障害者の就労支援を企業と地域で連携
- 事業所名
- 学校法人関西福祉学園 働き教育センター甲良(法人番号 7130005004217)
- 所在地
- 滋賀県犬上郡甲良町
- 事業内容
- 障害福祉サービス事業(就労継続支援A型事業所)、農作業 他
- 従業員数
- 21名
- うち障害者数
- 14名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 農作業、事務作業 他 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 農作業、事務作業 他 精神障害 7 農作業、事務作業 他 発達障害 3 農作業、事務作業 他 高次脳機能障害 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
学校法人関西福祉学園では「福祉」の3つの国家資格「精神保健福祉士」「社会福祉士」「介護福祉士」の取得を目指す福祉人材の養成校として「京都医療福祉専門学校」という学校を運営しており、学校運営の中で培われたノウハウや企業、行政、学校とのつながりを活かして障害者を支援できないだろうかと考え、平成19(2007)年8月に学校法人としては全国で初めてとなる、就労移行支援事業所「働き教育センター大津」を設立した。その後、平成27(2015)年5月に就労継続支援A型事業所として、本事例の「働き教育センター甲良」(以下「当事業所」という。)を滋賀県犬上郡甲良町に設立した。同年10月には「働き教育センター彦根」を当事業所の「従たる事業所」として加え、就労移行支援も新設し2事業を展開するようになる。特に、「働き教育センター彦根」の事業所は、民間企業の事業所内に設置し、就労前から当該企業で実習を重ね、就労後も施設の職員が支援をする「ジョブ・コンソーシアム」というシステムにより、株式会社ブリヂストンの工場敷地内に設置しているが、当事業所でもその要素を取り入れ、当事業所ではJA東びわこと提携をし、JA東びわこの旧支店を借り受けて事業を行っている。
(2)障害者雇用の経緯
当法人はもともと就労移行支援事業から始まった。移行支援は利用期間2年間という期限がある中で、一般就労を目指して訓練をするものである。しかし、2年で一般就労に移行する利用者がいる一方で、期間に定めがある中では体力的にも精神的にも一般就労は難しい利用者もいる。そのため、法人の事業の中に「就労継続支援事業」を加え、その人個人のペースに合わせて、一般就労を目指すことができるようにした。当事業所は、そうした目的に沿って開設したもので、就労継続支援事業として「A型事業」を取り入れたものである。「A型事業」は利用者と雇用契約を結ぶものであるが、そのようなことから当法人で「障害者の雇用」が開始された。そして当事業所は「A型事業」開設から半年後には移行支援事業も開設している。
2.取組の内容と効果
現在、当事業所では就労移行支援事業の利用者のほか、14名の雇用契約を結ぶ利用者(以下、単に「利用者」という。)がいる。作業の多くはJA東びわこから依頼を受ける農作業や事務作業だが、そのほかにも地域の方などから依頼を受けて作業をしている。利用者全員で協力して取り組む作業から、個々の特性や能力に合わせ、得意分野で力を発揮してもらうような個人、小グループでの作業も行っている。
具体的な作業としては次の通りである。(1)作業内容
ア.農作業
農作業の多くはJA東びわこから依頼を受けて行う作業である。
(ア)花苗の育成、管理
毎月定期的にある作業が「花苗の育成・出荷」で、JA東びわこがお客様感謝デーにプレゼントする花の苗を育てる仕事をJA東びわこから請負っている。
種まきから始まり、大きくなれば植え替えをして花を咲かせたものをお客様のプレゼント用としてJAに納品する。出荷の前には、育て方などを書いた紙と一緒に袋に詰めていくのだが、その紙も利用者に手書きで作成してもらっている。出荷日には一日かけて13支店、合計900個を配達してまわる。自分たちが育てた花を直接JAの職員さんに受け取ってもらうことで、これが自分たちの仕事であり、商品になっているということを実感してもらっている。
