企業・地域と連携で一般就労を目指して
- 事業所名
- 学校法人関西福祉学園 働き教育センター彦根(法人番号 7130005004217)
- 所在地
- 滋賀県彦根市
- 事業内容
- 障害福祉サービス事業(就労継続支援A型事業所)、農作業 他
- 従業員数
- 11名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 農作業、事務作業 他 精神障害 4 農作業、事務作業 他 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
学校法人関西福祉学園は、「京都医療福祉専門学校」という専門学校を運営しており、福祉業界の専門職を育てている。そのなかで障害者の就労そしてその継続が問題となっていることを感じ、平成19(2007)年に法人内で初の障害者就労支援施設となる「働き教育センター大津」を開設した。
「働き教育センター大津」は、「学校法人でしかできないようなこと」をしようと「就労移行支援事業所」とし、専門学校を運営するなかで関わってきた企業や行政、学校とのつながりを活かして障害者の就労・継続に向けた支援を開始した。そのなかで、企業側から「障害者雇用をしても社員だけでは見きれない部分があり、支援者も一緒に入ってほしい」という意見を聞き、企業内に施設を設置して訓練と会社実習を重ね、その企業に雇用してもらう「ジョブコンソーシアム」というシステムをつくることになる。
「ジョブコンソーシアム」導入の具体化としては、株式会社ブリヂストンとの連携にある。平成23(2011)年に「働き教育センター大津」の従たる事業所として株式会社ブリヂストン彦根工場内に、本事例の「働き教育センター彦根」(以下「当事業所」という。)を開設した。民間企業の事業所内に「就労移行支援事業所」を設置するのは全国で初の試みとなる。そして当事業所は平成27(2015)年5月からは「就労継続支援A型事業」も実施することとなる。
一方、同年にJA東びわこと提携した就労継続支援A型事業所「働き教育センター甲良」が開設され、それに伴い同年10月に当事業所は「働き教育センター甲良」の従たる事業所として運営をすることになる。
(2)障害者雇用の経緯
当法人はもともと「就労移行支援事業」から始まった。移行支援は利用期間2年間という期限がある中で、一般就労を目指して訓練をするものである。しかし、2年で一般就労に移行する利用者がいる一方で、期間に定めがある中では体力的にも精神的にも一般就労は難しい利用者もいる。そのため、法人の事業の中に「就労継続支援事業」を加え、その人個人のペースに合わせて、一般就労を目指すことができるようにした。
当事業所では、従来の「就労移行支援事業」に加えて、「就労継続支援A型事業」をスタートさせることとなり、「A型事業」は利用者と雇用契約を結ぶものであるが、そのようなことから当法人で「障害者の雇用」が開始された。場合によって、当事業所で働く雇用契約を結ぶ利用者は就労移行支援へ移動してからブリヂストンへの就労を目指してもらう道もある。
2.取組の内容と効果
現在、当事業所では就労移行支援事業の利用者のほか、5名の雇用契約を結ぶ利用者(以下、単に「利用者」という。)がいる。利用者の仕事については、当事業所が株式会社ブリヂストン彦根工場の敷地内に構えているものの、すべての仕事がブリヂストンからいただいているというわけではない。ブリヂストンとは関係のない作業も多くある。具体的な内容は次のとおりであるが、事業所単体での作業、ブリヂストンからいただいての作業、すべてを通して一般就労に必要な能力を身に付けるために作業をしている。
(1)農作業
ア.花苗の育成・管理
当事業所では株式会社ブリヂストン彦根工場の工場敷地内に飾る花の育成、管理の仕事をブリヂストンから請け負っている。大きな工場なので見学のお客様が数多く訪れる。工場敷地内を華やかにしたいということで季節の花をプランターに植え、定期的に管理や植え替えも行っている。
