募集・採用時の合理的配慮

面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること

採用当初は高次脳機能障害という診断はついておらず（本人も認識なし）、言語障害を含む身体障害者としての配慮を行ったものである。

1. 面接に際しては、容易に回答が出せる質問に特化し、回答に詰まる状況においては、こちらからの回答提示に同意を得るなど、本人の精神負担をなくす等の配慮を行った。
2. 面接とは別に打ち合わせる機会を設け、障害者就業・生活支援センター（以下「就業・生活センター」という）職員に同席してもらい対象障害者の特性等について補足的な説明を受けた。

その他の配慮

職場実習を設定して事務的業務を体験的に行ってもらうことにより、対象障害者自身が当社で働けるかどうかを検討していただく機会とした。また、当社としても採用した場合にどのような点に配慮が必要なのか、どのような職務が適当かを検討する機会とした。

【補足：採用からの経緯】

1. 事務職採用を目的としてハローワークを介し、就業・生活支援センターによる職場実習を行った上で、平成26（2014）年7月1日付、フルタイム契約社員として採用した（当初はトライアル雇用を活用）。
2. Aさんは前職の経験よりパソコンに精通しているという認識から、自社の健康保険組合でのデータ処理等、エクセルを使用して行う業務に従事してもらった。
3. 採用後、繰り返しの指導にも拘らずなかなか業務が覚えられない、状況の変化に困惑してしまうことが続き、当社の指導方法に問題があると反省し指導体制の見直しを図ってきたが、それでもなかなか改善が見られないことから就業・生活支援センター等就労支援機関へ相談を行ってきた。
4. 相談を通じて、高次脳機能障害であることの診断がなされ、職場における具体的な配慮をさらに進めることを目的に障害者職業センターのジョブコーチ支援を活用することとなった。

採用後の合理的配慮

業務指導や相談に関し、担当者を定めること

1. 同部署の2名が指導担当者、さらにその上司が雇用管理担当者となり、対象障害者の作業遂行状況や職場での過ごし方等を把握するとともに、必要に応じて対象障害者に対してアドバイスを行ったり、相談を受けるなど対応している。また、冗談などを言い合えるような雰囲気作りも心がけている。
2. 対象障害者は一連の流れに沿った業務を行うことは問題ないが、自発的に行動する・状況判断することが苦手で、業務上分からないことがあっても周りに聞けず一人で悩んでしまうため、指導担当者は対象障害者の様子を常に観察し、少しでも様子がおかしい時は声をかけるなどの体制を構築することで業務のサポートを行っている。

仕事内容等をメモにする、一つずつ業務指示を行う、写真や図を多用して作業手順を示す等の対応を行うこと

1. 当初、対象障害者は作業のやり方を教えると、一度は覚えても翌日には忘れてしまい、時には午前中できたことが午後からはできなくなっているなど、作業が定着しない上に、メモをとることができない状況があった。そのため、対象障害者にとって分かりやすい作業マニュアル書を作成し、口頭よりも視覚的に作業教示を行うようにした。これにより作業の定着促進が図られた。また、作業のやり方を忘れてしまっても作業マニュアル書を見ればやり方がすぐ判るという認識を持てるようになり、安心感を得られるようになった。
2. Excelへのデータ入力作業を行う際、入力の必要がない箇所に入力してしまったり、元のデータを書き換えてしまうミスがあった。このため、ミスが出やすい箇所を指導担当者が洗い出した上で、（1）対象障害者が入力する箇所を極力少なく済むようにExcelフォーマットを改修した（例：計算式を盛り込むことで、1カ所入力すれば別の箇所には入力しなくて済むようにするなど）、（2）入力する箇所と入力不要な箇所を色分けして、対象障害者が判断しやすくした、（3）タイピングのミスを防止するために元データから転記（コピー＆ペースト）するやり方に変更した。
3. 当初、作業ミスがあることにより自信が持てず、それがさらなるミスにつながってしまうことも予想されたことから、（1）対象障害者の作業を指導担当者がダブルチェックする、（2）作業ミスは対象障害者の性格特性を考慮して作業開始前にフィードバックする体制を構築した。これにより最近ではミスが減少し、そのことを褒める（認める）ことによって、自信が持てるようになったようである。

出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること

1. 採用時はフルタイム（8:30～17:30の実働8時間）勤務であったが、対象障害者の疲労が翌日まで蓄積してしまっていること、また疲労が作業ミスの要因の一つと推察される状況等を考慮し、対象障害者と支援機関からの要望も踏まえてフルタイム勤務から1日6時間の勤務へと変更した。これにより、勤務時間を9:30～16:30となり対象障害者としても「疲れが翌日まで残らなくなった」と感じている。
2. 対象障害者は決められた手順や流れに則っていない行動が苦手であるため、就業時間中に「適宜小休止を入れる」ことができずに作業を継続してしまい、その結果疲労を蓄積しやすい傾向があった。そこで、11時と15時に小休止を設けるスケジューリングを固定化することで、心身をリフレッシュする環境を整えた。これにより疲労の改善につながり、対象障害者自身も作業遂行がスムーズに進められると実感できている。

本人の負担の程度に応じ、業務量等を調整すること

保険証発行作業という性質上、日によって処理件数が大幅に変化することがある。一方で、対象障害者の障害特性として「今日は作業量が多いから急いでやろう」「今日は作業量が少ないからゆっくりやろう」という状況に合わせた判断や行動が難しいため、特に作業量が多い日にはどうしたらよいのか気持ちが落ち着かなくなってしまったり困惑してしまう状況が見られた。
そこで、指導担当者が対象障害者の1日で処理できる作業量を把握した上で、その日に処理する作業量をAさんに対して明示することとした。
また、メイン作業である保険証発行作業が少ない日には、他部署から切り出したシュレッダー、印鑑押し、ファイル整理などの作業を行ってもらうようにしている。

本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること

1. 対象障害者が所属するグループに対しては、対象障害者が困ったことがあった場合に声かけできるように、「障害があるため不便を感じることがあるかもしれないので、そのときには声かけまたは担当者へつなぐ」ことを説明している。
2. 指導担当者、雇用管理担当者及び人事部門の担当者については、対象障害者に対する職務上、職業生活上の配慮を検討・提供する立場であることから、対象障害者の詳細な障害状況や特性、職業上の課題等について共有している。

その他の配慮

【支援機関のサポート】

1. 対象障害者の不安の軽減、生活面のサポートを踏まえて、就業・生活支援センターに定期的に関わってもらっている。
2. 対象障害者に対して配慮すべき事項と、それらの具体的な進め方に関する助言のほか、職務に対する対象障害者へ思いや考えを第三者として聞いてもらえるように、ジョブコーチ支援を活用した。ジョブコーチには現在も定期的に当社を訪問してもらい、対象障害者及び指導担当者と情報共有し、必要なフォローの協力を得ている。

【関わり方】

1. 対象障害者は通常とは異なる流れで物事を進めなければならない状況に対して、気持ちが落ち着かなくなったり不安な気持ちが増長してしまいがちな傾向がある（例えば明日が掃除当番だと伝えると、前の日は眠れない程に考えてしまうなど）。そのため、イベント等がある場合はあらかじめ伝えるよりも直前（当日）に対象障害者へ話すようにしたり、重要な事項については家族に直接連絡するようにしている。
2. 会社のレクリエーション等への参加は無理強いはせず、本人の意思を尊重することとしている（誘いを断っても周囲との関係性に影響が出ないような雰囲気作り）。