家庭の事情により転居した高次脳機能障害者を他店舗で受け入れた事例
- 事業所名
- 株式会社ゲオ(法人番号 3180001103236)
- 所在地
- 山形県G市
- 事業内容
- メディア小売業
DVD、ビデオ、ゲームソフト、CD、書籍等のレンタル及び販売 - 従業員数
- 18名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 1 店内の清掃業務等 難病 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 高次脳機能障害
- 目次
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事業所内観
1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
創業者が昭和61(1986)年に愛知県豊田市でレンタルビデオ店を開業しスタートした。現在は、株式会社ゲオホールディングスのグループ事業所となっている。
株式会社ゲオ(以下「ゲオ」という。)が創業より営んできた「メディア事業」では直営店舗を中心に全国に約1,200店舗を事業展開の核として、新規事業・商材(例:モバイル)を開拓していくとともに、レンタルおよびゲーム市場のシェア拡大に努めている。
ゲオではリユース事業(セカンドストリート・ジャンブルストアの運営)、アミューズ事業(関東を中心としたアミューズメント施設ウェアハウスの運営)、モバイル事業(平成26(2014)年にはゲオショップ全店で中古携帯電話・スマートフォンの取り扱いを開始)を展開しており、全国に1,500を超える店舗ネットワークを構築している。
(2)障害者雇用の経緯
企業として全国的に障害者雇用を推進する方針があり、県内各店舗でも障害者雇用に取り組む中で今回紹介するAさんは、平成25(2013)年7月に店舗に採用となった。
採用後2年が経過し業務を習得した頃、家庭の事情により市外へ引越しをすることになり、Aさんから店長へ「引越しした後もゲオで働きたい」との申し出があったことから、店長と事業所本部間で検討・調整を行い、転居先の市内の店舗へ異動となり、平成27 (2015)年10月から勤務することとなった。
2.障害者雇用へ向けた取組の内容
(1)Aさんの求職活動から雇用まで
- ア.Aさんの取組
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Aさんは障害(高次脳機能障害)を開示し、地域障害者職業センター(以下「障害者職業センター」という。)で職業準備支援や職場対人技能トレーニングなどを受講しながら、ハローワーク専門援助部門での求職登録を行い、職業相談を継続していた。併せて、障害者手帳の申請も検討していたことから、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)にも登録を行った。後に、ゲオの求人情報の提供を受け、職場実習の利用を経て、応募、面接を行った。その結果、店舗での採用となり、ジョブコーチ支援を利用した。
- イ.ハローワークの支援
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本人の障害特性と求人のマッチングを諮ること、事業所側から採用を検討するに当たり実施する職場実習とそのサポート体制、雇用後の支援体制などについて障害者職業センター、D支援センター、ハローワーク担当者間でケース会議を実施した。
- ウ.事業所の取組
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企業の方針として全国の各店舗で障害者雇用を進めており、ハローワークに障害者専用求人を出した。各店舗で障害者雇用を推進するに当たり、職場実習を利用することとし、本部、各店舗及びハローワークの間で受入時期などの調整に必要な情報の共有を図った。
障害者雇用を検討する際には、職場実習で見つかった課題点を関係機関と検討した。その後、Aさんからの応募を受け、採用やジョブコーチ支援の利用に係るケース会議に参加し、Aさんに対する支援内容の確認を行った。また、ジョブコーチ支援を利用しながら事業所内での支援体制の構築を図った。
採用後の店長などのスタッフの異動、店舗の改装が行われた際にも、その都度、本人の障害特性や勤務状況に応じた支援が行われた。
- エ.障害者職業センター及びジョブコーチの支援
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障害者職業センターでは、Aさんとの職業相談、職業評価の結果を踏まえ、「質問をする」、「確認をする」などをテーマとする職場対人技能トレーニング、グループワークによる職業指導を実施した。
