支援機関と連携して業務選択と環境設定を行い
雇用に取り組んだ事例
- 事業所名
- 日本郵便株式会社 高知中央郵便局
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- 手紙や荷物の引き受け、配達等(1日の配達数はおよそ10万通)
- 従業員数
- 345名(高知中央郵便局 正社員166名 契約社員179名)
- うち障害者数
- 3名(うち2名は発達障害を伴う知的障害者)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 1 配達業務 知的障害 2 事務補助、ゴミの収集など 精神障害 発達障害 (2) 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
近代日本の郵便制度については、明治4(1871)年、前島密によって導入された。平成19(2007)年10月に、これまでの日本郵政公社から郵政民営化に伴って郵便局株式会社となり、平成24(2012)年10月に郵便事業株式会社を吸収合併、現在の日本郵便株式会社となる。主たる業務として、郵便物の集配・受領・配送を行っている。
高知県は、ミョウガやなす、ニラなどの野菜、果物ではゆずや文旦などの出荷が全国1位であり、合わせてカツオをはじめとする海産物についても有名である。また、8月のよさこい鳴子踊り、四万十川での自然体験などで多くの観光客が訪れている。高知市は、県の中央部に位置し、県庁所在地として人口約33万9千人(平成26(2014)年11月現在)が生活しており、高知県の人口73万7千人のうち46%が暮らす、県最大の都市である。高知中央郵便局(以下「同局」)はJR高知駅近くにあり、高知県の郵便業務に関して中核的な役割を担っている事業所である。
(2)障害者雇用の経緯
同局では平成22(2010)年11月、上部機関より障害者雇用についての指示を受け、現雇用者の中に対象者がいないか確認作業を始めた。その結果、平成23(2011)年度には新規の雇用を検討することとなり、ハローワーク高知に相談をする。その中で、現状の環境や業務内容を考え、知的障害者の雇用を勧められた。
その後、県内のA特別支援学校(以下「A校」)より就労を見据えた職場実習の打診(Bさん)があり、それを受諾し、平成23(2011)年1月より実習を開始する。同じく、高知障害者職業センターから、実習の依頼(Cさん)があり同年2月に実習を開始する。それぞれ単独での実習を行った後、2人一緒での実習を経て、契約社員としてBさん、Cさん2人の雇用が決定、同年4月から勤務が始まった。
2. 雇用に向けての業務選択と環境設定
(1)初めて知的障害者を受け入れるにあたっての準備
上部機関より障害者雇用についての指示を受け、「受け入れる側」として局内で検討を行い、局長(当時の支店長)及び人事担当者が障害者雇用を進めることを決定した。
次に、ハローワークの障害者担当、A校の進路担当や担任、障害者職業センターのカウンセラーやジョブコーチとの連携のもと、実現に向けて話を進めていった。そして、これらの機関との連携のもとで、職務内容の決定と職場の環境設定に取り組んでいった。
また、これらの取組について、採用までの流れ、作業内容、心構えなどを各部署に文書にて通知し、各部署で人事担当の責任者から個別に説明する機会を設け、社内の理解を高めるよう取り組んだ。
さらに、職務を遂行していくうえでBさん・Cさんに直接指示を出す社員を限定し、指示系統を一本化させることをねらい、総務部の社員2人を選定した。各部署の社員は、この2人にBさん・Cさんへ依頼したい業務を打診し、2人の社員がBさん・Cさんに指示を出す形をとるようにした。
(2)業務内容の設定
雇用に向けての実習を行うにあたり、同局の人事担当課長と当時のA校進路担当が話し合いながら業務内容を選択設定していった。
その主たる業務は、社内文書のシュレッダー作業である。局内に一定期間保管していた書類を、2台の機械で裁断するものである。また、社屋内の4か所の休憩所にあるゴミの回収についても2人の業務として選定した。これらは社員が係を決めて取り組んでいた業務であった。今回、これを2人の業務として設定し、1日6時間の就業ができるように組み込んだ。他に、印刷機による社内文書の印刷、パンフレットへの折り込み作業、チラシや周知文書の封入作業、会議資料や周知文書のホッチキス留め、パンフレット類の訂正作業、荷物の運搬なども業務とした。
基本的にシュレッダー作業とゴミの回収を行いながら、必要に応じてその他の業務を行うという形で、以下のように1日6時間のスケジュールを組んだ。
10:00 | シュレッダー作業・その他 |
11:00 | 社屋内のゴミ回収 |
11:30 | シュレッダー作業・その他 |
12:30 | 昼休み |
13:30 | シュレッダー作業・その他 |
15:00 | 社屋内のゴミ回収 |
15:30 | シュレッダー作業・その他 |
16:45 | 勤務終了 |
Bさん・Cさんの勤務スケジュール
(3)就労を見据えた実習での環境設定
ア.社会的スキルに関して
Bさん・Cさんともに、同局にて職場実習を行いながら、業務を覚え、就労の適性を見るようにした。その際、A校の進路担当(当時)が同行し、業務上の困り感の軽減、わかりやすい環境設定、仕事を行う上で必要な社会的スキル習得を図っていった。朝の挨拶の仕方から、わからない時には誰にどのように聞けばよいか、物の置き場所などについて、ひとつひとつ設定していった。
また、そのほかにゴミの回収でエレベーターを使用する際、降りる人にぶつからないようにするため、扉のすぐ前で台車をとめて待たずに2~3歩下がったところで待つなど、特に意識したい点については紙に記入し、わかりやすいように壁に貼るようにした。あわせて、1日のスケジュールについても壁に貼って確認ができるようにした。
