社員・家族の幸せを第一に考え企業風土の中にあって 障害者雇用にも積極的に取り組んでいる企業
- 事業所名
- 株式会社 古田土経営((株)こだとけいえい)(法人番号 7011701007078)
- 所在地
- 東京都江戸川区
- 事業内容
- 会計事務所・社会保険労務士事務所
- 従業員数
- 180名(正社員130名、パート50名)
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 書類整理・シュレッダー・切手整理 精神障害 3 データ入力 発達障害 高次脳機能障害 難病 1 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害
- 目次
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㈱古田土経営入居ビル(1~3階が当社)
3階執務室風景
1.事業所概要・経営理念・障害者雇用の経緯と推移
(1)事業所の概要
昭和58(1983)年1月11日に現代表の古田土 満氏が個人で会計事務所を開業して以来、一貫して中小企業を対象とした経営指導・アドバイスに重点を置いた経営方針により事業展開を行い、平成24(2012)年7月には税理士法人となり、現在では顧問先2,100社を抱える、本邦有数の会計事務所に発展してきた。
当社の他に、グループ企業として、税理士法人古田土会計と社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティングがあるが、当社は両社の母体企業である。
(2)経営理念・障害者雇用の経緯と推移・基本方針
当社は、社員一人ひとりが輝くことにより、会社の評判がよくなり、口コミでお客様が増える、こんな会社になりたいと思っている。
1 社員の幸せを追求し、人間性を高める
- 一生あなたと家族を守る(会社が全従業員に約束します)
- よい習慣を身につける
- 常に考え行動する
2 お客様に喜ばれ、感謝される
- 原理・原則にのっとった正しい経営をするように導く
- 数字に強い経営者・幹部・社員を育てる
(3)障害者雇用の経緯と推移
ア 知的障害者の採用
当社では、良い社風は、①社員満足、②お客様満足、そして③社会貢献によって創られると考えていた。その社会貢献の一環として、以前より、障害者雇用の必要性は認識し、当社経営計画書の長期事業構想にも「障害者雇用に取り組み社会に貢献する」と明記もしていた。
しかし、会計事務所として障害者雇用は難しいのではという概念にとらわれ、積極的なアプローチには至らなかった。むしろ、「社員・家族を第一」との経営理念と社会貢献ということでは、女性活躍や母子家庭の社員採用面に力点を置いた対応となっていた。
また並行して、企業としての体力をつけることが障害者やパート社員の安定した雇用確保の上でも重要であることから、内部留保の確保に努め、企業体力の充実を図ってきた。
そのような状況の中、顧問先のお客様からDMの封入作業について、地元の授産施設を紹介された。
当社としては、多少不安もあったが、思い切ってDM封入業務をその授産施設へ切り替えてみたところ、ミスもなくまったく問題なく処理を行ってくれたことから、この授産施設にDM封入業務を切り変えることにした。今日でもこの授産施設へお願いしている。
このような出会いの中で、この授産施設から重度の知的障害者A君の推薦があった。当時は知的障害者の雇用については、まったくの未経験でもあり、当社の業務に馴染むのかも不安があったが、授産施設の指導員や支援機関の担当者が「A君は大丈夫です。私たちが慣れるまで毎日でもサポートに参ります。」と非常に熱心に推薦をしてくれたので、社長の決断でA君の採用を決定した経緯がある。この採用された知的障害のあるA君は、採用後一日も休まず出勤した。また当時、支援機関の担当者の方も頻繁に当社に来てA君のサポートやフォローを行ってくれた。
現在、A君は、職務としては機密書類のシュレッダーやお客様からお預かりした領収書のファイリング、給与明細の封入作業、切手の整理等を行っている。今ではすっかり当社に馴染み、皆から慕われる存在となっている。
