企業と障害者支援機関・障害者団体との連携・協力により雇用に繋がった事例
- 事業所名
- 株式会社図書館流通センター
(指定管理事業所・ふじみ野市立上福岡図書館)(法人番号 3010001005556) - 所在地
- 東京都文京区(本社)、埼玉県ふじみ野市(ふじみ野市立上福岡図書館)
- 事業内容
- 書誌データベース(TRC MARC)作成及び販売
公共図書館・学校図書館等への装備付図書等の販売
図書館管理運営業務(業務委託・指定管理者による図書館の運営・管理)などを行う図書館総合支援企業 - 従業員数
- ふじみ野市立上福岡図書館 32名
- うち障害者数
- 2名
2016年6月1日現在
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 資料管理業務 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 1 児童サービス業務 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 難病(潰瘍性大腸炎)
- 目次
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事業所外観
1.事業所の概要、障害者と難病患者雇用の経緯
(1)事業所の概要
図書館は、本など過去の膨大な知的生産物を独自に組織化して保存する任務を負っている。図書館の目的は、その任務を利活用して、学校教育の外側で、自らの知的活動を通して自立しようとする市民を支援することにある。
ふじみ野市立上福岡図書館は、平成27(2015)年10月から「FUJIMINO TRC GROUP:代表企業株式会社図書館流通センター(以下「TRC」という。)」が指定管理者として管理運営をしている。
<ふじみ野市立上福岡図書館の概要>
現在館の開館年月 平成6(1994)年9月 開館時間 9時~20時 休館日 毎月第3月曜日 延べ床面積 2,772㎡ 蔵書資料数 346,883冊・点(平成27(2015)年度実績) 貸出冊数 523,189冊・点(平成27(2015)年度実績) 貸出利用者数 121,779人(平成27(2015)年度実績) (2)障害者雇用の経緯
TRCは、障害者の就労支援として、障害者の雇用促進のため、厚生労働省が全面的に協力する障害者雇用支援総合ポータルサイトである「ATARIMAEプロジェクト」に企業サポーターとして登録している。
現在、会社全体の従業員数約5,900名(※常用雇用従業員数)のうち約130名の障害者を雇用している。法定雇用率は2.21%(平成28(2016)年6月1日現在)になっており、図書館サービスの一角として貢献してくれている。
障害者のYさんは、身体障害1級で電動車いすの生活を送っている。
平成22(2010)年12月頃、ふじみ野市障害者就労支援センターから、上福岡図書館で働いてみませんかという
紹介があり、上福岡図書館で面接を受けて平成23(2011)年1月から勤務している。
平成27(2015)年10月から上福岡図書館がTRCにより運営が開始されてからも、障害者雇用の促進を図るため、Yさんの意思を確認して引き続き就労の継続をお願いした。
勤務形態は週5日7.5時間の労働条件で勤務している。勤続年数は、通算すると平成28(2016)年9月現在5年6か月となる。
(3)難病患者雇用の経緯
上福岡図書館に勤務する難病患者は、潰瘍性大腸炎を患うEさんである。
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に潰瘍ができる炎症性腸疾患であり、下血を伴うまたは伴わない下痢と腹痛が起きる。症状が落ち着いている寛解期と症状が悪化する活動期を繰り返し、活動期には、発熱、低栄養による体重減少、貧血を伴う。本人は薬物による免疫抑制療法中であるので、感染症にかかりやすいといった副作用がある。疲労やストレスによって悪化し、トイレが頻回となる。
上福岡図書館は、平成27(2015)年10月から指定管理者制度によって、運営することになったため、新たなライブラリースタッフの採用をしていた。現在の上福岡図書館長は一般社団法人埼玉県障害難病団体協議会の活動を通し、ハローワークの難病患者就職サポーターと知り合いだったこともあり、難病患者サポーターを通じて、休職中であったEさんを紹介された。
Eさんは図書館勤務が初めてであり、発病してから本格的に就労することも初めてであったため、不安も多かった。そこで、ハローワークの難病患者就職サポーターを交え、館長とEさんが面談し、事業所の様子や業務内容に関して説明をした。また、Eさんも病状や治療に関して説明し、就労時間や通勤に関する配慮事項などを三者で事前に話し合うことができた。
その後、EさんはTRCのライブラリースタッフに応募し、書類選考、面接試験ののち、契約社員として採用され、上福岡図書館に配属された。
2.取組の内容と効果
(1)取組みの内容
- ア.Yさんの業務内容
-
指定管理者で運営する前の上福岡図書館では、以下の業務を担当していた。
- (ア)
- ふじみ野市に関する新聞記事の入力
- (イ)
- 雑誌の受入登録
- (ウ)
- 利用者登録に記入された内容とPCに入力されたデータとの確認
- (エ)
- CD/DVDの入力作業
- (オ)
- 相互貸借業務の補助
- (カ)
- 上福岡図書館・上福岡西公民館図書室・大井図書館の回送資料の集計など
上記の業務のなかでも雑誌の登録入力は、毎日行う作業で書店から納入次第、パソコンに必要事項を登録して、登録したデータに誤りがないかの確認を別の担当者が行うことによりミスをふせぐようにしている。この雑誌の登録作業は、お客様に提供する情報なので一日の業務の中で最も重要な作業である。
このときの勤務形態は、週4日で土曜日・日曜日・月曜日は休みで、勤務時間は10:00~17:00であった。
現在の指定管理者による運営に移った後も、上記の業務は基本的には引継ぎ、相互貸借業務は補助から主担当となり、新しい仕事も加わった。
また、勤務形態も、週5日、8時30分~17時までの勤務時間になる。
追加になった主な業務は、
- (ア)
- 予約期限切れの本をキャンセルする。
- (イ)
- 雑誌の受入登録、記事データを入力する。
