難病患者雇用のためのヒント ~正しい理解とコミュニケーションをベースとして~
- 事業所名
- 愛ファーマシー株式会社(法人番号 7500001015543)
- 所在地
- 愛媛県宇和島市
- 事業内容
- 調剤薬局
- 従業員数
- 139名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 薬剤師 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 1 調剤薬局事務職 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 難病(潰瘍性大腸炎)
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要と障害者雇用についての考え方
(1)事業所の概要
愛ファーマシー株式会社の沿革は、昭和57(1982)年に愛媛県宇和島市に南予調剤としての設立に始まる。平成5(1993)年にメディック・ユーを設立し調剤薬局の多店舗化を進める。平成24(2012)年にメディック・ユーを愛ファーマシーへ社名変更し、さらに南予調剤を統合し愛媛県内全域で22店舗を展開している。
当社の強みはグループ会社でジェネリック医薬品販売県内大手の三原薬品とのコラボレーションによる効率の良い、時代にマッチした薬局経営である。
今後は“第3の医療”と呼ばれる「在宅医療」も視野に入れ、地域で幅広い“トータルメディカルビジネス”を目指している。「いつも患者さんの立場で』を全社員が認識し、情報とスピードで時代に対応、さらに経営理念である『我らが信条』を軸にした事業運営を通じて社会貢献しながら社員の幸福を願っている。
(2)障害者雇用についての考え方
当社の三原社長に障害者雇用についての考えを伺ったところ、「障害者だからという区別は一切ありません。」とのこと。この言葉は当社の経営理念『我らが信条』の一つ「全ての社員は平等に機会を与えられ、それを公正かつ適正に評価されなければならない」にも現れている。それは決して障害者の雇用に関して配慮がないということではなく、「平等に機会を与えられ、それを公正かつ適正に評価」されるための雇用管理と配慮はしっかりと講じられている。薬局を訪れる患者さんは月4万人にもなるが当然ながら健康な人は来ない。全ての社員が「いつも患者さんの立場で」を心掛けている職場なので、社員として障害者を迎えることについても自然にできている。
2.取組の内容と効果
【対象者について】
今回取材したのは難病患者(潰瘍性大腸炎)であるAさん。調剤薬局の事務職として受付対応、パソコン処理、会計、保険請求事務等を行っている。
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患で、血便や下痢、腹痛が起こり、疲れやすさを感じることが多いが、食事や生活に気をつけることで症状が改善されることもある。他人にうつる病気ではない。腸の炎症を抑える薬の服用により症状の改善や消失(寛解)が認められることが多い。
Aさんが発病したのは平成17(2005)年。当時は販売の仕事をしていたのだが、立ち仕事、長時間勤務で身体に負担が掛かったり、接客でストレスを感じたりすることから体調を崩しやすく、入退院を繰り返すこともあった。販売の仕事を続けることが難しいと感じたAさんは身体への負担を考え事務職での仕事を希望するようになった。治療のため定期的な通院が必要になるが、就職活動を進める中では平日に通院することに難色を示す会社もあったという。このような経験から医療関係の職場であれば病気への理解があるのではと調剤薬局事務の仕事を選び、平成26(2014)年から当社で働くこととなった。現在は症状が落ち着いており、通院は3か月に1回である。
【どのような職場か】
雇入れ後Aさんは眼科を主に取り扱う薬局に配属され、現在は総合診療科を扱う薬局に配属されている。調剤薬局は従来から多くの女性が薬剤師や事務員として活躍している職場で、配属された薬局でもAさんを含めた5~6名の社員全員が女性である。
【面接での申し出と会社の対応】
Aさんは面接の際病気について説明した上で、定期通院のため平日休むこと、風邪をひきやすいこと、体調が悪くなると休みがちになるかもしれないこと等を伝えた。
これに対し会社側は、病気になること、病院に行くことは他の社員でもあり特別なことではないこと、また、畳敷きの休憩場所があるので勤務中の体調の変化にも不安を感じる必要はないことを伝え、Aさんの不安を取り除くように努めた。
【上司、同僚の病気についての正しい理解】
Aさんに話を伺った際にまず言われたのが「病気について理解してもらっていることが大きい。安心感がある。」ということだった。
調剤薬局という職場ゆえ病気に対しての誤解や偏見はなかったようで、入社当時の上司も難病のAさんが配属されることを特別なこととは捉えていなかったそうだ。Aさん自身も日常会話の中で同僚たちに病気のこと、通院で休むことがあること、過去に食事が取れず入院したことがあったことなどを伝えていたという。それを受けて他の社員は薬局に置いてある病気についての資料に目を通したり、会話の中で食事を取れないという話があれば休んだほうがいいのではと声を掛けたりした。
【通院への配慮】
調剤薬局の規模は4~5名から大きくて十数名で、社員一人ひとりの占めるウェイトが大きなものになる。このため定期的な通院のための休暇取得が職場の負担となるのではと懸念されるが、当社では従来から社員が休暇を取得する際に本社管理のもと近隣の薬局から応援スタッフを派遣するシステムがあり、その中で対応している。
当社は女性が多い職場ということで結婚、妊娠、出産、育児といった各ライフシーンを経て働き続けるための各種制度が整備されており、実際多くの女性社員が育児休業等の制度を利用して働き続けている。子育て中は子供の病気等で急に休むこともある。応援体制はこのような状況に対応するためにできあがった。
この応援体制によりAさんが定期的な通院のために休暇を計画的に取得したり、あるいは体調不良のため急に通院することが必要になったりした場合でも対応することができている。社員の中でも「休むことは特別なことではない」、「お互い様」という意識があり、通院の際は「いつでも休んで大丈夫」、「安心して通院してください」と声を掛けている。Aさんも「通院で休む際に気持ちよく“どうぞ”と言ってもらえるのはありがたい。」と話す。
