事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

社会福祉法人慶信会は、昭和54（1979）年に知的障害（児）者の福祉を図ることを目的として「城南学園」を開設した。その後、障害者が社会で活躍できる機会をつくるため、平成5（1993）年に「第二城南学園」を開所した。「利用者が仕事を通じて社会のルールを学び社会性を養い、心身ともに豊かで、自信と誇りを持った社会人になることを援助する」ことを基本理念に掲げ、開所から現在までの約24年の間に、就労移行支援事業所や就労継続支援B型事業所、障害者就業・生活支援センター等の就労支援サービスを充実させるとともに、相談支援事業所やグループホームも開設するなど、障害のある方々が自分らしく、地域で働き、暮らしていくことを応援している。

（2）障害者雇用の経緯、背景

働く意思があり自分の力を発揮したいという意欲を持った人であれば、障害の程度に関わらず働けるよう援助していきたいという方針のもと、障害者の福祉事業に取り組む法人として自ら障害者雇用を進めた。平成7（1995）年に1名の知的障害者を調理員として雇用し、現在も、その従業員は雇用を継続している。こうした障害者とともに働く日々の実践の積み重ねと障害者の就労支援の取組の中で障害者の働く力を確信している当法人には、障害の有無で採用を判断することなく、障害があってもなくても、その人が当法人で活躍できる力があるかどうかで採用を判断するという土壌がある。今回の難病者（以下、Aさん）の採用に際しても、「下垂体前葉機能低下症」という初めて耳にする疾病名であったが、Aさんの温かで誠意のある人柄が対人業務で活かされるだろうと判断し採用することとなった。

2．取組の内容と効果

（1）取組の内容

ア 採用のきっかけ

Aさんは、ハローワークの一般求人への応募であった。面接でAさんから難病があるということを伝えられたものの、わからなかったため驚いたが、Aさんの働くことへの意欲ととても穏やかで真面目な人柄に好印象を感じ、病気を気にすることなく採用を決めた。また、自身で疾病管理が充分でき、障害のことを理解されており、事業所側が配慮すべき点も説明があったため安心して雇用をすすめることができた。

イ 業務内容

Aさんは就労移行支援事業所で障害者の一般企業への就労をサポートする支援員として活躍している。その業務は職業準備から求職活動、そして、就職後の職場定着まで多岐にわたる。具体的な内容は、社会人としてのマナー講座や体力作りのためのトレーニング、職業能力を高めるための内職等の作業訓練、求職活動のためのハローワークでの求人検索や職場開拓、企業見学や面接の際の同行、職場実習や施設外就労のサポート、そして、就労継続のための職場訪問や余暇支援、さらには、利用者確保のための営業活動等に取り組んでいる。施設の中だけでなく、企業や関係機関への訪問等、外回りの活動も多い。

ウ 活用した制度や助成金

今回活用した助成金は「発達障害・難治性疾患者雇用開発助成金」である。助成金があることで、休みが取れやすい環境作りができ、他の職員もそれに対して理解しやすくなっている。

（2）取り組みの効果

「下垂体前葉機能低下症」は、脳の下垂体の機能不全のためホルモンが出にくいことによる心身の成長に遅れが見られる病気で、体温調整の難しさからくる発熱や頭痛、疲れやすさといった特性がある。Aさんの雇用に当たって、Aさんの疲れやすさなどの身体的な負担軽減の配慮から、勤務先を自宅から通いやすい職場に変更した。また、業務内容が身体的に過重な負担とならないよう、障害が軽度で身辺自立した利用者の多い就労移行支援事業所に配属した。ただし、施設外の職場実習に行くこともあり、実習先によっては職場環境が整っていない企業もあるため、職場実習に行く場合は、そこでの業務がきつくないかどうかの確認や疲れていないかなどの声掛けを行っている。さらに、具合が悪くなったり、体調が優れないときは就業時間内での通院も認めるなどの配慮をしている。現在のところ、休日の通院が可能なため、平日に休みをとることはないが、Aさんとしては、そのような日頃からの声掛けや職員の気遣いのおかげで安心して働くことができていると感じている。常に自身の体調悪化の心配を抱えて仕事をしているAさんにとって特別扱いではなく、そうした何気なく他者を思いやる気持ちや言動こそが毎日安定して働くことのできる材料となっている。

3．今後の展望

（1）事業所としての思い

障害があっても一人ひとりの能力や特性に応じた労働の場を提供し、働く喜びと生きがいを持てるように援助をしたいと考えている当法人では、難病があるということはAさんが支援者として活躍する際に、当事者の気持ちに寄り添うことのできる「強み」になると考えている。就労移行支援事業所を利用する障害者は、働きたいという意欲を持ちながらも、これまでの挫折や失敗経験から自分に自信をなくし働くことは難しいのではないかという不安や、これまでの障害に対する無理解から自分を受け入れてくれる職場があるのかどうか心配を抱えている人も多い。そうした利用者の不安な気持ちを自然に受け止められることのできるAさんは利用者からの信頼も厚い。利用者の不安に共感でき、ともに悩み、そこから一緒に解決策を探すという支援が当たり前にできるのは、病気を抱えながらも前向きに生きてきた経験があるからこそだと思う。これまでの病気ゆえの辛さや不安といったものを、利用者の思いに寄り添えることのできるという「強み」に変えて、障害者が地域で働きながら活き活きと暮らしていけるように支援員としてますます活躍してもらいたいと考えている。

（2）Aさんの思い

就労移行支援事業所の職員として、利用者さんが就職した時が一番うれしいと話すAさんにとっての目標は、やはり、一人でも多くの利用者さんを一般企業に就職させることである。そのためには、利用者との信頼関係を作ることが何より大切だと感じているAさんは、これまでの自分の難病者としての経験を相手の気持ちに置き換えてサポートできる支援員になりたいという強い想いを持っている。Aさんは、一生治療を続けていかなければならない辛さや、いつ自分の症状が悪化するかもしれないという先の見えない不安のために社会に出ることができずに自宅に引きこもった経験がある。そんな時、同じ難病者や周囲の理解者が温かな声をかけてくれたおかげで社会に再び戻ることができた経験をしたAさんは、毎日自分の病気と葛藤しながら生きている難病者が勇気を持って社会に一歩踏み出すためには周囲の理解が何より大切だと実感している。そして、今回初めて自分の病気のことを開示して働くことができ、これまで一人で抱えていた辛さを職場と共有できたことで肩の力が抜け楽になったと感じている。そして、「自分の経験を利用者に語りかけながら、これからも一人でも多くの障害で苦しむ人が社会で活躍できるよう応援していきたい。」と笑顔で話していた。

執筆者：熊本障害者就業・生活支援センター
主任就業支援ワーカー　原田文子