継続して働くための環境作りに取り組んだ事例
- 事業所名
- サンコーケアライフ株式会社 ライフステイからつ(法人番号 3290001040179)
- 所在地
- 佐賀県唐津市
- 事業内容
- 介護事業(有料老人ホーム)
- 従業員数
- 52 名
- うち障害者数
- 2 名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 介護職(見守り、話し相手)、介護記録の入力 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 1 看護職 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、難病(全身性強皮症)
- 目次
1.事業所外観
1.事業所の概要
(1)事業所の沿革
サンコーケアライフ株式会社は、「株式会社サンコービルド」の福祉事業部として平成14(2002)年に一つ目となるグループホームを開設し、翌年10月に分社、設立された。現在、サンコーケアライフ株式会社として福岡県・佐賀県内に4つの有料老人ホームと5つの認知症対応型グループホーム、その他デイサービスやケアプランセンター、ヘルパーステーション等、計13の事業所を展開し、従業員250名を抱える企業である。
今回取材に訪れた「ライフステイからつ」は、平成21(2009)年3月に佐賀県唐津市に開設され、50名以上の従業員を雇用、ベッド数は113床と社内で最も規模の大きい入所施設である。
(2)事業所の特徴
「ライフステイからつ」では、看護師が24時間常駐しており、胃ろうや在宅酸素など医療的ケアが必要な人についても日々安心して生活していただける体制を整えている。また、理学療法士も2名おり、入所者一人一人に合わせたリハビリテーションを実施している。入所者個人の生活スタイルに応じた介護(排せつや入浴の時間など、個人のペースに応じた柔軟なサービス)を提供するよう心掛けており、地域の中でも人気の高い入所施設である。このほか、全職員を対象に月1回社内研修を行い、この研修を施設理念や対人援助職としての姿勢について学ぶ場とし、日々サービスの質の向上と人材育成に注力している。
(3)障害者雇用の理念
今回取材に応じてくださったサンコーケアライフ株式会社の代表取締役社長藤井義則さんと、「ライフステイからつ」取締役/施設長福田和博さんに、障害者雇用の考えを伺った。
藤井代表取締役社長は、障害者を“ハンディキャップを抱える者”として雇用するのではなく、一職員として、さらには“戦力”として雇用することに重きを置いている。そのため、障害者だから配慮するということではなく、職員の個人の状況に応じて配慮するという姿勢を大切にしているそうだ。これを受け福田施設長は、障害者だからと特別扱いはしていないとのこと。現在雇用している難病患者、肢体不自由者についても、有資格者であることが採用の際の大きな決定要因であり、配慮が必要な事項についての検討は採用を決めた後であった。障害の有無に関係なく、誰にでも能力の差(得意、不得意)はある。能力に応じて仕事のペースを考えて時間をかけて指導を行うなど、日頃から個人の能力や資質に応じた指導を心掛けており、難病や障害への配慮は、難病を抱える、あるいは障害を抱える職員の個人の特性の一部という考えに基づいて業務指導等を行っている。
2.障害者雇用の現状
上記述のとおり、障害があると理由での特別な配慮は行っておらず、これまでも障害者雇用枠で求人を出したことはない。求人を出して応募してきたのがたまたま障害者(難病患者を含む)であったということだそうだ。現在雇用している難病患者Aさんも、ハローワークに看護職の求人を出したところ、看護師の有資格者であったため採用面接を行うことになった。面接の場面では特に配慮を要することはなく、体力的に働くことができるかと人柄で採用することを決めたとのこと。また、もう一人の身体障害者Bさんは、「ライフステイからつ」の開設時より働いていた職員であり、休職期間を経て職場復帰している。この職員においては、疾病による後遺症により下肢が不自由となり、一時は復帰が難しい状況にあったものの、本人の「ライフステイからつ」でまた働きたいという強い希望を受けて、受け入れた経緯がある。現在は杖での自立歩行が可能だが、復帰直後から一年ほどは車いすを使用していた。「ライフステイからつ」は介護を必要とする方の入所施設であり全館バリアフリーであったため、車いすを使用しての職場復帰であっても物理的な配慮は必要としなかった。その点は恵まれた環境であるといえるだろう。
3.障害者の従事業務
難病患者Aさんは看護職として採用されており、医療的なケアを行うとともに入所者の介護も行う。現在、看護師は7名おり、夜勤は月4~5回程度である。業務上の区別はなく、他の看護職と同様の業務内容をこなしている。
身体障害者Bさんは介護職として職場復帰しているが、下肢に障害があるため座位でできる業務に従事している。例えば、入居者の話し相手や見守り、服薬管理等である。その他にもパソコンへの記録の入力作業を担っている。入所者の身体に直接触れる身体介護業務には従事できないものの、本人と話し合いながら、従事可能な業務を選別している。また、以前は正社員であったが、現在は他の職員と比べて勤務時間が短いことや、通院やリハビリのために勤務できる日数が少ないこと、業務を選別しているなどの理由から、雇用形態はパートタイマーとなっている。
2.記録入力中のAさん
3.入所者と一緒に作業中のBさん
4.具体的な取組とその効果について
(1)障害者職業生活相談員の配置を含む、難病患者に対する相談支援体制の整備
