事業所外観

1.事業所の概要、障害者高雇用の経緯

（1）事業所の概要

当事業所は、知的障害者の社会参画を促進するため、作業能力はあるものの、対人関係・健康管理等の事由により、一般企業に就職できないでいる障害者の就労の場として、平成17（2005）年3月16日知的障害者福祉工場「オンリーOne」として設立され、平成24（2012）年4月1日に指定障害福祉サービス事業所「オンリーOneま心『多機能型事業所（就労継続支援A型事業・B型事業）』」の指定を受けた。

設立当初は、ちゃんぽん、ラーメン、そば等の製造・販売を行っていたが、小麦粉や燃料の高騰などにより支出が年々増大し、経済的支援でもある従業員への給料アップもできない状況があった。

より一層の生産性向上を図るために当事業所を改修し、平成26（2014）年5月10日に「給食センター」としての事業を開始した。事業内容としては法人事業所7か所への弁当の製造・配達、グループホーム32か所への朝昼夕1日600食分の食材準備・配達、地域交流を目的とした昼食宅配サービス、安否確認も兼ねた高齢者への夕食宅配サービス（個人宅への昼夕150食）を年中無休で行っている。

（2）事業所の障害者雇用

当事業所の障害者雇用は、設立当時から給食センター設立までの間は当法人のグループホーム利用者、施設入所者（知的障害者）を対象としていたが、給食センターの設立を機に、ハローワークや特別支援学校、障害者就業・生活支援センターと連携を図りながら、在宅者を中心に知的障害者・精神障害者・身体障害者を積極的に採用してきた。現在、当事業所で雇用する従業員16名（知的障害者10名、精神障害者4名・身体障害者2名）のうち、在宅者が13名となっている。

当法人理事長の「世のため、人のため、社会に貢献する」という理念の下、法人職員は障害者の作業支援に努めている。

2.取組の内容と効果

（1）取組の内容

ア　募集・採用の流れ

ハローワークからの紹介を受け、職場見学を実施。本人の希望や必要性に応じて3日間の職場実習を行い、その後面接を経て採用としている。

イ　従業員の業務・職場配置

過去の職歴等を考慮し、本人の能力や適性に応じた配置を行っている。次にAさんからCさんまで、精神障害（統合失調症）のある従業員3名の事例を紹介する。

（ア）Aさんの事例　

Aさん（女性）は3日間の実習を終了し、平成26（2014）年7月26日から常用雇用となっている。作業内容として、食材下処理室でのグループホーム食材の準備作業（野菜切り込み、計量、仕分け等）に従事している。

入社当初は体力的に連続勤務が難しかったため週3～4日程度の作業に従事していた。体力がついてくるのに合わせて徐々に勤務日を増やしていき、当事業所で就労し2年が経過した現在は週5～6日間作業に従事できている。

食材の下処理については作業内容が細かく決められていたため、仕事に慣れるまでは何度も法人職員に尋ねながら作業を進めていたが、今では下処理作業の流れも熟知し、さらに知的障害のある従業員へ教えるほどに成長している。法人職員からの信頼も厚く、今やなくてはならない存在である。

以前の職場では人間関係に悩むことも多かったが、現在の職場では「居心地が良い」と笑顔で働くことができている。また、知的障害のある従業員に対しても「障害が有る・無いではない。その人個人とどう接するかがポイント」と話している。

（イ）Bさんの事例

Bさん（女性）は3日間の実習を終了し、平成26（2014）年9月26日から常用雇用となっている。前職での経験をいかし、弁当注文の電話対応及び食材納品に係る伝票整理等の事務処理全般に係る業務を担当している。午前は弁当配達サービスの電話注文受け及び注文受け後の領収証宛名書き、午後は外部からの電話対応、事務処理に従事している。

当初は、受注担当者の入力ミスなどにより思わぬクレームの電話を受け、その度に落ち込むことも多かったが、今では周りのサポートや本人の努力により気持ちを切り替えることができるようになった。電話対応についても、法人職員への連絡・報告・相談など的確で素早いものになっており、また事務処理能力も非常に高く、法人職員や顧客からも厚い信頼を寄せられている。

（ウ）Cさんの事例

Cさん（男性）は3日間の実習を終了し、平成25（2013）年12月1日から常用雇用となっている。雇用のきっかけはCさんが22年間働いていた家業が倒産したことであった。作業内容は、法人事業所及び宅配サービスへの配達業務である。午前は法人事業所への弁当配達、午後はグループホーム15か所への食材配達を行っている。毎日保冷車で配達を行っているが、特に午前中の配達は食材の準備に手間取って時間に追われることもあり、本人の焦りなどから当初は保冷車の運転・配達について心配な面もあったが、現在は安全運転に心掛けており安心して配達を任せることができている。

（2）取組の効果

障害のある従業員は、主に当法人事業所への弁当製造・配達、グループホームへの食材配達及び昼夕食宅配サービスにおける食材の下処理、厨房内での調理補助及び洗浄業務、配達業務に従事し、障害のない法人職員とともに主体となって事業所を運営している。

特に力を入れている高齢者への夕食宅配サービスでは、社会生活において必要な挨拶や言葉遣い、礼儀作法などが自然と身に付く。法人職員が知的障害のある従業員を同行させて各家庭に配達に行くと、玄関先で楽しみに待つ高齢者が多く見られ、地域に根ざした事業所として交流もより一層深まってきている。

また、知的障害のある従業員数名が運転免許を持っており、その者だけで弁当配達に行く場合もあるが、その場合でも、障害のない法人職員と変わりなく時間内に届けられている。

その結果、多くの面で人件費の削減にも繋がっており、従業員の給料アップも見込めている。また、安否確認も兼ねた夕食宅配の注文が徐々に増えてきていることから、「世のため、人のため、社会に尽くす」ことを理念に、今後も継続して行っていきたいと考えている。

下処理風景（Aさん）

弁当製造風景

電話対応（Bさん）

外販注文によるパソコン入力

法人事業所への配達準備（Cさん）

安否確認も兼ねた夕食宅配

3.今後の展望と課題

宅配サービス事業を開始して2年が経過し、今では病院、官公庁からの注文が半数を占め、中小企業からの注文も徐々に増えてきている状況であるが、今後は大手企業を中心に販路拡大を図っていきたいと考えている。そのためには現在の日替わり弁当だけではなく、新たな商品開発が必要不可欠である。また、夕食宅配注文も増えてきていることから、今後もこれを中心に事業を行い従業員の給料アップに努め、さらなる経済支援に取り組んでいきたい。

課題としては、以前、法人職員が障害者の個々の特性を十分把握できておらず、また本人からの申し出もなかったことから、障害者に無理をさせてしまい、長期欠勤に陥ることがあった。また何気ない一言で精神的に不安定になる障害者には、試行錯誤しながら支援している。このような事例を元に、より良い支援のあり方について考え、それを職員間で共有することで、障害者個人の能力を最大限引き出せるよう支援していきたい。

執筆者：社会福祉法人　民生会
オンリーOneま心　管理者　川下康彦