幅広い職能知識を身につけ職業選択肢を広げる
- 事業所名
- 第一化工株式会社(法人番号 4150001001276)
- 所在地
- 奈良県奈良市
- 事業内容
- 各種プラスチック製品の製造・販売
- 従業員数
- 126名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 成形の仕上げ加工 精神障害 1 成形の仕上げ加工 発達障害 高次脳機能障害 難病等 1 検査工 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 難病(筋ジストロフィー)
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要
第一化工株式会社は、奈良県奈良市南部、大和郡山市との市境である西九条町に所在するプラスチック容器の総合メーカーである。創業は昭和31(1956)年。当初は奈良市横領町において、積水化学工業株式会社の協力会社として創業し、プラスチック製品の加工、仕上げを主体とした業務を実施。昭和62(1987)年、現在地に本社工場を新築移転した。
ブロー成形、射出(インジェクション)成形等の技術により、食品・調味料や化粧品・シャンプー等のプラスチックボトル・プラスチックキャップなど、さまざまな材質・形状や色のニーズに合わせたプラスチック製品を製造・販売している。
平成21(2009)年には、雨傘しずく取り器「アメデス-Q」を開発・販売。濡れた傘のしずくが電気を使わず手動で落とせるエコ製品で、平成22(2010)年の中小企業総合展2010in Kansaiにおいて、来場者が選ぶ「ベストプレゼンテーション優秀賞」を受賞するなどの実績をあげている。
現在はブロー成形工場・加飾工場・射出(インジェクション)成形工場を構え、時代のニーズと期待に応えるため、より良い製品開発に取り組んでいる。経営理念は「いい会社」。社員全員がチャレンジ精神を持って「お客様に信頼され、働きがいのある会社。環境にやさしく、無災害をつづける会社。つねに技術力の向上につとめる会社」作りを目指している。
成形された製品
仕上げ加工された製品
2.障害者雇用の経緯・状況
現在、企業の社会的責任として障害者雇用に積極的に取り組んでいるが、きっかけは、日常の小さな取組からである。数年前、本人も周囲も「障害者」という意識はなかったが職場内のコミュニケーションが苦手な若手社員がおり、いかに改善するか対応を求められた。本人に対しての助言や相談の受入れのほか、上司や周囲の職場仲間に対して、配慮の協力を要請し業務を見直すなど、地道に取り組んでいったことにより、コミュニケーションが苦手な方をうまく職場に溶け込ませるための職場環境の改善を進めていった。障害者雇用に向けた特別な指導や教育を受けた訳ではないが、こうした地道な取組の蓄積は、「障害者雇用に取り組んでいる」という意識を持たないまま、自然に障害者を受け入れることができる環境作りの土台となっていった。
その後、奈良県産業・雇用振興部雇用労政課(当時。現在は同部雇用政策課)より障害者雇用について話があり、職場実習の受入れの依頼があった際にこの職場にて自然体で受け入れることができ、今では奈良県立高等養護学校等からの職場実習を受け入れるまでになった。こうした支援学校等からの職場実習の受入れは、新規学卒採用者の職場見学と共に、採用活動の一環となっている。
また、平成26(2014)年、奈良県と奈良労働局が障害者就労支援事業として設立した「障害者はたらく応援団なら」※に登録企業として設立時より参画した。
※「障害者はたらく応援団なら」・・・平成25(2013)年6月に奈良県と奈良労働局との間で締結した「奈良県雇用対策協定」に基づく取組として、平成26(2014)年2月に創設。障害のある人の就労に積極的に取り組む企業等で構成され、職場実習の受入拡大や就労支援機関と連携した就職定着の支援など、官民一体となって障害のある人の就労を支援することを目的としている。
同社の障害者雇用に当たっての方針は、障害の特性に配慮し、本人の強みを伸ばしていくことである。これはいわゆる人材教育の基本でもあるが、コミュニケーションが苦手な社員を成長させるとともにスムーズに職場に溶け込ませる結果へ導き、障害者雇用を自然体で取り組ませている考え方である。
3.難病患者である障害者に対する取組など
Aさんは、平成26(2014)年4月に採用。入社3年目、20歳の男性である(以下、年齢等は全て取材時である平成28(2016)年現在)。入社後、ブロー成形工場に配属され同社の基本的な技術を学習。現在は、射出(インジェクション)成形工場に配属され、主に検査業務を実施している。
