公的支援(ハローワーク・障害者職業センター)を利用した障害者雇用の取組
- 事業所名
- 高知県公立大学法人(法人番号 9490005001969)
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- 教育、研究機関
- 従業員数
- 481名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 事務補助 肢体不自由 4 事務 内部障害 1 事務・施設管理 知的障害 精神障害 発達障害 1 事務補助 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 発達障害
- 目次
事業所外観
1.事業者の概要、障害者雇用の経緯・背景
(1)事業所の概要
高知県公立大学法人は、平成27年(2015年)4月1日に、「高知県立大学」と「高知短期大学」を運営していた「高知県公立大学法人」と、「高知工科大学」を運営していた「公立大学法人高知工科大学」の2つの法人が合併し、現在の1法人3大学となった。
当法人は、高知市永国寺町の「永国寺キャンパス」(法人本部、高知県立大学文化学部、高知工科大学経済・マネジメント学群(2~4年次)、高知短期大学)及び高知市池の「池キャンパス」(高知県立大学本部、看護学部、社会福祉学部、健康栄養学部)、香美市土佐山田町の「香美キャンパス」(高知工科大学本部、システム工学群、環境理工学群、情報学群、経済・マネジメント学群(1年次))の3キャンパスを有している。
高知県立大学と高知工科大学が、それぞれの特色を活かしながら教育研究活動を実施し、連携して、その存在価値をますます高めており、課題先進県である高知県の取組にも積極的に関与している。
(2)障害者雇用の経緯・背景
障害者雇用は合併前からの課題であり、合併を機に、障害者雇用率を達成するために積極的に取り組むこととし、障害者雇用の取組に当たっては、ハローワークの担当官を通じて高知障害者職業センター(以下、「職業センター」という。)の支援を受けた。合併後の理事長は県の教育長も務め、特別支援学校の取組に理解があり、障害者雇用に対する意識が高かったことも障害者雇用の推進につながっている。
現在は障害者雇用率を達成し、永国寺キャンパスに2名、池キャンパスに2名、香美キャンパスに3名、障害のある職員が配置されている。
以下、職業センターの支援により永国寺キャンパスに採用されたAさんの雇用事例を紹介する。
職業センターから、障害者職業カウンセラー(以下、「カウンセラー」という。)が3キャンパスを訪問し、各キャンパスの担当者と具体的な業務の洗い出しを行った。その中で、永国寺キャンパスで想定される業務に適合する対象者として、職業センターを利用していたAさんに永国寺キャンパスで想定される業務について職場実習を実施し、Aさんはその職場実習後に正式に採用されている。
2.取り組み内容
Aさんの所属部署は法人本部総務部総務企画課であり、主な業務内容は事務補助で、室内清掃・新聞の切り抜き・パソコンの入力作業・駐車場管理・各課への郵便物の配達などを行っている。
このように、Aさんの業務内容は多種多様であるため、新しい業務を始める際には、簡潔に書いた業務の説明書を準備するとともに、職業センターのジョブコーチが支援を行っている。ジョブコーチが本人や周囲に助言を行うことで職場定着につなげることができた。また、Aさんの雇用に際しては、職業センターのカウンセラーやジョブコーチに相談して、1日の業務スケジュールを作成した。Aさんはそれに従って業務を実施することで、自分で業務をこなすことができるようになり、また、周囲の職員もAさんのスケジュールを知っていることで、業務が円滑に進んでいる。
スケジュール1
スケジュール2
(1)室内清掃
室内清掃は、キャンパス内にある各会議室内や事務所内のキャビネットなどの清掃である。当法人では清掃を清掃業者に依頼しているが、清掃業者だけではやりきれない部分を補う形で清掃を任せている。
作業指示に関して、抽象的な説明ではなく、具体的な作業場所と内容を示すようにしたところ、通常では見逃しやすい箇所もきちんと清掃され、効果が上がっている。
Aさんが清掃している会議室
(2)新聞の切り抜き
新聞の切り抜き作業は、記事の中から「大学」に関連する記事を切り抜いて保管する作業である。
Aさんは当初、保管の必要性を判断(取捨選択)することが難しく、「大学」という文字が入っている記事すべてを切り抜いていた。しかし、担当者が内容を見ると必要のない記事も入っていたので、切り抜く必要のない記事を見つけたときには、Aさんに必要のない記事であったことを伝え、どういう記事を切り抜くべきかを伝えるようにした(判断基準の明確化、具体例の提示)。繰り返し担当者が伝え、今ではAさん自身がどのような記事を切り抜くべき記事か判断できるようになっている。
(3)パソコンの入力作業
Aさんが担当しているパソコンの入力作業は、学生の就職活動報告書をデータ化する作業である。この作業は就職支援課の担当業務であったが、法人全体で障害者雇用に取り組み、障害のある職員が担当する業務について検討したところ、就職支援課から法人本部に相談があり、Aさんが担当することになった。
