業務内容と障害特性がマッチングした例
~工場におけるライン作業と知的障害者がもつ特性~
- 事業所名
- 株式会社九州フジパン
- 所在地
- 福岡県糟屋郡
- 事業内容
- パン・和洋菓子の製造・販売
- 従業員数
- 830名
- うち障害者数
- 23名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 6 ライン作業・機械作業の補助 内部障害 2 ライン作業・機械作業の補助 知的障害 12 ライン作業・機械作業の補助 精神障害 2 発達障害 1 ライン作業・機械作業の補助 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() パンの形状をした階段部分 | ![]() 建物外観 |
1. 事業所の概要
(1)事業所の沿革、組織構成
株式会社九州フジパン(以下、「当社」という。)は、九州圏内に3か所の工場をもち、月約17億食を生産する大手企業である。
フジパングループの一企業として、昭和61(1986)年に設立された。翌昭和62(1987)年には福岡工場が操業を開始し、平成12(2000)年4月には長崎工場、平成14(2002)年1月には熊本工場が竣工した。
フジパングループは、ホールセール部門(パンの製造配送等)、リテール部門(店舗販売等)、デリカ部門(弁当・惣菜の製造配送等)、ロジスティックス部門(メニュー用食材の調達・管理・配送等)の4つの部門から構成されていて、当社はホールセール部門に属する。パン・和洋菓子を専門の自社工場で製造し、流通企業などの取引先のセンターや店舗に配送する業務を担っているほか、多様化する「食」への要望に対応できるよう、商品開発やその改善も行っている。
当社における障害者雇用の歴史は古く、30年以上知的障害者を中心に雇用してきた実績がある。その実績から、永年にわたり障害者の雇用の促進と職業の安定に貢献した団体として、平成19(2007)年に「独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構理事長賞」を、さらに平成26(2014)年には「障害者雇用優良事業所等厚生労働大臣賞」を受賞している。
(2)フジパングループの使命(「食」は人間の生活の基本)
フジパングループは、“品質のよい美味しい商品を一生懸命につくり、真心を込めてお客様にお届けする”ことを社会的使命として掲げ、“「食」を通じてお客様の豊かな明日のために貢献”することを使命としている。
2. 障害者雇用の現状と従事業務
(1)障害者雇用の現状
今回は、福岡工場管理部の高橋秀記次長にお話を伺った。
当社では、現在17名の障害者を雇用している。身体障害者、療育、精神障害者保健福祉の各手帳を有する障害のある従業員は、知的障害者が約6割と最も多く、次いで肢体不自由者、内部障害者、精神障害者保健福祉手帳を有する発達障害者の順となっている。肢体不自由のある方は、障害認定後も変わらず働き続けている。また、障害のある従業員の年齢層は、特別支援学校を卒業したばかりの者から60代までと幅広い。勤続年数が30年以上の方もおり、障害特性や個人の能力に応じた作業に従事している。
採用時の面談で重視することは、挨拶ができるかどうかである。工場内の誰もが障害者であることを認知しているわけではないので、廊下ですれ違った時、更衣室に入る時など、最低限挨拶ができることで工場内での人間関係を円滑にすることができる。
また、面接時に障害特性や配慮が必要な事柄について確認することで、個人の性格や能力と作業の適正性を判断している。最近では特別支援学校を卒業した新卒者を雇用する機会もあり、特別支援学校との情報共有にも努めている。
当社では、現在聴覚障害・視覚障害・下肢障害のある方の雇用を行っていない。工場内での作業ということもあり、段差がある、通路が狭い、危険な箇所がある等、安全面の配慮が十分にできる環境でないためだ。ハード面のバリアフリー化は、当社だけでなく、多くの企業で抱える問題であろう。
(2)障害者の従事業務
現在雇用している障害者は、すべて製造過程におけるライン作業およびその周辺業務に従事している。ラインごとに責任者がおり、主に係長が指導管理を行う。始業や終業はラインごとにシフトが決められ、従業員メンバーは固定である。そのため、一度ラインが決定すると基本的には同じ従業員と同じ業務に毎日従事することになる。