- (ウ)
- 県立図書館、県内の市町村図書館との相互貸借資料の借用依頼、返却処理をする。
- (エ)
- CD・DVDの登録入力作業。
以上が現在のメインの業務となっているが、毎日、Yさんは優先順位をつけて作業を行っている。特に雑誌は毎日受入があり、相互貸借業務は他館に予約して手元に来るまで1週間はかかるので依頼がきたら早めに処理をするようにしている。
業務は、5人程度のチームで、協力しながら進めている。仕事はチームプレーで行うので、間違わないように気を付けているが、間違えたら素直に謝り、再度ミスを行わないように心がけている。
- イ.Yさんへの配慮事項
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電動車いすを使用しているので、事務室はもとより、館内全体を電動車いすで移動、走行しやすいように障害物を取り除き、通路を広く確保している。作業を行うパソコンスペースも作業しやすいような配置にするなど、作業環境を整え、快適性の促進と疲労の軽減を図っている。
また、ふじみ野市就労支援センターの担当者とYさん、館長との三者による面談を定期的に行い、Yさんの要望・意見をヒアリングして、就労支援の充実を図っている。
- ウ.Eさんの業務内容
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Eさんの業務内容は、他の従業員と基本的に同じである。以下、Eさんの業務内容と、Eさんが他の従業員と同じ業務内容を行なうために実施されている合理的配慮について述べる。
Eさんは、上福岡図書館の児童サービス部門に所属している。業務内容は、週2回の乳幼児おはなし会の担当、子ども映画会の担当、季節や行事ごとの児童書の展示、児童書の選書、児童関連イベントの計画と実施、児童書コーナーの管理、寄贈本の受け入れと装備、返却本の配架などを他の児童サービス部門4名と協力して行っている。他に貸出、返却、相談といったカウンター業務や、地下書庫での配架作業、バックヤード業務なども行う。
- エ.Eさんへの合理的配慮
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就業時間10時~17時の1日6時間、シフト制による週3.5日、週21時間勤務である。本来、他のライブラリースタッフは8時30分~20時30分間で早番、遅番のシフトがあるが、Eさんは通勤時間が長いことや服薬時間の調整があるため、固定の時間帯で勤務できるよう配慮されている。
Eさんは、2か月に1度の通院日があり、生物学的製剤による点滴治療を行なっている。翌日は副作用で発熱など体調不良を起こしやすいため、通院日と翌日は休みを取れるよう、配慮している。出勤日が連続しすぎないように、1か月のシフトは本人の申告により、勤務日を調整し決定している。
病状や使用している薬の影響で、貧血症状が出やすいため、カウンターでの貸出、返却業務など、立ち仕事が長時間続かないようにしている。また、体調が悪い時は、本人が相談すれば、座ってできる業務に変更可能である。
また、薬物による免疫抑制療法中であるので、感染症にかかりやすく、治りにくいといった副作用があるため、インフルエンザなどが流行する時期は、マスクをしてカウンター作業をお願いしている。
Yさんデータ入力作業の様子
Eさんおはなし会の様子
(2)取組の効果
平成27(2015)年10月から、TRCが指定管理者として、運営を開始後、障害者差別解消法が平成28(2016)年4月から施行されることもあり、障害者差別解消法に関する本社研修、埼玉県図書館協会などが主催する研修会に積極的にスタッフを派遣した。
また、職場においても、理解の促進を図るため、パンフレット等の関係資料を全員に配付・説明をして、この法の目的である①差別的取り扱いや権利侵害をしてはいけないこと。②社会的障壁を取り除くために合理的配慮をすることを理解してもらうように努めた。
そのような職場外研修、職場内研修を通じて、共に働いている障害・難病のスタッフに対する理解が醸成されてきている。
また、本人たちとコミュニケーションをとり、適性、能力を最大限に引き出す業務を担当してもらうことによっていきいきと就労している様子がうかがえる。
職場風土もともに働くことを通して、お互いを尊重し助け合いながら、思いやりをもって業務にあたっている。
3.本人たちの意見、今後の展望と課題
(1)本人たちの意見
- ア.Yさんのコメント
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私は本が読むのが好きなので、自分に適した仕事と思う。だからこそ与えられた職務を間違いないようにして、その仕事に対して質問を受けたら的確にこたえられるようにしていきたい。
まずは基本に戻り、「ルール」や「マナー」を守り、また、職場の仲間とコミュニケーションを図り、一人の社員として頑張っていきたいと思っている。
- イ.Eさんのコメント
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潰瘍性大腸炎になった後、また就労することができて、大変嬉しかった。働いて他の人と関わることは、精神的にも身体的にもよい影響を与えていると感じる。難病になったことで色々なことに自信を失っていたが、仕事ができるようになることで病気とつきあっていく自信がついた。
就業時間、通勤方法、通院に関する休暇の希望など、様々な配慮をしていただき、大変感謝している。また、他の従業員の方々も、温かく見守って下さり、周囲の方に恵まれた環境だと感じている。無理をしない範囲で、私も職場に貢献できるよう努力したいと思い、専門的知識を身に着けるため、大学の通信教育の司書課程で学び始めた。今後、体調がより安定すれば、就業時間を増やしていきたい。
(2)今後の展望と課題
障害者・難病患者の就労意欲は近年急速に高まっており、障害者・難病患者が就労を通じ、誇りをもって自立した生活を送ることができるように、事業所としてこれからもともにいきいきと働き続けられるような職場環境を整えて、就労支援をしていきたい。
執筆者:ふじみ野市立上福岡図書館 田中 一
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