![]() ![]() 作業場に貼った留意点・スケジュール |
イ.作業場の設定
同局では、2人の作業場を選定するにあたり、「ある程度静かな場所」、「明るいところ」、「(指示担当のいる)総務部の近く」、「休憩ができるスペースを確保できる」ことを配慮事項として挙げ、以前に少人数で会議を行っていた場所を作業場に決定した。そこへ、作業机やシュレッダー、ゴミ回収のグッズなどを配置し、置き場所もラベルで示すなど構造化を図った。
![]() 作業場のようす |
ウ.作業の指示系統について
2人には、作業の指示書と完成サンプルを作成し、「これ(サンプル)を100部印刷してください」、「これ(サンプル)と同じように、同じ順番に並べて右上をホッチキスで留めてください」、「これ(サンプル)と同じ個所にこのシールを張ってください」などのように提示することを基本とした。「どちらでもいいです」「好きなやり方で」といった指示は出さないようにし、また臨機応変な対応が必要な作業は頼まないように共通確認を図った。
エ.現在の様子
雇用されて現在4年目となっているが、2人とも作業の習熟度は向上し、これまで行っていた指示書での依頼をせず、口頭で伝えるだけで作業を進められるようになった。また、当初、直接指示を行う社員を設定し、現在もその体制は組んでいるが他の部署からの直接の業務依頼についても対応できるようになっているとともに、新しい業務を依頼されることもある。このように、まじめに取り組むことで成長を感じる場面が多く見られている。
![]() 制服の裁断作業 |
さらに、同局では他の特別支援学校の生徒について、職場実習を積極的に受け入れており、生徒のキャリア教育について学校をはじめ関係機関と連携しながら取り組んでいる。併せて、地域の学校・特別支援学校児童生徒の社会見学などの受け入れも行っている。また、県内の他の郵便局においても障害者雇用を行っており、企業全体として積極的に取り組んでいる。
3. 障害者雇用によるメリットと課題、今後の展望
(1)企業にとってのメリット
Bさん・Cさんの2人を雇用したメリットとしてまず挙げられるのは、時間のかかっていた業務を2人が正確、迅速に行うことができるようになったため、事務の効率化を図ることができたことである。
また、ゴミの回収を2人が行うことにより、外部委託していた費用を削減することができたという点も挙げられる。さらには、2人の家族や多数の支援者の協力により、営業成績などに関しても利点があった。
ほかに、2人が毎日元気に大きな声であいさつをするということが、他の社員の手本となっていることも大きなメリットとして挙げられる。
(2)今後の課題
2人の業績を評価する際、それぞれの能力をどのように評価すればよいのか難しさを感じ、給与に反映する際にも苦慮している。また、長期的に雇用を継続するにあたり、現行の業務内容を継続すべきか変更・追加すべきかの判断が課題となる。
(3)まとめとして
- ア.セミナーでの発表
以前、就労移行支援事業所が主催するセミナーで、同局、Bさん・Cさん、関係機関として特別支援学校が一緒に発表する機会があった。その際、同局からは前述したことを踏まえ、「会社としても雑誌等で紹介されるような特別な施策や取組をしているわけではなく、ほぼ従来のやり方で雇用することができている」と話され、他の企業の方も、臆することなく障害者雇用に取り組んでほしいと結ばれていた。
そして今後の展望として、雇用を継続していく中で、ハローワーク、特別支援学校、障害者職業センターをはじめとする関係機関と連携を取りながら、2人の支援を行いたいということであった。 - イ.Bさん・Cさんより
最後に、Bさん・Cさんは日々意欲的に出社し、仕事に励んでいる。前述の就労移行支援事業所のセミナーでも、2人はたくさんの人の前で、仕事に関することやこれからのことを発表した。最後に、その発表を掲載して、本事例の紹介を結びとする。- (ア)Bさんの発表
「僕は、特別支援学校の時に、いろいろなところへ実習に行きました。3年生の1月に中央郵便局で実習をすることになりました。仕事は、シュレッダーの作業やごみの回収でした。進路の先生と一緒にやってみて自分でも『できそう』と思いました。2月にもう一度実習を頑張りました。そして、4月から就職して働くようになりました。今は、印刷の仕事や、パンフレットや封筒にはんこを押す仕事などもするようになりました。会社の課長さんや、社員のかた、前におられた課長さんもやさしくて、いろいろな仕事を覚えてできるようになりました。僕は給料でCDやマンガ、ゲームなどを買っています。今度は、新しいゲームの本体を買いたいと思っています。家族も仕事を応援してくれています。毎日お母さんが弁当を作ってくれます。これからも、中央郵便局で仕事を頑張っていきたいと思います。」 - イ)Cさんの発表
「ぼくは、養護学校を卒業して5年間働いていましたが、会社をやめることになり、しょくぎょうセンターで『けんしゅう』をしていました。中央郵便局の実習は、進路の先生といっしょにおぼえていきました。ゴミのかいしゅうが、どのようにわけていいか、むずかしかったですが、おぼえることができました。しゅうしょくして、シュレッダーやいんさつの仕事は、とくいになりました。ぼくは、きゅうりょうでCDやDVD、カードゲームなどを買っています。これからも、ここで仕事をがんばりたいです。」
- (ア)Bさんの発表
執筆者: | 高知大学教育学部附属特別支援学校 進路担当 宇川 浩之 |
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