募集・採用時の合理的配慮

面接時間について、体調に配慮すること

当事業所は、笑顔写真家として活動する所長（以下、所長という。）と、代表取締役であるその妻（以下、代表という。）、対象者との3人が所属し、平成26（2014）年11月に設立。対象者は、15歳で指定難病の「肺動脈性肺高血圧症」を発症し、以来、月1回の通院治療を続けている。
会社設立に当たっては、3人が一丸となって理念やビジョンを作成し、1年がかりで会社を立ち上げた。設立前は、対象者との居住地が離れていたため、対象者の住むエリア（山口県）や中間地点（岡山県）に出向いて面談を行い、さらに電話やスカイプ（インターネット電話）などの通信手段を使って、約50時間以上にわたる事前打合せを行い会社設立ならびに対象者の採用の準備を行った。当初、対象者との共同経営を行うことも考えたが、過重な負担がかからないよう一従業員として採用することにした。所長と代表は、対象者の体調について正しく把握するため、病気のことや現在の治療の状況について聞き取りをして理解を深め、どこまでの仕事が可能か対象者と話し合い、仕事の役割分担や、治療と両立しやすい就業規則を定めた。

採用後の合理的配慮

業務指導や相談に関し、担当者を定めること

担当者は特に定めていないが、業務指導は主に代表が行うことが多い。現在、在籍数は経営者を含め3人だけなので常に情報を共有するようにしている。社内コミュニケ—ションを活性化するため3人で双方向の意見交換ができる『トークノート』というアプリを導入し、タスク管理とメッセージのやり取りなどに活用している。
対象者が在宅で勤務をする際、「今から始めます」、「終わります」の始・終業時の連絡、当日の仕事の進捗状況や翌日の予定などを伝える業務報告及び対象者自身の体調について、午前・午後の一日2回報告するのもこのトークノートで行っている。

出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること

1. 会社を設立した1年目は、オフィスに3人が出勤する体制をとっていたが、対象者が仕事中に体調を悪化したことをきっかけに勤務形態を見直すことになった。対象者は個人ワークが中心であり、在宅でできる業務が多いこと、また、在宅勤務であれば自分のペースで仕事が進められ、柔軟に休憩がとりやすいこと、さらに、通勤に係る体調への負担も考慮して、2年目から在宅勤務を中心に切り替えた。
2. 対象者の勤務形態の変更に伴い、所長夫妻の住居兼オフィスを活動の拠点とし、会議や打合せのため週2回だけ対象者がオフィスに出社することにした。対象者の住まいから片道約1時間かかるので、通勤時の体の負荷を考慮して、出社日の終業時刻は在宅勤務時より1時間早い15時30分に設定している。
3. 対象者は、月1回の通院治療と、年数回の検査入院の必要がある。初年度は休日が104日、年次有給休暇が10日であったが、その有給休暇のほとんどが検査入院で消化された。それを考慮して、休日・休暇の見直しを図り、2年目から休日116日、有給休暇は年次法定日数の11日に加えて、月1回の通院治療に充てる「療養日」を年12日付与することにした。
4. 在宅勤務の際、対象者は1人で仕事をするので、突発的な体調不良に対する備えが必要である。一番の備えは、本人も含め全員が日常的に体調を把握しておくことだと考えている。先述の体調不良が起きた一件では、後から思えば兆候があったのに、対象者も経営者サイドもそれに気づくことができなかった。そこで、日々の体調変化を見逃さないようにするために以下のような配慮をしている。
   1. 毎日午前と午後の2回、対象者本人が自身の体調を「非常に良い・良い・普通・悪い・非常に悪い」の5段階で判定し、トークノートで経営者サイドに報告をしている。代表によると、6割くらいが「普通」を表す“3”で、3割は「悪い」の“2”が送られてくる。“2”や、稀に出てくる“1”が送られてきたときには、どのように体調が悪いのかを必ずヒアリングするようにしている。
   2. これまでの経験から、「薬が変わる」ということが度々あること。そして、「薬が変わった後は体調の変化が起こりやすい」ということがわかってきたので、病院へ行った後は、次の会議の際に対象者からその内容を報告してもらうことにしている。
   3. 緊急の体調不良で救急車などを呼ぶことになった際、日々の体調を把握しておくことと同時に、対象者の持病についても正しく伝える必要がある。「肺動脈性肺高血圧症」という病名が平常時でも言いづらく、緊急時に正確に伝えられるか不安であるため、病気に関する資料をまとめたファイルを取り出しやすい場所に置いている。なお、現在、対象者は月1回の通院治療と毎日の服薬を続けており、日常生活を送ることに問題はない。

在宅勤務でパソコン作業を行う対象者

本人の負担の程度に応じ、業務量等を調整すること

対象者の仕事は主に個人ワークなので、在宅勤務時の業務量等の調節は、基本的に本人が必要に応じて行い、経営者サイドはSNSで進捗管理等を行っている。
また、以下のような取り決めをし、実践している。

1. 対象者はイベントに同行しない。現場には立たない。
2. 普段と体調が違うと感じたときなどは、すぐにかかりつけの病院へ行けるように、イベントなどがあっても府内から出ない。基本的には社外打合せも市内で行う。

以前はイベントの司会進行も務めていた

本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること

SNSを活用して常に情報を共有し、対象者の体調はもちろんのこと、治療や薬の変化等についても経営者サイドが把握するようにしている。
なお、社内で、「対象者は基本的には府内から出ない」という取り決めをしているが、社外で打ち合わせをするような場合には、取引先の担当者に事情を説明して、極力市内まで出てきてもらっている。

その他の配慮

対象者は積極的に治験新薬にトライしており、しばしば薬の変更がある。薬が変わった後の体調変化に留意する必要があること、また、同時に、薬の変更によって2週間分しか出してもらえないことがあるので、今後、通院頻度の変化も考えられる。突発的な治療が必要になった場合は、業務自体の見直しも必要となることが予想される。また、時期は分からないが、「変化」については必ずあると考えているので、これまで以上に連携を取り、さらなる効率化を会社として推し進め、現在週2回の出社日を来年度には週1回にしていきたいと考えている。