適切なマッチングにより雇用が進んだ事例
- 事業所名
- 光和自動車(法人番号 3140005017171)
- 所在地
- 三重県津市
- 事業内容
- 自動車鈑金・塗装、車検、保険、車の販売
- 従業員数
- 3名
- うち障害者数
- 1名
2016年6月1日現在
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 1 自動車鈑金・塗装等 その他の障害 - ■本事例の対象となる障害
- 難病(クローン病)
- 目次
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事業所外観(1)
1.事業所の概要
光和自動車は三重県津市郊外に所在し、自動車の修理、鈑金、塗装などを行う事業所である。現在の中村代表が平成5(1993)年に会社を立ち上げ、その後、夫婦で経営してきた小規模な工場である。
主な業務としては、自動車の修理が多くを占めている。自動車事故は8月や12月に多いためその時期が特に忙しい時期となる。実際に9月上旬に事業所を訪問した際には、事業所の前には修理を待つ車であふれていた。自動車修理というと漠然とした単純な作業のイメージがあるが、形状の補修、鈑金、塗装などの複雑多岐にわたる作業過程をこなさなければならない上、故障の形態も一つとして同じものはなく、さらに車種によっても素材が異なるため、幅広い技術、集中力、経験を要する。事故などによる破損は一瞬だが、その修復にはその何十倍もの労力・時間が掛かる。中村代表によると、一通りの作業を十分にこなすためには少なくとも10年の経験が必要とのことである。
作業場の外観(2)
2.難病患者の雇用の経緯等
(1)難病の症状
大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍を引き起こす原因不明の疾患の総称を炎症性腸疾患と言うが、クローン病もこの炎症性腸疾患のひとつである。主に若年者に見られ、症状は個人によってさまざまで、特徴的な症状は腹痛と下痢である。動物性脂肪は炎症を悪化することもあり、日常生活においては特に食事には注意が必要とされている。
従業員のAさんの場合は、仕事を始める前は体調がすぐれないこともあったが、現在では通常業務に支障が出るほどの症状ではない。
(2)難病患者の雇用の経緯
光和自動車では創業以来、夫婦経営で進めてきたが、顧客への継続的なサービス提供を十分に行う体制が必要であると判断し、ハローワークに新たな人材を募集していた。一方、Aさんもこれまでガソリンスタンドなどで車に携わる仕事を経験していて、Aさん自身の関心が高い自動車関連の業務を求職していた。Aさんの相談を受ける中で、ハローワークの担当者は勤務先が近い光和自動車の求職と結びつけることを考え、マッチングを行った。
ハローワークからの紹介を受けた中村代表は、「クローン病」という聞きなれない疾患について当然不安がないわけでもなかったが、いろいろと調べてみてもなかなか分からない疾患であり、まずは受け入れてみようということとなった。当初は顔色がすぐれなかったため健康面に不安もあったが、次第に問題なく業務に慣れていった。仕事を続けることができたのは、小規模事業所であることから見守りが十分にできたこともあるが、特に本人が自動車に関連する仕事が好きであるということが何よりも大きかったようだ。
採用の決定、職場定着の背景には、自動車に接する仕事をやりたいという本人の強い意志、自信が大きかった。また、体力を要する仕事であるが、実際に朝から夕方まで働いてみる中で、体力面でも大丈夫という判断もあった。
(3)業務の内容と配慮
現在、Aさんは光和自動車の従業員として戦力となっている。当然、一人前になるにはまだまだ経験が必要である。上達のため、まず実際に作業をやらせてみて、問題点などの気付いた点を中村代表が指導する。こうした中村代表の下で指導を受けながら、自動車修理に関する技術を磨いているところである。中村代表によると、病気のことを意識することはほとんどないとのことである。現在でもAさんは、月に一度休暇を取って通院をしているが、休暇を取得しやすいように配慮しており、基本的に業務に支障がでることはない。唯一、食事については気を付ける必要があり、一緒に外食する場合や、顧客からお礼として食べ物などをいただく場合では少し気に掛ける必要がある。ただ、本人が一番病気のことを理解していることでもあり、基本的に本人自身に健康管理を任せている。家族的な経営で見守られながら、自身の希望である自動車関連の仕事に恵まれたこともあり、採用当初は体調が不安な面もあったが、今では体調も良好な状態で安定しているようである。
作業場の内部
3.取組効果と課題
採用してから1年が経過するが、採用当初よりも体調は良くなっているとの印象を中村代表は感じている。希望の仕事に就けた喜びと、日々新たな技術を身に付けることができる実感が体調面にも表れているのではないだろうか。「クローン病」というと何か大変な病気のように思ってしまうが、今回のケースでは、現在のところ一般の従業員と基本的に変わることがない。本人も負担に感じていることはないようである。中村代表も当然体調面を気に掛けているが、声掛けしやすい雰囲気づくりをするほかは、大人同士でもあり、基本は本人の自己管理を信頼している。逆に配慮しすぎることはAさんも望んでいないと考えている。
