事業所外観

1．事業所の概要と障害者雇用の経緯と背景

(1)事業所の概要

平成25（2013）年4月、有限会社ドアーズ業務開始

休眠していた有限会社ドアーズ（以下「ドアーズ」という。）を活用して、倉吉市の縫製工場跡地で、ペットフードの本格的な製造・出荷に取り組んでいる。

牛、豚、鶏、イノシシの肉、副資材などを仕入れ、製造からパッケージングまでの一貫生産を行い、100アイテム以上の商品を「ペットのおやつ」として出荷している。また、コンビニエンスストア・ホームセンター等の15社と取引をしている。

■[参考]ペットフーズの作業工程

社長は、有限会社ドアーズを立ち上げる以前には、社会福祉法人蒜山慶光会（岡山県真庭市）の就労支援施設『ワークスひるぜん』を平成16（2004）年に立ち上げ、製麵所を開設し、就労継続支援B型事業者として、月額平均50,000円の賃金を実現させた実績を持っている。

(2)障害者雇用の経緯と背景

当社は、“Open the door of the possibility”のキャッチコピーに掲げられているように、すべての就労弱者・就労難民にドアを開放している。

ドアーズは「何よりも、従業員の経済的な自立が一番大切」という理念があり、方針として賃金アップを掲げている。

実際、今年入社した養護学校出身者の新卒給料は、月額137,500円、障害者アルバイトの時給も730円と極めて高い。

作業所に生じがちな「福祉的な支援に手がかかるから製造には力が入らない、販売ができない」など、言い訳や障害者だからといった気持ちを払しょく、排除しないと、永遠に自立はできないという会社設立の目的と背景がある。

したがって、当社は、福祉専門員は配置せず、従業員には一般企業の経営感覚を持たせ、生産管理者、営業マンとして一般市場で負けない生産・販売意識を徹底させている。

障害者の個性と多様性を把握し、フルタイム勤務を実現させている。工程も従業員の習熟度を高めるために、作業を細分化し、各々が得意とする仕事を割り当てることで仕事の効率をアップさせている。その選択には、障害者福祉の分野で培った知恵が活かされている。

また、多様な『個性ある人たち』には、補い合い、協力し合う気持ちと絆が生まれているのも職場にはうれしいことである。

『個性ある人たち』だからという前に、一人の個性ある人間だと位置づけられているからこそ、一人ひとりに自分は必要とされているという気持ちが生じ、これらが職場にみなぎっている。

2．取組の内容と効果

(1)扉を開き続けるドアをもっと作り、好きなドアを開いてもらいたい

仕事や作業の選択肢を増やしていく。その中で、障害者自身が好きなこと、得意分野を選んでもらう。本人も心強い。そうすることによって、一人でも多くの人を雇用したい、そのためには多様な職場や作業を作りたいという会社の方針がある。

また、その前提として『個性ある人たち』の気持ちを汲み取ろうとする基本姿勢がある。

たとえば、障害者は「がんばらない」ことからスタートする。「1週間に一度でもいいよ」、「最初は1時間でもいいよ」、「よかったら3日に1回でいいよ」と、気持ちをほぐしながらスタートさせている。「何とかしなければならない」、「頑張らなければならない」というプレッシャーからくる空回りを防ぐためだ。　

出勤状況を把握し、それぞれの障害者の障害特性を理解し個々の特徴をつかみ、仮説を立てる。例えば「持続力、集中力はどうか」を試すために配置する。また、どのような状況の中で、ミスが起きるかを予測し仮説を立てる。ミス防止のため、対象障害者の行動特徴をみながら午前は製造、午後は袋詰めといった組み合わせ作業も考える。社長は、障害者就労支援施設で培った、知識と経験を現場の工場長やリーダーに対して、さりげなく伝えている。障害者として意識せずにあくまでも個性ある従業員として対応するのがドアーズのやり方だ。

また、従業員の出勤は自由である。それを認め合う職場である。

今度は、私が助ける番だという意識が職場に定着し、職場のチームワークも生まれてくる。また、従業員が気軽に休めることで、職場には協力し合い、補い合う気持ちが生まれている。

ここはかけがえのない職場であり、なくなったら困ると思っているからである。そういう職場作りを目指している。

障害を有する従業員と会社の思いは一致しており、組織はパワー全開、良い循環の構図が読み取れる。

(2) 関係機関とネットワーク作り

・NPO法人「かがやきプロジェクト」との連携

障害者が求める本当に必要な支援を実現するには、1法人の頑張りだけでは限界がある。

障害のない者と障害のある者が共に暮らし、働ける地域作りを実現させていくためには、行政や周辺の関連企業、各施設を巻き込むことが必要である。

仕事の協働とノウハウ共有、共同受注などの仕組みもより多くのドアを開いていくことにつながる。

近隣地域（県内・県外含む）の障害者雇用事業所や施設とネットワークを組み、連携しながら共同で商品開発や販売を行うことをめざしたNPO法人「かがやきプロジェクト」が平成23(2011)年設立された。

現在、岡山県真庭市、鳥取県の13施設がネットワークを組み、企業から仕事を受注し、作業のノウハウを共有している。

ドアーズは、「かがやきプロジェクト」と連携し、働きに来ることができない人に対しての受皿づくりとして、各施設にペットフードの加工や袋詰め作業の業務委託も行っている。