花苗は事業所で種を蒔いて育てたり、苗を購入したり、当事業所の主たる事業所である「働き教育センター甲良」で育成した花苗を使用することもある。工場敷地内の花苗の管理は、プランターに花を植えて持ち込むだけでなく、その後の管理や古くなった花の回収、入れ替えも行っている。工場内に出入りするのでブリヂストンの方と顔を合わせる機会も多くなり、しっかり声を出してあいさつをすることや、身だしなみをきちんとして作業に臨むことを徹底している。
はじめは自分からあいさつができない利用者も多く、事業所内や作業中に声を出してあいさつをすることを習慣付けることで外に出ても自分からできるようにしてもらっている。
事業所以外の方がいる場所で仕事をするので、周りからどのように見られるかを気にしながら作業をしてもらうことで身だしなみの大切さを感じてもらう。花苗の育成では、毎日の水やりや管理が大切になってくる。当然のことだが毎日水をやらなければ花は枯れてしまい、自分たちの仕事が達成できないことになってしまう。そのため、毎日事業所に通い管理をすることの大切さを感じてもらい、休まずに通所ができるようにも心掛けてもらっている。
イ.野菜の育成・管理
当事業所では野菜の育成・管理も行っているが、事業所を設置した当初はブリヂストンから貸与されている敷地内には畑もなく、土地に土を盛り、畑を作ることから始めた。そのため現在でも土を増やしたり肥料をやったりしながら野菜を育てている。土づくりから始め、野菜を育て収穫することで農作業の一連の流れを学び経験してもらえる。土を耕すために耕運機を使うなど様々な器具・機械を使ってもらうことがある。農作業の機械には刃がついていて危険なものも少なくないが、初めて機械を触る前には扱い方の説明をし、手順書を読み、作業も手本を示しながら行ってもらう。加えて、機械使用の際には作業前に注意を促し点検や安全確認をしてから作業に入るようにしてもらっている。
また、機械を使って作業をするばかりではなく、除草作業や収穫は一つずつ手作業でしてもらっている。無農薬で野菜を育てているので、除草作業をしながら毎日虫がついていないか、病気はないか自分の目で確認してもらうこともできる。毎日野菜を確認しながら仕事をすることで自分たちで育てているという自覚が生まれ、仕事に責任を持てるようになると同時に、地道な手作業をすることで根気や体力もつけられるようにしてもらっている。
花苗の育成
(2)事務作業
事務作業としては、ブリヂストンからDMの印刷作業やホッチキス止め、宛名シール貼りや封入作業を2か月に2度いただいて作業をしている。この作業は時間内に仕上げてしまわなければいけないが、雑にすることはできず、スピードと丁寧さが同時に求められる。早く丁寧に、が同時にできるのが一番よいのだが、はじめからそれができる人は少ないのでまずは丁寧に作業をすることから始め、慣れてくるにつれてスピードを上げられるようにしてもらう。他の作業ではノルマというものはほとんどないが、この作業では「何部仕上げる」という全体のノルマが決まっている。そのため、丁寧さだけを重視して何時間もかかってしまっては仕事にならず、かといって雑に素早くしてはDMを送るお客様に失礼になる。丁寧に仕上げる事と早く仕上げることの相反することを同時に考えながら作業をすることで、仕事に対する意識を高め、他の作業になっても様々なことを考えながら仕事をしてもらえるようにしている。
(3)木工作業
当事業所では不要になったパレットや木材をいただいてプランターを作る木工作業や、竹を切り出してプランターや一輪挿しを作る竹製品などの製作も行っている。
まずは設計図を描くことからはじまり、完成形をイメージしながら製作を進めてもらう。
製作に入ると一つずつ手作業で作成してもらうが、さまざまな道具や工具を使って製作をしてもらうことになる。工具も安全なものばかりではなく、ノミやのこぎり、電動の工具を使わないとできない作業もある。その際は必ず使用する前に使い方の確認をし、安全に使用できるような方法を学んでもらう。当事業所で使う道具は特殊なものではなく、どこにでもあるようなものだが、準備や使い方の手順を決め、そのとおりに作業をするようにしてもらっている。どこの企業でも同じような道具や作業であってもそれぞれ使い方や手順が決められており、その会社に合わせた方法ですることが大切になってくる。当事業所でも誰でも使ったことがあるような道具でも、事業所が決めた手順や使い方に沿って使用してもらうようにし、就労後もその企業のやり方に合わせて仕事ができるようにしている。
