難治性疾患患者(IgA腎症)の雇用事例
- 事業所名
- 特定医療法人 録三会(法人番号 7200005007055)
- 所在地
- 岐阜県美濃加茂市
- 事業内容
- 地域密着型の医療・看護・介護施設の運営
- 従業員数
- 351名(内パート:104名)
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 事務職(右半身麻痺) 内部障害 1 看護師(心疾患) 知的障害 2 介護関連業務(洗濯、掃除等) 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 1 相談員 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 難病(IgA腎症)
- 目次
-
事業所外観 (中部台ケアセンター)
1.事業所の概要
(1)設立
昭和20(1945)年11月岐阜県中濃地域の美濃加茂市に30床の個人病院として開院。美濃加茂市、加茂郡を中心に地域密着型医療を目指す中で、急性期からポストアキュート(急性期経過後に引き続き入院医療を要する状態)、慢性期、在宅医療、介護までの一貫したサービスを提供し、めまぐるしく変化する医療・介護情勢に対応したより良い医療・介護を提供している。
- ア
- 医療事業:太田メディカルクリニック、太田病院
太田メディカルクリニックでは外来診療を行っている。外科・内科・整形外科・循環器内科・消化器内科・糖尿病内科・内視鏡内科・脂質代謝内科・脳神経外科・消化器外科・乳腺外科・肛門外科・皮膚科・泌尿器科・リハビリテーション科・リウマチ科・アレルギー科・小児科・血管外科の計19科目を配置。太田病院では入院・救急外来の受入れを行っている。一般病棟(7:1看護体制)、療養病棟、地域包括ケア病棟のケアミックス型としての病院機能を持つ。
- イ
- 介護施設:介護老人保健施設(中部台ケアセンター)、介護付有料老人ホーム(更紗)、小山ディサービス(和)
- ウ
- 在宅支援サービス事業:訪問看護ステーション(つるかめ)、居宅介護支援事業所、訪問介護ステーション(ウイズ)
- エ
- 美濃加茂市受託事業:美濃加茂市中部長寿支援センター
(2)理念
- ア
- 法人の理念
私たちは、いかなる時でも、医療・看護・介護の質の向上とその継続に努め、地域に貢献します。
- イ
- 医療(クリニック、病院)の理念
- 私たちは、地域の皆様に愛され、信頼にたる知識技術を持つ、安心できる施設つくりに努めます。
- 私たちは、向上心と責任感を持ち、常に質の高いチーム医療を行い、心のこもったサービスが提供できるように心がけます。(社会への貢献)
- 私たちは、患者様の人格を尊重し、常に笑顔を絶やさず、明るい挨拶で接します。
- ウ
- 介護(中部台ケアセンター・更紗・和・在宅部門)の理念
- 家庭的な雰囲気の中で、自立に向けてリハビリテーションを提供します。
- 至れり尽くせりのケアではなく、働く人と共に寄り添い、ゆったりとした生活を楽しんでいただきます。
2.雇用の経緯及び採用方法
(1)雇用の経緯
超高齢社会を迎えますます看護・介護の需要が高まる中で、看護・介護業務は3Kの代表格として扱われ人材不足に陥っている。ニッポン一億総活躍プランの中で処遇改善による人材確保に国としても取り組んでいるが、質と量共に満足できる人材確保には時間を要すると予想される。
このような状況下で当法人および部門の理念を継続していくための対応として、従来行っている様々な仕事の中から逐次関連業務を分割し、本来業務への集中が可能となる体制作りを検討した。
その第一歩として、定常業務と成り得る作業量と時間を確保できるシーツ交換や洗濯業務を分割し、単純作業を根気よくこなし、長期に渡り働き続けることができる人材として障害者を配置した。
同業他事業所の中には、利用者とのトラブルを心配して特定の障害種類の者のみを雇用するとか、利用者と関わらない裏方業務のみを担当するという情報を耳にするが、当法人では内部障害者が看護師業務を、肢体不自由者が事務業務を担当しており、障害者と呼ばれている方は業務を円滑にできるよう障害部分に配慮すれば何ら問題は無いとの考え方が育まれている。
職員は障害者に対しても公平公正な対応を実行しており、障害者と障害のない者との区別なく人格の尊重の重要性を十分理解・実行する組織風土が醸成されていることも障害者雇用を推進する後押しとなった。
また、障害者を多く雇用し定着率の高い事業所は、差別をしない組織風土が醸成されているとの情報も心強い判断材料の一つとなった。更なる業務の創出を検討していたところに、一般応募で来られた方がIgA腎症と呼ばれる難治性疾患の患者であり、現場見学時に本人が就職を強く希望していることや当法人の理念に沿って行動できる人材であることが確認できたことから、対応策を検討した後に採用とした。
3.取組の内容と効果
(1)募集・採用
