事業所外観

社屋の内部の様子（事務所）

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

昭和17（1942）年、大阪市にて営業を開始、昭和24（1949）年、商号を木成ゴムとする。
昭和32（1957）年、木成ゴム株式会社を設立。

（2）障害者雇用の経緯

業務拡大に伴い、営業チームの増員を考え、ハローワークに求人を行った。そのときの応募者の中に、難病のある女性（Aさん）がいた。

なお、Aさんは履歴書とともに、ハローワークと相談して、難治性疾患患者雇用開発助成金（当時）のパンフレットを持参した。

2．取組の内容と効果

（1）はじめに

「難病医療の進歩により、難病の多くが慢性疾病化し、その状態像を大きく変えている一方で、依然として従来からの『難病』のイメージによる誤解もまだ残っています。『難病では働けない。働かせることはできない』との思い込みによって、そんなつもりはなくても、職場などで、難病のある人たちが孤立無援な気持ちになってしまうこともあります。（難病のある人の就労支援のために（独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構　障害者職業総合センター、平成28（2016）年6月発行））」

木成ゴム（株）の取材後に、上記の報告書を手にしたのだが、今回の取材をしていなかったら、この冊子に書かれている冒頭の文章は、立ち止まることなく読み進めてしまっていたかもしれない。

しかし、今回この取組事例と、この文章を何度も見比べることになった。この取組に、「思い込み」や「孤立無援」はなく、同時に肩肘張った力みも全く感じなかった。

難病と一口に言っても、病気の種類や個々人の状況によって、必要な配慮等は異なるものと考えられるが、今回紹介するモデル事例は、難病だけでなく障害者雇用全体にも共通する重要な問題を提起していると感じた。

（2）取組の内容

ア　募集・採用

社長が面接を行ったところ、応募者の中で当社の求めている人材に一番近いということで、Aさんを採用した。難治性疾患があることは採用に関係なく、採用したいと思った人が結果的にたまたま病気を持っている人であった。

面接時にAさんから、難治性疾患があること、従事予定の業務はほかの人と同じようにできること、2か月に1回通院する必要があることなどが伝えられた。また、Aさんは、次のように語る。

「会社によっては、病気のことを気にされ、断られるところもありましたが、この会社では、一人の人間として、ほかの人と同じように面接をしてくれたと思います。」

なお、Aさんはこれまで、障害者手帳を持っていないことで、病気や障害のない人と同じように就職活動をしなくてはならない悩みを抱えていた。この点は、難病患者の就労支援制度を考える上での後の課題と言える。

イ　障害者の業務・職場

Aさんは営業事務として受発注業務や電話対応をしている。

自らの病気についてはハローワークのスタッフとも相談し、病気を知ってもらうことが自分の安心につながり、長く働きたいとの思いもあったため、面接時には自ら難病患者であることを伝えた。

また、同僚には、通院の時に休暇を取るため、持病があることを雑談の中で伝えている。雑談の中で自然に話せる職場の雰囲気があり、さらに、社長もかしこまらず自然なタイミングで「大丈夫？しんどかったら、言ってくださいね。」などの声掛けをし、「孤立無援」にならない環境を作っている。

本事例では、事業主が定期的に対象者の障害の状態や職場の状況の変化を把握し、課題事項の有無を確認することが実践されている。このように日常的に交わされる肩肘を張らない会話が、職場環境の良好な保持にとって重要であることを示唆しているようにも考えられる。

（3）取組の効果

Aさんには、通院時に休みをとること以外に特別な配慮はなされていない。このことについて、社長は「ただ、それだけ彼女が努力してきたから、特別な配慮をする必要がなかったのかも知れないので、配慮が必要なときには、言ってもらいやすいような雰囲気を作るようにしている。」と言う。

社長は事業主として社員が声を上げやすい雰囲気づくりに努め、病気や障害のある人にも、ない人にも同じように、社員一人ひとりへの気配りを心掛けている。このような、難病についての「思い込み」をせず、またAさんを「孤立無援」に追いやることのない社風は、これからも続いていくと思われる。

3．今後の展望と課題

Aさんは、「今、している仕事をしっかりやっていきたい。仕事の効率化ができるといいと思うので、今後勉強していきたい。」と抱負を述べた。社長は、次のように話した。

「今も十分やってもらっているが、おそらく1年くらいでほぼ全部マスターすると思う。その後さらにレベルアップしてほしいし、先輩として指導してもらえればと思う。あとは本人がレベルアップしていくと、外に出ていかなくても営業活動ができるので、事務を超えて営業活動をやってもらってもいい。また、効率化もできることは無限にあるので、進めてもらいたい。彼女だけでなくて、社員みんなにも自分の得意とすることを活かしてもらえればいいと思う。」

淡々と語る社長の言葉の中に、ほかの従業員と同様にAさんのキャリアアップに期待していることをうかがい知ることができる。

社長は、「社屋の物理的な課題（階段しかないことなど）や、仕事についての向き不向きはあるが、完璧な人間はいないので、必要に応じ会社全体でフォローできるような形をこれからも大切にしていきたい。」と語った。

最後に、今後の課題に関連し、Aさんがキャリアップする中で新たな困難に直面したときにも、今と同様にナチュラルな雰囲気の中でフォローがされていくことを願っている。

執筆者：一般財団法人フィールド・サポートem(えん).代表理事／日本福祉大学実務家教員　
栗原　久