障害のある患者の早期家庭復帰をサポートする、 回復期リハビリテーション病院での障害者雇用の取組
- 事業所名
- 一般社団法人 巨樹の会 赤羽リハビリテーション病院(法人番号 9250005003106)
- 所在地
- 東京都北区
- 事業内容
- 回復期リハビリテーション病院
- 従業員数
- 378名（正社員370名、パート8名）
- うち障害者数
- 5名
2016年6月1日現在
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 事務業務 肢体不自由 3 事務業務 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 1 リハビリ助手・事務補助業務 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 難病（多発性硬化症）
- 目次
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病院外観
リハビリテーションルーム
リハビリテーション風景
1. 病院の概要・基本理念・難病の方の雇用の経緯
(1) 病院概要・特色
当病院の運営母体は一般社団法人巨樹の会であり、急性期病院と回復期のリハビリテーション病院は当病院を含めて関東では14か所ある。
特色として、障害のある患者に一日でも早い家庭復帰、社会復帰を第一に考え、徹底したリハビリテーション医療を提供し、地域急性期医療と介護の橋渡し役になることを目的に活動している。
現在、リハビリテーション科には、理学療法士99名、作業療法士57名、言語聴覚士16名の合計172名体制で365日リハビリテーションを提供している。生活の場を想定し、バスに乗ったり、買い物へ行ったりと病院外でのリハビリテーションも積極的に行っている。
自宅に帰られた後の生活をよりよく過ごせるような工夫や、福祉用具の紹介なども行っている。また、退院前には必ず自宅の居住環境を見に行き、その環境で生活するために必要な能力を考えた上で、その状況に合わせたリハビリテーションの内容を組立てている。
(2) 基本理念
当病院は「手には技術 頭には知識 患者様には愛を」を基本理念に置き、リハビリテーションの定義である「障害を受けた者を彼のなしうる最大の身体的・精神的・社会的・職業的・経済的な能力を有するまでに回復させること」を念頭に置き、早期在宅復帰・社会復帰をサポートしている。
(3) 難病の方の雇用経緯について
本年早々にハローワークから、「難病ではあるが大変有能な女性が当病院への就労を希望している」との紹介があった。
当病院としては、難病患者の採用ということは初めてのケースで戸惑いもあったが、先ずは本人と面接してみることにした。面接を通じて、彼女の人となりや病状が良く把握できたので、早速院内で採用の可否について検討を行った。
病名は「多発性硬化症」で症状として両足に痺れがあるが、当病院として彼女への配慮は十分可能であること、また、本人自身が難病と闘っていることで、当病院の患者やその家族の気持ちも理解できるし、何よりも本人が明るくハキハキした大変好感のもてる女性であったので、当病院で彼女は十分活躍できると判断し、一般枠で採用を決定した。
2. 具体的取組（職務面・配慮面）の内容
(1) 病状の特色等
本人の病状は、常に両足に痺れがあり、静止している僅かな時間でも我慢ができないほど痺れが増すことである。従って、常に動いている職務が合っている。
病院の取組について語る左から石田課長・甲斐事務長
(2) 職務内容
本人の病状として、席に座った静止状態での事務作業は好ましくないことから、職務としては、作業療法士や理学療法士の介助補助の職務を主な業務としている。事務作業として、外来予約やデータ入力も一部担当しているが、身体的負担にならないよう極短時間の対応となるように、周囲及び本人も調整している。
(3) 配慮面
職務に関しては、介助補助といっても、患者のオムツの交換や着替え、入浴介助の補助といったハードな介助は、本人の身体的負荷が大きいので、担当させていない。また、ステロイド投与の影響から股関節も痛めているようなので、重いものは持たせないようにしている。
具体的には、作業療法士や理学療法士の補助として患者のリハビリ時（立ち上がったり、座ったり移動する時）の介助などを行っている。
さらに治療面に対する配慮としては、彼女自身の教育入院（自己注射の仕方など自身の対応についての入院）の際は、優先的に休暇を取得できるようにして、他のスタッフのシフト体制も変えるようにしている。その他、年に1回1か月程度入院治療が必要となるが、優先的に休暇取得できるよう周囲も協力している。