当法人は、途中入職者においては障害の有無にかかわらずハローワークからの紹介を主としており、今回の場合も通常の手続きに沿って、ハローワークに求人票を出して紹介を受けた人である。
内定後や採用後の辞退や退職は両者にとって無駄な時間を費やすだけでなく、運営にも大きく影響するため、その影響を最小限に抑える目的で、当法人ではまず職場見学を行い、職場の状況を十分に理解した人のみ次の段階へと進んでもらうことにしている。
職場見学後に就職の意思確認を行った際に就職を強く希望されるとともに、難治性疾患について告知を受けた。身体障害者や知的障害者の受け入れは経験があるが、難治性疾患患者の受け入れは初めてであり、本人への対応や職場での配慮に不安はあるものの疾病以外は採用基準を満たしているだけでなく、能力の発揮が十分に期待できると判断して常勤勤務者で採用した。また、助成金としては発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金を活用している。
(2)配置(課題への対応)
- ア
- 本疾患は生体防御機能の免疫物資の一つである免疫グロブリンが感冒や扁桃腺炎によりタイプの異なる免疫グロブリンが出現して腎炎を発症することから、肉体的にも精神的にも過度の負担が掛らないように注意する必要がある。また、本疾病が原因で就職に苦労されてきた経緯を考慮すると本人のプライバシーには十分な配慮が必要である。
- イ
- 常勤勤務者の昼間固定勤務は、交替制職場においては同僚の納得を得られなければ不満の基となり、職場運営への悪影響が懸念される。
そこで、本人の体調管理とプライバシーの尊重、職場の調和を保つ対処法として、保有されている資格を最大限に活用することを検討した。職場には主業務への集中による質の向上と効率化のためには看護・介護資格以外に新たな有資格者の相談員が必要であるとの説明を行い、同僚となる社員の理解を得た後、本人には資格業務を主とする中での看護・介護業務の技術・知識を習得することについて了承してもらい実行に移したが、本人の体調不良や同僚からの不満を聞くことなく順調に推移している。
(3)指導
途中入職者は誰でも多岐に渡る種々の事項を覚えなければならず、精神的なストレスが掛かるものである。特に難治性疾患患者の方は短期間の採用と退職の繰り返しを経験されている場合、失敗を極端に回避するために負担を無視して体調不良を起こすことが推測される。
そこで、当施設基準に定める能力に達するまでは、一般的に企業が新卒での採用者教育に用いているチューター制度による指導(熟練社員による1対1指導)を実施するとともに、月2回程度の面談を和やかな雰囲気の中で行えるように心掛け、個人的な些細な情報も見逃さずに収集し、もし、負担が掛るような事案があれば、負担の少ない部署への異動を含めて即座に対応する体制を整えている。(他の障害者には月1回程度の面接を実施)
(4)取組の成果
ア 障害者雇用においては
看護・介護業務の分割は、目的とした看護・介護業務の負担軽減だけでなく患者・利用者と障害者との会話も生まれた。家族的でより寄り添える雰囲気作りに一役買っている障害者も、目標の明確化による業務遂行の達成感を味わいながら生き生きと業務に集中している。また、身体障害者の2名については、疾病や怪我により身体の一部が不自由になっても社会生活が送れるモデルとしても患者・利用者様の心の支えに繋がっているようである。
イ 難治性疾患患者においては
有資格者の相談員を配置したことで専門的知識を活かした的確な助言や何時でも相談ができる安心感を利用者にもたらし、看護・介護担当者の負担軽減の一つとして寄与している。
当法人における障害者や難治性疾患患者は、目的である看護・介護担当者の負担軽減だけでなく、サービスの質の向上や患者・利用者様との良好な関係作りにも貢献する結果となり、大きな戦力になっている。
4.現状の課題と今後の展望
難治性疾患患者の人は、採用時点に比べて症状の改善傾向が確認されているが、負担を掛ければ症状の悪化が懸念されることから、引き続き処遇条件は変更せずに病状の推移を見守っていく。
ようやく難治性疾患患者にも支援制度ができたことは、就職に苦しんで来た患者にとっては一歩前進と思われる。しかし、障害者に対して重度障害の極端なイメージしか持っていない採用担当者や事業所幹部の方が多いとの情報を耳にするが難治性疾患患者はその認知度の低さから、正しいイメージを持つことがさらに難しいのではないかと思われる。病気を正しく理解するためには、疾病名だけでなく、「どんな病気か」、「原因は」、「症状の現れ方」、「生活指導の方法」、「使える支援制度」等の情報を積極的に周知するなどの方法が有効であり、それにより難治性疾患患者の雇用がさらに前進することを期待する。
独立行政法人高齢障害求職者雇用支援機構
岐阜支部 高齢・障害者業務課 中谷 伊三美
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