一人ひとりの個性が輝く企業 ~ 障害は才能発揮の妨げにはならない ~
- 事業所名
- 有限会社リベルタス興産(法人番号 5480001003313)
- 所在地
- 山口県宇部市
- 事業内容
- 印刷業務およびデジタル業務を主体とし、企画・デザイン等幅広く行っている。また清掃業務も行っている。
- 従業員数
- 45名
- うち障害者数
- 29名(うち重度障害者21名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 5 DTP、版下作成、印刷、製本 肢体不自由 8 工程管理、DTP、版下作成、電子化、営業事務 内部障害 知的障害 11 清掃、電子化 精神障害 2 版下作成、製本 発達障害 2 電子化、版下作成 高次脳機能障害 難病等その他の障害 1 版下作成、コピー製本・名刺作業 - ■本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、知的障害、精神障害、発達障害、難病(筋ジストロフィー)
- 目次
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事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
平成3(1991)年に「保護より機会を!」の趣旨のもと、宇部興産(株)の障害者の雇用を目的とする子会社として設立され、同年特例子会社として認定を受けた。平成28(2016)年9月現在、山口県唯一の特例子会社である。平成21(2009)年には障害者雇用優良企業認証及びやまぐち障害者雇用推進企業認証を取得している。設立当初は印刷業務が中心であったが、平成12(2000)年にデジタル化業務、平成15(2003)年には初めて知的障害者の雇用を行い清掃事業を開始した。
2.企業理念
「障がいが有るから特別なのではなく、障がいが有って当たり前、そして障がいは才能を発揮する妨げにはならないとの基本的観点から、企業活動を通じて社会全体へ心豊かな“資産”の提供を目指す。」が企業理念である。社名の“リベルタス”とはラテン語で“(固定観念からの)解放”を意味し、企業理念にもこの社名の考えが投影されている。
代表取締役社長 吉本良夫氏は次のように語る。「これからも社員の一人ひとりがお互いの能力・個性を尊重しあい、共に働きながら成長し、社会への貢献を通じて自らの生きがいや存在感が感じてもらえる企業を目指します。」
3.障害者就労への配慮
(1)社屋全体のバリアフリー化(就労環境・設備・機材)
社屋全体のバリアフリー化としては、次のようなことを実施した。
入り口に車いす用のスロープ・手すりの設置、車いす専用トイレ(2か所)、トイレ・更衣室に事務所に連動した非常呼び出しブザー設置、通路の曲がり角にカーブミラー、機器の異常を知らせるパトライト(聴覚障害者用)、緊急時に点灯する赤色灯を各室・通路天井に設置(聴覚障害者用)
(2)人的支援
人的支援としては、次のようなことを実施した。
専任手話通訳者の配置、定期的な手話勉強会の開催、職場定着推進会議の定期的開催、障害者職業生活相談員の資格認定者(12名)の配置、企業内ジョブコーチの配置、心理相談員の配置(※心理相談員は中央労働災害防止協会認定の資格)
4.取組の内容と効果
(1)取組の内容
ア 募集・採用
定期採用は行っておらず、欠員が出た時点で職種に合った人をハローワークを通じて募集している。近隣の特別支援学校、市内の支援機関(主に障害者就業・生活支援センター)、県外(広島県・福岡県)の訓練校等から人材の情報を得てハローワークを経由して採用している。通常は職場実習、トライアル雇用を活用している。
平成18(2006)年に宇部興産グループ会社を対象に「UBEグループ障がい者雇用支援ネットワーク」を立ち上げ、障害者雇用に伴う企業側の不安解消や雇用の促進を目的として、宇部地区内の約20のグループ会社が研修を重ねていたが、現在は対象を全国に広げている。
平成22(2010)年には宇部興産(株)と障害者雇用についてのコンサルティング契約を結んでいる。
イ 障害者の業務・職場配置
(ア)管理グループ 総務課・営業課
(身体障害者1名 配置)「リベルタス興産の顔となる部署ですので、各自はその自覚のもと、宇部興産株式会社の各部署及びUBEグループ会社、一般のお客様からのご注文に対して迅速かつ誠意ある対応を心掛けています。」
(イ)製造グループ「デジタルチーム」
(身体障害者5名、聴覚障害者2名、発達障害者2名、精神障害者1名、知的障害者1名、難病1名 配置)「印刷の元となる版下(デジタルデータ)作成が主な作業で、お客様のイメージを具現化する能力が求められるチームです。昨今、急速なデジタル化により短納期、高品質のニーズが高まっているため、チーム一丸となって努力しています。また、紙媒体の電子化、社員証の作成など、新しい分野にも挑戦し続けています。」
○ Sさんの事例
