“就業可能な障害者はたくさんいます” (就業希望の施設利用者を職員として積極的に採用)
- 事業所名
- 社会福祉法人 佑啓会 (ふる里学舎、ふる里学舎静風荘)(法人番号 4-0400-0500-9087)
- 所在地
- 千葉県市原市
- 事業内容
- 障害者支援施設(施設入所支援、生活・就業支援)
- 従業員数
- 全社: 360名 (当該事業所: 78名)
- うち障害者数
- 全社: 9名 (当該事業所: 5名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 身体障害者の生活支援、調理職等 内部障害 1 本部事務職 知的障害 6 身体障害者の生活支援、厨房補助職 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 計 9 - ■本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
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事業所外観
1.事業所の概要
「ふる里学舎」は千葉県市原市に本部を置き、平成4(1992)年「佑啓会」として法人認可、翌平成5(1993)年、知的障害者入所更生施設「ふる里学舎」(定員60名)として開所したのが始まりである。入所事業所(施設入所支援・生活介護)、通所系事業所(生活介護・就労移行・継続支援B型・放課後等デイサービス等)、居宅介護事業所及びふる里学舎地域生活支援センター(障害者就業・生活支援センター)などを行っており、その他にも総計80にわたる障害児・障害者のための各種事業を、房総半島と東京都区内にある10か所の直営施設と4か所の受託施設で展開している。
その多くが知的障害者のための施設であるが、唯一身体障害者を中心とした施設入所支援・生活介護施設である「ふる里学舎静風荘」(定員80名)を、「ふる里学舎」と同じ敷地内で平成23年7月にオープンした。これは、身体障害者療護施設「県立鶴舞荘」の事業廃止に伴い、それまでの施設機能を引き継ぐ形で当時の入所者67名を受け入れたものである。
「ふる里学舎静風荘」は、館山自動車道に接する緑豊かな高台4万1千坪の広大な敷地の一角5千9百坪を占め、全室個室、各階に食堂・浴室を完備した、建築面積732坪、自然環境に恵まれたRC総2階建ての美しい建物である。エレベーターを2機設置しており、各階に移動しなくても生活できるようになっていて、ゆったりとして機能性の高い施設になっている。職員体制は、施設長(管理者)以下、サービス管理責任者(2名)、生活支援員51名(内パート勤務28名)、看護師6名(内パート勤務2名)、理学療法士1名、栄養士1名、調理員12名(内パート勤務9名)で、パート勤務者の一部に障害者5名が含まれている。
2.障害者雇用の経緯
当法人が自らの障害者雇用に取り組むようになったのは、障害者雇用納付金制度の対象企業になる前からである。
障害者の就労支援施設を有する当法人にとって、訓練を経て就労可能になった施設利用者は開所当時から積極的に地域の企業に送り出してきた。しかし、作業面は就労レベルにあるものの、金銭管理の困難さや収集癖があるなど生活面や障害特性上、「外部の企業に就業することが難しい」と思われる利用者もおり、課題となっていた。
そこで、ある程度障害に対する理解のある法人内で雇用してみようということになり、まずは知的障害者(重度判定あり、男性)を「ふる里学舎」の厨房に調理職として採用することから始めた。平成13(2001)年のことである。平成20(2008)年にも同じ調理職として知的障害者(重度判定あり、女性)を同じ職場に採用している。なお現在「ふる里学舎」で事務職およびグループホームの世話役として勤務している身体障害者2名は外部からの採用である。しかし、「ふる里学舎」で採用できる人数に限りがあった。
ところが、平成23(2011)年「ふる里学舎静風荘」のオープンによってこうした状況に転機が訪れた。身体障害者施設である「ふる里学舎静風荘」の職員として知的障害者を採用し、介護の仕事に職域を拡げることで、上手くジョブマッチングができ、障害者雇用を進められるようになった。
「ふる里学舎静風荘」では5名の障害者を雇用しているが、平成22(2010)年10月に厨房補助職として21歳の男性1名(Aさん)、平成23(2011)年12月に介護職として男性2名(Bさん、Cさん)、平成26(2014)年3月には女性1名(Dさん)を掃除中心の介助職として採用した。なお残る1名は、一般企業で定年退職となった身体障害のある男性であり、入浴介助を除く一般介護職として平成26(2014)年2月にハローワークを通じて採用した。
3.取組の内容
当法人が障害者を職員として雇用するにあたって全職員に徹底していることが一つある。それは「障害のある職員を特別扱いしない」ということである。職員は彼らが障害者であることを十二分に承知しているので、彼らに対して自然体で接しており、特に知的障害者が不得手とする「コミュニケーションの取り方」については職員個々人が要領を心得ていて、意思疎通について特段の支障は無い。ただし、「知的障害のある職員自身が施設利用者やお客様に対しての挨拶や言葉使いが雑になる」ことを懸念しており、そうしたことの無いよう、配属当初は責任者を付けてOJTを実施し、その後は組織上も特定の担当者を付けることなく全員で目を配るようにしている。また、接遇研修やミーティングなどの機会は勿論のこと、懇親会など非公式な行事についても必ず声を掛けるようにしている。その他、通院を必要とする場合や通勤途中の事故防止には、一人ひとりに対して個別の配慮を行っている。
