発達障害者の事務職における合理的配慮事例
2015年度作成
- 事業所名
- 合理的配慮事例・27051
- 業種
- 情報通信業
- 従業員数
- 273名
- 職種・従事作業
- 総務・経理事務
データ入力作業 - 障害種別
- 発達障害
- 障害の内容・特性
- 発達障害(精神障害者保健福祉手帳所持)
摂食障害
-
募集・採用時の合理的配慮
面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること
- 採用面接の際に、就労支援機関の職員等の同席を拒んではいないが、就労の現場で働くのは対象障害者本人であり、仕事は基本的に1人で行うという意識を確認している。
- 対象障害者の体調・経験・希望等により、採用前に適当と思われる期間(1週間程度)の職場実習を行い、対象障害者の意向を確かめた上で採用を決定している。
その他の配慮
- 同社の求人は、就職面接会やハローワーク等、公の媒体を通じて行われている。同社の特徴的な組織編制上、採用の面接は人事部門ではなく、必ず業務上のチームリーダーが同席し、日々の業務について詳細な説明を行う。同社のこうした取組により、求人に応募した対象者が、実際に就労した際に不安に思ったり、悩んだりする点は、面接時に解消される仕組みとなっている。
- 同社の採用試験の項目は、書類選考と面接である。書類選考時には、履歴書と同時に職務経歴書の提出を対象障害者に求めている。
- 同社では、書類選考・面接の課程で対象障害者が事業所に求める配慮と、事業所側が用意できる配慮をできるだけ一致させる試みが、次のように行われ、対象障害者と受け入れる現場の一致度を高め、就業後のミスマッチを低減させている。
- 職務経歴書への自身の障害や求める配慮事項に関する記載内容を通して、次の事項を確認する。
ア 対象障害者が自らの障害特性を把握できているか
イ 自らが会社に望む配慮を就職を希望する職場に明示できるか - その上で採用面接時に、就職後直接の業務指導者となるチームリーダーが職務経歴書から読み取った上記2項目について、対象障害者に対し事業所側が対応可能な配慮を細部にわたって明確に説明する。
(例)同社は高層ビルに居を構えているため、災害時の緊急対応等に制限があり、大型の電動車いすの使用が必要な障害者雇用は難しいのが現状である。
- 職務経歴書への自身の障害や求める配慮事項に関する記載内容を通して、次の事項を確認する。
採用後の合理的配慮
業務指導や相談に関し、担当者を定めること
- 同社では業務内容に応じて、概ね5名程度の従業員が1つのチームを組んで就労する体制が構築されている。チームリーダーがすなわち業務指導者であり、各人が責任を持ってチームにいる対象障害者の指導にあたっている。
- 同社が用いているチーム制には、次の2つの利点がある。
- 業務に少人数であたれる。
- 他のチームメンバーとの合意形成が容易である。
- 少人数のチーム制であるため、リーダーが常に対象障害者とコンタクトを取りやすい配置で就労しており、対象障害者が困っているような場合には、リーダーだけでなく、他のチームメンバーも声をかけて支援できる体制を取っている。
業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと
- 同社では、対象障害者の成長のためにも個別にマニュアルを作成することは行っておらず、代わりに疑問に思ったことやわからないことはチームメンバーの誰にでもその場で尋ねることができる環境作りに努めている。
- 日々の業務内容については、対象障害者がわかりやすいように説明し、理解が不確かな場合は言葉遣いを変えて理解できているかをその都度確認し、指示内容が正確に伝わるようにしている。対象障害者の場合、障害の特性上、作業内容の量的調整が不得意なため、チームリーダーが1日の作業量を明確にし、対象障害者の特性に応じて特に調整するようにしている。
- 同社のようなシステム会社では業務上、仕事にかかった工数が直接売り上げに直結するため、スケジュール管理やタスク管理が重要となる。対象障害者については、日報においてスケジュール・タスク管理を徹底している。同社では日報に報告項目を明記し、「当日はどのタスクについて、どこまで進んだか」を明確に記載する方法を取り入れるなど、「的確な報告を簡単に行える方法」を編み出すよう努めている。
出退勤時刻・休暇・休憩に関し、体調に配慮すること
- 勤務時間については、対象障害者の負担にならないよう、10時~15時勤務(昼休憩1時間)の短時間(4時間)勤務から開始した。対象障害者の希望により、次第に就労時間を延長している。
- 休暇取得については、短時間勤務の場合入社当初は有給取得が難しいため、予め予定を確認し、午前中に通院、午後から出社という形をとり、給与の減額措置を免れるように配慮している。
- 対象障害者は変化を好まないという特徴があるため、出社後一度自身の仕事場に落ち着くと、ずっと社内に居続けようとすることが多い。そのため休憩時間などは、気分転換を促すためにもできるだけ席を離れて外の空気を吸うように、チームリーダーが積極的に声かけを行うなど、ストレス管理にも気を配っている。