A君が当社に馴染んだ大きな要因としては、「サンクスカード」(感謝の気持ちを社員がお互いに交換するカード)があり、皆が「ありがとう」の言葉を寄せてくれることが、励みになり、当社の環境がA君にフィットしているのだと思われる。
イ 精神障害者の採用
その後、平成24(2012)年に東京都の「オーダーメイド型障害者雇用サポート事業」で精神障害者の雇用について支援を受けた。当社としては、精神障害者の雇用は初めてであり、どのような対応をして良いかも判らず大変迷ったが、実習・トライアル雇用を経てこの人なら大丈夫だろうということで、初めて精神障害者の採用に踏み切った。
採用後は、まず既存社員の理解を得ることに力点を置き、頻繁に社内勉強会を開催した。精神障害の内容や特性、留意すべき点等について、専門家に来ていただき継続的に社内勉強会を開催した。併せて、採用した社員には「配慮はするが、区別はしない」という基本スタンスは伝え、やるべき仕事はしっかりやってもらうことを念押しした。
その結果、当初予想していた不安は全く問題なく解消され、むしろ従来山積していた仕事をこの社員が正確に処理してくれたことから、既存社員からも大変喜ばれ、当社の戦力として会社に溶け込んでくれた。このときも、役に立ったツールがやはり「サンクスカード」であった。既存社員からこの精神障害のある社員に感謝の気持ちが伝えられたことが、社員同士が融合できた大きな要因になったと思われる。
このような取組が評価され、平成26(2014)年度に厚生労働省より精神障害者等雇用優良企業の、東京都より障害者雇用優良企業の認証をそれぞれ受けた。
なお、失敗事例としては、その後に採用した二人目の精神障害のある社員が、実は1か月半程度で退職してしまったということがあった。この社員の採用に際しては、支援機関の方に「日頃お世話になっている」という理由で採用してしまった。何かあっても最終的には支援機関の方に頼ればいいという気持ちがあったと思う。冷静に振り返ると、その方は症状が安定しておらず、就労の準備が整っていなかったと思う。その方を採用段階でしっかり見極めずに入社させてしまったときの経験は現在も大いに教訓になっている。
(4)基本方針
当社は、障害者雇用については、従来から障害の種別や程度には拘っていない。当社はバリアフリーになっており、身体障害者でも就労可能な環境にある。たまたま、今まで知的・精神障害者の紹介が多かっただけであり、身体障害者・聴覚障害者等でも当社職務に合った方がいれば積極採用を考えている。
経営理念・障害者雇用について、熱心に語る
左から、吉田専務・十河リーダー・伊藤社員2.取組の内容
(1)採用(紹介)ルート等
先に述べたように、当社はハローワークを通じての申込みというよりは、支援機関からの紹介により、面接・実習という採用方法が主流である。また、グループ企業合同の会社説明会の開催⇒職場実習⇒面接による見極めという採用方法も併せて実施している。
(2)採用後の対応(配慮)
ア.配属(配置)場所
当社は、2階フロアと3階フロアが執務室であるが、2階はお客様の出入りが頻繁であり、会議室も集中しているため、日中は「ザワザワ」感があることから、精神障害のある社員の中には体調を崩す社員が過去発生してしまった。以前採用した精神障害者の中に「自分の悪口を言っている・・・」等の妄想でてしまい、残念ながら退職となってしまったことがある。
そこで、現在は障害のある社員は執務室が静かな3階フロアで業務を行うこととし、その社員の後ろを他の社員が通らない配置としている。ただし、孤立した配置ではなく、同じチームとして同じ島で分け隔てはしていない。
イ.職務内容
精神障害者のある社員については、サポート課所属でデータ入力が主業務である。データ入力は、顧客の月次決算書や経営計画書の基礎となるものであり、正確性を求められる大変重要な職務である。
月次決算書と経営計画書
そこで、このデータ入力に際しては、当社の会計担当からサポート課に回付するに際し、添え状に依頼内容を色分けして分かりやすくし、入力箇所・数字の過誤が無いような形にしている。これも合理的配慮の一つと考える。
インプット時に添付される添え状
3.障害者(精神障害者保健福祉手帳保持者)である社員の声
3年半前に入社した伊藤 勇男さんから当社での就労に関して以下のようなコメントをいただいた。
