体調管理等のきめ細やかな配慮により雇用継続が図られている事例
- 事業所名
- 有限会社明峰(デイサービスひかり)(法人番号 4090002010407)
- 所在地
- 山梨県南都留郡西桂町
- 事業内容
- 介護事業(老人デイサービスセンターの運営)
- 従業員数
- 7名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 1 厨房業務 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 難病(全身性エリテマトーデス)
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
平成18(2006)年に介護事業を行う「デイサービスひかり(小規模介護事業所:定員10名)」を山梨県南都留郡西桂町に起ち上げ、現在に至る。
平成29(2017)年には事業の拡充(定員の増等)を計画しており、食事の提供に関する厨房業務のあり方(配食センター等を設け、集中的に当該業務を行うか否かなど)等、現在その詳細について検討しているところである。
なお、現在当事業所に雇用されている障害者は1名(以下、「Aさん」という。)であり、以後の記述は、全てAさんに関するものである。
(2)障害者雇用の経緯
平成26(2014)年7月に、それまで厨房業務を担当していた職員が急遽退職してしまったため、急ぎ管轄のハローワークに求人募集を出した。
その時点では、障害者雇用を前提としていたわけではなく、障害の有無にかかわらず、当該厨房業務を担うことが可能な者を早急に雇用したいとの思いであった。
2.取組の内容と効果
(1)取組の内容
ア 募集・採用
前述のとおり、管轄のハローワークに求人募集を出していたところ、同ハローワークから、予め難病(全身性エリテマトーデス)を有する者であることを説明された上で、当事業所はAさんの紹介を受けた。
当時、当事業所においては、難病の具体的な症状に関して全く予備知識等がなかったため、事前に調べたりはしたものの、その症状は人によってまちまちで、多岐にわたるということが分かったのみであった。
その後、Aさん本人と面談し直接聞き取りを行い、体調管理等に関して配慮すべき点等(後述)を確認・把握するとともに、Aさんに担ってもらうこととなる厨房業務について、当事業所においては利用者に提供する食事のうち主菜・副菜については他の専門業者の調理する惣菜等を利用しているため、重労働の業務が生ずることはないことなどを説明し、本人に了解・同意を得た上で、採用することとなった。
なお、Aさんの採用(雇用)に当たっては、国の助成金である「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金」を活用した。
イ 障害者の業務・職場配置
- (ア)
- 業務内容
Aさんの主たる業務内容は次のとおりである。
- 利用者に提供する毎月の食事メニューの作成
- インターネットによる主菜
- 副菜の発注及びその他の食材等の仕入れ
- 炊飯、汁物及び簡単な副菜(酢の物や冷奴など)の調理
- 盛付け(利用者の食事状況により食材の形態やサイズを変更することも含む)及び配膳
- 後片付け(利用者の食事状況の観察・把握及び他の施設介護員との情報連携・情報共有を含む)
- (イ)
- 勤務時間等
週5日~6日のシフト制勤務で、1日の勤務時間は9時から14時まで(休憩なし)の5時間勤務としている。シフトや勤務時間は、Aさん本人の意向を踏まえて設定し、月に一度の遠方までの通院日程の確保を始め体調の管理に配慮している。
なお、Aさんが休日の日は、当事業所の代表取締役である松川氏が厨房業務を担当している。(当事業所の創業時は、松川氏が一人で当該業務を行っており、現在Aさんが参照・使用している当該業務のマニュアルも松川氏が作成したものである。)
- (ウ)
- 業務遂行上及び労務管理上の工夫
- ○
- 勤務時間について
当事業所の始業時刻は8時30分であるが、Aさんの出勤時刻を30分遅くすることで、当該始業時刻から当該出勤時刻までの間(30分間)に、Aさんの就労場所の室温を適温にするなど、Aさんの体調維持に配慮している。
- ○
- Aさんより申告された症状とそれに対する取組
採用時等においてAさん本人より聞き取りを行うなかで申告された症状・配慮してほしい事項は以下のとおりである。
- 寒さが体調に影響しやすいこと。
- 直射日光を浴びることにより皮膚疾患が起こることがあること。
- 微熱が続くことがあること。
- 立ちっぱなしの仕事はつらい場合があること。
上記配慮事項に対して、当事業所としては、体調等についてはAさん本人でないと分からないことが多々あるため、日頃の健康管理・体調管理はしっかりと自分で行ってもらうことを基本としつつ、具合が悪いときには、すぐに休憩をとったり早退することも可能であることをAさんに十分説明するとともに、併せて以下の取組を実施している。
