募集・採用時の合理的配慮

面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること

1. 対象障害者は地域障害者職業センターの利用者であったことから、採用面接の前に同センターにおいて、障害者職業カウンセラー同席の上、業務内容や待遇面に関する説明を行った。
2. 当社で行った採用面接においても同障害者職業カウンセラーが同席した。同カウンセラーから、障害特性や配慮事項に関する説明をしてもらった。
3. 採用面接に支援者が同席することにより、対象障害者の発達障害に起因するコミュニケーション上の特性を踏まえ無理な負荷をかけないように留意しつつ、対象者の能力・適性を的確に評価することができた。
4. 加えて、面接後には、対象障害者にみられるコミュニケーション上の特有な癖（特有の言い回し・独特の表現）について情報提供があったため、障害特性を踏まえた的確な評価が可能であった。

その他の配慮

地域障害者職業センターが、同時に複数の障害者を受け入れる事前準備として、親会社本店の人事部を含む当時の担当部署職員（＝ビジネスサポートチーム）に、以下3点の伝達を目的とした研修を開催し、円滑な受け入れが可能となるよう配慮した。

1. ジョブコーチ支援のスケジュール、支援目標等
2. コミュニケーション方法
3. 個々の障害特性、留意点

採用後の合理的配慮

業務指導や相談に関し、担当者を定めること

1. 当事業所では、雇用障害者の日常業務は業務指導者3名が連携をしながら管理し、障害特性上必要な「指示系統の一本化」が図られている。
2. 作業ごとの細かな指示は、マニュアルをもとに業務指導者が目の前で実践しながら、対象障害者に説明し、その場で不明点があれば質問に対して回答する。どうしても、覚えられなかったり、できない場合は、対象者にメモしてもらい、メモを見ながら作業をするように伝達している。
3. 一方、管理者は、社会人としてのマナー（挨拶の必要性等）をはじめ、企業人としての気配り・人としての思いやり・成功の秘訣等について、発達障害の特性を踏まえたわかりやすい表現を用い、朝礼時を含めて的確なタイミングで伝達するなどの配慮を行っている。

業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行なうこと

1. 1日のスケジュール　8：50出勤→ラジオ体操→朝礼（事業理念・挨拶の唱和、各自が本日行う業務の発表等）→午前の業務→昼休憩→午後の業務→17：30退社
2. 業務については、ホワイトボードに作業項目を書き出して、各作業の分担を明確にするとともに、事業所内で働くメンバー全員が各作業の進捗状況を把握できるよう可視化を図っている(下図）。
3. 障害の特性上、1つの業務を何人かで流れ作業で行うことは難しいと考え、1人で完結できる個人作業を複数用意し、組み合わせるように工夫している。また、指示は誰でもわかる同じ内容に明確化し、作業工程中に、対象障害者の判断が必要な要素を省くようにしている。

出退勤時刻・休暇・休憩に関し、体調に配慮すること

1. 障害特性上、業務に集中しすぎて自分の疲れに気付かないまま作業を続けがちになるため、1時間に一度、強制的に5分の休憩を取り入れており、休憩時間の開始はチャイムを鳴らして知らせている。
2. 1日の業務の進捗状況や、本人の体調の好不調を知るために、業務日誌の記載を取り入れている。心身に不調があった場合は、業務日誌の書面が明らかに乱れ、文字も雑になったり崩れたりしてくる。そのような時には、特に注意深く見守り、必要なときは順次面談を行っている。
3. 雇用と同時にジョブコーチ支援を活用したため、焦りや周囲との比較により、パニックや気分の落ち込みが言動や行動として現れた際に、担当のジョブコーチが主治医の診療に同行し、具体的なアドバイスを得たこともある。

感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認める等の対応を行うこと

1. 感覚特性への配慮
   発達障害の特性の一つである感覚特性の問題に配慮し、作業場における夏場の空調は、扇風機を併用し自然な風を送るようにしている。
2. パーソナルスペースの確保
   発達障害は特性上、周囲への距離感が図りにくかったり、個人で占有できるスペースがあると落ち着いて作業が進められる。そのため、事業所内で働くメンバーの作業机は全て壁に向けて配置した上で、隣席との間にはパーテーションを設置し、個人の作業スペースの確保および他人との業務比較を防止している。一方、封入・封かん他、個人情報を扱うような場合は、中央の共同スペースで作業を行うようにし、作業の内容によって作業場所を変更できる環境を整えている。
3. 適宜の席替えの実施　
   当事業所では、同一職場内に発達障害のある従業員が数名いるため、人間関係の円滑化のためにも、個人の作業スペースの並びには、それぞれの性格や人間関係を情報収集し、適宜席替えを実施するなど、特に気を配っている。

本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること

1. 当事業所のメンバー全員に、個別の具体的な障害内容は説明していないが、同じ職場の者同士が相手の気持ちを思いやれるように、メンバー同士の距離感には特に気を配っている。
2. 一人ひとりの体調の変化については、「今は大変みたいだから、○○さんが落ち着くまで、少し待っててね」などのように、それぞれの対象障害者の心の状態について、お互いに理解できるようわかりやすく説明することで、相互理解の円滑化を図っている。

その他の配慮

1. 対象障害者は障害特性上、極度の緊張状態や興奮状態に陥る場合があるが、そのようなときには管理者が別の場所に連れ出し、状態が収まるのを待って職場につれて戻るように努めている。
2. 1つの業務でつまづき、感情が高まってくるような兆しが見られたら、業務指導者がいつものトーンと違う穏やかな声と柔らかな表情で積極的に声かけを行い、まったく種類の違う別の業務を依頼するなど、環境の変化を作り出すよう工夫している。
3. 対象障害者への細やかな配慮が可能となった背景には、何よりも専任の業務指導者が、発生した課題に丁寧に取り組み、一つひとつあきらめず、地道に対象障害者とのコミュニケーションを積み上げてきたことが挙げられる。当事業所ではこの雇用管理のコンセプトを土台にした上で、さらに地域障害者職業センターのジョブコーチ支援を活用し、地域障害者職業センターからの情報提供や助言も参考にした。

＜業務指導者が取り組んできた課題の一例＞
作業スペースの配置について、対象障害者から個別にリクエストがあったとき（=職場環境が対象障害者の希望と相違がある）、事業所発足当初には、業務指導者は「どのような言葉遣いで、どのような態度で」対象障害者に尋ねればよいのか不安に思うことがあった。このようなときには、地域障害者職業センターのジョブコーチが積極的に業務指導者と対象障害者の間に入り、対象障害者の希望を聞き取り業務指導者に伝えた。