作業方法のビジュアル化や障害者自身による提案の受入れ等、様々な工夫により、職場改善を図った事例
- 事業所名
- 株式会社チャレンジこざかなくん(法人番号 8240001046242)
- 所在地
- 広島県尾道市
- 事業内容
- 水産加工品の原料となる小魚に混入する異物除去等作業
- 従業員数
- 10名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 水産加工品の原料となる小魚に混入する異物除去等作業、作業場の清掃等 精神障害 5 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害
- 目次
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯等
(1)事業所の概要
現在広島県内には13社の特例子会社があるが、その中の一つ、平成26年(2014年)9月30日設立、平成27年(2015年)3月30日に特例子会社に認定された株式会社チャレンジこざかなくんは、親会社である小魚専門の海産物卸及び食品加工全般を事業内容とする株式会社カタオカが扱うちりめんじゃこ(いわし類の稚魚を塩茹でし、乾燥したもの)に混じる異物の除去作業を専門に行っている。
「社員一人ひとりが夢を抱き、いきいきと働き、高い目標を持って行動する」という親会社の企業理念のもと、美しい瀬戸内海でとれた、おいしい魚の味をより多くの方に知ってもらいたいという想いを胸に、どの社員も丁寧に丹精こめて作業に従事している。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用のメリット(障害者は適切な環境を整えれば高い作業能力を発揮し、障害のない社員に比べて落ち着いて少人数で作業できること、欠勤が少なく勤務態度が良好であることなど)について他企業から紹介され、実際に障害者を雇用されている2社の見学を行った。当初は、身体障害者の雇用を想定していたが、他企業の例を参考に精神障害者、知的障害者を中心として、ハローワークの合同面接会、特別支援学校や支援機関を通じての1~2週間の実習を経て平成26年(2014年)に5名の雇用からスタートした。現在は8名の障害者を雇用している。
(3)障害者が従事する職場
水産加工品の原料となる小魚に混入する異物の除去、作業場の清掃等品質管理にかかわる職場である。この職場で異物等除去されたちりめんじゃこは親会社の株式会社カタオカが味付け加工しアーモンドを加えて、子どもから高齢者まで安心して食べることができる商品などとして販売されている。
選別した小魚を加工した商品「ぶんちゃんのこざかなくん」
2.取組の内容(-採用~日々の作業内容)
(1)採用・募集
本人・親・特別支援学校担当者との面接や、実習を通じて忌憚のない情報交換を行っている。
特に平成28年(2016年)に採用した特別支援学校卒業生の場合は、高校2年生から職場体験を行い、3年生になってから定期的な実習をしっかり行い、採用を決定するなど、学校の採用担当教員やジョブトレーナーと連携し、長期的なスパンで取り組んだ。
(2)作業内容・職場環境
1日のスケジュールは、次のとおりである。
7:50始業(清掃)
8:00朝礼
10:00~10:1010分休憩
12:00~12:50昼休憩
15:00~15:1010分休憩
17:00終業ア 始業(清掃)
始業時の清掃においては、障害のない社員と合同で行うこととしている。創業当初、特定の箇所のみを清掃してしまったり、時間内に完了することもできなかったが、フロアを20程度のブロックに分け担当エリアを明確化し、また掃除時間を明示する等、指示、管理方法の改善を図った。この取組により、障害者が何をするかわかりやすくなりきちんと清掃できるようになった。加えて、全社員にも担当エリアをはじめ作業指示が的確に伝わるようになり、社内全体の業務効率が上がるという相乗効果を生み出している。
さらに、時間を明確にし自分の担当エリアをきちんと把握することができとことで、最近は自分の担当エリアが終わった後、各人が「次は何をしたらよいか?」と臨機応変に指示を仰ぐようになっている。
イ 朝礼
当初は特例子会社と親会社と別々で行っていたが、現在は合同で朝礼を行っている。この合同朝礼は、例えば親会社の社員が広島カープの話題などを振ったとき、カープ好きの障害者がその話に反応して話題が盛り上がり、社内の雰囲気を和らげるなど、障害者との相互理解を深めることに寄与している。
ウ 作業環境の工夫・改善
原料である稚魚は小さく、混入した異物を除去する作業はとても根気の要る反復作業である。
品質を保ち業績を向上させるため、以下に挙げる作業環境の工夫・改善を行っている。
- (ア)
- 選別する異物について以前は口頭で教えていたが、要領を把握するのが難しかったため、写真と名前で「異物判定基準表」としてビジュアル化し、繰り返し確認することにより、社員全体が把握できるようにした。
異物判定基準表
- (イ)