通院スケジュールの把握は人事担当者が週一回職場を定期訪問することで行っている。職場の訪問は従来から(Aさんのための定期訪問とは頻度は異なるが)休暇を取得する社員の応援指示等のため行っていたものである。
定期訪問の際には体調についての聞取りも行っているが、この聞取りは改まって行うのではなく、立ち話の中で行うなど、本人にとっても同僚にとっても特別なことと意識することがないよう配慮されている。また、通院後には状態の変化がないか等を把握するため上司はAさんから聞取りを行うのだが、これも日常の会話の中で行っている。
【勤務時間中のトイレや休憩への配慮】
潰瘍性大腸炎の患者が無理なく仕事を続けるためには、勤務中の体調の変化に応じてトイレや休憩が気兼ねなくできることもポイントである。
Aさんは現在は体調が落ち着いているためトイレや休憩について特に配慮が必要な状態ではないが、以前顔色が優れない時やトイレの回数が多いという会話から体調の変化を感じた時は、気付いた上司や同僚が「必要になったら声を掛けるからそれまで休んでいて。」と休憩を促したこともある。
【病気に関わらずキャリアアップできるための人事方針】
当社では調剤薬局の事務職の場合、エリア内での転勤を行っている。一般に、健康上の配慮として昇進や異動等を実施しないということも考えられるが、当社の方針に基づきAさんについても障害の有無は関係なく、本人の能力、経験等により他の社員と同じ基準で人事を行っている。Aさんは最初に配属された眼科を主に取り扱う薬局から平成28(2016)年4月に定期異動で総合診療科を扱う薬局に異動した。この異動はそれまでのAさんの実績を評価した上で、異なる診療科を取り扱う薬局に異動することでステップアップにつなげることを意図してのものであった。新しい配属先の選定にあたっては休日が完全週休2日に変わることでしっかり身体を休めることができること、自宅から近くなり通勤時間が短縮されることといった点も考慮し、異動についての本人の意向を確認した上で決定された。終業時刻が一定となることで食事を取る時間帯が一定となり、食事管理にも役立っている。
<前配属先での就業時間、休日>
就業時間: 月~水、金 8:30~17:30 木 8:30~12:30 土 8:30~17:00 休 日: 日、祝日 <現配属先での就業時間、休日>
就業時間: 月~金 8:30~17:30 休 日: 土、日、祝日 異動による環境変化がストレスとなることが心配されたが、異動先の社員とは異動前にも休暇を取得する社員の代替として一緒に仕事をする機会があり、異動後に体調を崩すようなことはなかった。
Aさんは「診療科が変わって分からないことが多く大変さはあるがステップアップのチャンスでもある。まだ2年目で教えてもらう立場だが、今後長く働いて、いずれは後進の指導をしたい。」と話す。やりがいにつながっているようで、調剤薬局事務職向けの検定試験にもチャレンジしている。
Aさんの仕事風景
【職場内のコミュニケーション】
職場内のコミュニケーションが十分でないと、会社はどのような配慮がどの程度必要なのか、どの程度仕事を任せられるのか、また、本人も迷惑を掛けていないだろうかなどと不安が生じやすいが、当社では会社、上司、同僚と本人のコミュニケーションがしっかりと取れており、これが安定した勤務のベースとなっている。
会社は面接時に本人の病気の開示に対し、本人の不安を取り除くよう声を掛けている。雇入れ後も上司や同僚が体調の変化に気付いたときは休憩を促したり、通院のための休暇取得に対し声を掛けたりしている。また、潰瘍性大腸炎では食事面での配慮も必要になるが、職場での食事会の会場を選ぶ際に問題ないか確認を行ったりもしている。人事面においては前述のとおり病気であることを理由に区別することはないことを示している。
Aさんも「日常的に声を掛けてもらっているので、体調の変化などがあったときはためらわずに話すことができる。」とのこと。
【取組の効果】
当事例では会社、上司、同僚の病気についての正しい理解と職場内のコミュニケーションにより会社は必要な配慮を必要なときに提供するなど適切な雇用管理を実践し、これによりAさんは体調を適切に管理し、無理なく安心して働くことができている。
Aさんは「休むときはしっかり休んで仕事をするときはきちんと仕事をするというようにメリハリをつけていきたい。」と話してくれた。このような働き方は治療を含めた生活の充実となり、生活の充実は仕事の充実につながり、仕事と生活の相互に良い影響を与えるものであろうし、このことは育児、介護等と仕事を両立する他の社員についても同様であろう。実際、取材で話を伺った方たちはAさんを含めみなさん活き活きと働いていた。さらに、社員同士の助け合う気持ちと障害についての理解が深まり、患者さんへの接遇にも良い効果が出ているそうだ。
3.まとめ
取材当初は上司も人事担当者も障害者雇用に関して「特別なことはしていない。」と口を揃えて言われたが、他の社員と全く違わないということではない。ただ従来から行っている休暇時の応援体制を応用するなど自然に対応しているので当事者は気づきにくいのである。他の事業主においても、育児や介護と仕事を両立するためのシステムを難病患者を雇用した場合の治療と仕事の両立に応用するなど、現状を工夫することでさほど負担を感じることなく雇用できる可能性はあると思われる。また、当社は調剤薬局という職場の特性により他の事業所に比べ病気を理解することが容易であったということはあるが、現在は様々な難病患者の就業に関するマニュアルなど参考となる情報は整備されている。
正確な情報を得ることで病気の特徴や必要な配慮を把握し、本人とコミュニケーションを取ってその理解を深めることで難病患者雇用のハードルは確実に下げることができるのではないだろうか。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
愛媛支部 高齢・障害者業務課 江戸 美津子
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