Aさんは、ベッカー型筋ジストロフィー(拡張型心筋症)と診断されている。筋ジストロフィーは次第に筋萎縮と筋力低下が進行する遺伝性の疾患であるが、発症年齢や経過などから様々な病型に分類される。このうち、「ベッカー型」は比較的進行が緩やかであるとされている。Aさんの場合、太ももが太くなることで心臓に負担がかかる症状であるが、現状は手足を普通に動かすことができ、障害のない社員と比しても仕事上に支障になることは今はないが、3か月に1回の通院をしている。
Aさんが、同社に入社することになったきっかけは、通学している普通科高校による職場見学であった。当初、数名の見学者の一人として職場見学を終え、その後に面接試験を受ける際、同校の担任教諭よりAさんの難病について初めて明かされ相談があった。相談を受けた総務課長は同社社長を交えて協議し、難病の診断を受けているが本人に意欲もあり、病気が進行していない現時点では仕事に対応できるであろうとの社長の了解を得て、面接試験は同教諭と奈良公共職業安定所の立会いのもと実施され、採用された。
入社3か月後、他の新人と同様、夜勤のある交代制勤務に入ったが、仕事中に疲れを見せることが多くなったため、座った姿勢で作業ができる射出(インジェクション)成形工場の検査業務へ異動させ、様子を見ることとした。
Aさんは、その後も仕事中に度々疲れを見せたため、会社としては、医師の診察を受けてもらったが、職務内容と疲労とが直接に結びつく要因は見つからなかった。そこで一旦、パート勤務と同じ時間帯にシフトして作業量を減らし、勤務時間の配慮を行いながら、その後も様子を見ていくこととなった。
その後も交代勤務から外し、3か月に1回の通院と本人の特性と勤務状況の様子を見ながら仕事量の調整を行う配慮は実施しているが、その他は障害のない社員と同様の勤務となっている。
また、Aさんの難病に関する情報開示は、危険予知と危機管理の観点から、部門長である製造課長とリーダーまで公開している。現状、難病に起因する配慮は特に必要ないが、部門長とリーダーに情報開示することには、彼らに対し、Aさんに何か通常と異なる状況が発生したときに、病気との関連性等がないかを頭の片隅に意識してもらうことに狙いがある。Aさんに安心感を与え、本人が意欲をもって勤務できるよう配慮している。
現在、Aさんは入社3年目で、勤務時間や作業量を配慮しながら成形品の検査業務に従事しているが、会社としては、「技術者としての知識や技能を習得し、職域を広げて技術者として成長していってほしい。幅広い職能知識を身に付けてもらうことにより、Aさんの難病が進行したとしても将来の社内での職業選択肢を広げておきたい。」と期待している。
Aさんは、「就職するに当たり人間関係に不安はあったが、特に体調面の心配はなく、身近に使っているプラスチック容器を作っている作業現場を見学して、やってみたいと思った。また、最近は担当する仕事が増え、時には自分一人で対応できず他の方に協力を求めたり、大変さを感じたり苦労することもあるが、自分より後に入社した後輩に仕事を教える機会が多くなってきた。」と話している。
業務の様子
4.今後の課題と展望
同社は、加飾工場の成形品の仕上加工ラインにおいて、製品を機械に装填するという繰り返し行う作業がある。この反復作業が知的障害の特性に適しているとの判断から、知的障害者雇用に取り組んでいる。しかし、生産ラインの機械の台数に限りがあり、台数以上に作業者を必要としないため、自ずと知的障害者雇用の採用数には制約が出てくるという課題がある。
難病のAさんに対して、特に現状において体調に問題がなくても、今後何らかの変調等があればすぐに上司へ報告すること、相談しながら仕事に取り組むように現在も配慮が継続して行われている中で、直属の上司からは、「本人も仕事において悩む部分もあるが、真剣に仕事をしているがゆえの悩みも出てくる。一年前に比べるとできる仕事が増え、いろいろなことに気付き、考えながら仕事ができるように成長している。」と評価されている。
総務課長からは、「障害や病気が先にありきではなく、本人の特性を最優先し、今、身に付けてほしい知識・技術を習得することにチャレンジし、努力してほしい。20歳代の若い技術者として育成したい。」という話があった。Aさんは、難病患者であるが、障害のない社員と同様、自分で考え行動できる技術者に成長することが期待されている。
同社は、毎年3~4名の新規学卒採用を行い、技術者の育成に力を入れている。様々なニーズに合わせた製品の開発・製造を目指しており、特に製造現場では製品の品質向上に繋がる効果的な機械加工を自分で考え、行動できる技術者の育成が求められるからである。
コミュニケーションが苦手な方をうまく職場に溶け込ませるための工夫が蓄積され、自然体で障害者雇用の取組が始まった。知的障害者雇用の面では、障害の特性に適した職場の提供に制約はあるが、本人の強みを伸ばしていく人材育成、自分で考え、行動できる技術者へ育成する会社全体での取組が、今後の障害者雇用の新たな一面を広げていくことになると期待したい。
執筆者:奈良支部 高齢・障害者業務課 水野 宏
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