このチームで働くSさんは難病(筋ジストロフィー)に起因する内部障害(1級)があり、ペースメーカーを装着している。採用には勤務中の事故等の不安があったが、採用前の実習や3か月の委託訓練を受けていること、生活面や健康面の配慮等に関して、Sさんの了解のもと障害者就業・生活支援センターから情報が得られていたこと、引き続き障害者就業・生活支援センターからの支援が受けられること、急変時の対応医療機関が明確であること、筋ジストロフィーの中でも比較的進行が緩やかな型(エメリー・ドライフス型)であることから、平成23(2011)年3月に1年間パート勤務社員として採用された。勤務態度は真面目で、その他特に就労継続に問題がなかったので、平成24(2012)年3月に正社員に登用されている。採用に当たっての配慮事項としては、「ペースメーカーを装着していることから、職場内設置機器からの影響がないか確認した。」「病状及び通院状況の聞き取りを行って、複数診療科への定期通院が必要であることから、月2日間を通院のための公休として認めた。」「障害特性から身体に大きな負担のかかる業務を与えないように配慮し、また、体調を崩したときは残業を免除している。」などである。現在は印刷の版下作成及びコピー製本・名刺作業に従事している。
○ Kさんの事例
Kさん(両下肢障害1級)は勤続24年を超える。下肢に障害があるため、車いすでも使用できる高さの複合機の購入や建物のバリアフリー化等の配慮を受けながら勤務している。パソコンオペレーターとして高い技術を持ち、後進の育成も行っている。現在は国語力の高さから校正業務を行なっている。障害者職業生活相談員としての役割を担い、温厚な性格なため後輩社員からも慕われる存在となっている。また、社外では車いすの卓球選手として県大会や障害者スポーツ大会にも出場している。平成26年度優秀勤労障害者厚生労働大臣賞を受賞している。
○ Oさんの事例
Oさん(両下肢障害1級)は既に24年以上勤務しており、システムエンジニアとしてプログラミングとシステム管理を担当している。障害については、脳性小児麻痺による両下肢機能麻痺身体障害1級で、当初は歩行器を使用していたが、身体機能低下のため、現在では電動車いすを使用している。多量のデータを早く入力することや口頭での伝達が困難(言語障害)であるとともに、頻繁な移動が困難であるため、原稿整理は他の社員が分担し、当人の得意事が最大限発揮できるよう働き方の工夫をしている。身体機能の低下はあるが、情報スキル・能力は非常に高い。また心理相談員として、安全衛生委員会のメンバーになっており、社員のメンタルヘルスケアに取り組んでいる。ピアカウンセラーとして社員の相談にのることも多く、その果たす役割は大きい。平成28年度優秀勤労障害者山口県知事賞を受賞している。また、Sさん(右上肢障害3級)、Mさん(聴覚障害2級)は平成27年度山口県障害者技能競技大会DTP競技においてそれぞれ金賞、銅賞を受賞している。
製造グループ デジタルチーム
(ウ)製造グループ「製作チーム」
(身体障害者2名、聴覚障害者3名、精神障害者1名 配置)「印刷作業・製本作業など、製品を仕上げていく工程を担っており、多種多様な機械を効率的に動かす能力が求められるチームです。お客様のご希望通りの製品を正確に作成するため、各工程での検品体制もしっかりと整えています。」
このチームで働くOさん(両下肢障害1級)は、勤続24年を超える。平成14(2002)年からは製作チームリーダーとして、作業全体の工程管理を担いながら、当部門で働く9名をまとめている。車いすを使用しており、大型印刷機を動かすことは困難であるが、知識を高め、その的確な判断と対応で部下の信頼も厚い。人材育成に関しても、様々な障害のある社員の適性を掴み、チームワークを作り上げている。また、車いすバスケットの選手・役員として長く関わるなど、健康管理にも気を配っており、休み無く働き続けている。平成27年度優秀勤労障害者厚生労働大臣賞を受賞している。
製造グループ 制作チーム
(エ)清掃チーム(知的障害者10名 配置)
「宇部興産の工場内清掃業務を行なっています。私たちが大切にしているのは“元気!根気!本気!”宇部興産社員の皆様に気持ちよく働いていただくために、真心込めた清掃を行なっています。リーダーとメンバー4名でチームを作り(2チーム)、チームワークで安全作業に取り組んでいます。」
平成15(2003)年知的障害者を新たに6名雇用して清掃チームを立ち上げた。平成18(2005)年には更に4名雇用を増やしている。立ち上げに当たっては、ジョブコーチの支援を受けている。生活面については継続して就業・生活支援センターの支援を受け、半年に一度、家族・支援者連絡会を行い、連携を密にしている。
