事業所外観

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

株式会社アメニティー・エクスプレスは、平成14年（2002）年1月、宮崎市赤江に医療・福祉関係者用ユニフォームや、タオルのレンタル・販売及びクリーニングを主に取り扱う事業所として設立される。

バーコードによる製品の一括管理、先進的なレンタルシステムの導入などにより、効率化や低価格化を推進し、県下一円に店舗を展開している。

従業員一人ひとりが顧客満足を実現するために丁寧な仕事を心掛けながら、地域医療・福祉の下支えを行い、誇りを持って仕事に取り組んでいる。

（2）障害者雇用の経緯

当社は、以前から、聴覚障害者を雇用しているが、雇用した当時は障害者とのコミュニケーションをどう図ったらよいか、どのように働いてもらえばよいのかなど、右も左も全く分からないような状況であった。

しかしながら、障害の特性を理解する中で、コミュニケーションの取り方や、仕事の適性等が分かるようになった。また、聴覚障害のある従業員も仕事に慣れるに従い、障害のない従業員と何ら変わらない働きぶりを見せた。

その体験から、雇用する側が業務の適切な配置と工夫をすれば、障害者でも健常者と全く引けをとらない働きをすることが理解できた。

これにより、「業務に対応可能な障害者であれば積極的に受け入れていこう」という会社の方針に基づき障害者雇用の取組を進めようとしたところ、みやざき障害者就業・生活支援センターから発達障害のあるAさんの雇用について相談を受けた。

ゼネラルマネージャーとしての立場にある私は、発達障害のあるAさんとどのようにコミュニケーションを取ればよいのか、障害のない従業員にどのように理解してもらえばよいのか、また一方では生産効率を維持しながらAさんをどのように教育したらよいのかなど、様々な不安や悩みがあったものの、宮崎障害者職業センターのジョブコーチ支援やみやざき障害者就業・生活支援センターの協力を受けながら、Aさんを雇用することとした。

2．障害者の従事業務、職場配置

現在、当社には発達障害があるAさんのほか、内部障害のある従業員が1名、知的障害のある従業員が1名、計3名の障害のある従業員が勤務している。障害者雇用の中心となる部署は医療・福祉関係者が着用するユニフォームのクリーニングを行う作業場である。主な業務としては、集配で回収してきたクリーニング物を業務用洗濯機に投入する、次に洗濯が終了したクリーニング物を取り出し業務用乾燥機に投入する、そして乾燥が終了すると専用のカゴ車に乗せて次の工程へ運び引き渡すなどである。このうちAさんは大型の全自動洗濯機や乾燥機の操作、乾燥後のクリーニング物をハンガーに掛ける作業、全自動タオル畳み機へのタオルの投入作業を中心に行っている。特に乾燥後のクリーニング物をハンガーに掛ける作業については、ハンガーに掛ける際、ボタンの欠落、ファスナーの破損などの検品をしながらの作業になるが、Aさんは細部への注意力が優れているため、精度の高い検品を行っている。

また、全自動タオル畳み機の投入作業では少しでも手元がずれると綺麗に畳まれず仕上がりが崩れ、再度、人の手によって畳むことになる。しかし、Aさんが機械に投入したタオルは、ほとんどやり直す必要がない程正確な仕事を行うなど、一つひとつの作業にこだわって丁寧に行うAさんの障害の特性が作業上の「強み」として活かされている。

3．取組の内容

採用当初、Aさんは指示した言葉をそのまま字義どおりに解釈しがちで、その場面での状況や相手の意図を汲み取った対応が難しいことから、仕事におけるコミュニケーション面で多々ズレが見受けられるなど、コミュニケーションの取り方や作業の指示の出し方に戸惑いや不安があった。宮崎障害者職業センターのジョブコーチには採用当初から2週間程度、本人の働く様子を見てもらい、伝わりやすい指示の出し方など、Aさんへの関わり方について様々な助言をもらった。その中で、Aさんは「耳で聞く（聴覚）よりも目で見る（視覚）方が理解しやすい」とのジョブコーチからの助言により、使用する機械全てに使用手順を図や表・写真で記載したマニュアルを貼るなど、視覚情報で手順を明確化する取組を実施した。

具体的には洗剤や仕上げ剤の適量や素材や種類によって異なる洗濯工程など、作業の判断基準や手順を細かく表示した。また、Aさんの担当者として従業員1名を選任し、指示系統の一本化を図ることで曖昧な表現をなくすことにより、ミスを減らす取組を実施した。指示系統の一本化は、指示を出す側にもメリットがあり、指示を受け取る側の特性や能力を早い段階で把握することができることや、ミスの内容を検証する際にミスにつながった具体的な要因を見つけることが容易となり、その対応策や予防策を立てられるといった効果もあった。さらに、作業場面以外ではAさんにできるだけ他の従業員との話の輪に入ってもらい、会話のきっかけが作られるよう支援した。

Aさんは、次第に輪の中で他の従業員ともコミュニケーションが取れるようになり、時には同じ趣味を持つ従業員と楽しそうに会話をするなど、数か月経った頃には自ら積極的に話の輪の中に入るまでに至った。

採用当初は私の中に「発達障害」というだけで何かしらの抵抗があったことも事実である。その一方、発達障害に関する書籍を購入し参考にしたり、ジョブコーチに相談したり、打合せを重ねながら、何よりも実際に目の前にいるAさんを理解しようと日々のコミュニケーションの中で試行錯誤しながらも精一杯向き合ったことが、本人の理解に一番つながったと感じている。今はAさんに対して、純粋に「素直」な人だなと感じているとともに、当社にとってなくてはならない存在であると強く認識している。

作業手順を確認するAさん

視覚情報による手順の明確化

4．取組の効果、今後の課題

（1）取組の効果

Aさんのために取り組んだ「視覚情報による手順の明確化」はAさんだけでなく、他の従業員にも分かりやすく、作業ミスも減り、結果として職場全体の作業効率と向上につながっている。一般的に、聴覚情報に比べて視覚情報は早く理解できるという特性があり、新人従業員の教育にも役立っている。

Aさんは、今では会社の中で2番目に社歴が長い大ベテランにまで成長し、仕事の正確さには定評があり、後輩従業員に業務のレクチャーもしている程である。このような取組がAさんの勤続にもつながっており、勤続年数9年目を迎える今年、「優秀勤労障がい者」として「平成28年度障がい者雇用優良事業所等知事表彰」を受賞した。

（2）今後の課題

採用当時と変わらず真面目で優しいAさんの人間性は他の従業員からも人気が高い。純粋な気持ちで仕事に打ち込む姿は、他の従業員の刺激になり当社の活力を引き出してくれている。

Aさんの雇用を通じ、障害のある人を特別視するのではなく、一つの個性として捉えることで、企業の障害者雇用についての考え方や業務上における従業員の接し方が変わったと確かに感じている。

企業としての責務もある一方、障害者の受け入れをどのように進め、細分化された仕事をどのように指導し、安定した雇用につなげていくかが今後の課題である。新たに雇用した知的障害のあるBさんをどのように教育しAさんのように育成できるか奮闘中である。

最後に、障害者雇用においては、企業側が障害者本人の特性を理解し、業務において最大限活かせるような適材適所の配置を行うことが重要であり、そのことが企業にとっても障害者にとっても最良の結果に結びつくものと確信している。

当社も障害者雇用においては、決して進んでいるとは言えないが、障害者雇用と雇用した障害者の職場定着に向け、微力ながら当社にできる取組は今後も続けていくつもりである。

執筆者：株式会社アメニティー・エクスプレス
ゼネラルマネージャー 北野　純