Aさんが担当するに当たって、入力作業をしやすいよう担当者が入力用のフォーマットを作成した。このフォーマットは、就職活動報告書の様式をデータ化する形で作成されており、入力する箇所と入力不要な箇所の色分けがしてある。その上で、選択の質問形式の部分はプルダウンで選択できるようにし、自由記述部分は手入力で処理するようになっている。
データ入力の際に、Aさんは読み取れない文字や不明点があると担当者にその都度質問していた。しかし、そうなると質問の度に担当者の作業が止まってしまい、業務が非効率となるので、カウンセラーやジョブコーチと相談をして、不明な箇所に付箋をつけておいて、後でまとめて質問をするようAさんに助言した。その効果として、Aさんの質問の頻度が半日に一回程度に減った。
データ入力で使用しているPC
(4)駐車場管理
駐車場の管理は、永国寺キャンパス内の駐車場に無断駐車がないかを確認する業務である。永国寺キャンパスには徒歩5分圏内に3つの棟があり、それぞれの棟に駐車場が設置されている。
当法人では、職員や出入り業者など事前に登録している車両に駐車許可証を発行し、それ以外の訪問者が駐車場を利用する場合は各棟の管理室に用意してある用紙にナンバーと名前などを記入してもらい管理をしている。
Aさんはそれぞれの棟を回りながら、許可証がダッシュボードなどに張られているかを確認し、許可証のない車両はナンバーを控えておき、後で管理室の用紙と照合し、その結果を駐車場の管理担当者に報告をしている。
駐車場
(5)郵便物・書類の配達
永国寺キャンパスにある各課宛ての郵便物や書類をそれぞれの棟にある各課へ配達する業務である。また、徒歩約15分圏内にある高知県庁とも毎日、書類のやり取りがあるので高知県庁への配達や受け取りも担当している。
Aさんが担当する前は、各課の職員が総務部のある棟まで取りに来る必要があり、また県庁へも総務部の職員が出向くなど、大変非効率な状況にあった。それらの配達関係の業務をまとめることで業務の効率化につながっている。
配達書類の分類箱
(6)図書館受付
当初の業務内容は上記(1)~(5)が主な業務であったが、最近、図書館での受付業務も担当することになった。受付業務で担当しているのは、本の貸出しと返却の処理である。本の貸出しや返却の処理などはバーコードを読み取ることで管理している。
Aさんはバーコードリーダーでバーコードを読み取る作業を行うほか、時にはコピー機を使用する利用者に対して、使用申請書の記入説明なども行っている。
図書館の業務は、学生や外部の人も利用しているのでコミュニケーションが必要となるが、分からないことは他の図書館の職員に聞くなどして、順調に業務を行っている。
(7)作業日報の作成
業務終了時にはAさんが1日の業務について日報に記入をし、上司に提出している。それを読んで、上司が何らかの対応が必要と感じたときにはAさんと話し合いをするようにしている。これは、職業センターの提案で始めたことであり、当初は随時、カウンセラーやジョブコーチも目を通して状況を把握するようにしていたが、業務に慣れてからはまとめて日報を確認している。
Aさんの作業日報
3.効果及び今後の課題
Aさんを雇用するにあたって、「Aさんを補助するために他の職員が付きっきりで面倒を見る必要があるようなら、負担になってしまわないか」という懸念があったが、職業センターのカウンセラーやジョブコーチによる支援や周囲の理解、工夫、そしてAさん本人の努力によって、杞憂に終わっている。
それだけではなく、Aさんを雇用するようになってから、永国寺キャンパスの各課が個別に行っていた業務や、手を付けられていなかった業務をAさんが担当することで各課の業務負担が軽減されることと、一人がまとめて業務を行うことで効率化が図られ、また、他の職員の業務を補完することもできるようになっている。
また、Aさんが1日でやる業務は多種にわたり、スケジュールどおりに業務が進められないこともあるが、Aさん自身が時間調整をしたり、優先性を判断して順序をつけたりできるようになってきている。
当初は、どのように指示を出すと理解しやすいのか分からず戸惑うこともあったが、全般的にシンプルに説明するようにしたことが功を奏し、最近ではAさんと各部署の担当者が直接相談をしたり、Aさん自身が工夫をして業務を行うことができるようになってきている。
Aさんの働き振りをみて、各課から業務の依頼が来ている状態であるが、Aさんの勤務状況や勤務時間を考えると今以上の業務拡充は難しい状況となっており、時間や業務の割り振りなどを考えていく必要を感じている。
当法人は、Aさん以外にも障害者を雇用しており、それぞれ総務、情報、施設管理などの事務を担当している。それぞれの障害者は担当業務について、責任感を持って遂行している。障害者といっても障害のない者と変わらずに働いており、周囲の職員も障害者だからという意識はなく、一緒に働く一員として対応をしている。しかし、ある程度特性は考慮する必要があるので、各障害者の特性を考慮しながら配置や業務を考えている。今まで当法人では、主に身体障害者を雇用してきたが、Aさんの事例を参考に永国寺キャンパス以外の2つのキャンパスでも発達障害者や精神障害者、知的障害者も雇用することができるのではないかと考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
高知支部 高齢・障害者業務課 浅井 俊介
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