特例子会社の設立に伴い発達障害者を採用し職場定着した事例
- 事業所名
- 株式会社ハートコープおのみち(法人番号 5240001043960)
- 所在地
- 広島県尾道市
- 事業内容
- 再生資源物(チラシ、内袋等)の集積、加工
- 従業員数
- 11名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 7 圧縮機への再生資源投入作業 精神障害 発達障害 1 計量機器・フォークリフト操作 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 発達障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要
(1)設立の目的
- 循環型社会の実現やCO2削減に向けた取組を推進する。
- 宅配事業を通じて回収されるリサイクル品を迅速かつ確実に再資源化する。
- 障害者が働きやすい環境を整え、地域社会の雇用の創出及び障害者の自立支援に取り組む。
(2)設立の経緯、事業の特徴
生活協同組合連合会中国四国事業連合(コープCSネット)の子会社として平成25(2013)年4月に設立。同年月から事業開始し、同年8月に特例子会社として認定された。それまで、中国5県の生活協同組合が回収したチラシや卵パック・内袋等は個別にリサイクル業者へ売却等をしていたが、設立後は当事業所一箇所に集約し、圧縮加工を行い再生資源物としてリサイクル業者へ売却している。
(3)組織構成
現在、従業員は11名で、そのうち管理者が1名、障害のない従業員2名、障害者8名という体制で事業を行っている。管理者も障害のない従業員も障害者雇用に携わった経験はなかったが、試行錯誤しながら障害者の定着を図った。今では障害者が当事業所を支える貴重な戦力となっている。
2.障害者雇用の背景、経緯
(1)障害者雇用の背景
中国5県の再生資源物の集約を行うに当たり、必要な作業を確認していく中で障害者にもできる作業があることが分かってきた。当時の理事長が広島市初の特例子会社である生協関連事業所のハートコープひろしまの立ち上げに携わったこともあり、当事業所についても特例子会社として障害者雇用を進めることにした。
(2)障害者雇用の経緯
設立に伴う障害者の募集・採用については、現在の管理者が設立時から携わっており、それまでは障害者雇用の経験はなかったが、障害者就業・生活支援センターやハローワークと連携し、生協関連事業所の特例子会社や中国四国地域で先進的に障害者雇用に取り組んでいる事業所を参考にして取り組んできた。具体的な経緯については、以下のとおりである。
平成25(2013)年 4月 1日 会社設立 平成25(2013)年 4月 26日 地域の障害者向け事業説明会(参加者36名) 平成25(2013)年 5月 10日 障害者採用面接会(参加者23名) 平成25(2013)年 5月 中旬 採用者内定(8名、うち3名は通勤の不安から辞退) 平成25(2013)年 6月 5日 内定者保護者説明会 平成25(2013)年 7月 1日 事業開始、入社式(障害者5名、障害のない従業員2名)
障害者トライアル雇用開始平成25(2013)年 7月 16日 障害者2名中途採用 平成25(2013)年 8月 22日 特例子会社認定 平成25(2013)年10月 1日 第一期入社障害者常用雇用へ移行 平成25(2013)年11月 1日 障害者1名中途採用 平成26(2014)年 1月 6日 障害者1名中途採用 平成26(2014)年 3月 31日 障害者1名退職※家庭の事情 平成26(2014)年 4月 1日 障害者1名新規採用
※特別支援学校新卒者平成27(2015)年 1月 31日 障害者従業員1名退職※本人都合 平成27(2015)年12月 31日 障害者1名退職※本人都合 平成28(2016)年 4月 1日 障害者1名新規採用
※特別支援学校新卒者3.障害者の作業内容、職場配置
(1)障害者の作業内容
当事業所では、生協で使用されたチラシ、卵パック、牛乳パックなどが集められ、資材ごとに圧縮・梱包しているが、そのうち以下の作業を障害者が行っている。
ア トラックにより搬入された使用後のチラシ、卵パック、牛乳パックなどの再利用資源の重さを機器で量る。
圧縮前のチラシ
圧縮前の卵パック
計量器
イ 計量後の再利用資源を手作業で圧縮機に投入する。
チラシの圧縮機
圧縮機への投入作業
卵パック等の圧縮機
ウ 圧縮機により圧縮加工された製品をフォークリフトで搬出口へ移動する。
圧縮後のチラシ
圧縮後の卵パック
フォークリフトでの移動
エ 作業場の清掃。
(2)障害者の職場配置
採用前の実習や採用後に一通りの作業体験を通じて、それぞれの特性や得意・不得意を把握し、配置を決定している。
4.取組の内容(発達障害者Aさんの場合)
(1)採用までの経緯
当事業所設立にあたって障害者雇用を進めることになった際に、既に障害者雇用を行っている事業所などを参考にしたところ、知的障害者の雇用が多かったことと、体力的な面から知的障害者の採用を想定しており、発達障害者・精神障害者の採用は考えていなかった。
