障害者とよくコミュニケーションをとっていて、様々な行事等にも参加を促し、働く仲間として加わりやすいように配慮されている。企業として、働く一人ひとりが順調に業務を遂行できることを優先的に考えて取り組まれているため、障害者雇用においても本人・支援者・企業と連携・協力して取り組みやすい。
2. 取組の内容(勤続26年になる正社員Aさんの紹介)
(1)業務内容
Aさんは、スリッター工程のオペレーター(レコード巻き工程の裁断:機械操作)で、特にAさんが担当しているのは、細い幅のロールに裁断していく非常に細かい作業である。パソコンモニターの指示のもと、客先の仕様どおりに裁断を行っている。
(2)勤務時間と基本的な1日のスケジュール
勤務時間は、8:00~16:00で、2時間程度残業する場合がある。Aさんの基本的な1日のスケジュールは、出勤⇒タイムカード⇒着替え⇒ラジオ体操の後、次のようになる。
8:00~ 8:10 朝のミーティング(全体⇒各工程)
8:10~ 10:00 業務
10:00~ 10:10 休憩
10:10~ 12:25 業務
12:25~ 13:00 昼休み
13:00~ 16:00 業務
(3)職場環境
「安全と健康がすべてに優先される」ことをモットーに取り組まれている職場である。業務自体は2人一組で行い、組む相手は、変わることなく同じ人と組んで業務を行っている。Aさんの上司は、特別扱いはしていないと話されており、障害あるなしに関わらず、働きやすい職場環境づくりを目指している。パソコンのモニターで工程の流れがすべて把握でき、突然機械が止まった場合も、パトランプが点滅するなどして、誰にも分かりやすく仕事がしやすい工夫が随所にされている。コミュニケーションについては、Aさんが話している人の口の動きを読み取っていることもあるが、パソコンやメモなどを活用している。
(4)Aさんへのインタビュー
今回お話を伺った重度身体障害者(聴覚障害)のAさんは、昭和63(1988)年入社の勤続26年になる、まじめで明るく、気さくな人である。
Aさんは同社に入る以前にも緻密な作業をする仕事に就いていたが、退職し、仕事を探していた。仕事を探す中で、当時積極的に障害者雇用を進めていた同社の身体障害者の募集を知り、応募したことが出会いとなった。入社時には、仕事を続けることができるかどうか不安でもあったが、他の従業員と変わらない待遇に驚き、「これは、やめるわけにはいかない!」と働き続ける決意をした。
そこから今もずっと、非常にまじめに勤務を継続されている。毎朝のミーティングは常に一番前に立ち、話す人の口を見て、しっかり内容を聞き取ることを心がけている。各工程に分かれてのミーティングでは、パソコン画面に記載されているその日の裁断のポイントや新品種などをしっかり確認してから仕事を始める。分からないことがあれば上司に相談し、ミスをしないよう気をつける。一日の仕事を終えるときは、備品一覧表をもとに使用した道具や機械をチェックし、それらが製品に異物として混入していないかも確認する。準備や片づけは、すべて担当者自身で行っており、どこに何があり、どこに何を片づけるか分かりやすくなっている。
業務時間中は立ちっぱなしで細かい作業を担当しているため、休憩時間はイスに座ってホッとくつろいで過ごしている。体調管理にも気を配っており、朝のラジオ体操や腰のサポーター、熱中症予防のための水分補給、食後の歯みがきなどもして、体の調整を行っている。
3. 障害者雇用の効果
インタビューの最後に、Aさんに会社の自慢できることを伺ってみた。すると、いきなり表情が輝いて、「高知県にうちのような会社があることが自慢できる!」と胸を張って答えた。障害者雇用を進める中では、うまくいくことばかりではなく、うまくいかないと感じることも多い。職場定着の難しさを痛感することもしばしばある。Aさんにインタビューをしている場に一緒にいらっしゃった会社の皆さんも含めて全員が、Aさんの言葉に感動して、うれしい気持ちが広がった。
とはいえ、今回の事例では、今ほど制度が整っていない時代に、聴覚障害を抱えながらも、自分が担当している業務を確実に遂行していこうとするひたむきな姿勢と努力を身に付けていたAさんが、従業員全体の安全や健康に配慮し、障害の有無に関わらず誰もが働きやすい職場環境づくりを目指している会社に出会い、これらが相乗効果となって職場定着につながったと考える。
現在、同社では、雇用前の段階から、本人・支援者・企業が連携をとって障害者雇用を進めている。今回の事例から、支援者が「障害者雇用」の取組の中に入るにあたり、職業準備訓練や職場定着に向けた支援の目指す方向性が示唆されたように思う。
執筆者: | 就労サポートセンターかみまち 所長 澁谷 文香 |
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