一概に難病を抱えているからといって、先入観で業務を制限することは禁物である。今回のケースのように、食事などの基本的な健康管理ができていれば、一般の従業員と変わりはない。特に小規模な事業所で目の届きやすい環境であればなおさら安心感が高いと考えられる。
中村代表からは、実際に雇用した立場からも、社会全体で難病患者の雇用の取組をこれからも続けて欲しいとのことである。一概に難病といっても、症状は様々であり光和自動車の例のようにほとんど問題なく就業できるケースは多いと思われる。病気を持つ人もそうでない人も、個々のケースごとにいかに良い出会い・マッチングができるかが、雇用を進める鍵であることに変わりはない。関係機関がアンテナを高くして先入観にとらわれず、難病患者の雇用を進めていくことが望まれる。また、社会全体の難病に対する理解を深めることも大切であろう。
4.難病患者就職サポーター等
今回の就労支援に当たっては、ハローワークに配置されている難病患者就職サポーター(以下「就職サポーター」という。)による支援を活用している。実際に担当された就職サポーターに話を伺うことができたので、今回のケース及び難病患者の就労支援の課題について、支援者の観点から見ていきたい。
(1)難病患者就職サポーター
就職サポーターは、ハローワークの窓口に配置され、就職を希望する難病患者に対する症状の特性を踏まえたきめ細やかな就労支援や、在職中に難病を発症した患者の雇用継続などの総合的な就労支援を行うこととされている。平成27(2015)年度から全国のハローワークに計47名配置されており、三重県ではハローワーク津に1名配置され、月10日勤務している。
就職サポーターによると、一般に求人側は難病について分からずに不安を持つことが多いことから、難病患者の支援に際しては、本人の能力や特性をより強くアピールすることに、特に留意しているとのことである。そのためには、きめ細かい対応が必要であり、履歴書などの書き方はもちろん、本人自身ではなかなか伝えられない魅力、強みを、企業に電話で直接説明するなどの支援も行っている。
(2)今回のケース
今回のケースは就職サポーターの支援を活用した初めてのケースとなった。最初にAさんは、ハローワークの一般の求職窓口で相談したが、難病患者であることから就職サポーターが就労支援を行うこととなった。
Aさんと話をする中で、会社の規模に関係なく自動車関連の分野で働きたい、鈑金をはじめ様々な技術を習得したい、という強い意志が見られた。就職サポーターも、本人の積極的な姿勢、就職の意識を高く評価していたという。また、求人側に対しても、個人事業所ならではのアットホームな雰囲気が良い影響を与えていると考えていた。クローン病の場合は食べ物の制限がかなりあるため、身近な食事の問題についても話しやすい環境が整っていたことが大きい。
当初は新しい環境、新しい仕事でもありAさんの体調、業務面でも不安な面があった。マッチングがうまくいっても就労を継続することが難しいケースもあるが、本人の持ち前の一生懸命さ、意思の強さが、仕事を続けられる要因ではないかと感じている。
なお、就職サポーターは定着支援として、雇用から1か月後、半年後に事業所に出向いて支援を行っている。
(3)難病患者支援の課題
ハローワーク津では、難病の求職者が一般の窓口に来所した場合には、就職サポーターに相談がつながるようになっているが、難病患者の支援があることを知らない場合が多いので、求職者が相談窓口で難病があることを伝えない場合もある。このため、就職サポーター制度の知名度をいかに上げるかが課題であり、求人検索機に就職サポーターによる支援情報を掲載するなど周知に努めている。また、各保健所から毎年、難病患者に対して雇用保険受給者証の更新の案内を送付しているが、その中に難病患者の就労における相談先の案内も入れてもらっている。こうした連携は、三重労働局・ハローワーク津が主催する難病患者就職支援連絡協議会の会議の場において、関係機関から出された情報を基に三重県や難病患者支援センターと連携して、各保健所に要請して実現することができた。これには大きな反響があり、三重県内の難病患者からの電話での問い合わせが増加し、相談が増えた。他にも、多数の企業が集まるハローワークの就職イベントの際に、難病患者の就職支援施策についての周知を行っている。
障害者手帳を持っていれば、法定雇用率制度もあり、障害者雇用に積極的な企業への就職の可能性が高まるなど、比較的多くの支援が充実している。一方で、難病患者に関しても、「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金」などの援助制度はあるものの、障害者手帳を持っていない者が多いために制度の挟間に陥りがちである。実際に働く必要があるのに、相談先が分からず支援の入り口に入ることも難しい。
働きたいと考えている難病患者も多く、実際働いてみると問題なく勤務できる場合が多いにもかかわらず、社会の理解が進まない中で求職活動の場面でのハードルが高く、また、求職活動が長期にわたるとそれ自体がストレスとなり体調にもさらに悪影響がでる恐れもある。昨年(2015)度から始まった就職サポーター制度は働きたい難病患者にとっては大変貴重なツールである。今後、就職サポーターについてさらに周知を行い、その活用を進めるとともに、求人側の難病に対する理解を高めることが求められている。
執筆者:三重大学人文学部法律経済学科
准教授 石塚 哲朗
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