木工製品(プランター)
(4)訓練・レクリエーション
作業の中でも様々なことを考えながら仕事をしてもらい、就労してから必要であろう能力を身に付けてもらっているが、仕事以外にもビジネスマナーやSST(社会生活技能訓練)、LST(生活技能訓練)などの時間を取り、講義形式や実践形式で学んでもらうこともしている。
A型事業の利用者は今まで一般で就労していた利用者も多く、常識などもある程度持っている人が多いが、改まって勉強をする機会はほとんどなく、改めて考えるとできていない部分がある人も多い。ビジネスマナーでは身だしなみやあいさつの仕方など基本的なことから始まり、SST等で電話対応や面接の仕方など実用的で実践的な訓練もしていく。講義から実践を繰り返すことで、ただ聞いているだけ、ただ仕事をしているだけでは学べないようなことを学んでもらう機会を作るようにもしている。特にコミュニケーションを取ることが苦手な利用者が多く、あいさつや返事など、職種関係なく就労してから、また就労しなくとも大切なことを事業所で練習してもらっている。仕事の中でも毎日声を出してあいさつをしたり質問をしたり意見を言ったりすることで、話すことが苦手でも少しずつできるようになってくる人が多くいる。
また、事業所内の訓練だけでなく、レクリエーションなどで普段はいかないような所へ出かけたり、LSTとしてホテルで食事をとりテーブルマナーを学んでもらったりと、外へ出かけて経験を重ね、様々なことを学べるような機会作りもしている。
(5)取組と効果
具体的な作業内容を挙げたが、全体を通して、作業の指示をどのように出し、作業を進めてもらうかということが大切になってくる。利用者のなかには口頭の指示だけで理解できる人、文字や図・写真を見なければ理解しづらい人、実際にやってみなければわからない人など、個人や作業によって指示の理解する速さは変わってくる。また、全体に対する指示は理解しづらいが、個別に話をすると口頭だけで理解できる人などもいる。
全員に同じ作業をしてもらうことがほとんどだが、指示の仕方を個人によって変え、初めての作業では時間をかけてでも指示をきちんと理解してもらい、作業にかかってもらうようにしている。はじめに時間をかけておけばそのあとからは一人でもできる利用者が多く、はじめは丁寧に指示をするようにしている。
そのため、全体の指示ではできるだけわかりやすい簡単な言葉で説明し、理解に時間がかかる利用者には個別に説明をしたり作業のはじめは付き添って作業を行ったりしている。
また、文字や写真を入れた作業の手順書を作成し、作業場に貼り出しておくことで、途中で手順を忘れてしまっても自分で確認しながら作業が進められるようにもしている。はじめに丁寧に説明をし、手順書も貼り出しておくことで、2回目以降は自分から進んで作業に取り組め、自分でできたと自信をもってその他の作業にも取り組めるようになる。
3.今後の展望
就労継続支援A型の開設から1年以上が経過し、利用者の出勤状況や仕事内容も安定してきている。利用者には、農作業や木工作業を通じて丁寧さや安全性など仕事に取り組む姿勢を学んでもらってきた。就労継続支援A型はずっとこの仕事を続けてもらうためのものではない。一般就労へ向けて毎日仕事をして訓練をして過ごしてもらっている。仕事を通して利用者の得意な面、不得意な面が見えつつあり、今後の就労に向けてもアピールできる部分が培われてきている。今後は当事業所の作業や訓練で培われた能力、利用者がもともと持っている能力をより伸ばし、一般就労へ結び付けていきたいと思う。
執筆者:学校法人関西福祉学園 働き教育センター甲良
センター長 椋梨 純子
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