事業所外観

1.事業所の概要

当社は平成16（2004）年8月に創業した美容全般を取り扱う美容院であり、河北郡津幡町と、隣接するかほく市と合わせて2店舗運営している。社員数は2店舗で合計8名（正社員3名、パート社員5名）となるが、全員が美容師の有資格者である。

両店とも金沢市郊外のショッピングセンターの一角に立地し店舗へのアクセスは容易であるが、利便性に甘んじることなく、業界の競争が激しい中、従業員は日々美容技術の研鑽に努めている。

2.雇用に至った経緯

対象者Aさんは、平成26（2014）年9月、当社がハローワークで美容師を募集していたところ、一般の求人に応募してきたものである。採用面接において、Aさんから自身の病気について申告があり、採用された場合は、病気のために休むことがあるかもしれないとの話もあった。

当社としては、人手不足という実情もあったが、Aさんのこれまでの美容師としての経歴のほか、面接で本人のやる気溢れる姿勢が充分に感じられたため採用を決定した。なお、雇入れに当たって医療機関や難病相談・支援センター等関係機関に相談したことはないが、病気については随時本人に確認しながら、必要な配慮を行っていくこととした。また、雇入れ時に石川県の障害者職場実習制度やハローワークのトライアル雇用制度など雇用支援制度も特に利用していない。

3.取組の内容

（1）Aさんの背景

Aさんの病気は再生不良性貧血である。当該病気は国で難病に指定されているが、日頃熱心に仕事に取り組んでいる姿勢からは、Aさんが難病患者であることはあまり感じられない。しかし、体調不良による早退や休務の申し出には随時対応している。

Aさん就労風景

（2）Aさんの仕事内容

Aさんは他の社員同様、美容師の有資格者であり、当社に入社以前も美容師としての勤務経験を有している。

現在30歳代後半のAさんに対して、当社ではこれまでの　美容師としてのキャリアを活かした質の高いサービスの提供を求めているが、他の社員に勝るとも劣らない仕事ぶりに、会社としてはいつまでも元気に働き続けてほしいと考えている。

（3）雇用管理における留意点

【雇用形態について】

当社では、勤務時間は正社員が9時から19時までであるのに対し、パート社員は正社員よりも勤務時間が短く、休日は正社員が法定休日のほか隔週で1日であるのに対し、パート社員は前述の休日のほかにも自身の都合に合わせて休日を設定でき、平均すると正社員よりも月当たり2～3日休日が多くなり、ほぼ週休2日となっている。

Aさんはパート社員で勤務時間は9時～17時と正社員に比べ短く、残業もしていない。パート社員の勤務シフトは前月中に社員から休日の希望を出してもらっている。Aさんの病気では平均月1回の定期的な通院が必要とのことであるが、翌月の勤務シフト策定時に通院日を含めて休日希望を提出していることから、これまで本人から改めて通院のための休日の申し出を受けたことはない。

【健康管理の確認】

当社では、Aさんの病気について他の社員には周知していないが、あえて周知しなくとも従業員同士のコミュニケーションをしっかり取りながら仕事を進めている。

Aさんは入社後、一度だけ元々の病気とは別の体調悪化により入院を余儀なくされ、約2週間休職した時期があったが、休職期間中も社内のチームワークで乗り切った。

会社としては、Aさんを含む全員にできるだけ長く勤めてもらいたいと思っていることから、Aさんに限らず、社員に対しては日頃から声を掛けるようにしている。

その中で、これまでに勤務時間中に体調を崩し仕事に支障をきたしたことはほとんどないが、Aさんに対しては、特に体調面において顔色が優れないときなどは早退や休憩を勧めている。

難病である再生不良性貧血の症状は見た目での判断が難しいことから、健康状態を必ず本人に確認することが大切であることを踏まえ、今後もAさんに対する声掛けをこれまで以上に意識して取り組んでいきたいと考えている。

【勤務時間中の配慮】

Aさんはとにかく仕事熱心であり、顧客から指名を受けることもあるほか、例えば翌月のシフトを組むときに特定の日に休日希望が集中した場合は自分が他の社員に休日を譲るほどである。当社では、Aさんが難病患者であることを理由とした特別扱いはしていないが、難病については常に留意する必要があると考えている。

当社では、Aさんを採用するよりも前から、社員が意見を出しやすい雰囲気づくりに努めているため、特にAさんに対する配慮として特筆するような事例は少ないかもしれないが、常に健康状態を把握し体調不良時には早退を促したり、本人から一時的な休息を求められたときは店内の着付け室を休憩スペースとして利用してもらったりしている。そのほか、勤務時間中においては、複数の顧客を掛け持ちさせないようにするなど精神的・体力的な負担の軽減にも努めている。

なお、雇入れ時同様、雇入れ後においても、Aさんの病気について医療機関などに相談したことはない。今後、当社から関係機関に相談することがあるか否かは分からないが、まずはAさんとの話し合いを大事にしていきたいと考えている。

一時的休息に利用する着付け室

4．今後の展望

Aさんを採用した経緯については前述のとおりであるが、実情としては、障害者雇用を理解した上でというよりは、意欲と能力を有するAさんが、たまたま難病を有していたという側面の方が大きい。しかし、今後においても、当社への求職者が障害や病気を有していたとしても、やる気に溢れ、会社の配慮によりその能力を発揮できるということであれば、Aさん同様、障害や病気の内容・程度を問わず、採用していく考えである。

執筆者：独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
石川支部　高齢・障害者業務課長　大原　秀洋