能力と仕事内容のマッチングによる効果
- 事業所名
- 山下医科器械株式会社 佐賀支社
- 所在地
- 佐賀県佐賀市
- 事業内容
- 医療機器・理化学機器・医薬品の販売、医療機関のコンサルティング等
- 従業員数
- 39名(全社:816名 平成26(2014)年6月1日現在)
- うち障害者数
- 1名(全社:17名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 1 伝票処理・検品・着荷整理 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
大正15(1926)年8月に「山下医療器械店」として佐世保において創業。昭和25(1950)年4月に「株式会社山下医療器械店」を設立、昭和35(1960)年に「山下医科器械株式会社」(以下「当社」という。)と社名を変更し、現在に至っている。
九州一円と広島県に9支社、12営業所、3連絡所、3物流センターの体制で事業を展開し、「Speed、Smile、Service、Sure」の4つの行動指針のもと、MRI等の画像診断装置からディスポーザブル医療材料まで、幅広い分野における医療機器・理化学器械・医薬品等の販売を行うとともに、医療機関等さまざまな顧客のニーズに応える「総合医療支援企業」として、医療廃棄物収集運搬、医療機関のコンサルティング等の事業も行っている。
今回事例として紹介する佐賀支社(以下「当事業所」という。)は、昭和48(1973)年9月「佐賀営業所」として佐賀県佐賀市に開設され、平成16(2004)年に佐賀支社に変更された。
(2)障害者雇用の経緯
当社の障害者雇用は、平成8(1996)年に3物流センターの一つ佐賀県の鳥栖物流センターでの雇用からスタートしている。障害者の法定雇用率の達成が急務であったことから、全社的に障害者雇用に取組んだ。
現在では法人全体で17名の障害者(身体障害者8名、知的障害者1名、精神障害者(発達障害者を含む)8名)を雇用している。また、法定雇用率を達成してからも引き続き障害者雇用の拡大に取組むとともに、「障がい者スポーツ選手雇用センター シーズアスリート」を応援するなど、障害者の新しい雇用開発と障害者スポーツの振興支援にも積極的に参加している。
一方、当事業所では、2年半前の平成24(2012)年から1名の発達障害者を雇用している。全社的に障害者雇用に取組んでいくなかで、比較的事業所規模の大きい当事業所でも障害者を雇用するように指示があり、受入れることとなったものである。当事業所は、建物の1階が倉庫で2階が事務所という構造であるため、障害者を受入れるにあたって、場合によっては施設の改修が必要となるといった制約があったが、紹介された障害者が発達障害者であったことから施設の改修の必要がなくなり、そのこともスムーズな採用へとつながった要因であった。
2. 取組の内容
(1)職場実習から採用へ
佐賀県が推進している障害者雇用施策事業「チャレンジドと企業の架け橋事業」で、「働きたい」と願う障害者の就労の機会を広げるため、県では就労支援コーディネーターが企業を訪問して障害者雇用を働きかけている。この一環で当事業所にも受入れ依頼があった。これに続いて障害者の紹介があり、1週間の職場実習を行うこととなった。
同時に、当事業所として初めての障害者の受入れ、それも発達障害者であったことから、支社長が当人を支援している障害者就業・生活支援センターの担当者から、広汎性発達障害の障害特性や周囲が関わる際に配慮する事項についての説明を受け、その後支社長から従業員に発達障害に関する説明を行い、受入れに対する理解を求めた。
職場実習中の当人の状態や周囲との状況を観察した結果、雇用にはなんの問題もないと判断され、また、前述のとおり、発達障害者だったことから施設の改修といった職場環境の整備の必要がなかったこともあって、職場実習終了後そのまま雇用することとなった。
当事業所では始めての障害者採用であったため、従業員には不安や戸惑いがあったが、それらは当人の仕事ぶりからすぐに払拭できたとのことである。
(2)障害者の業務、職場配置
採用当初から、週に5日間、月曜日から金曜日まで連続して出勤し、10時~17時の1日6時間勤務を継続している。当初、当人に9時からの勤務を提案したが、「朝は遅いほうが良い」との本人の希望もありこの時間帯となった。
出勤するとまず伝票のチェックから1日の業務が始まり、2時間程度はこの仕事を集中して行っている。伝票を分類ごとに分けて日にちごとに整理するという、一見すると単純で簡単な作業のようにみえるが、以前この仕事に携わった人の話では「慣れてくるとミスが頻発し、再チェックの際に手直しをすることもあった」というほど集中力を必要とする業務である。
しかし、支社長は「彼の集中力には頭が下がる思いだ。ミスが全くない」と高い評価をしている。仕事ぶりをみていて「仕事内容が障害者の能力(障害特性)にマッチしていることを強く感じる」といい、当人も「伝票の整理が一番得意であり好きな仕事だ」と自信をもって話している。仕事をしているところを見学させてもらったが、伝票を仕分けする手つきもとても丁寧で落ち着いて作業をしている様子が印象的であった。
