障害者雇用は社会貢献でなく経営戦略、長期継続雇用によって生産性も向上
- 事業所名
- 株式会社 浜市(法人番号 5170001009201)
- 所在地
- 和歌山県日高郡みなべ町
- 事業内容
- 各種釣りエサの製造、卸売業
- 従業員数
- 56名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 4 工場内作業員(3)庶務雑務(1) 内部障害 1 工場内作業員 知的障害 2 工場内作業員 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、内部障害、知的障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯、背景
(1)事業所の概要
当事業所は昭和47(1972)年の設立で、現在は各種釣りエサの製造、卸売業を営んでいる。
それ以前は、先代が食品加工に用いる水飴の製造を生業としており、琵琶湖周辺の佃煮業者に水飴を納品していた。この水飴納入後の帰り便(空荷)に着目した地元の釣り具・釣りエサの小売り業者から、帰り荷で琵琶湖の湖産エビを仕入れて販売してくれないかとの要望があり実現したのが始まりである。
今では、エビの個体数が減少したことによる販売価格の上昇や、安価で良質な南極産オキアミの普及等により、相対的なシェアも下がったものの、当時は、魚の釣りエサとして琵琶湖の湖産エビは欠かせないものという位置づけであった。
本社、工場は京阪神からおよそ2~3時間の海沿いに立地し、工場の前には紀伊半島の豊かな海が広がっている。このため、釣りエサの製品開発におけるテストフィールドが目の前にあるという大変有利な立地であった点、当地域は日本一の梅の産地であり漁業とその周辺産業も昔から盛んであったこと等により農水産業に経験のある労働力が豊富にあった点、釣りブームが沸き起こった点など、比較的条件に恵まれていたこともあり、少しずつではあるが着実に事業を拡大してきた。
現在では、従業員は50人を超え、本社・工場のある和歌山県に加え、三重県と滋賀県にも営業所を展開している。
(2)障害者雇用の経緯、背景
当事業所における障害者雇用の歴史は古く、昭和47(1972)年の設立当初の頃から注力してきた。
今の時世では当たり前のことであるものの、先代、現代表者である浜田氏ともに、誰に対しても分け隔てなく接するという考え方の事業運営を行ってきている。
そのため、職場には、もともと障害者に対する偏見などはなく、従業員の採用時には、その基準に障害があるかないかという区別はそれほど考慮せず、むしろ、本人の人間性や意欲などを見て採用するよう心掛けている。
障害者雇用の最初のきっかけには社会貢献という理由もあったものの、それは過去の事情であり、現在では当社の雇用障害者も健常労働者と同じ力を十分に発揮し職場に貢献しているため、そのような考えは一切ない。
現在、勤務年数が一番長い昭和22(1947)年生まれで昭和56(1981)年採用、35年勤続の女性を筆頭に、昭和27(1952)年生まれで昭和60(1985)年採用、31年勤続の男性など知的障害者2名、身体障害者5名の計7名の障害者が働いている。
継続的に永年勤務している方が多いのが当事業所の特長で、地域の障害者支援施設などからも信頼を得るところとなっており、「求人はないか」等の問合せが多く寄せられている。
2.取組の内容
(1) 障害者の配置状況
採用年月日 障害の種類 職種 性別 Aさん 昭和56年 3月 1日 身体障害者 工場内作業員 女 Bさん 昭和60年 1月 2日 身体障害者 庶務、雑務 男 Cさん (30年以上勤務) 知的障害者 工場内作業員 男 Dさん 平成19年 1月 9日 身体障害者 工場内作業員 女 Eさん 平成19年11月1日 知的障害者 工場内作業員 男 Fさん 平成25年9月21日 身体障害者 工場内作業員 男 Gさん 平成26年10月21日 身体障害者 工場内作業員 女 Dさんの働いている姿
(2) 障害者の業務
当事業所では、主に工場内作業員として配置している。
その業務内容は、仕入れ品の選別、計量、パック詰め、裁断、段ボール詰めなどである。
概ね、男性は体力を使う裁断、段ボール詰めなどの作業に従事し、女性は、手先の器用さや集中力が必要な選別、計量、パック詰め作業などに従事してもらっている。
なお、Bさんは、工場内での庶務、雑務(簡単な備品の補修など)等を担当している。
(3) 障害者への配慮事項
ア 難渋でない作業への配置等
工場内は水や薬剤などを使用しているため、足元が滑りやすくなっている。移動による転倒リスクなどを考慮し、なるべく移動せずにその場でできる作業に従事してもらうようにしている。
工場内の移動の際は、周りの労働者も障害者の安全面に十分な気配りをし、「事故などにつながらないように」といった声掛けによる注意喚起を行っている。