そのため、平成25(2013)年4月の事業説明会や同年5月の採用面接会にもAさんは参加していたが、その際は上記の考えから採用を見送った。
その後、事業を開始してみると、障害のない従業員が行っている機器の操作などで発達障害者・精神障害者にやってもらえそうな作業があることが分かってきたため、採用面接会の時には不採用としたものの気にかかっていたAさんの採用を検討することになった。
そこで、Aさんを支援していた障害者就業・生活支援センターを通じて採用を考えていることについて連絡したところ、Aさんの就業する意向も確認できたため、3日間の職場実習を行った。職場実習の結果、双方合意し採用することになった。
なお、Aさんは実習後、採用までに自主的にフォークリフトの免許を取得するなどの意欲を見せていた。
(2)配慮した点
ア 勤務時間、業務内容
採用当初からフルタイムで勤務しているが、実は採用決定後、勤務開始直前にAさんから「慣れるまでは半日勤務にしてほしい」との申出があった。しかし、採用を検討する段階からフルタイムで勤務できる人材を想定していたことと、他の従業員と同じ勤務条件にするという考えから可能な限りフルタイムでの勤務をお願いした。
本人の体調に配慮し、仕事に慣れるまでは、体力的な負担が軽い以下のような機械の操作を担当してもらい、仕事に慣れてきた頃から、他の従業員と同様に体力が必要な圧縮機へ手作業で再生資源を投入する作業をすることとした。
- カートに乗っている再生資源の重さを計量機器で量る。
- 圧縮機で加工されて出てきた製品をフォークリフトで搬出口へ移動する。
また、事業所全体では、繁忙期(ゴールデンウィーク、年末年始)には、一部の業務を外部に委託するなどして残業をしないようにして、体調管理を行っている。残業しないようにという意気込みのおかげで、みんなで協力して作業に取り組み、効率も上がっている。
イ 業務指導、相談
- 職場での業務指導は管理者が行っている。立ち上げ当初にマニュアルを作成したが、マニュアルだけでは理解できない場合は、実際にやり方を見せながら教えるなど丁寧な対応をした。
- 作業に慣れるまでの間は、管理者がAさんの様子に気を配り、状態を見て無理をしないように声をかけた。
- 採用前から支援を受けていた障害者就業・生活支援センターが事業所へ訪問したり、Aさんから直接連絡をとって相談するなどしている。
ウ 休憩、休暇
- 採用当初は無理がないように様子を見て休憩を取るように声をかけ、休憩用に事務所のソファーを提供した。
- 昼休みには他の従業員と一緒に昼食を摂りコミュニケーションを図っているが、食後は一人で過ごすのを好むようで自家用車で休憩している。
- 通院のための休みを定期的に取っている。採用当初は月に1~2回程度であったが、現在では2~3か月に1回程度に減ってきている。
また、通院で休む際には、本人の了解を得た上で、他の従業員へ通院で休むことを伝えている。 - 事業所全体として、昼休みとは別に午前に10分、午後に10分の休憩を取り体力的な負担を軽減している。さらに、夏場は適宜水分補給と小休憩を取るように声かけしている。
エ 通勤方法
当事業所は市街地から離れた流通団地にあり、公共交通機関のバスも本数が少ない。設立時には送迎バスを用意することも考えたが、隣接する事業所との取扱いを合わせるため送迎は行わず、自力で通勤してもらうこととした。
(3)Aさんのコメント
この職場なら長くがんばれそうなので、これまでお世話になってきた母を扶養に入れたい。
5.取組の効果、今後の展望
上記の取組や長期間勤務することにより、個々のスキルが向上したこと、再生資源が搬入される時間・量の目安が分かるようになったこと、作業の動線、いつ・だれが・どれだけするかの作業分担が確立されたことなどにより、加工処理量が年々増加し、事業として十分に成り立っている。
今後はリサイクル品目を増やすことや、敷地内の清掃作業を請け負うなどによりさらに事業と障害者雇用を拡大し、より多くの障害者を受け入れることを目指している。
6.事業所管理者のコメント
設立当初は外部から人員を補填して作業を開始したが、採用した障害者の勤務状況や態度は良好で、経験を重ねるごとに従業員の個々のスキルも向上し当事業所を支える大きな戦力となっている。現在は、地域の障害者に対する訓練機会の提供も含めて、近隣作業所からの施設外就労等の障害者を受け入れ、人手が不足している部分を補填しながらほぼ当事業所の従業員で作業を完結できるレベルとなった。
管理者も障害のない従業員も障害者雇用に携わった経験がなく、現在も試行錯誤しながら職場運営を行っている。障害者は一定の作業ができるようになったが、今後も職場定着やモチベーション向上・自立支援のためにはどのような教育や評価制度が有効か模索中であり、先行している障害者雇用の現場から吸収し実践していきたいと考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
広島支部 高齢・障害者業務課 藤村 元輝
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