伝票整理は午前中で終了することが多いため、午後からは1階の倉庫で伝票と品物が合っているか突き合わせて確認してから、品物を棚に納める作業を主に行っている。最近は倉庫に行くように指示をしなくても、自ら倉庫へ行って担当者に仕事の有無を確認するようになった。また、倉庫から事務所に戻ってきたときも「何かありますか?」と尋ねることができるようになり、特に指示がなければ倉庫に戻って進んで掃除を行うなど、臨機応援な対応もできるようになってきた。
事務所、倉庫の各部署の社員とのコミュニケーションは、言葉数は少ないものの業務上必要なやり取りは問題なくできており、支社長から「障害者と意識していないんですよ」という発言があったように、現場になじんで普通に仕事をしている様子が伝わってきた。支社長も社員も「コミュニケーションが少し苦手な人」だと理解しており、コミュニケーションを無理強いさせずに、自然体で接することを心がけている。
![]() 正確に丁寧に、伝票の処理を行う
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![]() 伝票と品物のチェックを行い、分類して棚に整理する
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3. 取組の効果
当社の他の事業所で障害者が働いていることは知っていたし見たこともあったが、実際に当事業所で雇用する状況になったとき、最初は不安があったとのことである。発達障害についての理解不足の点があったことに加えて、「広汎性発達障害」という言葉も始めて知ったからである。しかし現在は、真面目で、指示されたことを確実に丁寧な作業を行う様子に障害者であるということを忘れてしまうほどであるという。「口数が少ない青年である」との認識の方が強く、時々「応用力が少し足りないかな」と思うことがあるが、それは仕事上何の問題もないとのことである。
当人の仕事に対する心構えとして、メモ帳を決して手離さず、教えたことは必ずすぐメモをする、という姿勢が入社時から全く変わっておらず、こういった行動は他の社員にも良い影響を与えている。
また、仕事中に発生する空き時間を把握しその時間を有効に使うために、時系列で日報を書かせることにしたが、採用当初は空き時間を把握することが目的の日報記入であったため1日の大体の空き時間を把握できれば良いと思っていたところ、やり取りを始めてみると仕事中に感じた様々な思いや気付きなどを書いて提出するようになり、精神状態を把握できる手段にもなっており、現在も継続している。
言葉数は少ないが、休憩室での昼食時には休日の出来事を楽しげに話してくることもある。また、こちらから興味があるような事柄の新聞記事について質問するなど、障害者自身の負担にならない程度にコミュニケーションを図っている。
当人も、「今の職場は人間関係も良い。順調に仕事ができている」と話していた。前職は県外にある自動車や船の部品を作る工場で働いていたが、独特な油の臭いが嫌で続かなかったとのことである。「今の職場で大変だなと思うことは何かあるか」と聞いてみたところ、「何もない」との答えが返ってきた。
支社長が何度も口にする「障害者と思っていない」という周囲の認識が、当人にとっても「自分を職業人として認めてもらっている」という意識につながり、自信にもつながっているものと思われる。
4. 課題と今後の展望
広汎性発達障害の特徴として、コミュニケーションの困難性がある。毎日書いている日報に「○○さんの声がうるさかった」、「○○さんがドアを開けっ放しにしていた」など、他人の行動に対して当人が気になった事柄を書いていることがある。そんなときは「その状況で考えられる他人の行動」について、理解できるように説明を行っており、納得できない表情のまま話しが終わったときには、その都度根気強く対応を行っている。
業務の中で、現在もまだ困難なものが「電話対応」である。言葉がスムーズにすらすら出ないため、電話対応は難しい状況である。しかし今のところそれは仕事の支障にはなっておらず問題はない。
当事業所で障害者を受入れてからまだ2年半であり、実績としては浅いが、初めての障害者雇用が大変順調であったため、今後の障害者雇用についても機会があればぜひ受け入れたいと積極的な姿勢である。ただ仕事の内容は限られており、どうしても伝票処理や品物のチェックという事務的な内容が主な業務になってくる。そのため当事業所の規模からみて何人も受入が可能であるという状況ではない。また、当事業所の構造から、雇用できる障害者(障害種別)にある程度の制約もある。
当事業所が抱えている人的課題(作業量)と構造上の制約を考えると、今の時点で考えられる今後の展望としては「定着(長期継続雇用)」であろう。
ただ、全社的な取組としては更なる障害者雇用の拡大が期待できる。今後は多様なノウハウを蓄積して、それを定着に結びつけていくことを期待したい。
執筆者: | 佐賀女子短期大学 健康福祉学科 介護福祉専攻 講師 前山 由香里 |
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