事業所外観

1.事業所の沿革と事業内容

福島ダイハツ販売株式会社は、昭和23（1948）年6月14日に（株）昭和モーター商会を前身に設立された後、昭和55（1980）年にダイハツ工業（株）の全額出資会社となり、自動車（新車、中古車）の販売、メンテナンス（点検、車検、修理）、JAFの取扱い、損保（自動車保険）代理店の事業を展開している。

福島市・いわき市・南相馬市を営業エリアとし、「環境に優しい」軽自動車を中心に販売している。1970年代、軽自動車は6台に1台の割合だったのに対し、現在は3台に1台までが軽自動車になり、「2台に1台は軽自動車」の時代がやってきつつあり、軽自動車の需要が増加し続けている中で、変化するニーズを捉え、成長を続けている。

「お客様に常に奉仕と感謝の精神で接し、信用を得て、常に高い目標に挑戦し高収益会社を作り地域社会に貢献する」を社是に、「親しみのあるお店づくり」、「スタッフはお客様のコンサルタント」を目標に掲げている。

2．難治性疾患患者雇用の経過

当社では、障害者を2名雇用している。そのうちの一人は、在職中に身体障害1級になった人で通院のための早退を認めるなど勤務時間の配慮をしている。もう一人は多発性硬化症という難病の指定を受けている人（A君）で、今回はA君に採用経過を聞いた。

多発性硬化症（MS）は、「脳や脊髄に多発性の硬い病巣がみられる病気」で、この病巣は脱髄病変といわれ、神経線維をおおっている髄鞘が主に傷つけられる。この病変が大脳、脳幹、小脳、脊髄や視神経などの中枢神経に規則性もなく起こっては治るということを繰り返す。患者はいろいろな神経症状の再発と寛解（改善）の間で様々な悩みを抱えることになる。

症状の現れ方は、中枢神経であればどこにでも起こりうるもので、起こる時期も様々である。また、困ったことに症状が一旦治っても、他の症状の再発が繰り返し起こる可能性がある。よくみられる症状は、しびれ感や感覚低下、手足の脱力や歩行障害、しゃべりにくさや飲み込みにくさ、視力低下、物が二重に見える複視、排尿障害などがある。

以上のような知識を得ながら採用の手続きを進めていった。

A君との最初の出会いは、大学生のときの合同就職説明会であった。その後A君は体調を崩し、卒業はしたが就職できず無職の状態であった。翌年度にハローワークを通じて難治性疾患患者ということで改めて応募があり、通常の採用試験を受けて合格した。2年がかり（2回）の応募で採用担当者は本人の就職への強い熱意を感じたとのことである。

3．入社後の経過

A君は今年採用され、5か月になるが、今は本社で事務をしており、書類作成、パソコンでのデータ処理、物品の管理、イベントの企画・準備を主に担当している。

入社時点で配慮したことは、ハローワークから多発性硬化症の特性（神経症状の再発と寛解を繰り返す）を聞いていたので、体調が良くないときに横になれるような場所を用意した。幸い今のところはほとんど利用することなく過ごしている。

採用後に行った配慮としては、周りの人たちが積極的に声掛けをしてコミュニケーションをとるようにしていることである。

初めての難治性疾患患者の雇用ということで入社時の対応についていろいろな検討を行ったが具体化の必要もなく現在に至っている。案ずるよりも産むが易しのことわざではないが、一歩踏み出してみることの大事さを感じている。

本人の頑張りもあり、仕事ぶりは他の同期入社の社員と比べても遜色がない。最近は、むしろ他の社員と同じ扱いで、難治性疾患患者だからと特別扱いをしないようにしている。賃金水準も障害のない社員と同じである。

体調を維持するためには、投薬や注射による治療が欠かせないので、定期的な通院が必要になる。通院に対しても時間的な配慮をすると伝えてあるが、毎週火曜日の定休日に通院しており、仕事への影響はなく済んでいる。

難治性疾患患者の雇用ということで企業としてどんな配慮をしなければならないか、これで大丈夫かと心配があったが「困ったことがあれば何でも相談に乗ります」というハローワーク担当者の言葉を心強く感じていた。これまで相談に行くこともなく過ごしている。

4．今後の対応

病気の進行を注射で抑えているため現在は病状も安定しているが、悪化した場合の対応を準備しておかなければならないと考えている。

病状が悪化したときの具体的な対策として、対応マニュアルの作成を検討している。

なお、多発性硬化症は、感染因子が直接の原因ではないので、この病気が接触などにより人から人に感染することがないことを知らせる必要の有無や、どのように知らせたらよいのかということが、営業スタッフとして働く場合の新たな課題としてあがっている。

また、営業スタッフの場合はお客様に直接の影響があるので、症状が悪化した場合のフォロー体制を今以上に整備しておくことも必要になると考えている。

今後も低燃費、低資源の車の販売はもちろん、「試乗DE募金」を通じての社会貢献を行うとともに、その一環として障害者雇用を位置付け、法定雇用率以上の人数の確保は当然だが、より良い障害者の雇用環境の改善に努めていく。お客様との対応が必要な部署での活躍も現在の状態が続くようであれば十分可能であると考えており、A君の希望が実現できるように支援していきたい。

来年度は下肢に障害のある人の採用予定がある。今回の難治性疾患患者の雇用の経験を生かし、将来的には知的障害・精神障害者の雇用まで範囲を広げていきたいと考えている。車好きの知的障害者が車の清掃で1台ずつピカピカに磨き上げているなどの例も聞いているので、参考にしながら障害者の雇用の拡大を図っていきたい。

執筆者：社会保険労務士丹治事務所
所長　丹治　勧