当社では、流れ作業のほとんどを機械が担っており、従業員は機械ができない作業を行う。基本的な製造ラインの流れは、(ア)こねる、(イ)かたちにする、(ウ)焼く、(エ)つつむ(包装する)であり、こね終わった生地を寝かせ、発酵させたものをかたちにする際に、かたちを整えたり、ケーキカップ等にパン生地を入れたりする工程を従業員が手作業で行っている。また、検品や個別包装された商品をケースに入れたり、カートに積んだりすることも従業員の業務となっている。ライン作業ということもあり、ひとつひとつの作業工程がもともと細分化・構造化されているため、知的障害者であっても作業内容を理解しやすく、継続することが可能な環境となっている。
3. 具体的な取組とその効果
(1)作業の細分化・構造化
工場内でのライン作業ということもあり、作業工程のほとんどを機械が担っている。しかし、前述したように従業員の手作業によって行われる工程もあり、そのほとんどが単純作業である。
知的障害者は認知機能の障害があるため、作業を単純化すること、工程を細分化することで理解を促し、作業遂行を可能にすることができるのだが、ライン作業ではすでに作業の単純化、工程の細分化がなされている。また、突然の変更を苦手とする者が多い中、毎日決められた時間に決められた作業を行うことに関しては高い集中力を有する者が多いため、障害特性と作業内容がマッチングした良い例といえるだろう。
(2)指示命令系統の一本化
当社では、ラインごとに責任者がおり、係長やライン長を中心に従業員が指導を受けながら業務を行っている。組織のなかに上下関係があることで、知的障害者は誰から仕事の指示を受けたらいいのか、分からない時や困った時は誰に相談をしたらいいのかを理解しやすい。また、一緒に作業をする他の従業員も、障害者である従業員の気になった点、困った点等を係長に相談することができる。そのためにも、日頃から指示命令系統を一本化し、組織化されていることが重要である。これが、障害者も含めた従業員の働きやすさの要因のひとつであると考えられる。
(3)ライン(小グループ)による管理体制の確立
当社ではラインごとに製造するパンの種類、勤務時間等が決められており、ラインに従事する従業員はひとつのグループとして機能している。新たに障害者を雇用した際、障害者を配置するラインの従業員に障害の特性や傾向等、配慮すべき点や工夫する点を伝え、その後は従事するラインの中で対応を検討させる。就職面接の際に聞き取りした内容をもとに障害者の能力(得意なこと、できそうなこと)を見極め、ラインに配置し障害と作業の適正性を判断する。問題がないようであればそのまま配置する。日頃からラインで作業を行うため、ラインとしての凝集性は高く、障害者への対応や指導の面で検討事項が発生しても、基本的にはこの中で相談し、改善に至るケースがほとんどである。
また、女性パート従業員が多いため、障害者である従業員も温かい雰囲気で受け入れられることが多い。多少の変化も気にかけ班の中で対応策を考えていける社内の雰囲気は、長年障害者を雇用してきた当社ならではのことではないだろうか。
4. 今後の課題と展望
当社では、3か所すべての工場で障害者を雇用している。しかし、工場によっては雇用している障害者数に格差がある。今後は、当社全体として法定雇用率を達成するだけでなく、各工場においても法定雇用率を達成できるように努力を続けていきたいと高橋次長は話す。さらに、平成30(2018)年度より法定雇用率の算定基礎に精神障害者が含まれることが決定しており、同雇用率が今後さらに上昇する方向であるため、引き続き障害者を積極的に雇用していく方針である。
しかし、現在の課題として、ここ数年、求人を出しても応募者が少なく、増員したいが増員できない状況となっている。今後も、ハローワークを通じて障害者職業センターなどと連携を図りながら、働く意欲のある障害者を積極的に雇用していきたいと話す。
取材中、高橋次長は「特別な取組は何もしていません」と何度もおっしゃっていた。今回取材して感じたことは、障害者雇用について意識的に何か対策を講じたというより、当社の業務の在り方と障害特性による必要な配慮の部分がマッチングした結果、ごく自然に行っている日常業務が障害のある従業員にも適していたということである。さらに、障害のある従業員に対し、障害をもつ個人ではなく、個人の特性のひとつに障害があるという捉え方が自然に周囲の従業員に備わっていた結果ではないだろうか。
障害者も、働く意欲があり、働くことが可能な状態の者であれば、十分に職業人として能力を発揮することができるし、雇用主としても彼らの能力を十分に評価しているとのこと。有能な人材としてこれからも障害者を積極的に雇用していくことが大手企業の社会貢献のひとつの形であると同時に、雇用主にとってのメリットも十分にあるということを今回の取材を通して感じることができた。
執筆者: | 九州産業大学 助手 新海 朋子 |
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