一連の作業のなかでも、細かく集中力のいる作業、丁寧に行わなければいけない作業、一日で終わらせなければいけない作業と様々なタイプの作業がある。基本的にはどんな作業も利用者全員に行ってもらっているが、それぞれ得意不得意があるので個人のノルマなどはなく、自分のペースでできる限りのことをしてもらっている。一人だけで終わらせなければならない仕事になると、個人にかかる負担やプレッシャーが大きくなるが、全員で協力して終わらせる仕事にすることで、個人の負担が減り、周りと協力して作業を進めようとする力も身に付けることができる。
種まき作業
育成している花苗
(イ)野菜の育成、販売
当事業所では野菜の育成も行っている。野菜は種から育てることもあれば近隣の方から苗をいただき育てることもある。除草剤は使っていないので野菜以外の雑草も育ってしまう。雑草が生えていては野菜も大きくならないので、一つずつ手作業で草ぬきを行う。この作業は野菜をよけながら小さな雑草を抜いていくのでとても根気がいる作業になっている。体勢も基本的にはしゃがんでする作業で、1時間、2時間と草ぬきをするのは大変な仕事である。その作業を日々取り組んでもらうことで、仕事をしながら就労に必要な基礎体力をつけてもらうと共に根気強く作業をする力、集中して作業をする力を身に付けてもらっている。
野菜の販売はJA東びわこが運営している直売所や地域の道の駅、イベントなどで販売をさせていただいている。直売所では生産者としてJAの方と関わり、地域のイベントなどでは直接お客様と関わり対面で販売をさせていただき、事業所の中で仕事をするだけでなく、外に出てたくさんの方と関わり話をしてもらえるような環境になっている。話すことが苦手な利用者もいるが、外に出て多くの人と関わることで徐々にコミュニケーションがとれるようになってきている方もいる。
(ウ)除草作業
(イ)の野菜畑での除草作業もあるが、それ以外にJA東びわこから花や野菜の畑、その他所有地の除草作業を依頼されたり、時には地域の方から依頼を受けたりすることもある。
草刈り機で一気に刈ってしまうと、時間も短く楽に終われるのだが、それだけでは雑草の根が残り、またすぐに除草をしなくてはいけなくなる。すぐに生えてこないようにするには、根ごと雑草を抜く必要があり、当事業所では一つずつ手作業で草を抜いてもらっている。
何もない土地での除草は端から順に草を抜いていくのだが、野菜や花が植えられている土地では(イ)の野菜畑と同じように作物を抜いてしまわないようにしなければいけないので、集中して一つずつ丁寧に作業をしなくてはならない。この除草作業ひとつとっても根気強く取り組むこと、集中して作業をすること、丁寧に作業をすることなどいくつもの力を身に付けることができる。ただ草を刈るだけで終わらせるのではなく、仕事のなかで他の仕事にも役に立つ力を付けてもらっている。
イ.事務作業
JA東びわこから毎月定期的にいただく仕事で、チラシの折り込み作業がある。種類や枚数は月ごとに違うが、約10種類のチラシを一枚ずつ組み、冊子に挟み込むという仕事である。だいたい各支店1000部前後あるのだが、現在では6支店、合計で6150部の折り込み作業を当事業所で請負っている。この作業は納期が定められていて、挟み込むチラシをいただくのが月末、仕上げるのが月の初めと決まっている。毎月6支店分をだいたい3日ほどで仕上げなければいけない。早く仕上げなければいけないが、お客様の手に渡るものなので丁寧さも欠かすことはできない。チラシを組みながらも印刷ミスや傷や折れなどがないか確認しながら挟み込みをする。
この作業にも個人のノルマなどは設けていないが、全体の期限が決まっているので、利用者それぞれがどのようにすれば早く丁寧に仕上がるのか、工夫をしながら作業をしている。ある程度の手順は定められているが、細部まで決めてしまわないことで、それぞれが効率のいいように考えながら作業をするようになる。種まきのようにすべての手順が決まっていて手順通りに作業をこなすことも大切だが、自分たちでどのようにチラシを組むか、できたものはどこへ置くか、など考えながら作業をすることで効率よく協力しながら作業ができるようになる。
ウ.訓練・レクリエーション