難病を抱えるAさんにおいては、日頃からストレスを溜め込まないことが疾患と上手に付き合っていく対処法であるため、ストレスフルな状況に対応すべく相談調整役をつけている。この相談調整役は、福田施設長と主任、障害者職業生活相談員の3名で担っており、Aさん本人の希望もあり、難病を患っていることは上記3名の職員を除く他の職員には一切知らせていない。そのため、あからさまに配慮をすることはできないが、3名が見守りと声掛けをすることで、体調の悪化を未然に防ぐよう努めている。
具体的には、同じ現場で働く主任や障害者職業生活相談員の2名がAさんの様子を気にかけ、見守り、その結果を福田施設長に報告する仕組みである。障害者職業生活相談員にはAさんと同じ看護職を配置し、同じ職位という立場からAさんの体調面だけでなく業務上の相談役も担っており、Aさんの相談支援体制においては欠かせない存在である。しかし看護職員の勤務体制もあり、必ずしも障害者職業生活相談員がAさんと同じ時間帯に業務につけるわけではないため、主任にもAさんの相談役として関わってもらっている。福田施設長は2名からの報告を受け、Aさんの様子が気になるときは実際に声を掛けて面談を行う。面談の中で、本人から体調面やストレスになっている状況・事柄などを聞き取り、Aさんの体調や心身のストレス状況を把握するよう努めている。また、普段よりAさん本人からの申出を待つのではなく、相談調整役の3名がAさんの様子を見守り、声掛けをし、状況に応じて休養を促すなど早めの対処を心掛けている。
(2)個人の状況に応じた勤務体制への配慮
Aさんにおいては、ストレスを溜め込まないことに加えて疲れやすさへの対応が必要なため、体調不良時には無理をさせず休養を取るよう促し、急な欠勤にも対応できるようシフト調整を行っている。また、看護師の夜勤は通常5~6回だが、体調面を考慮し月4回と、他の看護師より月1回程度少なくしている。さらに、定期受診に合わせて勤務が休みになるよう調整するなどの配慮も行っている。
Bさんについては、復帰直後は勤務時間を1日6時間とし、それと同時にリハビリや通院が滞りなく行えるよう週4日勤務とした。その後、Bさんの状態に合わせて、徐々に勤務時間、勤務日数を増やし、現在は1日6.5時間、月22日勤務することができている。現在も定期受診、リハビリがあるため、休日については本人の希望を聞きながらシフト調整を行っている。
このように、個々の状態に応じて柔軟に対応できるよう日頃から準備を行っている。また、「ライフステイからつ」の特徴として職員数が多いこともあり、欠勤があっても他の職員の中から勤務できる者を探し、交替して出勤してもらうことが可能なため、急な欠勤にも対応しやすいという点がある。さらに、急に欠勤をしてしまっても、他の職員が互いを気遣うため、欠勤した翌日に出勤すると必ず周囲が「大丈夫?」と声を掛けてくれる。こうした日々の職員間の良好な関係もあり、より円滑にシフト調整ができる環境となっている。
(3)相談しやすい環境作り
「ライフステイからつ」では、職員数も多いため、日頃より職員間の意思疎通が滞りなく行えるよう心掛けているとのこと。また、月1回全体会議と社内研修を行っており、全職員に参加を義務付けている。全体会議と社内研修では、施設運営に関する情報の共有と施設理念に関する研修等を行うとともに、職員の入所者支援の中での困り事、悩みなどについて話し合う機会をつくっている。この中で、日頃感じている悩み、不安、不満などを聞き取り、より良い施設運営ができるよう取組を行っているとのことだ。また、こうした月1回の全体会議、社内研修のほか、気になったことや入所者に対する支援についてわからないことがあった時には、随時福田施設長が職員と面談の場をつくり、個別に相談できる環境作りを心掛けている。福田施設長は、「(不満も含めて)なんでもぶつけるよう職員には伝えています」と話す。業務以外のことでも、職員の言葉に耳を傾け、日頃からなんでも話しやすい環境作りを目指している。これらは職員全体に対する取り組みだが、AさんBさんにとっては、自分の体調面や業務上の課題について、より相談しやすい環境となっていると考えられる。
取材の最後に、Aさん本人に「ライフステイからつ」の職場環境、業務内容について話を聞いた。Aさんは、職員同士も仲が良く、日頃からなんでも話せる関係であること、さらに、業務を行う上でも互いをサポートすることができるので、とても働きやすい環境であると語った。体調が悪いときには早退や欠勤することもあるが、周りの職員は嫌な顔せずに交替してくれ、さらには気遣いの言葉もかけてくれると話している。こうした環境が、AさんBさんの働きやすさにつながっているのではないだろうか。
5.今後の課題と展望
「ライフステイからつ」では、今回取材した難病患者、障害者のほかに過去2名の障害者を受け入れた経験がある。障害者本人が希望した仕事と実際の業務が噛み合わず退職したが、今後も就職を希望する人については障害の有無にかかわらず積極的に受け入れていきたいと福田施設長は言う。また、特に、知的障害者や精神障害者の雇用に関心があり、日頃から近隣の就労支援施設との交流を図っている。現在はまだ雇用するに至っていないが、「ライフステイからつ」で働きたいと希望する障害者に対しては採用面接を行っていく方針であるそうだ。
事業所としてはもちろんだが、サンコーケアライフ株式会社として、今後も法定雇用率2.0%の達成を維持していくことに努めたいと語っている。
執筆者:九州産業大学 助手 新海 朋子
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。