「私は、この会社に来る前は、他の一般企業で働いていました。その会社も良い点は多々ありましたが、この会社に就職して働く意欲と言いましょうか、充実感があるのです。
皆さんが来られるとびっくりされると思いますが、当社は社員皆の挨拶が徹底しています。入社した当初は毎日の挨拶練習に少し戸惑いましたが、しばらくして、この毎日の挨拶練習や会社のビジョン・理念の確認などは決して形骸化しておらず、皆が本気で取り組んでいることが肌で感じられました。会社の目的のために社員が本当に毎日心から真剣に取り組んでいることが分かったのです。
そして、社風が私に合っていると思います。例えば、サンクスカードでお互い社員同士の感謝の気持ちを伝えること等によって、コミュニケーションが大変良くなっています。また、障害についても社員皆さんが理解してくれていて、体調が悪い時は周囲が配慮してくれます。今はあまり体調を崩すことはなくなりました。
当社は、本人の能力を正当に評価してくれ、責任ある仕事も任せてくれます。現在私はマネジメント業務も任され、責任とやり甲斐をとても感じています。職場の人間関係の悩みはありません。多少プライベートで悩んでも、会社に来ると元気になります。」
入力作業中の伊藤さん
4.取組の効果、課題と今後の展望
当社の経営理念が定着するまでは、退職者も多かった時期があったが、経営理念の基本根本精神の「社員・家族の幸せ」を追求し会社運営をひたむきに実行してきた結果、価値観を共有してくれる社員が増えてきて今日では会社全体の定着率も良好となり、かつ障害のある社員もその特性を存分に生かし、職務に積極的に取り組み自立した職業生活を送っている。
更には、既存顧問先からの当社経営方針の口コミにより、新規の顧問先も年間180社ペースで増加している。
業界から当社の経営ノウハウの伝授の依頼や、多数の企業から視察の申出が殺到している。
当社としては、中小企業経営の範となるべく引き続き経営理念に則り、かつ自社の企業基盤も盤石にしていきながら、障害者雇用にも積極的に取り組んでいく。当社は日本の中小企業の皆様の手本となれるような会社を目指している。
当社に寄せられた、お客様からの感謝の手紙等
今後は、障害のある社員も10人と拡大を図り、併せて、女性パート社員の雇用も拡大し生産性を上げ、いわゆるマイノリティ(社会的少数派)である社員(障害者・パート等)の処遇改善にも積極的に取り組んでいきたいと考えている。
例えば、障害者やパート社員、高齢者、母子家庭の社員のより自立した職業生活向上のためにも、事業部制にしたり、別会社を設立するなどして生産性の向上を図り、今以上にそこで働く障害者・パート社員等の処遇改善も検討していきたい。そして、「この会社で働いて良かった」と皆が思ってくれる会社を目指したい。
5.その他当社の取組等
(1)社員の福利厚生面
- 新入社員には「親孝行制度」というものを設けている。旅費は会社持ちでゴールデンウィークに帰省させ、業務命令として親孝行する。
- 社員旅行として、年に一度海外と国内を交互に旅行している。
- 毎年4月に全従業員(パートも含む)とその家族でディズニーランドに行っている。
- 制度休暇としては「結婚記念日」休暇を設けており、結婚記念日には、家族との触れ合いを大事にすることを奨励している。
- 8月にファミリーデーを開催し、社員の子供たちを職場に招く。古田土版キッザニアで職場体験をしてもらう。
- その他、各種支援制度がある。
(2)社会貢献・地域貢献
毎週火・水・木曜日の朝は、東西線西葛西の駅前から当社事務所まで、社員全員で清掃を行っている。また、毎年利益の1%を障害者施設をはじめ、海外の救援団体等に寄付を行っている。さらに年に一度、各社員に『一番大事に思っている人』を申告してもらい、社会福祉法人太陽の丘福祉会(仙台市にある授産施設)に依頼し会社の費用負担でその方々に花束を送っている。社員の家族からも喜ばれ、障害者の自立自己実現のお手伝いを行っている。
執筆者:一般社団法人障害者雇用企業支援協会 障害者雇用企業相談室
障害者雇用アドバイザー 手嶋 清澄
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