当病院には様々な病状の患者が入院、通院しながらリハビリを行っている。スタッフは精一杯患者の側に立ち、家族の気持ちも理解しながら日々病状の改善のためにリハビリのサポートを行っている。
このような回復期のリハビリテーション専門病院という特色と、個々の障害を理解し対応する専門職の集団である職場だからこそ、難病である同僚の病状も理解ができ、快く協力や配慮もできるのだろうと思う。
3. 難病のある社員の声（狐﨑 友希（きつねざき ゆうき）さん）
以下は、狐﨑さんへのインタビューの内容です。
私は5年程前に両足の痺れを覚え色々な病院で検査を行いましたが、原因・病名が判りませんでした。
そして暫くし、2年前に難病に指定されている「多発性硬化症」と判定されました。
そこから始まった2年間の闘病生活中に私の自宅の近隣にリハビリテーション病院が新たに建築されたことを知り、退院後はこの病院で患者さんのために是非働きたいと思っておりました。
そして、退院後の今年、ハローワークに行き「是非この赤羽リハビリテーション病院で働きたい」と申し入れを行いました。ハローワークの担当者にも親身に相談にのっていただきました。
私は自分が「多発性硬化症」という難病と闘っている経験を生かして、同じように苦しみ・闘っている患者さんの役に立ちたいとずっと前から考えておりました。そのためにカウンセラーと看護助手の資格も取得しました。
幸い当病院への採用が決まりこの3月から当病院で正社員として勤務しております。
私は現在、「多発性硬化症」の患者会、サークル名「M－N Smile」の代表を務めております。このサークル会員には同じ病状の方が約200名参加されておりますが、どの方も一般企業就労は大変困難な状況です。
多くの方が面接時に「多発性硬化症」であることを明かすと採用は困難になります。また、病名を隠して入社できても、再発した場合は入院が必要となり退職に導かれることが多いと聞きます。それだけこの「多発性硬化症」の方は就労が難しい病気であり、雇用側にとっても対処の仕方が判らず、適性に合った職務も判断しづらいと思います。
私は、幸い当病院に就職することができたものの、入社してすぐに、3日間の入院を2回もすることになってしまいました。しかし、上司の石田課長を始め同僚の方々のご理解とご配慮のお陰で、安心して治療することができました。ただ本当に皆さんには申し訳ないと思っています。
今後は年に一度は「血漿交換治療」で1か月程度の入院が必要になりますが、この点も上司・同僚は理解してくれています。このように当病院のスタッフは皆理解してくれカバーしてくれます。本当にハード、ソフト両面において恵まれた環境の中で働かせていただくことに心から感謝しています。
この様な恵まれた環境の中で働かせていただいている中で、私自身がこの病院に貢献できることは、私自身の病気を強みとして、また、カウンセラー、看護助手の資格を生かしてリハビリ患者様の気持ちに寄り添ってあげること、更に家族の皆様の気持ちや思いを理解してあげることだと思っています。そのことによって、患者様の回復に繋がることのお手伝いができることが、病院への恩返しでもあると思っています。
最後に、先ほども述べましたが「多発性硬化症」患者の就労は極めて難しい現状です。今回私が当病院に就職できた一つの要因には、国の助成金制度があります。この助成金制度は「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金」という制度です。
是非、この制度があることを広めていただき、企業が少しでも難病患者の雇用が拡大できるようになれば良いなと思っています。
なお、私は現在ライブ活動も行っています。当病院でも院内ライブを開かせていただき多くの患者様の前で歌わせていただきました。たくさんの患者様、家族の皆さまから、「また開催して欲しい」という声をいただき嬉しく思っています。これからも、病気に負けずにライブ活動も続けて行きたいと思っています。
本当に当病院に採用していただいたことに感謝するとともに、色々な方々にも支えられているから、こうして働き・ライブも行えるのだと思っています。今、とても職場にも職務にも満足しております。
狐﨑さんの就労風景
4．今後の課題と展望
当病院は様々な病気の方々の回復期リハビリテーション専門病院ということから、スタッフ全員に医療知識があり障害のある方の辛さや悩み、家族の方々の思いといったことも理解している職場である。
今回、難病の方を社員として採用し満足して働いていただけた大きな要因は、上記のような理解ある社員がいる職場環境であるということだと思う。
執筆者：一般社団法人障害者雇用企業支援協会 障害者雇用企業相談室
障害者雇用アドバイザー 手嶋 清澄
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