また、障害者のみならず障害のない従業員においても、就業前の作業靴(長靴)底の減り具合の確認や点検などには特に注意している。さらに適宜、床面に破損個所などの異常が生じていないかなどの検査を行い、必要に応じて補修をするなど、作業前の安全対策についてもマニュアルに沿って行い事故防止に努めている。
仮に事故が起きても大難が小難に、小難が無難にという姿勢を大事にしている。
イ 勤務時間等の配慮
当事業所は、完全週休2日制を採用している。
また、昼休憩1時間に加えて10時から15分間、さらに15時から15分間の休息をとるなどリフレッシュの時間を設定しており、残業もほとんどなくして疲労の回復、就業意欲の向上等による業務品質の向上に努めるようにしている。
障害者については、これらの配慮以外に、定期的に病院へ通院をする者には、その日は休日を付与するなどの措置をとり、また、体調の変化などで長期休職せざるを得ない場合には、本人の意思を尊重して会社としてできる限り、継続勤務できるよう対応している。
実際に、職場復帰時に勤務時間の変更や職務内容の変更などを話し合い、本人の体調などに合わせた変更を行った上で勤務を継続している障害者も在籍している。
(4) 障害者からの生の声
Fさん(平成25(2013)年入社)
「当事業所に勤務して2年余りになるが、昨年、体調悪化によりしばらく休職したことがある。長く休むと周りの迷惑にもなるし、復帰はしても休職前と同じ仕事はできないので退職せざるを得ないと考えていたが、会社がきちんと話を聞いてくれた上に、配置転換をするなど全面的な配慮をしてもらった。そのため、今日まで何とか継続勤務できている。
他の事業所での勤務経験もあるが、ここまで配慮してくれる会社はない。大変ありがたく感じている。会社の配慮に応えて今後も継続して働き続けたい。」
Fさんの働いている姿
3. 取組の効果と将来の展望
(1)取組の効果
当事業所の障害者雇用の歴史は古く、障害者に対する配慮や温かみのある対応をするという姿勢は、社風として全従業員に染みわたっている。これはお金がかかるというものではないが、今日、明日に始めてすぐにできるというものでもなく、長年の地道で着実な取組の継続によって培われてきたものといえる。
障害者雇用について、障害があるという部分だけを見るのではなく、個々人の真面目な姿勢や勤勉さ、意欲などのプラス部分を見つけて採用を決定するなどの取組は、一般的に社会の障害者雇用についての理解が深まる以前から続けられてきた。障害の程度や働く業種によっては、障害のない従業員と比較しても十分又はそれ以上に優れた力を発揮する人材もあるということに早くから気づき、障害者雇用に積極的に向き合ってきた。当社は、障害者雇用について、公器としての法人のあるべき姿を早くから実践しており、これら取組が会社のイメージアップにつながっている。
勤務時間の配慮等の柔軟な対応は、早期退職を防止し継続勤務が促進されキャリアも積むことによって、結果として企業の生産性の向上に貢献するところとなり、また退職者が少ないことにより総務の仕事(新たな採用の面接や保険の資格得喪の手続きなど)の負担の軽減にもつながった。
一方、障害者にとっても、社会の一員として役割を担えるという達成感、生きがいや自己実現の増進につながっている。支えられる側ではなく支える側に立つということの自覚をもって仕事に励み、労務の対償として賃金を得ることで幸せを実現するという喜びも感じられる。そんな意欲と自信に満ち溢れた障害者の方がたくさん働いている。
また障害者の勤勉な仕事に対する姿勢が他の従業員にも好影響を与え、波及効果を生んでいる。「彼らがハンディキャップを抱えながらも頑張っているんだ。自分も頑張らないといけない」という気持ちの変化が職場全体に広がり大変すばらしい職場の雰囲気が感じられる。
(2)将来の展望
将来の展望として現在の本社・工場の建物や機械設備の老朽化などの影響と当地方に繰り返し襲来している南海地震の発生による揺れやこれに伴う津波による被害も心配されており、近隣への移転なども考えている。
その際には、今までやってきたソフト面の取組に加えてハード面についても資金の問題はあるが地震の耐震基準をクリアし障害者や今後増えてくる高年齢者に優しい職場環境となるようできる限りの設備の導入を検討したいとのことである。国、地方の各種助成金や、必要に応じて(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構のサービスなども活用して職場環境の整備を進めていきたいとのことである。
最後に社長から「障害者、高年齢者がいきいきと活躍している職場の更なる実現のため力を注いでいきたい。このことが企業のイメージアップという点でも重要なことである。」との宣言をいただき、強いリーダーシップと情熱を感じた。
執筆者
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
和歌山支部 高年齢者雇用アドバイザー 竹田 哲也
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