平成26（2014）年は売上目標の2億円を上回る実績を上げ、平成27（2015）年6月には、新工場を稼働させ、さらなる売り上げ増加を目指している。

(3) 運営会議

工場長やリーダーは障害者の福祉分野における門外漢の人たちであることから、この分野での専門知識と経験を有する社長がサポートしている。

運営会議では、売上計画、その進捗状況、利益見通し、営業開拓状況、生産見通し工程のチェック、各セクションの課題、作業・工程のミス・ロスの改善、ジョブローテーション、セクションの課題及びその時々の課題に応じたテーマを設定し協議を行っている。

社長の方針、障害者の勤務状況、それに対するアドバイスも共有する会議となっている。また、改善とリスク回避、次の手を考えた対策が、運営会議において討議されている。

(4)　各組織と連携して生活に困らない体制

障害のある従業員が生活に困らないためのグループホームや共同住宅、配食、相談など、日常生活の支援がきちんとできる仕組みができ上がっている。

このように、地域で働く仕組みが形成され、障害者が自らの力を発揮し、チャレンジできる仕組みと、帰る家もある。このことは、慶光会や「かがやきプロジェクト」との連携が図られているからこそ実現できることである。

■[参考]ある障害者の一日

3.　未来を拓く、展望と課題

(1)さらなるブラシュアップと新たな事業構想

ア　もっとドアを作りたい、扉を開く人たちに報いたい。

企業は永遠ではない。いつこのビジネスに限りが来るかわからない。顧客ニーズにマッチしない商品やビジネスは市場から消え去っていく。ライバル会社の存在や代替商品・新商品の開発が激化する中で、自立させていく環境を整え、維持し、さらにブラシュアップしていくことは並大抵のことではなく1企業の努力には限界がある。そうした点を踏まえ、各施設、関係機関との連携、コラボに取り組んできた。

これからも『個性ある人たち』の生活のクオリティを高めていくためには、より輪を広げ、連携、コラボを積極的に進め、内容をブラシュアップしていくことが求められている。

イ　事業創出、『個性ある人たち』等の生活レベルの向上

社長は、企業経営リスクへの対応と『個性ある人たち』のために、もっとドアを作り、もっとドアを開いてもらいたい。また、経済的自立を一人でも多く手掛け、『個性ある人たち』をはじめとした従業員を支えられる企業、加えて、さらなる組織運営の仕組み作りと多様なライフシーンの提案・創出による企業の健全化、『個性ある人たち』等に対するライフサイクルに応じた、より満足いくライフスタイルの提案による障害者等の生活レベルの向上等を目指しており、このためには将来を見据えた新しい事業の創出が必要と考えている。

そうした考えの根底には、助成金や補助金の活用を前提にしない運営方針とともに。人的、組織的なネットワークに磨きをかけていくことの重要性を意識した、運営方針を窺い知ることができる。

(2)夢へチャレンジ・地方から2020年パラリンピックを目指す活動支援

働く場所ができ、経済的基盤ができれば、新しいライフスタイルの提案と支援が必要となる。NPO法人かがやきプロジェクトは、“地方から世界へ”をキャッチフレーズに、ネットワークを構築している鳥取県、岡山県真庭市の障害者たちに、パラリンピックを目指そうと呼びかけ、そのサポートを行っている。夢へのチャレンジ応援であり、指導者を得て具体的に取り組んでいる。

■NPO法人かがやきプロジェクト・パラリンピック活動支援

こうした夢や目標があるからこそ、相乗効果により仕事にも弾みがつき、頑張ることができる。

福祉と企業は別と、福祉の世界がわかっているから福祉的な寄付もwin winの関係という姿勢でネットワークを広げ、強固なものにすることを体得している。

ドアーズは、パラリンピックを目指す活動を行っている「かがやきプロジェクト」に、寄付という形で応援している。

4.　障害者も含めた『個性ある人たち』の受け入れのまとめ

これまでの障害者就労施設での経験から「福祉的な支援に手がかかるから、作業が進まない。販売ができない」といった言い訳が、工賃アップにつながらないという歯がゆい思いがあった。

スタッフが型をはめて、障害者をガードしてしまうことにより、結局、障害者が自らの能力を十分に発揮できない状況に追い込まれている。

そういう思いから会社を創出し企業での働き方と福祉支援との分離の仕組み作りを行った。

幸いに、扱う商品や取引先にも恵まれ、他の施設等とのネットワーク構築が進み、順調に推移してきた。

しかし、企業は外部環境、内部環境に対処しながら時流に乗った適応が求められる厳しい世界である。

次の手、次の手とエンドレスな戦いを続けることが、『個性ある人たち』を受け入れ、かれらの障害特性を活かした、存在と役割を認めた仕事作り、職場環境作りを可能としていく。

企業経営は森作りである。ドアーズは、何よりも障害者の経済的自立をベースに、多様なライフスタイル、ライフシーンを創出していくことを構想している。それには1社では限界がある。多くの施設とネットワークを構築し、それぞれが役割を分担し有機的な関係を作り出すことを通してそのことは実現できる。

キーとなる組織は、NPO法人かがやきプロジェクト、社会福祉法人慶光会とのトライアングル運営である。

その磨きをかけていくことが、『個性ある人たち』を受け入れ、彼らたちが生き生きと暮らせるという考えがある。

■[参考]ドアーズが進めるトライアングル

企業として、一人でも多くの『個性ある人たち』にドアを開いていただくことが、成長のバロメータで、ゴールだと考えている。自らもドアを開き続ける会社である。

執筆者：独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
鳥取支部高齢・障害者業務課　高年齢者雇用アドバイザー　穐田　誠一郎