このチームで働くMさん(知的障害 療育手帳B)は清掃2チームの「ケミカル工場チーム」に在籍している。4勤2休のローテーションで、チームは浴場清掃2か所を中心とした作業に365日取組んでいる。Mさんは元気と明るさでチーム内のムードメーカーで、平成22年入社後は積極性と作業スピードで大きな戦力となっている。グループホームから片道20分の自転車通勤。余暇活動ではフライングディスクを楽しむ。昨年の全国障害者スポーツ大会(長崎がんばらんば大会)ではアキュラシーで銀メダル、ディスタンスで銅メダルを獲得した。この大会で山口県の旗手を務めたMさんは6年前に行われた山口大会で初出場、その後岐阜県の清流大会にも出場。仕事が終わった後アパート近くの宮地公園で練習を重ねている。
清掃チーム 草刈作業
浴場清掃
(2)取組の効果
会社設立当初は従業員数32名、うち障害者24名(うち重度障害20名)であったが、その後障害特性に適応した機器等の拡充を行い、平成15(2003)年には初めて知的障害者6名を雇用して清掃チームを立ち上げた。設立当初より専任手話通訳者を配置していたが、平成17(2005)年には2人目の手話通訳士を採用し聴覚障害者の雇用安定を図った。平成28(2016)年9月現在、従業員数45名うち障害者29名(うち重度障害者21名)を雇用している。
ア 精神障害者・発達障害者の雇用
平成15(2003)年からは精神障害者・発達障害者の雇用にも間口を広げ、障害者委託訓練事業を活用し、短時間勤務からフルタイムの正規雇用に結びつけた。作業指示を一本化することや、進捗管理表の作成により視覚で確認できる工夫を行い、安定雇用を図っている。また安全衛生委員会では「緑の窓口」(精神保健福祉士によるメンタル相談)を設け、小さな不安を解消できる取組を行なっている。
イ 親会社での障害者直接雇用への貢献
親会社である宇部興産(株)と障害者雇用についてのコンサルティング契約を結んだことにより、リベルタス興産が培った障害者雇用のノウハウとネットワークを活用して、宇部興産での直接雇用が進んだ。宇部興産工場での清掃チームの仕事ぶりが安心材料となり、平成27(2015)年、宇部興産(株)ケミカル工場で知的障害者3人(うち2人は重度)が採用されている。「UBEグループ障がい者雇用支援ネットワーク」を立ち上げ研修を重ねた結果、UBEグループ内での直接雇用が進んでいる。
5.今後の展望と課題
(1)展望
柱事業である印刷業の事業環境が厳しくなっている中、リベルタス興産の持てる力を最大限に発揮して、企業価値の向上と事業の安定的運営を図っている。当社には、25年間の障害者雇用に関する実践とノウハウがあり、これを親会社やグループ会社、その他近隣の企業の方々に提供し続けている。
今年、平成28(2016)年4月から施行となった改正障害者雇用促進法により、企業各社では雇用推進に対する意識の変化が加速してきており、当社へのニーズが増えてきているとともに、宇部興産では平成35(2023)年を目標に障害者雇用の更なる向上を目指しており、その達成に向けてサポートを継続していきたいと考えている。
一方で、他企業への支援の中で感じてきた「導入教育や安全教育の未実施」という課題に関し、特に知的や発達障害者への適切な教育の実施(理解しやすい言葉)が必要であり、これについては高齢・障害・求職者雇用支援機構や地域の支援機関がその専門性をフルに発揮して、企業のサポートをしてほしいと思っている。
(2)課題
ア 定着支援と地域ネットワーク
一つ目は「定着支援と地域ネットワーク」である。安心して働き続ける、あるいは雇用し続けるためにはどうすればよいか。キーワードは『地域の支援機関との連携』である。自分のことを周りに伝えることが苦手であったり、自身をコントロールするのが難しい人、あるいは退職後のことが大きな不安として頭から離れないといった人達。一方で、雇用する企業側にも同様の不安や心配がある。そこで、地域の支援機関との積極的な連携(顔の見えるネットワーク)が肝要であり、これができれば、働き続けることへの安心感の提供や退職後の次なる人生イメージの形成ができ、今をしっかり働くことができるだろうと考える。
イ 教育
二つ目は「教育」である。一般的には、数年も職場にいると「会社とはこういうもの」「組織とはこういうもの」と言う情報が様々な形で入ってくるが、知的・発達・聴覚障害等の人達には所謂『背中の情報』というものが入り辛い。これは正面から教えてゆく必要があるということで、JST(Job related Skills Training)を取り入れている。仕事を教える職業指導・訓練と併行してJSTのようなものを行なっていくことが大事である。
また、安全教育や企業人教育も重要であり、当社では知的障害者にも分かりやすい内容のテキストを作成している。生活に付随する健康管理も重要で、これを自分自身でしっかりと行なうことへの自覚形成も大事である。
執筆者:執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
山口支部 高齢・障害者業務課 品川 克明
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