事業所外観

1．事業所の概要

社会福祉法人やまびこ会 Doやまびこは、平成18（2006）年に、知的障害者通所授産施設として、障害のある子どもたちの保護者が中心となって開所された。「地域で働き、地域で暮らす」という理念のもと、菓子製造、アイスクリーム製造、カーウォッシュ、クリーニング、軽作業、店舗営業、製造・移動販売などの業務を行っている。近年は、他の企業と連携した販売事業も手掛けている。事業所は、西ハゼ事業所と田村事業所の2事業所があり、西ハゼ事業所では就労継続支援A型事業を、田村事業所では就労継続支援B型事業と生活介護事業を行っている。西ハゼ事業所の従業員数は10名、田村事業所の従業員数は21名であり、うち障害者は1名である。2つの事業所に分かれているが、外販活動などは職員全体で協力して行っている。

今回取材を行った田村事業所では、就労継続支援B型事業を8名、生活介護事業を25名が利用している。

利用者の個性に応じ社会自立の促進、個々の人格を尊重し挑戦する人への適切な支援、心身の健康増進と明るく感受性豊かな人材の育成、共生共存社会の実現に努めることを目標とし、事業を行っている。

また、賃金は、就労継続支援B型事業の工賃は3万1,000円～3万2,000円と全国の平均工賃を大きく上回っており、利用者の意欲向上につながっている。

2．障害者雇用の経緯、背景

平成27（2015）年9月より、ネフローゼ症候群のある女性を雇用している。(以下、本人とする)。採用前に、本人から看護師としての業務に支障はないが、重いものを持つことが難しいなど、体力面で不安要素があるとの申し出があった。そこで、採用前に仕事の内容を体験するインターンシップの機会を設けた後、本人の希望を再度聞き、採用することとなった。Doやまびこでは、年齢、障害・疾病の有無に関わらず、本人の意欲や意思を大切にしており、配慮が必要であれば本人の希望を聞くように努力し、可能な限りこたえるよう、合理的配慮の提供を行っている。障害があるからできないというマイナスなとらえ方ではなく、障害があっても、環境を整えることで、できることを行うというプラスのとらえ方を大切にしている。

Doやまびこは従業員が50人に満たず、障害者雇用が法令上の義務となっていないにもかかわらず、進んで障害のある人を雇用している事業所である。小規模事業所は、個別的な配慮を行う環境を作りやすいと思われ、このような小規模事業所における障害者雇用の事例は、注目すべきであると考えられる。

3．難病患者の従事業務・職場配置

ネフローゼ症候群とは、尿にタンパクがたくさん出てしまうため、血液中のタンパクが減少する疾患である。具体的な症状としては、顔・手足のむくみ、倦怠感、食欲不振などが見られ、体調の変化が日によって異なるため、就業上の配慮を必要としている。

本人の基本的な業務は、事業所内での看護の仕事である。しかし、常に看護師としての業務があるわけではなく、他の職員のフォローを行いながら職場全体を見て自由に動くことができる配置としている。

また、田村事業所では、利用者それぞれに担当者が付き、フォローを行うシステムをとっているが、本人には、特定の担当を持たせないよう配慮している。

4．取組の内容・効果

Doやまびこは、本人の体調や要望を聞き、可能な限りの配慮を行っている。

具体的には、勤務時間に対する配慮が挙げられる。本人は、平成27（2015）年9月に採用され、平成28（2016）年3月まで正規職員として8時30分から17時30分の時間帯で業務を行っていた。しかし、本人からの申し出や体調面を考慮し、平成28（2016）年4月からは勤務時間を9時30分から16時30分の時間帯に変更し、パート職員として業務を行うこととなった。さらに、シフトや勤務時間は体調に応じて柔軟に対応している。

また、本人の体調が悪いときには、自分から他の職員に伝えやすい環境を整えている。本人の許可を得た上で、本人の障害や必要な配慮について、他の職員と情報を共有できるように配慮している。例えば、本人から体調が良くないという申し出があった日には、業務内容を調整し、本人にできるだけ負担がかからないよう他の職員が理解した上で業務に当たっている。Doやまびこは、障害のある人が普段から当該施設を利用しているため、勤務している職員の障害理解は進んでいると考えられる。このような環境においては、障害のある人を雇用することで生まれるメリットを二つ考えることができる。一つ目は、職員のチームワークを強めるという点である。職場全体で障害のある職員をフォローし、助け合いながら業務をこなすことで職場に一体感が生じ、チームワークが強くなる。二つ目は、障害のある職員の職場定着を支えることで、事業所のサービスがさらに良くなる可能性があるという点である。障害のある職員に対する配慮は、施設の利用者にとっても良い影響を与え、障害のある職員と事業所の双方にプラスの効果があると考えられる。

5．今後の課題と展望

今後の課題として挙げられることは、障害者雇用の拡大である。取材の中で、近年事業が軌道に乗ってきており、年間の売り上げも右肩上がりになってきているということであった。このため、今後は利用者だけでなく、職員数も増加することが考えられる。

そのとき、これまでのように職員同士が共通理解して、障害のある人を受け入れる工夫ができるかどうかということが課題である。規模が大きくなると、様々な考えのある人も増えることになる。現状の雇用の質を維持するためにどのような対応が必要となってくるのかを考えていかなければならないだろう。また、事業の拡大による業務の多様化にも対応していくことが求められる。障害のある職員への配慮が、他の職員のマイナスとならないようなシステムを構築していくことが大切である。

また、取材の中で障害のある人を雇用するために、他機関と連携しているか尋ねたところ、今のところは特に連携は行っていないとのことだった。今後、雇用が拡大していく中で、他機関との連携が必要になってくるものと思われる。加えて、好事例として紹介していくことによって他の事業所における障害者雇用にも影響を与えることができると思われる。例えば、田村事業所の近くに、障害者の自立更生を支援する施設である、かがわ総合リハビリテーションセンターがあり、就労移行支援事業と連携し、障害者雇用を促進するというアイデアを提案することが可能のではないか。今後、より一層、環境を整えることによって、障害のある人をさらに雇用する機会が訪れたとき、その人の障害に対する配慮のある職場を提供できることとなるはずである。是非ともそのような事業所になってほしいと期待する。

今年度から、合理的配慮の提供が義務となり、障害のある人の、さらなる社会進出が期待されている。やまびこ会のような、環境を整えることに重点を置いて、雇用を進める事業所が一つでも多くなればと考え、取材を終えることができた。

執筆者　香川大学教育学部特別支援教育講座　教授　坂井　聡