事業所外観

1.事業所の概要

大正12（1923)年8月に創立者が個人経営として寝具類の販売を開始する。

昭和22（1947)年5月に法人組織に改め、株式会社玉川繊維工業所を設立する。

昭和37（19629)年11月に長崎県佐世保市立北病院内に基準寝具工場として操業を開始する。

平成4（1992）年2月観光施設からの大口受注を機に新工場を竣工し、株式会社玉川繊維工業所九州支店として登記する。

平成15(2003)年8月に株式会社玉川繊維工業所から分社独立し、株式会社九州たまがわを設立し、同10月から株式会社九州たまがわとして営業を開始する。

2.障害者雇用の現状

工場では、障害のある従業員と障害のない従業員を分けるのではなく、各作業場にそれぞれ半分ずつ配置している。他の事業所では、作業内容に応じて障害のある従業員だけの専門の作業場を作るなどしているところも見られるが、当事業所では、その様な体制では専門のスタッフが別に必要になり対応できないため、障害のない従業員の理解を得た上で、混合チームで作業に当たっている。障害のある従業員の隣で作業している障害のない従業員には、障害のある従業員の家族と同世代の女性従業員も多く、暖かく見守り、心を広く持って接しているため、この体制での稼働が円滑になっている。

混合チームでの作業風景（1）

混合チームでの作業風景（2）

工場で障害のある従業員をサポートし続けているのは、統括マネージャーのAさんである。Aさんは、障害のある従業員の能力を高く評価しており、Aさんによれば作業の内容によっては流れが偏りたまることがあるが、ほとんどの従業員は気長に作業を続けることができており、その仕上がりも障害のない従業員のそれと変わらない。

障害のある従業員によっては、季節の変わり目に体調を崩す者も見られるが、ほとんど休まずに出勤している。その原動力として、障害のある従業員に対する会社の待遇がある。雇用形態が正社員であるのはもちろんのこと、その他の手当や給与査定・賞与査定に至るまで、全て障害のない従業員と同じ基準としている。また、勤続年数に応じた表彰も同じように行っており、その表彰を指折り数えて楽しみにしている従業員も多い。また、急な休みが少なく障害のない従業員と同様に勤務計画を立てることができている。

従業員に支給する手当の中に、正月休みやお盆休みなどの出勤に対する特別手当がある。この特別手当の支給により、その時期に積極的に出勤を希望する障害のある従業員もおり、こういった従業員の存在は、家事のために休みを取りたい女性従業員たちにとってはありがたい。

また、年に一回は、一泊二日の社員旅行も実施している。社員旅行は、希望者のみの参加となっているが、障害のある従業員のほとんどが参加し、その時期になると、社員旅行の話が出始め、行き先が決まるのを楽しみにしている。社員旅行の当日には、出発してすぐ、移動中のバスの中で食べたり歌ったりしながら、旅行を楽しんでいる。

このように、障害のある従業員が長く勤められているのは、周りの従業員のサポートはもちろんのこと、会社の姿勢によるところも大きく、障害者のある従業員の家族からも非常に感謝されている。

3.具体的な取組

シーツのクリーニング担当のBさんは、作業が早く頼りになる存在である。その日の機械の状態や、クリーニングの仕上がりの状況についても率先して報告をしてくれるため、統括マネージャーのAさんからも厚い信頼を得ている。

今では落ち着いて日々の作業をしているBさんであるが、一時期はストレスで体調を崩し休むこともあった。その原因の一つは、Bさんの作業能力の高さによるものである。Bさんから見ると、ほかの従業員の作業を遅く感じてしまうことも多く、批判的な言動も見られていた。そのようなときは、『辞めたい』などの発言もあっていたが、家族と連携して『Bさんの気分が落ち込んでいるときは、とにかく良いところを褒める』ことを基本に、サポートしていくことで、少しずつ改善していった。

Aさんは、BさんがAさん以外にそのような意見を言える相手がいないことや、Bさんが仕事を一生懸命やっているからこそこのような意見も出てきていると理解しているため、その意見については、全てとはいかないが、できるだけ受け入れるように心掛けている。

また、ときには仕事中にほかの従業員とトラブルになることもある。そのようなとき、Aさんは、見守れる程度のものであれば見守り、Bさんの仕事が終わった後、Bさん本人にそのトラブルについてどのように思っているか聞いてみる。その時点でBさんが反省しているようであれば、そのトラブルの相手に謝るように勧める一方で、トラブルの相手にBさんが謝りに来ることを伝えるなど、さまざまな角度で気を配り、トラブルが尾を引かないように対応してきた。

洗ったシーツの選別を担当しているCさんは、調子が悪いときには、ひどい妄想を抱いたり、時には叫びながら走り回ったりすることもある。しかし、そのようなときでも、周囲の従業員は、動じず、それを個性の一部ととらえ落ち着いて対応している。他の従業員に当たるなど危険な場合は引き離すなどの対応をとっている。また、家族との連携により健康管理に細心の注意を払っている以外は、見守ることを基本としている。 Cさんは、体調に波があるものの、他の障害のある従業員と同様に、休むことはない。Cさんの家族が本人を心配して来社されたこともあるが、ここでもAさんは、家族と連携して、体調などに心を配っている。

また、ときには、障害のない従業員から障害のある従業員対するクレームがあるが、その時は、必ず障害のない従業員に対し、個々の障害特性について説明し理解を求め、フォローをお願いしている。

Bさんの作業風景

Cさんの作業風景

4.今後の展望

Aさんは、工場内ですれ違う障害のある従業員に対して必ず声掛けを行っている。

もともと一般の従業員として入社したAさんだったが、障害のある従業員と仕事をしていく中でその対応に悩むことが増えていった。しかし、Aさんの家族が障害者施設で働いていたため、ことあるごとにアドバイスをもらいながら障害のある従業員へ対応していくうちに、自然と統括マネージャーという立場になっていた。

障害のある従業員がいきいきと働けているのは、もちろん本人の努力であり、それを分け隔てなく評価する会社の姿勢によるところが大きいのであるが、統括マネージャーであるAさんの存在も不可欠である。

Aさんは、自分自身にもっと障害者に対する知識があれば、もうちょっと上手に働いてもらうことができるのではないかと、いつも思っている。また、会社から与えられた統括マネージャーという役職に対しても、それにふさわしい責任を果たし、会社に恩返しをしたいと考えている。Aさんのこの二つの思いが、事業所内での潤滑油となり、すばらしい職場環境を作り上げているのだということが感じられる。

人間の本質的な『優しさ』や『思いやり』をもって、『ダメなものはダメと叱り、良い部分は褒める』こと、そして『嬉しいときはみんなで喜ぶ』ことによって、感情や時間を共有し、自然と団結力が生まれ、これからも障害のある従業員がいきいきと働ける職場環境を作り続けて行くと信じている。

執筆者：　株式会社　九州たまがわ
総務部 マネージャー　山口　亮爾