また、業務については、一度に多くのことを学ばせることはせず、「一つのことを覚えたら次の一つを教える」といった具合に、知的障害のある職員個々人の特性に合わせた無理の無い指導方式を採っている。一例を挙げると、主として個室の掃除を担当している介護職員(Dさん)には、個室ごとの清掃作業項目(挨拶、洗面台、床モップ掛け、ゴミ箱、ペーパー補充等)を記したチェック表を渡し、当該作業が済んだらその都度チェックを入れることで漏れの無いように指導している。そうした個別対応の指導方式は、個人の能力によって到達目標や指導に要する期間に大きな差が出てくるが、「それも個人の特性」として割り切っている。
知的障害のある職員に会って直接話を聞いてみると、各人それぞれに努力していて、例えば厨房補助職(Aさん)であれば、洗った食器を乾いた布巾で拭き取る作業で、食器を落とさないよう常に意識を向けていたり、介護職(Dさん)であれば、食事の介助の際、利用者の呼吸や口の動きに合わせることに注意を払ったりしている。そうした努力に対して周囲の職員は、「決して急がせたりせず、たとえ失敗しても分かるように説明する」「うまくいったら褒めることが彼らを成長させる秘訣である」としている。
そのように周囲の職員が障害のある職員に対して共通した認識を持っているのは、誰もが彼らを同僚として自然と認めているからである。またその前提として、知的障害のある職員の数が多過ぎず、適度なバランスを保っているからであるように思われる。特に、若い職員(Aさん)は職場のマスコットのように可愛がられている。
厨房補助職のAさん
4.取組の効果と今後の展望
これまでに紹介してきた「ふる里学舎静風荘」の5名の全員が配属した職場に定着しており、それぞれが各職場にとって「欠けがえのない存在」になっていることからして、当法人がこれまでに行ってきた試みは非常にうまくいっていると言える。知的障害のある職員が成長し、こなせる仕事の領域も徐々に拡大して現在も進行中である。
また、そうした背景には「知的障害のある職員との共同作業を行うための工夫」が随所にみられる。例えば、若いが最も勤務の長い厨房補助職のAさんは、今では食器の洗浄のみならず、「料理の盛り付け」「出来た料理の配膳車への配置」「配膳車を駆動しての作業者への配膳作業」まで手伝えるようになっている。身体障害者用の献立は個々人の健康状態に応じて異なるため一律ではなく、トレー(料理)や配膳の場所を間違えるとトラブルが発生するので、名札が置いてある位置にその利用者のトレー(料理)を正しくセットしなければならない。そのため、配膳担当の一般職は、こうした作業をAさんが間違いなく行えるよう、「当該料理を必要としない利用者の名札を予め配膳車の所定の位置から外しておく」など、共同作業のための簡単な取り決めをAさんと交わしている。
このように、知的障害者の雇用については当法人に一日の長がみられるものの、「ふる里学舎静風荘」での雇用は概ね適正人数と思われる。当法人は東京都内から房総半島まで多くの事業所があるため、業務の切り出しなども含めて今後の障害者雇用の拡がりについてより一層進めてほしいところである。
さらに、平成30(2018)年度には、障害者法定雇用率の算定基礎に精神障害者が加わり、障害者法定雇用率も現在の2.0%から上がることが予想される。今後は精神障害者や発達障害者の雇用も視野に入れていく必要性も感じている。
5.障害者雇用を進める企業へのアドバイス
ふる里学舎地域生活支援センター(障害者就業・生活支援センター)の職員にも話を聞いたところ、「ハローワークの求人票をみると、その企業が障害者雇用を『真剣に』考えているかどうかが判る」と言う。「いつまで経っても同じ求人票を出している企業は、障害者に期待している業務が不明確で、企業側の努力があまり窺えないと感じる。自社業務に合ういい人を待っているだけでそもそも障害者を積極的に雇用するつもりは無く、ハローワークに求人票を出すことによって、『障害者雇用に取り組んでいる』というポーズを示しているだけなのではないか」という投げ掛けである。
その裏には、「真剣に考えれば、障害者を雇用できる仕事はどんな企業にも何かしらある」という強い信念が当法人にはあり、企業は「そのような仕事に付加価値が無いからと言って、全部外部委託にしてしまうことで障害者を雇用できる場を自ら無くしている」という意味なのである。
また、「企業には『障害者雇用は怖い』、『障害者雇用は危険(リスク)を伴う』という先入観がある」と言う。しかし当法人は、障害者雇用がうまくいくかどうかは「障害者とその企業とのマッチングの問題」であって、「そうしたリスクは事前の検討や準備によって回避できる」と考えている。
長年知的障害者に接してきた当法人からすると、「就業可能な障害者はたくさんいるもの」との見解を持っており、また、「職場の様子が分かれば、障害者がその企業でやっていけるかどうか察しがつく」とも言う。したがって企業としては、「初めから障害者雇用を諦めないで、先ずはできるところからトライしてみる」ことが重要であり、そして、そのためにも「障害者を知るため、障害者雇用を積極的にしている企業を見学してほしい。どこを見学すれば良いか分からなければ、障害者就業・生活支援センター(通称ナカポツセンター)に気軽に声をかけてほしい」とのことであった。
執筆者:千葉支部 高齢・障害者業務課
高年齢者雇用アドバイザー 新井将平
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