発達障害者の販売補助業務における合理的配慮事例
- 事業所名
- 合理的配慮事例・27050
- 業種
- 卸売業、小売業
- 従業員数
- 8名
- 職種・従事作業
- 店舗バックヤードでの書籍・コミック等の仕分け、コミック本のビニールかけ、商品の値つけなど。時には、店頭での品出し・レイアウト変更も行う。
- 障害種別
- 発達障害
- 障害の内容・特性
- ADHD(注意欠陥・多動性障害、精神障害者保健福祉手帳所持)
-
募集・採用時の合理的配慮
面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること
採用面接では、支援機関の同席を必ず求めることにしている。
その他の配慮
- 同社では、アルバイト(臨時雇用者)の面接については障害の有無に関係なく、一律、店舗の店長に裁量が任されている。就職希望者が障害者であった場合は、本社の人事担当者から、事前に対象障害者の特性と必要な配慮事項が店長に伝達される。この時点で店長が採用見送りの返事をすることもあるが、将来的には「1店舗に1人の障害者雇用」を掲げているため、障害者が働く店舗は徐々に増えている。
同店の店長も、最初は障害者雇用に対して不安があったという。
「でも、配置転換になった店舗に、既に障害者が雇用されていたら、なんとかしよう。自分の力でやれることをしていこうと努力しますよ。」とは店長の弁。このように1つ前の赴任店舗で、障害者雇用の経験があった店長は、人事担当者から対象障害者の面接連絡を受けたときには、特に悩まなかったという。 - 新規に障害者を採用する場合、面接に先駆けて本社人事担当者が、求人に応募があった障害者の特性について必ず障害者を支援している支援機関から事前に次の2点を情報収集している。これにより、実際に面接を担当する各店舗の店長に伝達することが可能である。
- どんな仕事ができるか。
- どんな配慮を必要とする人物であるか。
- 同社は、書籍・雑貨商品を店舗で販売する小売業であり、来店者への接客ができるかどうかは重要項目であるため、次の3段階に分けて詳細に能力を聞き取っている。
- 完全に接客を任せられるか。
- 他の従業員への引継ぎ程度はできるか。
- 1人では接客は難しいか。
- 業務の任せ方についても、聞き取りの際に、次の2点を必ず確認するようにしている。
- 一度に複数業務の指示をしても対象者が対応できるか。
- 一度に1つの指示のみ出す方がよいか。
採用後の合理的配慮
業務指導や相談に関し、担当者を定めること
店長自らが指導することで、指導体制が一本化され、本人に一貫した指示を行うこと等が可能となっている。
業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと
- マニュアルの作成について
同社は、店舗ごとに店長が仕入れや人事の裁量権を持つ組織編成を行っているため、全社で統一したマニュアル等の作成は行われていない。
アルバイトの教育も各店長に一任されているため、店舗ごとに必要があれば各業務の手順書を作成している。同店では、「誰が働くことになっても、同じように仕事ができるように」という店長配慮から、手書きのマニュアル(例 写真:返本マニュアル)を貼り出してある。図表1 作業手順書
- 業務指示等について
(1)対象障害者の1日の業務内容
- ア 業務内容
9:30出勤
1)店舗内掃き掃除
2)ガラス拭き
3)店内商品の整理
4)入荷書籍の整理と分類
5)コミック本のビニールかけ
6)返本(本の返品)作業
昼休憩12時~13時
7)雑貨の値段つけ
8)店長の出勤に伴い、店長指示による店舗のレイアウト変更、商品入れ替え等、店頭での仕事を行う
18:30退勤 - イ 業務内容の調整
対象障害者の1日の業務は上記のように決まっているが、商品の売れ具合により、各日の業務量は変動する。そのため、店長は常に「対象者が決まった業務を終えた後にしてもらう仕事」をストックしており、この点がコンスタントに安定した作業や作業量の提供を可能としている。
イレギュラーなことが起こったり、正確さが要求されるレジ業務は、店長判断で対象障害者は携わっていない。また、同社の店舗業務は、複数のアルバイトで共同作業を行うことは少なく、予め作業が一人ひとりに振り分けられているため、スタッフ間でコミュニケーション上の問題は生じにくい特徴があり、発達障害者の雇用管理も円滑に進められている。
(2)業務指示の基本
店長によれば、店舗には常に人手が必要な「見えない仕事」がたくさんあるという。店長は対象障害者に仕事を依頼するときの心構え等を次のように設定している。- ア 心構え
(ア)基本的に複雑な事は頼まない。
(イ)1つの仕事ができるようになったら、次の仕事を依頼する。 - イ 仕事を依頼するとき
(ア)要求を低めに設定する。
(イ)完璧を求めすぎないようにする。
(ウ)自分の仕事を手伝ってもらう、くらいに考えるようにし、良い意味で期待感を荷重に描きすぎない軽い姿勢で接する。 - ウ 実際の対象障害者とのコミュニケーション