- 一定の速度で流れ続けるベルトコンベヤーのラインでは集中力にむらがでるため、作業の進捗状況をマグネットで貼っていく仕組みを作り、どの工程が予定より遅れているか社員全体が把握できるようにした。
作業の進捗状況をマグネットで示したもの
- (ウ)
- 同じ態勢での立ち仕事のため、首や腰に負担がかかりやすいが、作業台を腰高の位置よりも上げることで負担を軽減できるようにした。人によっては踏み台を使用して作業しやすい高さに調整している。
- (エ)
- 白いシートの選別台数台で選別した小魚は1台のラインにまとめられ、もう一度選別される。きれいにそろったちりめんじゃこにするのは大変な作業であり、一度選別済とはいえ、まとめられた量が多くなるため、シートの色を緑色に換えることで異物を判定しやすくできるようにした。
選別台での作業
エ 休憩
1日3回の休憩を全員でとり、職場のコミュニケーションとリフレッシュを行ってチーム力を高め、各自が助けあい支えあう職場風土にしている。開始当初は仲のよさのあまり、ややもすると競争意識が生まれず勤務態度の規律が乱れそうになったが、マスクの付け方など細かな点についてもスタッフによる指導管理を徹底した。会社設立1周年にはホールケーキでお祝いするなどのアットホームな雰囲気を維持しつつ緊張感ある職場となっている。
オ ミーティング
朝のミーティングでは日々の作業量を数値化して提示し、作業量が落ちたときは声かけをするなど体調や特性も考慮しながらきめこまやかな対応を行っている。
毎週月曜日の昼休憩前に行う10分間のミーティングでは、障害者からの提案を積極的に受け入れている。提案者に提案内容がきちんと受け入れられたことを示し、他の障害者にも理解を促すため、提案者自身に実際に一通り作業を行ってもらったうえで、スタッフがどのようなメリットがあるか具体的に説明している。(例:「除いた異物をゴミ袋に入れるとき、異物の量が少ない場合は、一つずつではなくまとめて入れたほうが良いのではないか」という提案については、ごみを運搬する担当の障害者も楽になるなど、その提案により生ずるメリットをスタッフが説明している。)
ミーティングの様子
カ 雇用継続にむけて
障害のない社員が障害を個性として理解できるようにするため、他企業での研修(障害者に対するつきあい方や指導方法)を受講するなど不断の努力が実を結んでいる。
また、日々の朝礼だけではなく、社員同士でのお花見や野球観戦(カープ戦)などの懇親会を通して社内融和が図られている。そのため、障害者の社員の相談窓口は特に設けていないが、相談したい人に相談し、また障害者同士で相談することができる環境をつくり、家族ぐるみでつきあう社員もいるなど各自でストレスの軽減を図っていることも雇用継続の一因となっている。
3.社員及び社代表取締役等コメント
社員Hさんのコメント
これまでも作業所で就労支援を受け、何度か短期間の勤務を経験していたが、この会社に入って、平成26年(2014年)10月から安定して勤務している。
入社時期が会社の設立時期とほぼ同じで、自分も会社もゼロからのスタートであることや、同期の仲間もたくさんいてみんなで助け合って仕事ができることで今まで仕事が続いている。
自分から勉強してみようと食品衛生管理者の資格も取得し、また社長から勧められて障害者生活相談員資格の講習も受けた。
今の目標は定年までずっと勤めたい。そして異物を逃さず、スピードを保って確認して、ひたむきにがんばっていきたい。
片岡代表取締役
障害者と一緒に働くことで障害がない社員も含めた職場の人間関係がおおらかになった。障害のない社員もパートであろうと自分の作業だけではなく障害者の作業を考慮しながら全体をみて業務に従事できるようになったことで能力を高めることができるなどのよい結果がでている。
これからも障害者雇用を推進していきたい。
Hさんは業務態度もよく、業務内容や目標などいろいろ報告してくれる。また、食品衛生管理者や障害者職業生活相談員の資格を取得し、一層のキャリアアップに努めておりとてもがんばっている。
平岡課長
障害者の社員それぞれができることを最大限に引き出そうと心掛けている。
作業内容をフィードバックすること(時間内にどのくらい選別できたかを実物を提示し、数値化して説明等)により、理解を促している。また、もし作業を遂行できなかったらどうなるか(例:「お仕事がなくなる。みんな困る。」)、遂行できているからどうなったか(例:「がんばったから時給が上がった。雇用契約書を見てみて。」)をわかりやすく具体的に説明している。
4.取組の効果・今後の課題
今後も老若男女・障害の区別なく働ける職場を目指し、特例子会社内だけでなく、親会社の各部署においても障害者を雇用しようとする機運が生まれている。
この目標を達成するために、障害者に対して相手を尊重して向き合い指導できる社員の育成を今後の課題としている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
広島支部 高齢・障害者業務課 井上 千穂
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