また、ハローワーク専門援助部門への求職登録にも同行した。また、就職前の支援、就職後のジョブコーチ支援期間中は定期的にケース会議を開催し、Aさんや、事業所、支援機関での情報の共有を図った。支援当初から長期的な支援体制構築のため支援センターの連携調整も行い、ジョブコーチ支援フォローアップ終了後は就労継続支援を支援センターに引き継いでいる。事業所から支援の要請依頼があったときには、支援センターと情報共有を図り、支援の調整を行っている。
- オ.支援センターの支援
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Aさんに対する支援は障害者手帳の取得に関する相談から始まり、正式登録、定期相談、具体的支援の実施と続いている。ハローワークからゲオが障害者雇用を進めるとの情報提供を受け、求職者と求人のマッチングを行うためのケース会議に参加している。平成25 (2013)年夏に採用となり、ジョブコーチ支援の利用開始に伴い、ジョブコーチ支援開始時期や、ジョブコーチ支援期間の中間、終了時期など必要な場面を見極めケース会議に参加した。ジョブコーチ支援、フォローアップ支援終了後は、職場訪問により就労状況を確認し就労の継続に向けた支援を行っている。
(2)家庭の事情による転居の相談から異動と現在まで
- ア.Aさんの取組
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採用後2年が経過し業務を習得した頃、家庭の事情により転居することとなり店舗での継続勤務が困難となった。しかし、Aさんには「ゲオで働きたい」という意思があり、店長に相談をした。
それを受けて店長が事業所本部と調整し、障害のある雇用契約社員としては初となる店舗間の人事異動として対応することが決定した。
しかし、Aさんは転居先に近い店舗を利用したことがなく、また、店舗により「異なる作業内容」、「作業手順」、「新たな人間関係構築」などに不安があったため、ジョブコーチ支援の活用を支援センターに相談し、異動先の店舗でもジョブコーチ支援を活用することとなった。
- イ.事業所の取組
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Aさんから、今後もゲオで働きたいとの相談を受けた。店長が事業所本部に相談したところ、転居先から通勤可能な店舗への異動の可能性について話があり、本人や家族と相談し、人事異動として対応するための調整が始まった。受入に必要な調整を本部、各店舗間で行い、人事異動直後から支援センターの支援と障害者職業センターのジョブコーチ支援を受け、職場定着を図ることとした。
- ウ.障害者職業センター及びジョブコーチの支援
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支援センターからAさんの家庭の事情による転居、本人の継続勤務に関する意向、会社が店舗間の人事異動として対応することなどに関する情報と異動先の店舗でのジョブコーチ支援利用希望などの情報提供を受け、異動先の店舗及び本人の希望によりジョブコーチ支援を実施した。
- エ.支援センターの支援
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Aさんの転居と人事異動が確定した段階で、転居前の圏域の支援センターから転居先の圏域の支援センターに連絡があり、両支援センター間で、人事異動に関係する連絡調整を行うとともに、Aさんの意向を踏まえ、障害特性、従事していた業務、課題発生時の対応状況などに関する、支援情報の引き継ぎを行った。
支援センターでは、Aさん及び家族との面談結果を踏まえ、異動先の店長と面談を行い、労働条件についての確認を行った。また、異動先の店舗では障害者雇用が初めてだったので支援センターより支援制度に関する情報を提供し、人事異動と同時にジョブコーチ支援を開始することとなった。
3.取組の効果と展望
(1)取組の効果
■具体的なジョブコーチ支援内容
- ア.人事異動後のAさんへの支援
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Aさんへの支援として(ア)作業の定着、正確な作業が遂行できること、(イ)職場のルールやマナーを理解し実践できること、の2点をポイントとして支援を実施した。