店長は具体的な留意点として、次の2点を指摘している。
(ア)できなかったからといって、怒ることはない
《注意の例》
(イ)でも、注意はする
「ほら、見てごらん。今、君がこうしたから、こうなってるよね。このままだと、こういうところに不都合がでてくる。だから、次からはこういうふうにして欲しいって感じかな。」と店長は語る。
(3)まとめ
以上のように、同社では社の方針で、各店長自らがアルバイトの教育を担当するため、対象障害者の業務指導も店長自らが行っており、そのため指示の一本化が自然に図られている現況にある。
また、同社人事部からは、今後の同社における障害者雇用推進の課題について、次の2点を指摘されており、障害者雇用の基盤固めに今後取り組んでいくとのことである。
ア 店長の異動による環境や教育方針の変化幅を、どこまで平均化できるようになるか。
イ 店長が代わった後、それまでの環境や教育方針を、以後どう引き継いでいくか。 - ア 業務内容
出退勤時刻・休暇・休憩に関し、体調に配慮すること
- 同社店舗の開店時間は、10:00~21:00のため、同社では、9:30~18:30、13:00~21:30の2シフト制を導入している。学生等のアルバイトの就労意欲を維持するため、障害者に限らず基本的に就労時間については勤務者の希望第一主義を取っている。アルバイト希望者が学生等で夕方からの就労が希望であれば、15:00~、17:00~出勤といった自由度の高いシフト組みをしている。
- 対象障害者は就労当初9:30~15:30(昼休憩1時間)の短時間勤務であったが、現在は本人の希望を取り入れ、前シフト(9:30~18:30)で勤務している。
- 休暇についても、予めシフト組みの前に希望すれば、基本的に本人希望によって休める。対象障害者は現在、基本的に1週間に5日勤務。毎週水・金、隔週日曜休みで勤務している。休日についても、対象障害者本人と話し合った上で、現在は前述のシフトに落ち着いている。また、定期的な通院の必要性、頻度等も店長は把握している。
- 休憩は、店舗スタッフが少なく、時間の長い昼休憩はスタッフが交替で取るため、対象障害者は一人でゆっくり音楽を聞くなど、休憩時間を自分のペースで過ごすことができている。
- 同社では、障害特性上、就労に際して1時間に10分程度の小休止を必要とする者も雇用しており、労働時間に関しては、月80時間以上勤務できれば、本人の希望に合わせている。対象障害者の休憩時間は、他のアルバイトと同じである。
本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
「職場で一番大切なのは人間関係。だから、異動で新しい店舗に行ったら、最初に綿密なスタッフミーティングをしっかりやります。」と店長は語る。今の店舗は、アルバイトスタッフに落ち着きのある人が多いので、スタッフ間の摩擦は少ないという。同社で働く障害者には、「自らの障害について周囲の人に知ってもらいたいと思う人が多い」という。
このため同店の店長は、他の従業員の考え方や同社の風土などを考慮し、障害があるから配慮するのではなく、あくまで障害のない者と同じようにマネジメントを行うことを重視している。このため、周囲への障害特性に係る説明については、詳しい症例名は話さず、「心に問題を抱えている」ことのみにとどめるなど、シンプルにさりげなく、かつわかりやすく周囲の従業員には説明しているとのことである。その他の配慮
- 「急に休みたいと言ってくるときは、その前に必ず職場に行きたくなくなる問題が発生している。だから、対象障害者だけでなく、他のアルバイトも含め、本人が言ってくる前に早めに問題解決を試みる。」と店長は語る。店舗スタッフから人間関係上の相談を受けたときには、同社では、障害の有無に関わらず、関係者双方を個別に呼んで、(1)現在こういう問題が起きているが、(2)お互い今の職場で働いていくためには、(3)今後どうしたらよいかに焦点を当てて、問題解決を図る社風が培われている。
- 対象障害者と以前からつきあいがあり、対象障害者をよく知る支援機関の職員が、2ヶ月に1回程度同店を訪れて様子を把握している。職員は訪問時に、店長に「気になることがあったら、連絡が欲しい」旨の申出を必ずしているが、いままでには、特に連絡を要するような事態はない。また、同社本部は全国の店舗で障害者雇用が進むよう、個別に各店舗店長が地元の支援機関に相談を行うシステムを構築中である。
- 同社では、アルバイト(臨時雇用者)の面接については障害の有無に関係なく、一律、店舗の店長に裁量が任されている。就職希望者が障害者であった場合は、本社の人事担当者から、事前に対象障害者の特性と必要な配慮事項が店長に伝達される。この時点で店長が採用見送りの返事をすることもあるが、将来的には「1店舗に1人の障害者雇用」を掲げているため、障害者が働く店舗は徐々に増えている。
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