事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

クオリサイトテクノロジーズでは、首都圏に集中するビジネスを地方に呼び込み、リモート環境でシステム開発・運用を行う「ニアショアモデル」を専業として、大手金融機関などミッションクリティカルな顧客を中心に事業を展開している。ネットワークの発達により働く場所を選ばないIT業界では、地方にいながら最先端の分野で活躍が可能であり、地方の優秀な人材の雇用・育成に積極的に取り組んでいる。

（2）障害者雇用の経緯

社員数の増加に伴い以前から障害者雇用を検討しており、当初は同社の基本業務である、システム開発の業務に従事するシステムエンジニア職の障害者求人を出していたが、応募者がいなかった。また、会社建物のセキュリティシステムの都合により車いす対応等のバリアフリー化が困難であることで対象がさらに限定されていた。

そのような状況下、同社社長が九州内の他社におけるヘルスキーパーを設置した事例に関する情報を手に入れたことにより、ヘルスキーパー導入の検討を開始した。それから約1年間かけて検討・準備が行われた後、同社においてもヘルスキーパー導入に至ったものである。

ヘルスキーパーの採用・募集に当たっては、沖縄県立沖縄盲学校に相談を行ったところ、すぐに同校から適任者が紹介され、インターンシップを経て本採用となった。ヘルスキーパーはバスで30分かけて通勤しているが、バス停から会社までの道路に点字ブロックがないことやバスの運行本数が少ないことに不安や不便さを感じている。なお、通勤経路の安全確保の面では、ヘルスキーパー正式採用前の平成28（2016）年3月に、所轄の警察署あて点字ブロックと音の鳴る信号機の整備を要望した（取材日（平成28（2016）年8月16日）時点では未整備。）。

2．取組の内容と効果

（1）取組の内容

ヘルスキーパーの導入に当たっては、あらかじめ社員にアンケートを行って意見を聴取するとともに、本採用前のインターンシップなどを実施した。

視覚障害1級の人を、フルタイムのヘルスキーパーとして、平成28（2016）年4月1日から雇い入れるとともに、仮眠室を改装し、マッサージ室として整備した。また、ヘルスキーパーの業務に必要となる作業設備（電動式昇降ベッド（対象者が盲学校で使用していたものと同じ型式で使い慣れたものであり、安心して施術を行えるように配慮した。）、温熱器具（治療部位に応じて大小2種類）、音声ガイド付き血圧計、カルテの作成、管理をパソコンで行うために必要となる音声読み上げソフト）を、障害者作業施設設置等助成金を利用して整備した。

マッサージの利用枠は1日7つあり、一つの枠は1時間の設定（そのうち実際の施術に当たるのは約30分で残りは準備や片付けに充てられる。）であるが、利用枠に空きがあれば、施術時間を30分延長することが可能とされている。

同社では1週間単位でヘルスキーパーの利用状況を取りまとめ、管理している。

ヘルスキーパーの利用に当たっては、希望者は全社員共有のスケジュール機能を利用して予約を行うこととされており、スケジュール管理面ではヘルスキーパーの負担はない。なお、まとめて予約を取ることは禁止されており、いったん施術を受けた後、改めて予約を取るというルールが定められている（一人の人が独占せず、多くの社員がヘルスキーパーを利用できるようにするため。）。

また、ヘルスキーパーが日報を作成する際には、施術を受けた社員の意見を記載し、その意見を踏まえて随時運用の見直しを行うなど柔軟に対応している。この具体的な例として、業務開始当初は、会社の休憩時間はヘルスキーパーの施術は受けられなかったが、ヘルスキーパーの休憩時間を変更し、施術を受けられようにしたことが挙げられる。

（2）取組の効果

導入当初は6割程度の利用率であったが、ヘルスキーパーが設置されていることが社内に浸透するにしたがって利用率が向上し、9割を超えることもある。

同社社員の男女構成比は男性8割・女性2割であるが、ヘルスキーパー利用者の状況は男女半々で相対的には女性の利用者が多い。

仕事で疲労した社員がヘルスキーパーからマッサージを受けてリフレッシュすることで仕事の効率が向上したり、社員のストレスが解消されるなど、メンタルヘルス面での効果も大きいと考えている。

ヘルスキーパーを設置した後はその利用率の向上が課題となるが、上長自ら率先して利用するなど、ヘルスキーパーを利用しやすい雰囲気が社内に定着するように管理者から上長に伝えている。また、残業が多い社員には、施術を受けるよう個別に声を掛けヘルスキーパーの利用を促している。なお、ヘルスキーパー自ら「ヘルスキーパーだより」を毎月発行し、社員の健康管理や意識の向上などに役立てている。

3．今後の展望と課題

同社は、今後社員のメンタルケアに力を入れていくことも視野に入れている。そうした意味でも、今回ヘルスキーパーを導入した意義は大変大きいものである。

これからも事業拡大とともに社員数の増加が見込まれ、障害者雇用を意識しているが、沖縄県北部という立地条件の影響もあってか、障害者求人を出してもなかなか応募者が現れないというジレンマがある。

今回のヘルスキーパーの導入成功に続けるように、IT系業務に従事する職種にこだわらず、障害者本人が個性を活かせる場を新たに創り、一緒に働ける環境を整えることで、採用の幅をさらに広げていきたい。

執筆者：独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構　
沖縄支部　高齢・障害者業務課長
島津　陽介