- 利用者が使用していないときは、Aさんに「利用者用静養室」の使用を許可すること。
- 室温調整が可能となるよう、厨房内に冷暖房設備(エアコン)を設置すること。
- Aさんの出勤前には厨房の冷暖房設備(エアコン)を稼動させ、室温を適温に調整しておくこと(前述)。
- ○
- 事業所の他の職員への周知と理解の醸成
難病の症状と、それに伴う職場での配慮事項等については、Aさんを採用する段階等において、当事業所より他の同僚職員全員に対しすべからく周知されており、そのことにより当該職員間で十分な理解が醸成され、Aさんは日頃から安心して働くことができている。
厨房業務(後片付け)の様子
(2)取組の効果
上記取組により、当事業所及びAさん双方にとって、ともに望ましい、いわゆる“Win-Win”雇用・就業関係が構築されている。
以下、当事業所及びAさん本人の声をそれぞれご紹介する。ア 事業所の声
「Aさんはパソコンやインターネット関係の業務も対応できるので、それらを利用した発注業務等も任せることができ、大いに助かっている。仕事も大変頑張ってくれているので、処遇面や勤務条件面等において何らかの形で応えていきたいと考えているところであるが、人手が不足している現状下、なかなかすぐに対応するのが困難であり、悩ましいところである。今後、当事業所の事業を拡充することを考えていて、現在Aさんが担っている厨房業務部門にも新たに人を雇うことを想定しているが、その際にはAさんに新人の教育・指導を担当してもらいたいと考えている。」
イ Aさん本人の声
「結婚を機に当地に引っ越してきたばかりであったため、人と関わっていたいという思いが強くあり、家にいるよりは・・・と就職先を探していたところ、ハローワークで当事業所の求人募集を見付けた。元々料理が好きだったので、やってみたいと思った。日頃、事業所からは「疲れたときには『利用者用静養室(空いている場合)』で、いつでも休憩して構わない」と言われている。おかげさまで、就職してからの約2年間、大きな体調の変化もなく、毎日楽しく勤務できている。」
3.今後の課題と展望
今後の当事業所における障害者雇用に係る課題と展望について、当事業所の代表取締役である松川氏は以下のように語っている。
「働ける人ならどんな人でも受け入れたいという気持ちはあるが、デイサービスの利用者は、過去の仕事や生活も違えば、現在の状況も独居又は同居と、その生活環境は様々である。また、同居であっても家族と仲良くやっている人もいれば、家族内で別居状態の人もいたりするため、介護を受ける一人ひとりへの言葉遣いや対応には十分な気遣いを行う必要がある。以前、自閉症の人を実習で受け入れたことがあるが適応するのが難しかった。この仕事は、介護される人の個々の特性にきめ細かく対応しながら意思の疎通を図ることができることが前提となるため、なかなか全ての障害者を雇い入れるのは難しいというのが正直なところである。当事業所では全ての職員が、サービス業として『介護させていただいている』との基本理念に立ちこの仕事(介護事業)に従事しており、中途半端なことはできないと考えている。」と、当事業所における障害者雇用における課題等を述べる一方、「難病は、私たちが理解できていない症状等も多く、まずは本人からの情報に真摯に耳を傾け、その上で可能な限り本人の希望・要望等を聞き入れるということが何よりも大切である。また、施設・設備などのハード面だけでなく、急な体調不良等で本人が勤務できない場合であっても、フォローアップできる体制を作ることが極めて重要だと思っている。」とも述べ、今後の当事業所における障害者雇用の展望を力強く語っている。
老人デイサービスセンターの運営は、様々な生活環境の人々を一所に集めて介護サービスを提供するものである。それゆえ、隅々にまで行き届いた気配りと、介護される人それぞれの様々なニーズを満たすための多大な努力が必要とされ、当事業所では、職員一人ひとりが日々こういった努力を積み重ねるとともに、介護事業に対する強い信念をもって業務に当たっている。
当事業所に勤務するAさんは、当事業所の利用者と直接やり取りをする立場にはないものの、他の同僚職員とも楽しく仕事をしていることが伝わってくるような場面が見られ、笑顔も印象的であった。Aさん本人は「私は難病といっても症状が軽いので・・・」と話していたが、事業所としてのきめ細かな取組が、Aさんに笑顔(安心感)をもたらしているのだと感じさせられる好事例である。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
山梨支部 高齢・障害者業務課長 加藤 宣宏
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