ポイント(ア)では異動前の店舗と同じ棚の清掃作業を中心とした店舗内の清掃作業とした。異動前からAさんには障害特性から注意のコントロールが不十分な様子が見られたため、「担当する業務を明確にする」、「仕事に見通しを持たせる」ことを目的にAさんのための作業スケジュールを検討した。それに伴い異動先の店舗では新たな作業の創出が必要となり、スタッフと相談し複数の作業を試行するとともに、「作業手順や使用する道具」、「所要時間」などを確認し、毎日行なう業務に加え、新たな日替り作業を組み入れた1週間のスケジュールを作成した。その結果、担当する業務を理解し、スケジュールに沿った行動が可能となり、スタッフもAさんの動きを確認することが可能となった。
毎日行う棚の清掃作業については、Aさん、店長と相談を行い、作業手順と順路を定めた順路図を作成した。また、作業の漏れを少なくするため、店内見取図を携帯してもらい、1日の作業終了後にその日に作業した部分を色付けすることで翌日の作業開始場所が分かるようにしたところ作業の漏れが減少した。その他の清掃作業でも「手順」、「順路」、「方法」を決めた取組順路の理解に混乱があった際には目印を付けることで作業の漏れが解消した。
ポイント(イ)では、「定期的な報告」、「作業指示をもらう」、「使い捨て物品の交換タイミング」などの必要事項を明記し、自己判断で作業をしないよう、社内ルールに則って作業を遂行するための意識付けを行なった。
Aさんは、気付いたことに関して、相談なしで実行してしまうことがあり、その結果自分の業務が完了できないことや、思わぬけがや物品などの破損につながる可能性もあるため、作業方法や道具の使い方など「気が付いたことを報告する、相談する」ことの重要性を説明した。
また、Aさんは接客の際の案内を苦手としていたが、お客様をカウンターに案内することのメリットを店長がAさんに対して教示したことで、案内の重要性を理解することができた。なお、苦手意識を軽減させるためジョブコーチがお客役となり接客の練習にも取り組んだ。
- イ.事業主への支援
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最初の事業主支援として、一緒に働くスタッフに対しAさんの障害特性について説明し、指導方法の提案や担当業務の相談を行った。また、Aさんの早期定着を念頭に、清掃用具や踏台など、清掃作業の環境について検討した。困ったときの相談相手としてスタッフの中からキーパーソンを決めることで報告時の対応や指示が統一され、Aさんは迷うことなく仕事を行えるようになった。
■人事異動によるメリット
- 人事異動により離職を防止し障害者の雇用率が維持できたこと。
- 店舗間の異動であるため新規雇用と異なり職務に関する事業所側の指導負担が軽減できたこと。また、店舗間の異動を行ったことでAさんは異動先での仕事に大まかなイメージを持つことができ、全てのことを新しく覚え直す(スタッフが教える)ことを防ぐことができたこと。
- 求職活動時から支援センターの支援を受けていたので、転居先の支援センターへの引き継ぎも容易となり、新たな環境での就労面と生活面における不安を解消することができたこと。
- 障害者職業センターでの職業準備支援やジョブコーチ支援を利用したことで、本人の障害特性を充分に把握できていたため、人事異動後も支援のポイントや有効な情報提供を行うことができたこと。また、Aさんの人事異動前の課題も把握していたため、店舗間の異動があったことで、改めて指導しなおすことが可能となったこと。
- 支援センターが事業所と連携を取ったことにより、引継ぎが有効にでき、また、事業所やAさんのニーズに合わせた情報提供や支援に結び付けることができた。
(2)Aさん及び事業所の談話
- Aさんに話を伺ったところ、家庭の事情で市外に引越しをすることとなり、「引越し先で新しい仕事を探すのは簡単ではない」というのが正直な気持ちだった。ゲオに勤めて2年、仕事にやりがいを感じており勤務先の店長に「引越し先でも通勤できる所に店舗があればゲオで働きたい」と相談した。会社で検討してもらった結果、転居先でも近くの店舗で勤務できることになり、会社が店舗間の異動という対応をとっていただいたことに感謝していると述べている。
- 異動先の店舗の店長に話を伺った。実は、店長も市内の別の店舗からAさんと同日に異動となっている。この店舗での障害者雇用は初めてで、中には障害のある人と接したことがないスタッフもおり、不安は強く、偏見もなくはなかった。前勤務地では障害者雇用をしており、自分が関わった経験から不安や偏見を取り除く助言が可能となっている。
なお、障害者雇用を通して障害のある人でも単調な仕事だけではなく、様々な業務に従事できるような事業所側の体制づくり及び配慮が必要とのことであった。
執筆者:社会福祉法人山形県社会福祉事業団サポートセンターあおぞら
ジョブコーチ 丸山結佳
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