訓練としてビジネスマナーやSST(社会生活技能訓練)、LST(生活技能訓練)なども行っている。仕事をしながら就労に必要な能力を身に付けてもらうこともあるが、仕事をしながらでは作業が中心になり言葉使いや身だしなみを細かく支援している時間が取れない場合もある。そのため、講義形式の訓練も取り入れ言葉使いや身だしなみなどを学んでもらうようにしている。ビジネスマナーでは、テキストを使い言葉使いやあいさつの仕方、仕事にふさわしい身だしなみなどを学び、SSTでは発声練習、スピーチ、プリント学習でコミュニケーションスキル等の力を身に付け、ただ単に講義を聞くだけでなく、実際に言葉を発したり、あいさつをしたりすることでより身に付きやすいようにしている。それ以外にもLSTも取り入れ、施設外でテーブルマナーの講習を受けるなど、事業所内だけでなく、さまざまな場所に外出して体験をしてもらうこともしている。
(2)取組と効果
当事業所には精神、知的、身体、発達と様々な障害のある方がいるが、口頭だけでは指示が理解しづらい利用者が多いので、手順書を作り文書を読みながら作業を進めてもらったり、はじめに見本を示し同じように作業をしてもらったりしている。
また、手順書には文字だけではなく、実際に使う道具や機械の写真、図を入れることでより作業をイメージしやすいようにし、作業を視覚的に理解したうえで、取り組めるようにしている。
集団への指示が理解しづらい利用者には、集団指示の後、個別に説明をしたり、疑問点や質問を聞いたりしている。言葉や文字だけでは理解が難しいことも実際にそのものを見て、体を動かし作業をすることですぐに理解し、次からは一人で取り組める利用者が多く、はじめての作業のはじめの説明は時間をかけてでも丁寧に行うようにしている。初回に少し時間がかかってもきちんと理解をしてもらうことで、2回目以降の作業は流れが同じであれば自ら率先してできる利用者もおり、できたという達成感が自信につながり、その後も意欲的に作業に取り組めるようになる。
就労継続支援A型ということで、当事業所で仕事をしてもらうことも大切だが、一般就労を目指してもらうことになる。作業のなかで就労後にも役に立つ能力を身に付けるようにしてもらっているが、その中でも特にコミュニケーションを大切にしている。どんな仕事に就いても職場には上司や同僚がいて、その人たちとコミュニケーションをとりながら仕事をすることがほとんどである。一人で黙々と行う仕事であっても、誰かから指示をもらわなければ仕事は始められない。コミュニケーションが難しい利用者もいるが、最低限のあいさつや返事はできるように仕事の中でも声をかけていくようにしている。
就労ができても継続できずにすぐにやめてしまっては本人も自信をなくし、企業にも迷惑をかけることになる。そのようなことがないように、仕事のなかで毎日通える体力作り、ひとつずつ丁寧に仕事を終わらせること、返事やあいさつをしっかりすることなどを身に付けてもらい、就労してからも継続して働けるような支援を行っている。農作業がメインということもあり、今まで引きこもっていた人、なかなか他人と関われなかった人なども太陽の下で体を動かし声を出すことで、毎日事業所に通い、明るく仕事ができるようになっている方もいる。
3.今後の展望
平成27(2015)年5月の開所から1年が経過して利用者の数も少しずつ増加し、職員、利用者間でお互いに良い関係を築きながら仕事を行ってきている。そんな中で、利用者それぞれの障害の特性や仕事の向き不向き、個人が持っている能力や成長のスピードなど、様々なことを見て、仕事の中で確認をしながら過ごしてきた。就労継続支援はこの職場で一生を過ごすためのものではなく、より条件の良い企業へステップアップしてもらうためのものである。今後は、入所して当事業所の仕事を通じて成長した利用者が一般企業へ就労をするために、企業での就労について具体的な実践力を身に付けるための環境を整え、現場実習等も行い、事業所での作業だけでなく、より就労につながるような支援を行っていきたい。また、JA東びわこと企業提携していただいているということもあり、普段の作業で行っているような農業関係の就労を目指し、障害者の就労と農業従事者の減少という二つの問題の解決にも取り組んでいきたいと思う。
玉ねぎの収穫
執筆者:学校法人関西福祉学園 働き教育センター甲良
センター長 椋梨 純子
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