本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
- 対象障害者は「自分の障害について、障害のない一般社員にも知ってもらいたい」という積極的な姿勢の持ち主である。そのため、採用決定から職場に迎えるまでの間に、(1)対象者の障害特性、(2)対象者が判断や理解が難しい事柄などについてはチームリーダーから同じチームのメンバーに伝えて、障害についての理解度を高めた上で職場に迎え入れるようにした。
- 支援機関よりカウンセラーや支援員を招いて障害のないチームメンバー向けの研修会を行うなど、チームメンバーが同一の認識を持って対象障害者を受け入れられるような配慮を行った。
その他の配慮
- 疲労感に対する感覚が鈍いことがあるため、体調のコントロールには特に配慮している。具体的には、毎日記載する日報に本人の体調管理欄(別添資料:日誌)を設け、日々の疲労を残さないよう本人の体調のモニタリングを行っている。こうした取組によって、体調の大きな落ち込みや予定外に通院が必要になる事態を未然に防いでいる。
- 特に気分が落ち込んでいるようにみえる場合は、月に一度回診に訪れる産業医を交えて面談を行い、チームリーダーからは聞きづらいことを産業医に聞き出してもらい、対象障害者の気持ちを落ち着かせる等のケアも実施している。
別添資料 日誌
- 対象障害者の理解を得た上で、対象障害者の体調をモニタリングした資料(別添資料:就業状況モニタリング票)を作成して、主治医・支援機関・事業所担当者で共有し、情報共有に努めるとともに、支援の意思統一を行い、ブレのない支援を行っている。
別添資料 就業状況モニタリング票
障害者への配慮の提供にあたり、障害者と話し合いを行った時期・頻度等の配慮提供の手続きの詳細
- 同社における障害者への配慮のうち、最重要項目は採用面接にあり、応募書類を元にした配慮事項の完全一致に努めることである。採用面接時に実際の就労現場におけるチームリーダーが面接に立会い、事業所側が対応可能な配慮と対象障害者が必要とする配慮の差異をできる限り一致させる。同時に、個々の障害特性に必要な職場実習期間を設け、採用後、対象障害者が行う業務内容の充分な理解を促している。
- 少人数で業務にあたるチーム制を導入し、面接時から関わっている各チームのリーダーが就労後も引き続き、直接日々の業務において対象障害者の指導にあたっている。
- 障害特性によっては、対象障害者の就労以前に就労現場のチームメンバー全員が、支援機関から招いた講師の研修を受け、チーム全体で対象障害者をフォローできる下地作りを行っている。
- 就労後もチームリーダーが、勤務上必要な外出の際などの機会を捕らえて対象障害者とこまめにコンタクトを取るよう心がけている。また、いわゆる人事面談も半年に1回(年間2回)オフィス所長、チームリーダー、対象者の三者で行われ、長期継続雇用を目的としたキャリアプラン等の相談も、障害特性に応じて行われている。
- 精神障害や発達障害では障害特性上、通常の日常会話に苦手意識があるため、日報に記載してもらうことにより、日々の気持ちの変化や日常のちょっとした困りごとなどの把握を心がけている。
- また、就労以前から支援機関・主治医が対象障害者に対して連携をとっており、採用決定後は、事業所のチームリーダー(=指導担当者)も加えた三者が、同一の情報を基に対象障害者への支援を継続している。
- 障害のある者への配慮ではないが、同社では障害のある者を直接指導担当するチームリーダー同士が集まり、日々の悩みや困りごとをシェアする機会を定期的に設ける試みも行われており、障害のある者の長期就労を考える上で、こうした指導的立場の者への配慮も今後考えていくべき点として最後に特筆する。
配慮を受けている障害者の意見・感想等
- 採用面接から就労まで一貫してチームリーダーが中心となって関わってもらえるので、今まで就労していた職場に比べ就労以前から職場への不安感が大幅に減少した。また、仕事に関しても障害の特性なども理解していただき、声をかけにくい場合でもチームのメンバーからこまめに声をかけてくれるため、わからないことはその場で聞くことができ、安心して仕事に集中できる。
- 業務の内容をまとめる時間なども考慮して時間配分をしていただける点も気持ちに余裕ができている。自分ひとりではついつい頑張りすぎてしまいがちな場面でも、チームリーダーが業務量や進捗状況について適格に判断してもらえるため、チームにうまく溶けこむことができ、仕事を順調にこなせている。
- 障害がわかったときに、「自分はもう社会で働くことが難しい」と感じたが、同社にめぐり合えて「再び仕事をしたい。この会社で働きたい」と前向きな気持ちを持つことができた。
同社には現在従事している職種だけでなく、今までの経歴を基に会社に貢献できる事があれば挑戦させてもらえる雰囲気があり、今後も長く働いていきたいと思っている。
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